前回に続き、ウォルマートの活動を紹介したいと思います。

今回のテーマは、サステイナビリティの「測定」(Measure)。

ウォルマートでは、サステイナビリティ分野での
テーマ設定、目標設定、効果測定(モニタリング)を効果的に行うため、
数多くの指標の効果測定を行っています。

とりわけ強化しているのが、「食料」「農作物」分野の測定です。
ウォルマートが提供する食料品を作るのに、
どれだけの環境、社会的な負荷をかけているのか、
どれだけ効率的(経済的な効率性だけではない)に
食料品を生産できているのかを測定しているのです。

ウォルマートは、この測定をするにあたり、
カリフォルニア州を中心に導入が進んでいる”Stewardship Index for Specialty Crops
を採用しています。

Stewardship Index for Specialty Cropsとは、
社会や環境の持続可能性強化を目指すNPOや企業の集合プロジェクトである
Stewardship Index for Specialty Cropsが生み出した
食料品に特化した持続可能性測定モデルです。
※参加団体の一覧はコチラ

この測定モデルが測定しようとしている項目は、以下です。
※出所はコチラ

1. 人的要素
 - 人的資源(労働者の健康・安全、労働条件等)
 - コミュニティ(地域雇用の実施等)

2. 環境要素
 - 大気の質
 - 生物多様性・生態系
 - エネルギー消費
 - 温室効果ガス排出量
 - 栄養素
 - パッケージング
 - 殺虫剤使用
 - 土壌
 - 廃棄物
 - 水質
 - 水消費量

2. 経済要素
 - 環境に配慮した生産・流通された製品の購買
 - 公平な価格設定

このプロジェクトでは、各測定項目の具体的な測定指標について
検討を進めています。

このウォルマートが進めている測定の取組は、決して実現が容易ではありません。
一般的に企業が進めている「サステイナビリティ」測定は、
電気消費量、エネルギー消費量、水消費量、温室効果ガス排出量など、
自社で測定が完結できるものがほとんどです。
しかしながら、ウォルマートでは、その測定を、自社だけでなく、
生産者・加工者・流通者などサプライチェーン全体に広げようとしています。
ウォルマートが販売する食料品にかかわるすべてのフットプリントを、
測定しようとしているのです。

このように食料品のサプライチェーン全体を測定していく試みは、
今後重要性を増していきます。
なぜなら、世界の食料問題への解決に寄与していくからです。
例えば、世界食糧機関(FAO)は、世界で生産された食料品の1/3は、
「無駄」「ゴミ」として廃棄されていると発表しています。
※出所はコチラ

サプライチェーン全体の「無駄」を削減していくことは、
食料品の増産ではない、もうひとつの食糧問題解決の道となりえます。

Stweardship Indexが進めているサプライチェーン全体の及ぶ測定の枠組みは、
他の業界にも展開されようとしています。
例えば、Sustainability Consortiumという同様のNPO・企業・大学連合は、

「消費者科学」「測定科学」「電化製品」「食料・飲料品」「紙製品」
「ホームケア」「ヘルスケア」「IT製品」「パッケージ」「小売」「おもちゃ」

のそれぞれの分野でワーキンググループを形成し、
測定手法の検討を進めています。

このコンソーシアムを組成している大学・企業・NPOは、

〇 大学(主催者)
アリゾナ州立大学のサステイナビリティ研究所(Arizona State University)
アーカンソー州立大学の応用サステイナビリティセンター(University of Arkansas)

〇 企業
アルコア
BASF
ベストバイ
カーギル
クロロックス
コカ・コーラ
デル
ディズニー
ダウ
ケロッグ
ロレアル
マクドナルド
ペプシコ
P&G
パナソニック
サムソン
SAP
ユニリーバ
ウォルマート
東芝 など

〇 NPO
BSR
世界自然保護基金(WWF)
チリ基金
アメリカ環境保護庁
イギリス環境食糧省

Sustainability Consortiumに参加している日本企業は、
現在、パナソニックと東芝の2社のみです。

今後の企業経営において大きな影響を与えていくと思われるサステイナビリティ。
この大きな世界の動きに、日本企業も積極的に参加していく必要があります。

「持続可能性計画(サステイナビリティプラン)」。

日本ではまだあまり浸透していない概念ですが、
これは、近年、欧米の企業を中心に進められている
社会や環境に配慮した経営計画や新規事業開発のことを指します。

とりわけ注目を集めているのが、世界の小売最大手ウォルマート
トップダウンによるイニシアチブにより、サステイナビリティプランを
積極的に展開しています。

今回、Forbe紙に、
「ウォルマートの10大持続可能性プロジェクトが世界のリーダーシップを
明確に示す」
と題した記事が発表されていました。(原文はコチラ

1. キャリア・トレーニング
トレーニングセンターを通じた職業訓練。インドでは5000人が訓練を受けている。
訓練を施す体制を整えることで、全ての社会層の人たちに対して、成長機会を
与えていく。

2. 2000万トンの温室効果ガスを削減
2015年までにサプライヤーと協働で2000万トンの温室効果ガスを削減。

3. 輸送効率の向上
2005年に全米の輸送効率を65%向上、日本での輸送効率を33.5%向上。

4. 全プレイヤー参加によるグローバルバリューネットワークの構築。
自社だけでなく、顧客、サプライヤー、地域社会と共同で持続可能性
プロジェクトを推進。

5. 地域農産品調達、零細企業活用、農家支援
2015年までに1万件の中小農家から10億ドルの農産品を調達。
100万人の農家を支援し、農家収入を10%~15%向上させる。

6. 店内エネルギー消費量の削減
中国の新規店舗にてエネルギー消費量を40%削減するモデルを開発。

7. オペレーション効率を高めるためテクノロジーを活用
LED電球や薄型太陽光発電型フォークリフトなど最新のテクノロジーを導入。

8. 全米の飢餓を削減
2015年までに20億ドル相当の現金等を全米の飢餓削減のために拠出。
10億ポンドの食糧を提供。食料バンクの推進のために物流専門社員を提供。

9. 高度成長マーケットでのエネルギー効率向上
エネルギー効率向上に寄与する設備投資をサプライヤーに対して実施。

10. 果物・野菜価格の削減
安価な果物・野菜を顧客に提供するため合計10億ドルの価格削減を展開。
 

ウォルマートで展開している持続可能性プロジェクトの内容は、
いわゆる「節電」「植林」などのエコ対策にとどまらず、
幅広く社会や環境に寄与する事業運営を検討・推進しています。

私たちは、
日本企業もこのようプロジェクトを推進していける支援をしていきます。

カナダのバンクーバーにあるPakit社が、
これまで開発が困難だった「生分解可能」なパッケージ素材を、
PepsiCo(ペプシコーラのメーカー)と共同で開発しました。
(ニュースはコチラ

Pakit100

この新素材がどれほど画期的なものなのかについて、
今回のブログで解説していきたいと思います。

まず、パッケージが与える地球環境の影響は、ここ数年大きく取り上げられています。
ときには「過剰包装」とも言われる問題は、
現在の消費社会において、プラスチックなどの包装素材「パッケージ」が、
大量生産・大量消費され、省エネに向けての大きなテーマとなっていますし、
また、大量にゴミとして廃棄され、多くの国では深刻な衛生問題ともなっています。

さらに、プラスチックの素材は原油であり、原油枯渇化の面でも、
プラスチックの消費抑制、他の素材への代替化は地球規模の問題となっています。

このプラスチック問題に対しては、主に先進国において、
リサイクルシステムが確立され、無駄の少ない資源利用が追求されてきました。

例えば日本では、2000年代から、ゴミの分別回収や家電リサイクルなどが始まり、
さらに産業界では、プラスチックのゴミを焼却しエネルギーとして活用することが
法制度化され、プラスチックの有効利用を目指してきました。


資料:社団法人プラスチック処理促進協会

例えば、日本で生産されているプラスチック製品約1,400万tのうち、
最終的に21%は再利用され、55%は熱エネルギーとして利用され、
残りの24%が埋め立てられたり、ゴミとして焼却されたりしています。

このリサイクル比率は世界の中でも優等生です。

課題もまだたくさんあります。
廃棄の12%を占める埋め立ては、埋立て地の土地確保問題として顕在化していますし、
リサイクルにかかる膨大な費用も企業の頭を悩ませる要因となっています。
また、このサイクルフローに現れないプラスチックの投棄(山にゴミを捨てるなど)
は、自然破壊の原因ともなっています。

プラスチックゴミの問題は、世界中で深刻になっています。

それは、投棄されたプラスチックは、自然分解されずに、いつまでたっても
ゴミとして残り、さらに有害物質を発生させる危険性があるからです。
この「土に帰らない」というプラスチックの特性が、
プラスチックが根本的に抱える課題です。

そして、特に発展途上国では、ゴミ回収フローが未整備なため、
生活ゴミが慢性的に道路や川や山に投棄され、
深刻な環境・衛生問題を呼び起こしています。

今回、Pakit社が開発した「生分解可能」なパッケージ素材(Patit100)とは、
このプラスチックが抱える「土に帰らない」という課題を、
根本的に解決するものとなっています。

このPakit100は、セルロースという植物素材を活用しているため、
例え投棄されたとしても、短期間で土に帰るのです
そのため、世界のゴミ問題にとって大きな突破口となります。

また、この新素材はほかにも利点があります。

〇ゴミを素材として使える

この新素材は植物素材を原料に使っているため、
「原油消費量が減る一方で、グリーン資源の消費量が増える」という
懸念があります。

しかし、Pakit社は、素材の再利用を活用したり、
農業で生成された「緑のゴミ(枝や葉、皮など)」や枯れ木、
新聞などを原料として活用することを可能としました。
そのため、グリーン資源の消費量が増えるということはありません。
むしろ、緑のゴミを資源として再利用することを可能としています。

〇熱の変化に強い

従来のプラスチックに加え、セルロースの新素材は、
高熱や冷却に強いという特徴をもっています。
そのため、加工食品や医療器具など、幅広く対応できる力をもっています。

〇熱の変化に強い

従来のプラスチックに加え、セルロースの新素材は、
高熱や冷却に強いという特徴をもっています。
そのため、加工食品や医療器具など、幅広く対応できる力をもっています。

〇輸送費が安い

プラスチックの原料は原油のため、プラスチックを生産するためには、
産油国から原料をはるばる輸送してくる必要がありました。

しかし、このPakit100は、身近な「緑のゴミ」や新聞などを
原料とするため、原料調達のための輸送費やエネルギー消費が少なくて
すみます。

さらに、このPakit100は、実用面でも優れています。

〇プラスチックと同様のプリント力をもっている

これまでにもセルロースを用いた素材の開発は進んでいましたが、
実用化のために超えなければならない壁として、
「プラスチックのようにロゴやデザインなどを自由に印刷できない」
「プラスチックのように様々なな形をつくることができない」
という問題がありました。

しかし、Pakit100は、プラスチックと同様に、
様々なプリントを施したり、様々なかたちに加工したりすることが可能です。

この特徴を持つことで、素材面だけではなく、
実用的にもプラスチックを代替することができる力を持っているのです。

この実用的なエコ商品を開発するということは、今後の技術開発に重要となります。
それは、どれほど環境に優れた商品だとしても、
実際のユーザーがそれを使う気にさせることができなければ、
社会を変えることはできないからです。

その点で、Pakit社にとって、PepsiCoとの共同開発は優れた意志決定だといえます。
世界の有数食品メーカーのニーズを十分に把握することで、
実用的な商品を開発することができたからです。
さらに、具体的なユーザーを先に確保することで、
R&Dのための大胆な投資も可能になります。

エコ商品開発のために、開発者とユーザーが協力する枠組みは、
今後ますます増えてくるのでないでしょうか。

このブログでは、「企業利益に貢献するCSR活動」という概念について、
これまで何度も紹介してきました。

特に、従来CSRを、
「事業から得た利益を社会に還元するためのコスト」と定義することが多かったのに対し、
最近では、
「社会を利する事業を展開することで得られる利益そのもの」と再定義されてきています。

さらに、これまでCSR活動や持続可能ビジネス戦略といった分野では、
資金にゆとりのある先進国グローバル企業が取り上げられることが多かったのですが、
最近では、新興国企業でも上記の新たなCSRの概念が浸透しつつあります。

その一例として、The Economic Timesが、
インドを代表する企業のひとつReliance社がCSR活動を積極展開していく
という内容を報じました。

この記事からは、同社会長のムケシュ・アンバニ氏が、
下記の2つのことに力点を置いていることが読み取れます。

1. CSRとは、単なるチャリティーではなく、他者を富ませる活動のことだ
2. ビジネスは、株主への利益還元だけでなく、社会への利益還元に基づき、評価されるべきだ。

新たなCSR・サステイナビリティの概念は、
先進国だけでなく、新興国企業にも普及しつつあります。

6/17~20にかけて、各紙・メディアが一斉に、
「餃子の王将が電気を使わない自動ドアの導入を決めた」
という内容を報道しました。

産経新聞 「王将フードサービス、電気使わない自動ドア設置へ
日経新聞 「自動ドア、電気使わず開閉 餃子の王将が導入
読売新聞 「餃子の王将に足で動かす自動ドア…電気代も節約

報道によると、餃子の王将の今回の導入背景は、

関西電力が15%の節電要請を行うなど、近畿でも電力不足が深刻化していることから、節電の秘策とする考えだ。手始めに7月に開店する吹田春日店(大阪府吹田市)と金沢東店(金沢市)に設置し、順次拡大する。

ということのようです。

この報道で、僕が一番気になったのは、
「電気を使わない自動ドアとは一体なんなのか?」
「どこのメーカーが開発したのか?」という点です。

そこで、開発メーカーについて調べてみました。

今回報じられている、電気不要の自動ドアを開発したのは、
会津若松市にある株式会社有紀という建材メーカーです。

資本金は4000万円とメーカーとしては小規模で、
従業員はパートの方も含めて全部で8名。
現在も社長である橋本保さんが、2001年に創業しました。

株式会社有紀は、自動ドア専業メーカーではありません。
事業の柱は、地元の資源である「会津桐」「会津吉祥杉」を活用した
建材の設計・製造・販売。
「電気を使わない自動ドア」は有紀社にとっての新商品です。
商品名は「オートドア・ゼロ」と言います。
日本で特許を取得した後、今年の2月にはアメリカの特許も獲得。

また、餃子の王将は、「オートドア・ゼロ」の最初の導入企業ではありません。
すでに、会津若松市立北会津中学校(保健室)、
常磐自動車道 湯ノ岳PA、名神高速道路 大津SAに導入されています。
しかし、今回は、日本有数の飲食店への導入が決定したということで、
大々的に報道されたようです。

「オートドア・ゼロ」の仕組みは、ホームページでも多くは紹介されていませんが、
ドアの手間に「踏み台」を置き、その踏み台が体重で下に押されることで、
歯車が回り、ドアを開けることができるようです。

電気を使わないため、節電効果が期待できるだけでなく、
電磁場などを発生せず、音も静かというメリットや、
停電時にも稼働するというメリットがあります。

今回の導入の話には、いくつかの素敵な点があります。
・地方の小規模メーカーの技術が注目を集めている
・震災で大きなダメージを受けた福島県の企業の朗報となる
・エネルギー不足が今後懸念される中で、節電にとっての一助となる
・大企業が導入を決めたことで、将来の技術開発にとってのテストケースにできる

餃子の王将において、今後他店にも導入を拡大するかどうかについては、
いくつかの基準があると考えられます。

・子供や大柄な人などの個々の体重差にスムーズに対応できるか
・ゆっくりと入ってくる人、急いで入ってくる人などにスムーズに対応できるか
・出口と入口で一斉に踏み台を踏んだ時、混乱しないか
・街の振動などの他の影響によって誤作動を起こさないか
・頻繁な開閉に耐えられる耐久性はあるか
・冷暖房効率などを考えた場合に、スムーズにドアが閉まるか
・故障時のメンテナンスや修理は迅速に対応できるか

これらは、他の商用施設等に導入される際には重要な確認ポイントです。
有紀社にとっては、実導入の結果を踏まえ、商品の向上が見込めます。
また、ここでの実証事例を基に、他の企業でも導入の検討が進むと思われます。

また、将来の大規模受注に備え、有紀社の製造能力の拡大も注目されます。
現在の従業員8名体制では、おそらく大規模受注には対応できません。
有紀社が特許をもっているため、自社工場への大規模設備投資を行うか、
他社へのライセンス供与をするのか等々です。

餃子の王将の試みは、電力不足に対する事業リスクを軽減するという、
サステイナブルビジネス戦略ととらえることができます。
「オートドア・ゼロ」のように、企業の持続可能ビジネス戦略を推進する技術は、
大企業だけでなく、様々な企業が今後支えていくのだと思います。

6月15日、ISO (国際標準化機構)が、
エネルギーマネジメントシステムに関する新たな国際規格“ISO50001″
リリースしました。(※リリース記事はコチラ

ISOはこれまでにも数多くの国際規格を制定してきています。
代表的なものとしては、
  ISO 9000 ”品質マネジメントシステム”
  ISO 14000 “環境マネジメントシステム”
があります。

それぞれの国際規格で定められている内容は、
「企業等が製品やサービスを安定的に供給するための仕組みづくり」
についてです。
ISO9000では、いかにして品質水準を担保していくか、
ISO14000では、いかにして環境汚染を防止するか、
について、その手法が書かれています。

この国際規格は、法律ではありません。
企業が自発的に取り組んでい行くための「指針」として提供されているものです。
そのため、この国際規格に則るか否かは、企業等の組織に委ねられています。
ですが、取引先企業が、国際規格に則るよう要求することもあるため、
企業間の取引の中で、取得が実質的に「義務付けられて」いることもあります。

今回リリースされたISO50001では、
企業や政府がエネルギー効率を高めたり、エネルギーコストを下げたりする手法、
「エネルギーマネジメントシステム」が規定されています。

このISO50001創設の背景には、
エネルギーの持続可能性に関する関心の高まりがあるようです。
ISOは、国際連合工業開発機関 (UNIDO) からの要請を受け、
2008年にISO50001検討のための委員会を発足させていました。

ISOは、このISO50001を通じて、
世界のエネルギー消費量を60%削減できるとしています。

具体的な内容としては、PDCAサイクルの回し方が中心となっています。


※”Win the energy challenge with ISO 50001“より抜粋。

ISO50001は、このマネジメントサイクルの中でも特に、
経営層の役割、導入方法の重要性を強調しています。

一般的にISOについては、
「導入コンサルタント費用が高い」「維持が面倒で忙殺される」等の
批判も多いのも事実です。

ISO50001が幅広く普及するかどうかはまだ未知数ですが、
多くの企業が「エネルギーマネジメント」について取り組みをを開始する
きっかけになっていくといいなと思います。

2011年3月9日(ちょっと前ですが)に、
アクセンチャア社(米国本社)が、持続可能性に対する報告書を発表しました。

Driving Value from Integrated Sustainability

このレポートは、アクセンチュアの独自に行った調査を基に作られています。
Global Fortune 1000にリスト入りしているうちの275社について、
経営者へのサーベイも含めて定性面、定性面の調査を行い、
ハイパフォーマンス分析をまとめたものです。

結果として報告されているものは、

・42%の経営者が、持続可能性への取り組みはコスト削減につながると回答。
・41%の経営者が、持続可能性への取り組みはブランド価値の向上につながると回答。
・約50%の経営者が、持続可能性への取り組みは株主への信頼向上につながると回答。

というもので、
少なからずリーディングカンパニーに多数が、持続可能性への取り組みを
肯定的にとらえていることがわかります。

アクセンチュアは、このレポートのまとめとして、
持続可能ビジネス戦略を採用している企業の狙いは、

・新製品や新サービスの投入による売上増
・生産効率向上によるコスト削減
・事業リスクや法規制リスクに対するマネジメント強化
・ブランド、評判、協働ネットワークなど無形資産の強化

にあると、報告しています。

もちろん、この情報にはバイアスがかかっている可能性もあります。

1. 発信者のバイアス

このレポートは、アクセンチュア社の持続可能性サービスグループが
とりまとめています。
この「持続可能性グループ」としては、世の中の持続可能性に対する関心が
高まれば高まるほど、グループのビジネスを拡大することができます。
僕自身も事業プランニングの経験があるため、理解できるのですが、
ビジネス拡大を考える際には、データ収集や分析の過程で、
都合よく解釈しようとするバイアスが働いてしまうものです。

2. サーベイ回答者のバイアス

持続可能性に関するサーベイに回答した経営者もバイアスを抱えています。
サステイナビリティやCSRに関するサーベイを実施する場合には、
経営者が「本心とは別に社会的に求められていることに回答してしまう」
というバイアスが働いています。
このバイアスは英語で”Social desirability bias”と呼ばれています。

これらのバイアスがどのぐらい影響を与えているのかはわかりません。
しかしながら、グローバル企業の中で、
持続可能性に対する経営者の関心が高まっていることは確かなようです。

企業がサステイナビリティ(持続可能性)に対して投資をすることについて、
また、より狭義には “CSR”を促進することについて、
かねてから、大きな疑念が提起されています。

それは、

企業は、利益が多いときにはサステイナビリティに投資するが、
いざ企業の収益が悪化すると、サステイナビリティ関連投資は終焉する。

というものです。

すなわち、企業は好調の時は、懐に余裕があるため、社会貢献に資金を投じるが、
いざ不調となると、事業に関係ない社会貢献活動をやめてしまう。
という考え方です。

このようなサステイナビリティ投資批判に対して、
サンダーバード国際経営大学院のGregory Unruh教授は、
ブログで以下のように反論しています。

=================================================

(I) began asking every company executive I knew whether the economic downturn was scuttling their sustainability strategy. Contrary to the logic, I had trouble finding companies dumping sustainability.

私は知り合いの企業経営陣に、不景気でサステイナビリティ戦略は放棄されるかどうかを尋ねた。しかし、(CSR批判者の)ロジックとは逆に、私は、(この不景気時に)サステイナビリティ戦略が失速していることを確認することはできなかった。

What has become clear is that there has been a bifurcation in the sustainable business space. In the downturn some companies cut back on CSR and sustainability efforts. They have become the laggards. Another group doubled down on sustainability. The best explanation for why they did so in a recession is that they have found out how to make sustainability pay.

明らかなことは、企業の持続可能性戦略は現在、分岐点に来ているということだ。景気後退局面で、CSRやサステイナビリティに対する努力を削減する企業もあったが、その企業は活力を失ってしまった。一方で、サステイナビリティ投資を倍増した企業もある。不景気時にその投資を増やした理由は、彼らはサステイナビリティ投資は割に合うということに気づいたからだ。

=================================================

Unruh教授によると、いくつかの企業は持続可能性はブランドのためのコストではなく、
利益を伸ばす行為として認識し、投資を活発化しつつあるということです。

それを後押しするレポートが、サステイナビリティに関する調査&コンサルティング機関の
Verdantixから発表されました。

=================================================

Global sustainability spending will soar 50 percent to 100 percent between 2011 and 2013, predicted research firm Verdantix.

売上US$1,000万以上の企業は、2011年から2013年の間に、サステイナビリティに関する投資を50%から100%増加させる。

=================================================

特に、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダに本社を置く企業は、
サステイナビリティ、気候変動、二酸化炭素管理、エネルギー効率向上に関する投資を、
現在のUS$約350万から、2013年にはUS$600万に増やしていくとうことです。

サステイナビリティの分野は、今後、大きな市場を形成していきそうです。

今月、Ernst&Young社が、
Shareholders press boards on social and environmental risks
というレポートを発表しました。

そこで、報告されているのは、2010年の主要企業の株主決議の中で、
持続可能性に関する案件への支持票が急速に増えてきたということです。

同レポートよると、企業経営者は、30%以上の支持を集める株主決議案件については、
真剣に取り組むでいく傾向があると報告しています。

2005年には、30%以上の支持を集めた持続可能性関連案件は2.6%と、
株主の多くの共感を呼ばなかったの対し、
2010年にはこの割合は、26.8%にまで増加、
1/4以上の案件が30%以上の支持を集めるにまで至りました。

また、2011年には、株主決議全体に占める持続可能性関連案件が、
半数を超えるとまでレポートされています。

このように、持続可能性に関する関心が株主の間で高まってきた背景には、
何があるのでしょうか。

株主が急速に「社会貢献」に目覚めてきているのでしょうか。

レポートを作成したErnst&Youngの担当者は、その背景には、
「財務リスクやレピュテーションリスクに関する懸念の高まりがある」と報告。(コチラ
すなわち、通常の事業運営をしていく中で、
持続可能性に関する取り組みを重視していくことが事業の安定性を高めると
株主はとらえはじめているようです。

Ernst&Youngは、今後の経営方針の中で、以下の取り組みを重視するよう
提案しています。

1. 取締役会: 社会・環境問題に起因する機会と脅威を真剣に議論する
2. 経営委員会: 社会・環境問題を専門に検討する委員会を設立する
3. 委員会構成: 取締役と社外取締役(環境専門家)を委員会メンバーとする
4. 具体的制度: 各社会・環境問題の優先順位を定める具体的サイクルを設ける
5. 説明責任: 社会・環境問題についての責任者を明確に定める
6. 報告: 定期的な報告制度を具体的に定める
7. 認証: 報告に対して社内外の認証を得る

持続可能性についての取り組みは、従来は熱狂的なCEOを中心に始まりましたが、
その流れが株主にも波及しつつあるように思います。

2010年1月のチュニジアでのジャスミン革命に端を発したアラブや中東での政治動乱。
この原因のひとつは「食料価格の高騰」だと言われています。

どれだけ、世界の食料価格は昨今、高騰しているのでしょうか。

図を見ていただくとわかるように、2011年の赤線は非常に高い位置をマークしています。

ちなみに、ここ数年で食料価格の高騰が大きく話題になったのは、2007~2008年です。
エネルギー価格の高騰や旱魃と相まって、2006年の初めと比較して、
世界のコメの価格は217%上昇し、小麦は136%、トウモロコシは125%、大豆は107%増加しました。
※出所:Wikipedia
日本でも多くのメディアでこの問題が取り上げられました。

上記のグラフによると、高騰した食料価格は2008年後半には沈静化。
しかし、その価格は2009年から再び上昇に転じ、
なんと、2011年には2008年の世界食糧価格危機の水準を上回るまでに至りました。
現在は、未曽有の食料価格高騰時代なのです。

この食料価格には、以下の要因があると考えられています。

1. 世界人口の増加 (食料需要の増加)
2. 食料のバイオ燃料への転換 (食料供給の減少)
3. 途上国の発展 (高カロリーー食品の需要の増加)
4. 原油価格の上昇 (肥料や輸送コストの増加)
5. 金融投機 (価格上昇差益を狙った投機により、価格がさらなる上昇)
6. 耕作面積の減少 (食料供給の減少)

すなわち、食料需要の増加に供給増が追い付かず、需要供給のバランスが崩れ、
価格が高騰。さらに、食糧生産コストが増加し、価格をさらに押し上げているのです。

こうして、世界規模での食糧不足がさらに深刻化すると予想される中で、
富裕国の政府や企業を中心に、発展途上国の農地の買占め行動が頻発しています。
この買占め行動を英語では、”Land Grab” と呼ばれています。

このLand Grabを活発に展開してるのは、中国、韓国、サウジアラビア、UAE。
そして、日本も小規模ですが、この動きをとっています。


※出所:Global Dash Board

ただし、このLand Grabは、既存の農作物を取り合う行為であって、
食料不足の根本的な解決とはなりません。
また、このLand Grabは「持てる国」が「持たざる国」を支配する新たな植民地主義だとの
批判も招いています。(コチラを参考)

そうして中で、食糧問題のひとつの解決策として注目を集めているのが、
「植物工場」 (英語ではPlant Factory)です。

植物工場とは、人工的に栽培に適した環境を室内に作り上げ、
安定的・効率的・計画的に農作物を生産する施設のことです。

この分野では、僕の友人でもあるNPO法人イノプレックス代表理事の
藤本真狩くんが、世界をまたに植物工場の推進に奔走してくれています。
ホームページには、最新の情報が満載ですので、ぜひご覧ください。

一方で、栽培できる農作物の種類に限りがあったり、
施設の設立に莫大な費用を要するという課題もたくさんある分野です。

また、「自然」なものを「人工的」に管理するということに対して、
「人間の傲慢だ」というような思想的な拒否反応を示す人もいます。

しかしながら、慢性的な食料不足という状況を前に、
以下に「限られた空間の中で」、食料生産を最大化させていくという取組を
避けることはできません。

再生可能エネルギーと同様に、植物工場も現在、補助金に頼る構造にあります。
いかにして、設備投資の額を最小化していくかに、知恵を絞っていく必要があります。

特に、ジャスミン革命に代表されるように、この食糧危機が顕在化している地域も
現前としてありますし、
中国やインドでも、食料価格の高騰をはじめとしたインフレーションが続いています。

植物工場の推進を応援したいと思っています。

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