David Vogel. “The Market for Virtue: The Potential And Limits of Corporate Social Responsibility.” Brookings Institution Press (August 1, 2006)

日本語訳はコチラ↓

2006年とやや古い本ですが、
Amazon.comで”Corporate Social Responsibility”で検索すると、
今でも上位に登場する、CSR業界(?)で話題を呼んだ本です。

著者は、カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkley)のDavid Vogel教授。
Vogel教授は、この大学の政治学部とビジネススクールの双方で教鞭に立ち、
ビジネス倫理を専門としています。

CSRやSustainabilityに関する本が最近は数多く出版される中、
この本の特異な点は、「冷静にCSRの限界を指摘する」という点です。
彼は、CSRそのものに批判的なわけではありません。もちろん高く評価しています。
その上で、緻密なデータやリサーチをもとに、なぜCSRは社会を変えられないのか?
という点を、丁寧に説明されています。

この本で紹介されているテーマは、俗にESG+HRと呼ばれる、
環境、社会、ガバナンス、人権の全域に及びます。
原油、木材、児童労働、フェアトレード、コーヒー、カカオなどなど、
CSRやサステイナビリティで分野で登場するものはほぼ網羅。
それらについての法制度やNGO協定、そしてそれがもたらした効果などを
まさに「研究者」らしく緻密に検証していきます。

そして、CSR活動が、現状の課題を大きな効果を持つことはできておらず、
あくまでも「ないよりはまし」というレベルにとどまっているという結論を導き出します。

大手企業の努力にかかわらず、森林伐採は全体としては悪化しているし、
児童労働問題も頻繁に発生し続けているし、
フェアトレードで取引されている割合は全体の取引額のわずか数%。

大手企業では、特に熱狂的なCEOに導かれ、CSR活動が進んできたが、
他の大多数の企業では、コスト高になるCSR活動に真剣に取り組むことは「許されず」、
企業の自律的な規制では限界があるという主張です。

そして、最後の章で紹介されているVogel教授の提案は、「法規制による強制」です。
企業のCSR活動は、インパクトの面で限界がある。
それを大きなうねりにするためには、自律的な規制だけでなく、法規制すべきである。
そのために、企業は自らの活動を規制するだけでなく、
政府と協働して法整備に力をいれるべきだ、としています。

Vogel教授の膨大なリサーチには、感服させられます。
この本を読むだけで、ESG+HRの大まかな制度や状況を効率的に知ることができます。
そして、感情的ではない冷静な分析を前に、
CSR活動には大きな限界があるということを納得させられます。

一方で、若干の論理の飛躍を感じるのは、
なぜ「法整備」をすれば、ものごとがきれいに解決するのか、という最後の提案については、
丁寧に説明されていないことです。
そして、Vogel教授自身も自ら説明しているように、
「CSRはコストを上昇させるため、顧客・従業員・株主の誰もがその推進を望んでいない」
とするのであれば、誰がこの法整備を推進しようとするのかについても、
説明されていません。

このような論理の飛躍があったとしても、
この著書からは、既存のCSRのアプローチの限界を感じさせられます。
それは、大手企業の「良さげな」活動のみに焦点を当てて、もてはやしたとしても、
真のサステイナブルな社会は実現できないということです。

環境NGOや社会NGOは、大手企業の事業運営方針を転換させることに
力を注いでいますが、個別企業ではなくマクロ的な視点には目を瞑らせがちです。

「全体として何を実現したいのか?」
「そのためには、大手企業の努力でどこまで実現できるのか?」
「大手企業の努力以外に、何を同時に実現していく必要があるのか?」

これらが明確でないことには、広く人々の支持を得ることはできません。
例えるならばそれは、マニフェストのない選挙のようなもので、
個別の候補者の抽象的な訴えを聞いていても、
人々の心が動かされないのと同じことです。

結局は、法整備にしろ、企業の自助的努力にしろ、
社会の構成員(=従業員や顧客や株主)の支持を得ないことには、
社会に対して大きなインパクトをもたらすことはできません。

すなわち、僕の結論としては、Vogel教授のいう「法整備」は真の解決策にはならず、
重要なのは社会の構成員の理解をどうのように得ていくかであり、
それが得られるのであれば、法整備であろうと、企業の自助的努力であろうと、
目的は叶うということです。

そして、この本が上梓されてから5年経った今、
これまでこのブログでも紹介してきましたが、
サステイナビリティやCSR施策は、企業利益に反するものではなく、
企業利益に益するものとして、とらえる企業が増えてきています。

Vogel教授の追跡調査が待たれるとともに、
この業界の急速な変化の息吹も感じます。

CSRを応援する人にも、懐疑的な人にも、
この本は大いに一読に値すると思います。

2011年4月12日で、カリフォルニア州で新たな法案が成立しました。

「2020年までに電力の33%を再生可能エネルギーで供給することを義務付ける」

カリフォルニア州では、2006年に、
2010年までの電力20%再生エネルギー化法案が可決しており、
成立しており、今回、それを20%から33%に大幅に上昇させたことになります。

再生可能エネルギーについて「33%」という高い目標は前例がなく、
野心的な目標と評されています。

この法案に署名をしたジェリー・ブラウン州知事は、背景についてこう語っています。

この法案はカリフォルニア州に重要な利益をもたらす。州内のグリーンテクノロ
ジーへの投資を刺激し、何万もの新たな雇用を創出し、州の大気の質を改善
し、エネルギー自給率を高め、温室効果ガスを削減する
※原文はコチラ

実は、同様の法案は、2008年にも議会を通過していました。
しかし、当時のシュワルツェネッガー州知事は、33%は非現実だとして署名を拒否。
法案を成立させるかわりに、拘束力の弱い「州知事令」として施行しました。

今回の法成立については、昨今のエネルギー事情が大きく影響していると思われます。
北アフリカ・中東アジアにかけての政情不安による原油価格の高騰。
日本での原発事故による原子力発電に対する批判的な意見の増加。
メキシコ湾原油流出事故による原油採掘見通しの後退。
いずれも、再生可能エネルギーの必要性に対する認識を高めることに寄与しました。

この「電力の33%」はどのぐらい野心的なのでしょうか。

下記のグラフは、2004年~2008年までの電力供給源の表です。


※出所:U.S. Energy Information Administration “California Renewable Electricity Profile

2008年の時点で、再生可能エネルギーは、全体の23.5%を占めているのがわかります。
しかし、カリフォルニア州の33%目標は、「再生可能エネルギー」の全体ではなく、
「再生可能エネルギー(水力除く)」の数値についてなのです。
つまり、2008年時点での11.9%を、2020年までに33%にすると言っているのです。
これはすごい躍進です。

このような大胆な目標設定ができるのは、カリフォルニア州ならではの事情もあります。
州内に世界有数のハイテク産業団地、シリコンバレーを抱えているからです。
シリコンバレーには、最先端のグリーンテクノロジーと、
それを支える膨大なマネーが集まっています。
州政府が掲げる目標により、投資家はグリーンテクノロジー開発に対する長期投資を
さらに加速することができるようになります。
そしてそれが、技術開発を促進し、さらに投資を呼び込むという好循環を生むのです。

また、カリフォルニア州は自然条件にも恵まれています。
州の西部には太平洋からの風が吹き、南東部は砂漠地帯で太陽が降り注ぐため、
風力発電や太陽光発電に適した広大な土地を有しているのです。

33%の目標達成のためのシナリオも作成されています。


※出所:カリフォルニア州のサイトコチラの資料

このように複数のシナリオを作成する手法は、「シナリオプランニング」と呼ばれ、
不確実な将来見通しの中で、柔軟に目標を達成する経営手法のひとつです。
 

しかし、この法案には批判も多く集まっているようです。
Financial Times紙の4/19WEB版では、様々な批判が紹介されています。

まず激しく抵抗しているのが、製造業です。
再生可能エネルギーに力を入れてきたカリフォルニア州では、
現在でも他の州に比べて電力価格が50%ほど高い水準なのですが、
カリフォルニア州共和党が、
今回の法律で電力価格がさらに19%上昇すると語っているためです。
※Huffpost Los Angeles, “California Renewable Energy: Brown
To Sign ‘Most Aggressive’ Mandate In The U.S.

国際競争が激化している中でのさらなる電力価格の高騰は、
人員削減や工場閉鎖につながる。
電力消費の大きい鉄鋼業、セメント業、鉱業は警鐘を鳴らしています。

次に反発しているのが、環境保護活動団体です。
今回の法律で拡大が見込まれる太陽光発電に対し、
「砂漠に建設される大規模太陽光発電プラントは動植物固有種に害を与えるため、
太陽光発電は屋根の屋上のみに限定すべき」
と反対しています。

僕はこの法律の野心的な目標設定を応援したいと思っています。
高い目標設定はイノベーションを加速します。
確かに反対派が唱えているように、課題もたくさん存在します。
しかし、いずれにしても電力供給を支えるためには、それらの課題も含めて、
問題をひとつひとつ解決し、前進していかなくてはなりません。

「問題があるから計画中止」というスタンスではなく、
「目標に向けて問題をどう一緒に解決していくか」という協働姿勢が
必要なのではないでしょうか。

太陽光発電モジュールの心臓部となる太陽電池セル。

太陽電池セル製造において、古くから世界の頂点に君臨し続けたのは、日本のシャープ。
1963年に太陽電池の生産を開始し、その後2007年まで生産量世界一を誇り続けます。

しかし、2008年、ドイツのQ-Cellsと中国のSuntech Powerに抜かれ3位に陥落。
さらに、2009年、アメリカのFirst Solarに抜かれ4位に転落。

シャープを上回った3社はいずれも新興企業。
Q-CellsとFirst Solarは1999年に創業。Suntech Powerの創業は2001年。
いずれも、創業から10年経たない間に、老舗のシャープを追い越して行きました。

今でも太陽電池セル市場において技術力は世界一だと言われているシャープが、
なぜ新興企業に一気に追い越されていったのでしょうか。

この原因として、よく挙げられるのが、以下の2つです。
1) 日本政府が太陽光発電への補助金を停止したため
2) シリコンの原材料価格が高騰し、生産量拡大が間に合わなかったため

1)だとすると、なぜシャープは海外市場を狙わなかったのか。
2)だとすると、なぜ他の新興3社は生産量を拡大できたのか。
この2つの説では説明できません。

そこで、より包括的な敗因分析を行ってみたいと思います。

■ 国ごとの太陽光発電の推移

日本は「家庭用太陽光発電」の急速な普及のもとに、
太陽光発電の導入量は2003年まで世界一を誇っていました。
それを後押ししたのが、
経済産業省資源エネルギー庁所管の財団法人である「新エネルギー財団」が
実施していた補助金、「住宅用太陽光発電導入促進事業」でした。
しかし、この補助金は、再生可能エネルギーの重要性が認識されていた2005年に、
突然終了してしまいます。原因は、申請数増加による財源不足でした。
その結果、日本の累積導入量の伸び率は鈍化していきました。

一方で、対象的な動きをとったのはヨーロッパ諸国。特にドイツとスペインでした。
ドイツでは2004年、スペインでは2007年に、本格的な補助金制度が法整備されました。
日本の補助金が設備導入時への支給という形態をとったのに対し、
ヨーロッパでは「固定価格買取制度」、英語名Feed-in Tariff方式が一般的。
これは、太陽光発電で発電した電力を、電力会社が割増し固定価格で買い取る制度。
割増した分のコストは、一般電力消費者が分担して負担するため、
国庫からの負担はありません。

この「固定価格買取制度」を背景に、ドイツ、スペインでは急速に導入量が増加。
2009年の単年の導入量では、EU諸国だけで世界の導入量の75%を占めました。
こうして、日本の国としての導入量は世界3位に陥落しました。

シャープは、日本市場においてシェアは今も昔もナンバーワン。
仮に、日本もヨーロッパ諸国と同様に、「固定価格買取制度」を導入し、
ドイツやスペインと同等かそれ以上の導入実績を持てていたとしたら、
シャープは、その日本の伸びを、自社の実績とし、
世界一の座を守り続けることができていたかもしれません。
これが、1) 日本の補助金廃止が敗因という説につながっていきます。

しかし、すでに触れたように、なぜシャープは世界でシェアを伸ばせなかった
のかを説明してはくれません。

■ シャープと新興3社の業績推移

次に、シャープの売上推移を見てみましょう。
下の図は、シャープのIR資料をもとに作成したものです。

確かに日本で補助金が廃止となった2005年以降、業績が低迷しています。
しかし、よくよくグラフをみてみると、シャープの太陽電池の売上の半分以上は、
海外での売上です。
シャープの売上は、国内の市場動向よりも、
海外での売上動向に大きく左右されることがわかると思います。

一方で、新興3社の推移を見てみましょう。

このグラフは、日本政策投資銀行のレポートから抜粋しました。

シャープが売上を低迷させた2005年以降、新興3社は売上を拡大しています。
これは、同時期に拡大したヨーロッパ市場を見事に3社が取り込んでいったためです。
Q-Cellsは、本国ドイツでの生産を拡大し、マレーシアにも生産工場を設立。
Suntech Powerは、本国中国のほか、ドイツ、日本、アメリカでの生産に着手。
First Solarは、本国アメリカのほか、ドイツ、マレーシア、フランス、ベトナムに
工場を開設し、現在は中国での生産も視野に入れています。

こうして、新興3社は、ヨーロッパ内での生産を大幅に拡大し、
急上昇したヨーロッパの太陽光市場を制していきました。

■ シャープの敗因

では、なぜシャープは、ヨーロッパ市場で存在感を出せなかったのでしょうか。
原因は、コストと資金力でした。

コスト

シャープは、新興3社に比べ、製造原価が高く、価格競争力がありませんでした。

理由のひとつめは、「過度な技術信仰」です。
シャープは世界市場でのシェアを現在落としてしまいましたが、
それでもシャープの太陽電池は、エネルギー効率の面で「世界一」の技術と評されています。
シャープは古くから、太陽電池の普及に欠かせない「エネルギー効率」の向上
に力を入れ、シリコン型という太陽電池の方式にこだわってきました。
シリコン型は、数ある他の方式の中でも、最も高いエネルギー効率を誇ったからです。

しかし、シリコン型には欠点もあります。
原材料のシリコンが高価なため、高コストだということです。
太陽光の力を電力に変える力は高いけれども、
その電力を発電させるためのコストが高い。
さらに、世界的な太陽電池産業の盛り上がりのなかで、シリコン価格は高騰。
シャープの製造原価はさらに上がっていってしまいました。

一方で、新興3社は、原価の削減に成功していきました。


出所:仏Yole Developpement

このグラフを見ていただくと、アメリカやドイツでは、CIGS型、CdTe型の比率が
比較的多いことがわかります。
このCIGS型、CdTe型は、薄膜型方式と呼ばれる新しい技術で、
エネルギー効率の面ではシリコン型に敵いませんが、
原材料が安く、製造原価を大きくおさえることができます。
First Solarは、このような薄膜型で市場に勝負をかけていきました。

一方、Suntech Powerは、シャープと同様、シリコン型を主力商品としましたが、
中国という地の利を生かし、人件費等を大幅に抑え、コスト圧縮に成功していました。
そして、Q-Cellsも、シリコン型を主力としましたが、
世界一市場となったドイツの政府からの後押しや、マレーシアでの生産によるコスト
削減努力などから、シェアを伸ばしていきました。

そして、急成長したヨーロッパ市場。
EU諸国は、再生可能エネルギーに力を入れる一方で、財政難にも苦しんでいました。
政府にとって重要なのは、製品の技術レベルではなく、導入しやすい価格の安さ。
シャープの高単価高品質製品より、新興3社の商品のほうが魅力的だったのです。

この価格競争にさらに追い打ちをかけたのが、「規模の経済」です。
太陽電池は、大量生産型の商品です。
大量に生産すればするほど、規模の経済が働き、製品単価を下げていくことができます。
ヨーロッパで大量の受注を獲得した新興3社は、さらに製品単価を下げることに成功し、
新たな受注を獲得していったのです。

資金力

コスト競争力には、それぞれの企業の資金力が大きく左右しました。
なぜなら、生産量を拡大させればさせるほど、規模の経済が働き、
さらには、高騰する原材料の長期安定供給契約を可能とし、
製造原価を抑制させることができるからです。

Q-Cellsは2005年にフランクフルト証券取引所に上場して資金を集め、
First Solarも2006年にNASDAQに上場し、シリコンバレーの
ベンチャー・キャピタルから多額の資金を集めます。
一方、Suntech Powerは、中国政府の各機関から多額の低金利融資を獲得。
こうして、3社は短期間で大きな資金力を手にすることに成功しました。

一方で、シャープは、新興3社と異なり、太陽電池専業ではありません。
大きな投資計画を行うためには、他の事業とも含めた中での経営判断が
必要となり、意思決定は遅れ、投下資金は3社に比べ見劣りするレベルでした。
資金力でも新興3社に敗れてしまったのです。

こうして、老舗メーカー・シャープは、
急成長したヨーロッパ市場において、新興3社にコスト競争で敗れ、首位から転落。
後塵を拝していきました。

■ 今後の行方

もちろん、シャープも形成を逆転させるため、新たな施策を始めています。
それが「薄膜型の増強」と「生産量の拡大」です。
2007年1月に富山県でのシリコン内製化を開始。
同年3月には奈良県の葛城工場でシリコン型の生産増強と薄膜型の生産に着手。
2010年3月には、大阪府堺市での新工場をオープンし、
2011年にはイタリアのEnel社やスイスのSTMicroelectronics社と共同で
イタリアに初の海外工場もオープンさせる予定です。

しかし、状況は依然としてシャープにとって厳しいままです。
2010年に入り、世界の導入量の1、2位となっていたドイツやスペイン、
さらにその他のEU諸国で、財政難を理由に「固定価格買取制度」の買取価格見直し
議論がスタート。価格が下がることで、導入量が一気に冷え込んできました。
シャープが、イタリアの新工場建設で見込んでいたヨーロッパへの販売に暗雲が
立ち込めています。

さらに、ヨーロッパ市場が急速に悪化する中で、世界中での生産過多が発生し、
太陽電池価格が下落。各社の利益を圧迫しはじめています。
そうした中で、新興3社も、将来性が大きい中国での生産拡大に乗り出しています。
中国では、2009年から政府の”Gold Sun”プログラムが始まり、
太陽光発電への政府の予算が多く投下される取組が開始されているためです。
一方で、シャープからはまだ中国への進出についての発表はありません。

そして、昨今の円高。日本国内での生産を重視してきたシャープにとっては、
大きな逆風です。

最先端の太陽電池技術を有するシャープ。
世界シェアを奪還するための課題は、
日本政府の太陽光発電への取組や、シリコンの安定供給契約だけでなく、
むしろ新興3社に負けない資金力の確保と意思決定スピードにありそうです。

再生可能エネルギーという分野は、
環境活動家やエコ推進者からみると、社会セクターとも位置付けられています。
しかし、実際の従事者の立場からは、激しい競争にさらされているビジネスの場です。
いかに、サステイナブルな事業体になっていけるか。
これは業界の分野を問わず、どの事業体にも必要な要素なのだと思います。

Adam Werbach “Strategy for sustainability -A business manifesto-” Harvard Business Press

約1年前にアメリカで出版され、2009年のベストセラーの一冊としても選ばれた、
CSRやサステイナビリティの世界では有名な本です。

著者は、Adam Werbach氏(出版当時36歳)。
彼は「環境活動家」として注目されていますが、
その活動は彼が高校生だった18歳のときからすでに始まっています。

彼は、アメリカ最大級の環境団体シエラ・クラブの学生組織「シエラ学生連合」を
18歳で立ち上げ、ブラウン大学在学中の21歳のときに、
カリフォルニア州の2つの国立公園を保護する法律の制定に貢献、
23歳で、シエラ・クラブのトップに最年少で就任します。
その後、環境活動家として、名を馳せた後、
2008年、35歳でSaatch and Saatch SのグローバルCEOのポジションに
就きました。

この本の中でも紹介されていますが、アクティブな環境活動家だった彼は、
途中でスタンスを大きく変更しています。
環境活動家というと、同時に「攻撃的」「厄介者」「環境信奉者」というイメージも、
抱かれがちですが、彼は2004年に「環境活動家の死」という講演を行い、
これらの性格を変更。かわりに、
「大手企業との連携」「環境のみではない社会・経済を含めた全体の目標設定」
を強調するようになりました。
この講演は、環境活動家の従来のやり方を否定するもので、大きな論争を呼びました。
しかし、こうして彼は、リスクを顧みずに新たなやり方を説いていきました。

彼のこの変化の発端は、ニューオリンズに多大な被害を及ぼした巨大台風、
カトリーナの経験でした。
当時、彼をはじめとした環境活動家は、
ニューオリンズ周辺の干潟の保護に積極的に活動をしていましたが、
自然保護の目的は果たせても、カトリーナの前にその干潟は保水地として
十分に機能せず、結果的にニューオリンズの街は壊滅してしまいました。
そこで彼は、環境のみを重視するやり方に疑問を抱くようになり、
社会、環境、経済、文化を含む包括的な持続可能性を重視するようになりました。

現在、小売世界最大手のウォルマートは、持続可能性に関する取り組みを
先導している企業としても注目されていますが、
このウォルマートに対して、持続可能性の必要性や、
持続可能性を重視した企業経営戦略の策定方法をアドバイスしていったのが、
このAdam氏です。

Adam氏はこの著書”Strategy for sustainability”の中で、
持続可能性を重視した企業経営戦略の必要性を、以下のように説明します。
(日本語訳は当ブログ著者による)

持続可能性のための経営戦略を開発し遂行することは、急速に世界が
変化する今日、企業の生き残りにとって非常に重要になっている。
不十分な干潟に巨大な台風がやってくるかもしれないし、どんどん
資源は限られてきている。明日にはもっと大きな変化がやってくる
かもしれない。

この本の中で言う持続可能性とは、PR(CSRレポートを作ること)や
エコ商品開発や、地球を救うための取組に時折理解を示すことより
もっと大きいことを意味している。持続可能性とは、もっと包括的に
想像、遂行されるもので、コストを減らす利益戦略であり、新たな
顧客を獲得するためのトップレベル戦略であり、従業員、顧客、
地域社会を獲得、維持、開発するための人材戦略だ。

Adam氏の経営戦略策定フレームワークは、初めにSTaRと名付けられた、
「社会」「テクノロジー」「資源」の予想される変化が、どのように自社経営に
大きな影響を与えていくかを把握していくことから始まります。

次に、North Star goalと名付けられた、5~15年をかけて実現していく
中長期的なゴールを、できる限り数値として設定します。

そして、そのゴールを実現するために、
「情報の透明性の向上」「従業員の巻き込み」「外部ネットワークの構築」
の3つ(TENサイクルと名付けられています)を粘り強く行います。
特に、North Star goalで定めるような壮大なテーマには、
自社だけでは実現できないものが多く、業界全体や、外部の協力団体、
サプライヤーや政府組織などとネットワークを構築していくことが、
大きなカギとなります。

200ページの本の中では、具体的にこれらを導入している、
アメリカの大手企業の事例が細かく紹介されています。

実際に先日サンフランシスコの企業をいくつか訪問した際にも、
このAdam氏の考え方と同様の話を耳にすることが多く、
サンフランシスコやシリコンバレーの中では定着しつつあるという実感を
僕自身も持っています。

今、CSRや持続可能性という概念は、企業経営に大きな変化をもたらしつつあります。
その大きな流れをつかむ中で、この本はとても視界を読者に与えてくれています。

今日、日本におけるCSRやサステイナビリティに対して、
以下のようにとらえる方が数多くいらっしゃいます。

「企業利益を、社会貢献として社会に還元するためのコスト」
「途上国や環境分野に対する支援のためのコスト」
「ブランドイメージをあげるためのコスト」

特に、好景気下で、企業利益が増加しているときは、CSRが強調されますが、
不景気になると、CSR予算がカットされることも多く、
CSR活動そのものの持続可能性が疑われることがよくあります。

また、NPOというと、

「補助金や寄付金に依存する慈善活動」
「専門的スキルやマネジメント力に欠け、継続性に難あり」

と、特にビジネスパーソンの中に、NPOという存在そのものに
懐疑的な方が多くいらっしゃいます。

しかし、上記とは異なる考え方をし、
積極的にCSRやサステイナビリティに取り組むムーブメントが、
サンフランシスコの企業やNPOを中心に巻き起こってきています。

先週、学校の特別プログラムに参加し、サンフランシスコとシリコンバレーに本部を置く、
8つの企業・NPOを実際に訪問することができました。

1. As you sow: 社会的責任投資(SRI)を手掛けているNPO
2. GAP: 世界有数のアパレルメーカーのCSR関連部門
3. BSR: サステイナビリティ構築コンサルティングをしているNPO
4. SAP: ITベンダーの世界大手のCSR関連部門
5. IDEO: デザインコンサルティング会社
6. Taproot Foundation: プロボノサービスを提供しているNPO
7. TechSoup: IT商品を格安で世界のNPOに提供しているNPO
8. Clorox: 消費財メーカー大手のCSR関連部門

この中で、純粋なバックオフィス機能として
CSRやサステイナビリティに関わっているのは、GAPのみ。

その他の企業やNPOは、
CSRやサステイナビリティの分野を事業として営み、売上と利益をあげています。

1. As you sow: 企業に対するSRI商品やアドバイザリーサービスの販売
3. BSR: 企業に対するサステイナビリティ向上コンサルティングサービスの販売
4. SAP: 企業に対するCSR・サステイナビリティ支援システムの販売
5. IDEO: 企業に対するデザインコンサルティングサービスの販売
6. Taproot Foundation: NPOに対する事業コンサルティング・プロボノサービスの販売
7. TechSoup: NPOに対するIT商品の格安販売
8. Clorox: エコ商品「Green Works」の販売

彼らに共通するCSRやサステイナビリティに関する考え方は、

・企業CSR部門はCSRの目的を、社会貢献だけではなく、企業利益の向上ととらえている
・訪問したNPOはみんな収益源がきっちりしていて補助金や寄付金に頼っていない
・有名コンサル企業出身の人たちが実際のNPOの現場で活動している
・NPOには企業経営と同様のスタンスが必要だとみんな思っている

というもの。

CSRやサステイナビリティを、何か神聖なものとして特別扱いすることはなく、
社会のニーズに対する「新たなビジネス・市場」として、捉えています。

さらに、CSRの範囲も、従来は「環境」だけにフォーカスされていたものが、
最近では、社会・環境・ガバナンス・人権(SEG+HR)全体に及んできています。

企業をCSRに駆り立てる動機は何なのでしょうか。

訪問した企業からは、以下のような共通する思惑がみえてきました。

・エコに対する関心の高い層に対する新市場からの売上増
・企業・商品ブランド向上によるプレミアムマージンの獲得
・エネルギーや原材料効率を改善することでのコスト削減
・地域社会との共存を実現することでの原材料の安定供給の実現
・従業員満足度を高めることでの人的関連費の削減
・労働環境改善による製品の質の向上
・訴訟、罰金、ボイコットなど利益減を招くリスクの低減

このように、CSRやサステイナビリティを、企業利益に貢献するものととらえており、
投資対効果の測定も行われています。

そして、企業が利益向上のためにCSRを推進したいというニーズに対応し、
他の企業やNPOがサービスを販売し、市場が形成されているという構造です。
もちろん、ビジネスを継続させるために、それぞれのプレーヤーは、
「より少ない投資でより大きな成果をあげる」ためのイノベーションに取り組んでいます。

一方で、各プレーヤーが抱える課題は大きく2点です。

①CSR活動が果たす財務パフォーマンスへの影響測定の可視化、精緻化
②オペレーションレベルでのモニタリング・効果測定の向上

この課題をニーズと捉え、SAPがいち早く事業として取り組み始めています。

従来、「コストセンター」として見られてきたCSRやサステイナビリティ活動は、
現在、その姿を大きく変えつつあります。

世界に冠たるアパレルメーカー、GAP.Inc

「GAP」「BANANA REPUBLIC」「OLD NAVY」「PIPER RIME」等の
ブランド有し、世界各国に合計3200以上の店舗を持っています。

このGAP本社のCSR部門の方からレクチャーを受ける機会があったので、
その内容をもとに、アメリカの大手企業のCSR活動の実状を紹介したいと思います。

GAPは、CSR活動が高く評価されているアメリカの大手企業の中の1社です。
Dan Henkle常務(社会的責任担当)率いるCSR担当のメンバーは現在、総勢70名。
GAPの全ブランドを横断的に担当しているコーポレート組織です。
そのうち、サンフランシスコのベイアリアの本社にいるのは10名ほど。
残りのメンバーは、世界中に散らばり業務を遂行しています。

この部署のメンバーの多くは、物流部門や製造部門、デザイン部門など、
社内のそれぞれの部署から異動してきた人が多く、
それぞれの部署での専門知識をいかして、業務に取り組んでいます。
NPOなどの出身者は極めて少数派です。

部署は大きく4つのセクションから構成されています。

■モニタリング/販売店開発

世の中の関心の高い「児童労働」「有毒物質」などに対し、
GAPの全ブランドのサプライヤー(供給者)が、これらの活動に抵触していないかどうか、
モニタリングし、調達から販売まで一貫した「CSR的なサプライチェーン」の構築に
責任を持っています。
担当範囲は自社だけでなく、無数の協力企業や、協力企業の協力企業に及びます。

■パートナーシップ

外部の環境団体や政治団体、人権団体などとパートナーシップを組み、
GAP本体や協力会社の改善をしていくのが役割です。
CSR活動の多くは、このような外部団体からの持込み案件が多く、
一歩関係構築を間違えると、GAPのブランドを大きく傷つけることにもなってしまうため、
非常に重要な役割を担っています。

■環境

ゴミ削減や省エネ、廃棄物削減など、社内の環境改善活動に責任を負っています。
「省エネ電気の導入」「デスク周辺のゴミ箱設置廃止」など地道な活動もありますが、
リサイクルを推進するため、行政当局に働きかけていく大がかりなものもあります。
ニューヨークに新たなデザインセンターを開設した際には、
リサイクルシステムのなかったニューヨーク市と粘り強く交渉し、
市としてのリサイクル活動開始に大きな影響力を発揮しました。

■戦略企画/コミュニケーション

CSRレポート作成や重大テーマの設定などを担当しています。
最大の課題は、CSR活動の効果測定や利益インパクトの算出。
効果の量的分析については、GAP以外の企業も悩んでいるテーマです。
※実際のレポートをコチラからダウンロードできます。

このように、CSR活動の担当範囲は、
人事、総務、調達、店舗管理、法務、政府交渉など多岐にわたり、
部署をまたぐ案件をプロジェクトマネジメントをして推進していくことが中心となっています。

活動テーマの多くは、外部の団体(NPOなど)からの指摘や提言によるもので、
その中で重要で解決できそうなテーマから着手をしていきます。
持ちかけのある代表的な外部団体は、
As You Sow Foundation
Domini Social Investments
Calvert Asset Management Company
Center for Reflection, Education and Action
Interfaith Center on Corporate Responsibility
などです。

これらの団体は、GAPが抱える潜在的な「リスク」を教えてくれる頼もしい存在ですが、
同時に、無理難題を持ちかけてくる「厄介な」存在でもあります。
彼らは、指摘とともに解決方法を提示してくれることもありますが、
「原料のトレーサビリティ」など、GAPだけでは手に負えるものでもないものが多く、
頭を悩ませています。

そこで、NPOが持ちかけてきた案件を、ソリューションをともに考えてくれるNPOに相談し、
状況を改善していくことが多くなります。
このソリューション担当NPOの代表格が、BSRです。
BSRは世界の大手企業や、ソーシャルエンタープライズ、NPOとネットワークを持っており、
一社単独では解決しにくいテーマに対し、
業界全体で手を打っていくソリューションや、
他のソーシャルエンタープライズを巻き込んで、
効率的・効果的に解決していくソリューションを強みとしています。

こうした中で、GAPはCSR活動、または社会的貢献活動の財務的メリットを、
「企業ブランドの維持・向上」「製品の質の向上」に置いています。
すなわち、企業ブランドを維持することで、製品ボイコットなどのリスクを減らすとともに、
労働環境の改善や、原料の改善から、製品の質そのものが向上することを、
全社利益への貢献と定義しています。
また、省エネによるコスト削減効果も意識されています。

社会的責任部門と、ファイナンス部門との関係も良好で、
CEOのリーダーシップのもと、昨今の不景気の中でも、社会的貢献部門の予算は
一切削減されなかったという事実を、彼ら自身も誇りにしているようです。

今後の大きなテーマは、
① オペレーションレベルでの行動モニタリングと効果測定
② サプライチェーンの省エネを徹底したコスト削減
が2大テーマとされていました。

上記のようなGAPの取り組みから、

・「エコ推進派」の企業による、「エコ消極派」行政の改革
・NPOによる課題発見とソリューション構築
・オペレーションレベルのモニタリングの仕組みの必要性増加

というアメリカの動きが見てとれます。

※僕の別ブログである「アメリカ・サンダーバードMBA留学ブログ」から転載しました。

「環境」「持続可能性(サステイナビリティ)」の必要性が増す中、
アメリカでのビジネススクール(MBA)の動きにも変化が出始めています。
今日は、「Green MBA」「Sustainable MBA」の動きを紹介します。

2年前にBusinessWeek紙は、
「Green MBA」「Sustainable MBA」が登場してきた背景について
このように報じました。

MBA Programs Go Green

At one time, business schools “greened” their MBA curriculums in response to a new wave of students for whom sustainability was more than just a catchphrase.

「かつて、ビジネススクールが、持続可能性を重視する学生の新たな波に
反応して、MBAカリキュラムを「グリーン化」しはじめた」

Today, business schools are continuing to ramp up their efforts for green curricula, but for a much different reason. In a world beset by economic woes as well as environmental problems, sustainability represents one of the few potential bright spots in an otherwise dismal recruiting environment.

「しかし今、ビジネススクールは、他の理由から「グリーン化」の動きを加速している。
経済不況と環境問題に悩む世界の中で、持続可能性は雇用が明るい数少ない領域
のひとつになっている。」

つまり、以前は、ただの「人気集め」だったGreen MBAが、
実利的な「就職」のためにも、重要性が増してきたというわけです。

そんな中、レベルの高低を問わず、様々なビジネススクールが、
カリキュラムの「グリーン化」に積極的に取り組み始めています。

この流れを受けて、MBA受験生が好きな「ランキング」にも、
「Sustainablily」や「CSR」という切り口のものが登場してきました。

Financial Times (2011):

1 University of Notre Dame (Mendoza)
2 University of California at Berkeley (Haas)
3 University of Virginia (Darden)
4 Ipade
5 Yale School of Management
6 University of North Carolina (Kenan-Flagler)
7 Thunderbird School of Global Management
8 University of Michigan (Ross)
9 Northwestern University (Kellogg)
10 York University (Schulich)

Beyond Grey Pinstripes (2009):

1 York University (Schulich)
2 University of Michigan (Ross)
3 Yale School of Management
4 Stanford Graduate School of Business
5 Notre Dame (Mendoza)
6 University of California at Berkeley (Haas)
7 RSM Erasmus MBA
8 New York University (Stern)
9 IE Business School
10 Columbia Business School

また、起業家教育(Entrepreneurship)に強いビジネススクールである

Massachusetts Institute of Technology (Sloan)
Stanford Graduate School of Business
Babson College (Olin)

は、カリキュラムの中に、理工学系の大学院とタイアップし、
技術ベースの起業を推進していったことで、
起業家教育の地位を盤石にしていきました。
ここからも、Greenという名の最先端技術が雇用やビジネスを生む
土台となってきていることがわかります。

さらに、Wikipediaでは、Sustainable MBAに特化した学校として、
以下の学校が紹介されています。

Anaheim University
Antioch University New England
Bainbridge Graduate Institute
BSL – Business School Lausanne
Colorado State University – Global Social & Sustainable Enterprise program
Dominican University of California – MBA in Sustainable Enterprise
Duquesne University – Donahue – Palumbo Schools of Business – MBA – Sustainability Program
Green Mountain College
Marlboro College Graduate School – MBA in Managing for Sustainability
Marylhurst University- MBA in Sustainable Business
National Institute of Industrial Engineering, Mumbai, India
Presidio School of Management of Alliant International University
University of East Anglia – MBA Strategic Carbon Management
University of Exeter – One Planet MBA
University of Michigan – Erb Institute for Global Sustainable Enterprise

このように、ビジネスがCSRやSustainablityが取り組んでいく流れには反対意見もあります。
一番の急先鋒は、ノーベル経済学賞も受賞している
ミルトン・フリードマン・シカゴ大学経済学教授です。

フリードマン教授は、2006年に亡くなっていますが、
1970年から一貫して、「企業の社会的責任」という考え方を否定し続けてました。

The Social Responsibility of Business is to Increase its Profits

彼の考え方は、

“There is one and only one social responsibility of business – to use its resources and engage in activities designed to increase its profits”

「唯一のビジネスの社会的責任は、資源と活動を利益の増加のために使うことだ」

というものです。

もちろん、フリードマン教授は、
倫理や社会への影響を考慮することは重要だと言っていますが、
「社会的責任」が広範囲の意味合いをもつことを退けました。
彼は、利己心や利益追求がもたらす社会の活力を重視していたためです。

フリードマン教授はシカゴ学派というマクロ経済のひとつの流行を作り出し、
国際金融の世界にも大きな影響を与えてきました。
そのフリーマン教授のアメリカは、「利益志向が強い」国だと言われてきました。

しかし、「企業の責任は利益の向上」という考え方に関する国際的な調査の中で、
この考えに賛同する人はアメリカよりも日本のほうが多く、
日本はアラブ首長国連邦に次いで、世界第2位(賛成 70%)でした。
ちなみにアメリカは9位(賛成 55%強)。

意外な結果かと思われるかもしれませんが、僕は、
以下のような、パナソニック創業者の松下幸之助氏の思想が
強く広く共有されているためではないかと考えています。

企業の利益というと
何か好ましくないもののように
考える傾向が一部にある。

しかし、そういう考え方は正しくない。
もちろん、利益追求をもって企業の至上の目的と
考えて、そのために本来の使命を見忘れ、
目的のためには手段を選ばないというような
姿勢があれば、それは許されないことである。

けれども、その事業を通じて社会に貢献すると
いう使命と適正な利益というものは
決して相反するものではない。

そうでなく、その使命を遂行し
社会に貢献した報酬として社会から
与えられるのが適正利益だと考えられるのである。

だから、利益なき経営は、それだけ社会に対する
貢献が少なく、その本来の使命を果たし得ていない
という見方もできるのである。

持続可能性を向上していこうとする際、企業という手法を、
どのように活用し連携していくかが大きなカギを握っていると思います。
ビジネススクールでもそれを模索する試みが始まっています。

ゴミ問題は現在、世界中で深刻になっています。

どれほど深刻なのかというと、
アメリカ50州の中でアラスカに次いで面積が広いのがテキサス州。
テキサス州は日本の国土面積の2倍弱の大きさです。

そして、なんとのそのテキサス州の約2倍もの面積のゴミの島が、
太平洋を浮遊しています。
つまりの日本の国土面積の4倍です。
下の地図の白くなっている部分が、その島の大きさです。

この島の通称は「太平洋ゴミベルト」。
英語圏では、”Great Pacific Garbage Patch” “Pacific Trash Vortex”
と呼ばれています。

海流域周辺の日本、ロシア、カナダ、アメリカから廃棄されたゴミや、
海流域を航行中の船舶から投棄されるゴミが、
海流の影響で1か所に集中し、1950年ぐらいから今の姿に成長してきました。
Wikipediaによると、陸地から出たゴミが8割、船舶由来のものが2割と
言われています。

このゴミの島による影響は、まだはっきりとはしていませんが、
ゴミが海中分解または光分解されることで、
有毒ガスが発生する可能性が指摘されています。

また、海中生物や鳥などが、プラスチックを誤って捕食したり、
体躯にからまってしまうことにより、危害が及んでいることも報告されています。

そして、このような巨大なゴミの島は、
太平洋以外にも、大西洋やインド洋などでも観測されています。

通常、一般人は洋上を船舶で移動することはなく、
その島を直接眼にすることはあまりありませんが、
広大な海をゴミの山が占領していくことは、気持ちのいいことではありません。

こうしたゴミの島の拡大を阻止する動きも始まっています。
島の拡大の原因となるゴミそのものの投棄や廃棄の撲滅を呼び掛ける運動も
起こっていますし、
2009年には、Project Kaiseiというカリフォルニア州のNPOによる
ゴミの島そのものを消滅させる方法の検討も始まり、現在調査が進められています。

そうした中で、大きな注目を集めているのが、
ゴミそのものをエネルギーに変えていくテクノロジーの開発です。
英語では”Waste-to-Energy Technology“と呼ばれています。

この「ゴミをエネルギーに変える技術」については、
以下のように様々な手法が研究されています。

・焼却してガスを発生し、そのガスの動力で発電する技術
・熱分解して、燃料に変換する技術
・プラスチックを脱重合して、合成原油を生成する技術
・微生物を用いてバイオガスへと分解する技術

こうした「ゴミをエネルギーに変える」リサイクルのビジネスは、
ドイツを中心としたヨーロッパが最先端を走っています。
研究は非営利の研究機関だけでなく、多くの企業で取り組まれており、
ESWETという企業連合体も誕生しています。

さらに、環境保全に貢献する企業を資金面から支えているのが、
昨今の原油高に端を発する中東を中心としたオイルマネーです。[参考]
原油から生じるマネーが、その原油からつくられたプラスチックをさらに燃料に変える
テクノロジーの開発に投資され、新たに燃料を創造していく。
壮大な化石燃料のサプライチェーンが誕生しようとしています。

ゴミ問題の解決策は、「ゴミを減らすこと」とこれまで定義されてきました。
しかしながら、そのゴミを資源そのものに変えてしまう試みが、
まさに研究者や起業家の手によって始められようとしています。

「ゴミを減らす」という人間の行動そのものを変えることは非常に困難です。
教育を通じて、その困難に立ち向かっていく重要性と同時に、
ゴミ問題という概念そのものをなくすというイノベーションを
起こそうとする企業を育くんでいくことも重要だと感じています。

風力、太陽光などの再生可能エネルギーへの関心が高まっていますが、
果てして、再生可能エネルギーのみを活用して、
社会に必要なエネルギーを供給することは可能なのでしょうか?

国際エネルギー機関(IEA: International Energy Agency)が発表している
World Energy Outlook (2008)“では、悲観的な結果となっています。

※”World Energy Outlook”の最新版は2010年のものですが、2010年、2009年の
 ものは有料のため、無料で入手できる最新のものは2008年でした。


2030年までに、発展途上国の経済発展に伴い、
世界のエネルギー需要が急増するのに対し、
再生可能エネルギーによるエネルギー供給は、
2030年時点でもわずか2%にすぎません。

上記のものはガソリンなどの動力エネルギーも含んでいますので、
再生可能エネルギーが活用される電力に絞って見てみるとどうでしょうか。


電力エネルギーも2030年までに需要が大きく増加していきます。

やはり、ここでも再生可能エネルギーの割合は、
風力、地熱、太陽光・太陽熱、潮力を足しても、約6%にすぎません。

石油が枯渇するピーク・オイル説が叫ばれたり、
石油・石炭・天然ガスという化石燃料が与える環境への悪影響の観点からも、
再生可能エネルギーの必要性が唱えられていますが、
世界のエネルギーの権威は悲観的な見方をしています。
再生可能エネルギーの可能性はこんなにも小さいのでしょうか。

僕はそうは思っていません。
上記の国際エネルギー機関のデータの統計手法を考慮すると、
予測が悲観的となるのは当然なのです。

国際エネルギー機関のデータは、過去30年ほどのデータをもとに、
人口変動や交通量推移、GDPなど複数の変数をもとに、
計量経済学の手法で、供給源ごとのエネルギー需要を予測をしています。
ポイントは、過去のデータに依存しているということです。
ある程度の技術革新は変数に加えているようですが、
大規模な技術革新は予測データには反映されないのです。

今後、再生可能エネルギーの技術開発に大きく投資がされていく中、
過去の推移の延長線上に未来があると考えることは適切ではありません。

では、再生可能エネルギーにはどれほどの可能性が将来展望されるのでしょうか。

2011年1月27日のScienceDailyというインターネットメディアは、
スタンフォード大学のジャコブソン教授(市民・環境工学)と
カリフォルニア大学デービス校のデルッチ教授が、
学術論文の中でこのように発言したことを報じました。

「20年~40年後には今日の技術を用いれば、
すべてのエネルギーを再生可能エネルギーで供給できる」

彼らの計画によると、
90%の電力を風力、太陽光・太陽熱、水力でまかない、
残りの10%のうち、4%を地熱、同じく4%を水素燃料、残りの2%を潮力で
調達することが可能だということです。

また、飛行機や船舶、車に使われる流体燃料として、
電気または水素燃料で代替が可能で、
さらに、水素燃料をつくるのに必要な電力も、
再生可能エネルギーで作り出すことができるということです。

2030年までには新たなエネルギー需要をすべて再生可能エネルギーで供給し、
2050年には、全エネルギーを再生可能エネルギーに代替可能となるようです。

再生可能エネルギーについて懸念される課題については、
それぞれ以下のように回答しています。

「風力、太陽光は天候に左右され、安定的な電力供給源にはならない」
⇒ 昼に強い太陽光、夜に強い風力を組み合わせて補完させ、
  それでも不足する電力は、水素燃料で充当すればいい。
⇒ スマートグリッドで長距離電力網を構築すれば、どこかの地域で発電できた
  電力を他の地域に回し、全体的として安定供給は可能となる。
⇒ 消費量の多い時間と、少ない時間の差を活用し、少ない時には蓄積し、
  多い時には放出することも可能。

「発電設備に必要なプラチナやレアアースなど希少資源は足りるのか?」
⇒ 資源量は今でも十分にあり、さらにリサイクルをすれば不足はしない。
⇒ 不足した資源を他の資源でも代替することも可能で問題はない。

「風力や太陽光の発電プラントに必要な土地は十分あるのか?」
⇒ 100%の電力供給をまかなうのに必要な土地専有面積は
  わずか世界の土地の0.4%。設備間のスペースに必要な面積を
  いれても、それでも世界の土地の1.0%にすぎない。

彼らは、今後の展開に対し、
「技術は今でも十分にある。あとはやるかやらないかだ。」と締めくくっています。

個人的には、彼らが認識されていない問題がいくつもあるのだと思います。
しかしながら、IEAが2030年にわずか全体の2%しか供給できないと言っていたところに、
2050年には100%供給できるという意見が登場したことは、
新たな可能性を感じさせてくれます。

再生可能エネルギーの将来や可能性を、低く見積もる必要はないと考えています。

毎年1月末にスイスのダボスで開催される世界経済フォーラムの年次会合、
通称「ダボス会議」。

この会議の中で、カナダを拠点とするメディア企業のCorporate Knights社
から、毎年「世界で最も持続可能性のある企業100社」
“Global 100 Most Sustainable Corporations in the World” (Global 100)
が発表されています。

選定企業は上場企業に限られますが、
持続可能性という新たな指標を作り出そうとしているのが特徴的です。

そして、今日、2011年の100社が発表されました。

http://www.global100.org/

■企業ランキング

1位 スタットオイル(ノルウェー)
2位 ジョンソン・アンド・ジョンソン(アメリカ)
3位 ノボザイムズ(デンマーク)
4位 ノキア(フィンランド)
5位 ユミコア(ベルギー)
6位 インテル(アメリカ)
7位 アストラゼネカ(イギリス)
8位 クレディ・アグリコル(フランス)
9位 ストアブランド(ノルウェー)
10位 ダンスク・バンク(デンマーク)

国別の社数ランキングは、

1位 日本 (19社)
2位 アメリカ (13社)
3位 イギリス (11社)
4位 カナダ (8社)
5位 オーストラリア (6社)
6位 スイス (5社)
6位 フランス (5社)
8位 デンマーク (4社)
8位 フィンランド (4社)
10位 ブラジル (3社)

日本がダントツ1位を飾りました。

ちなみに、日本でランクインした企業は、

14位 日東電工
23位 イオン
24位 T&Dホールディングス
30位 ソニー
32位 商船三井
35位 三菱重工業
49位 東京ガス
53位 大和ハウス工業
54位 日本郵船
59位 ヤマハ発動機
69位 NTTドコモ
70位 コニカミノルタ
71位 リコー
72位 東京エレクトロン
74位 大正製薬
79位 NEC
80位 パナソニック
81位 日産自動車
82位 トヨタ自動車

製造業を中心に、多様な業界から選ばれています。

■評価基準

この「世界で最も持続可能な企業100社」はとてもユニークな評価基準で
ランキングをつけています。

エネルギー生産性: 売上 ÷ 直接的および間接的なエネルギー消費量
炭素生産性: 売上 ÷ 二酸化炭素排出量
水生産性: 売上 ÷ 水使用量
ゴミ生産性: 売上 ÷ ゴミ排出量
リーダーシップ多様性: 女性の役員割合
CEO報酬-従業員平均報酬比率
安全生産性: 売上 ÷ 従業員傷害事故×5万ドル+死亡者数×100万ドル
持続可能性関与: 持続可能性に責任を持つ役員がいるか否か
イノベーション能力: R&D投資 ÷ 売上
透明性: 持続可能性に関連するデータの公開度合い

持続可能性を定量的に「正しく」表現することを求めて、
これらの指標は年々変化しています。
上記の指標だけでは、とても環境社会の持続可能性を網羅できているとは
言えませんし、経済の持続可能性が追求されていないことも難点です。

しかしながら、企業が今後取り組んでいく持続可能性向上施策にとって、
このようなランキングが後押ししてくることはプラスに作用します。

持続可能性という観点から、ダボス会議への批判は多くありますし、
ランキング発表だけでは決して十分ではありませんが、
こうしたひとつひとつの積み重ねが持続可能性を高めていくのだと信じています。

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