太陽光発電モジュールの心臓部となる太陽電池セル。

太陽電池セル製造において、古くから世界の頂点に君臨し続けたのは、日本のシャープ。
1963年に太陽電池の生産を開始し、その後2007年まで生産量世界一を誇り続けます。

しかし、2008年、ドイツのQ-Cellsと中国のSuntech Powerに抜かれ3位に陥落。
さらに、2009年、アメリカのFirst Solarに抜かれ4位に転落。

シャープを上回った3社はいずれも新興企業。
Q-CellsとFirst Solarは1999年に創業。Suntech Powerの創業は2001年。
いずれも、創業から10年経たない間に、老舗のシャープを追い越して行きました。

今でも太陽電池セル市場において技術力は世界一だと言われているシャープが、
なぜ新興企業に一気に追い越されていったのでしょうか。

この原因として、よく挙げられるのが、以下の2つです。
1) 日本政府が太陽光発電への補助金を停止したため
2) シリコンの原材料価格が高騰し、生産量拡大が間に合わなかったため

1)だとすると、なぜシャープは海外市場を狙わなかったのか。
2)だとすると、なぜ他の新興3社は生産量を拡大できたのか。
この2つの説では説明できません。

そこで、より包括的な敗因分析を行ってみたいと思います。

■ 国ごとの太陽光発電の推移

日本は「家庭用太陽光発電」の急速な普及のもとに、
太陽光発電の導入量は2003年まで世界一を誇っていました。
それを後押ししたのが、
経済産業省資源エネルギー庁所管の財団法人である「新エネルギー財団」が
実施していた補助金、「住宅用太陽光発電導入促進事業」でした。
しかし、この補助金は、再生可能エネルギーの重要性が認識されていた2005年に、
突然終了してしまいます。原因は、申請数増加による財源不足でした。
その結果、日本の累積導入量の伸び率は鈍化していきました。

一方で、対象的な動きをとったのはヨーロッパ諸国。特にドイツとスペインでした。
ドイツでは2004年、スペインでは2007年に、本格的な補助金制度が法整備されました。
日本の補助金が設備導入時への支給という形態をとったのに対し、
ヨーロッパでは「固定価格買取制度」、英語名Feed-in Tariff方式が一般的。
これは、太陽光発電で発電した電力を、電力会社が割増し固定価格で買い取る制度。
割増した分のコストは、一般電力消費者が分担して負担するため、
国庫からの負担はありません。

この「固定価格買取制度」を背景に、ドイツ、スペインでは急速に導入量が増加。
2009年の単年の導入量では、EU諸国だけで世界の導入量の75%を占めました。
こうして、日本の国としての導入量は世界3位に陥落しました。

シャープは、日本市場においてシェアは今も昔もナンバーワン。
仮に、日本もヨーロッパ諸国と同様に、「固定価格買取制度」を導入し、
ドイツやスペインと同等かそれ以上の導入実績を持てていたとしたら、
シャープは、その日本の伸びを、自社の実績とし、
世界一の座を守り続けることができていたかもしれません。
これが、1) 日本の補助金廃止が敗因という説につながっていきます。

しかし、すでに触れたように、なぜシャープは世界でシェアを伸ばせなかった
のかを説明してはくれません。

■ シャープと新興3社の業績推移

次に、シャープの売上推移を見てみましょう。
下の図は、シャープのIR資料をもとに作成したものです。

確かに日本で補助金が廃止となった2005年以降、業績が低迷しています。
しかし、よくよくグラフをみてみると、シャープの太陽電池の売上の半分以上は、
海外での売上です。
シャープの売上は、国内の市場動向よりも、
海外での売上動向に大きく左右されることがわかると思います。

一方で、新興3社の推移を見てみましょう。

このグラフは、日本政策投資銀行のレポートから抜粋しました。

シャープが売上を低迷させた2005年以降、新興3社は売上を拡大しています。
これは、同時期に拡大したヨーロッパ市場を見事に3社が取り込んでいったためです。
Q-Cellsは、本国ドイツでの生産を拡大し、マレーシアにも生産工場を設立。
Suntech Powerは、本国中国のほか、ドイツ、日本、アメリカでの生産に着手。
First Solarは、本国アメリカのほか、ドイツ、マレーシア、フランス、ベトナムに
工場を開設し、現在は中国での生産も視野に入れています。

こうして、新興3社は、ヨーロッパ内での生産を大幅に拡大し、
急上昇したヨーロッパの太陽光市場を制していきました。

■ シャープの敗因

では、なぜシャープは、ヨーロッパ市場で存在感を出せなかったのでしょうか。
原因は、コストと資金力でした。

コスト

シャープは、新興3社に比べ、製造原価が高く、価格競争力がありませんでした。

理由のひとつめは、「過度な技術信仰」です。
シャープは世界市場でのシェアを現在落としてしまいましたが、
それでもシャープの太陽電池は、エネルギー効率の面で「世界一」の技術と評されています。
シャープは古くから、太陽電池の普及に欠かせない「エネルギー効率」の向上
に力を入れ、シリコン型という太陽電池の方式にこだわってきました。
シリコン型は、数ある他の方式の中でも、最も高いエネルギー効率を誇ったからです。

しかし、シリコン型には欠点もあります。
原材料のシリコンが高価なため、高コストだということです。
太陽光の力を電力に変える力は高いけれども、
その電力を発電させるためのコストが高い。
さらに、世界的な太陽電池産業の盛り上がりのなかで、シリコン価格は高騰。
シャープの製造原価はさらに上がっていってしまいました。

一方で、新興3社は、原価の削減に成功していきました。


出所:仏Yole Developpement

このグラフを見ていただくと、アメリカやドイツでは、CIGS型、CdTe型の比率が
比較的多いことがわかります。
このCIGS型、CdTe型は、薄膜型方式と呼ばれる新しい技術で、
エネルギー効率の面ではシリコン型に敵いませんが、
原材料が安く、製造原価を大きくおさえることができます。
First Solarは、このような薄膜型で市場に勝負をかけていきました。

一方、Suntech Powerは、シャープと同様、シリコン型を主力商品としましたが、
中国という地の利を生かし、人件費等を大幅に抑え、コスト圧縮に成功していました。
そして、Q-Cellsも、シリコン型を主力としましたが、
世界一市場となったドイツの政府からの後押しや、マレーシアでの生産によるコスト
削減努力などから、シェアを伸ばしていきました。

そして、急成長したヨーロッパ市場。
EU諸国は、再生可能エネルギーに力を入れる一方で、財政難にも苦しんでいました。
政府にとって重要なのは、製品の技術レベルではなく、導入しやすい価格の安さ。
シャープの高単価高品質製品より、新興3社の商品のほうが魅力的だったのです。

この価格競争にさらに追い打ちをかけたのが、「規模の経済」です。
太陽電池は、大量生産型の商品です。
大量に生産すればするほど、規模の経済が働き、製品単価を下げていくことができます。
ヨーロッパで大量の受注を獲得した新興3社は、さらに製品単価を下げることに成功し、
新たな受注を獲得していったのです。

資金力

コスト競争力には、それぞれの企業の資金力が大きく左右しました。
なぜなら、生産量を拡大させればさせるほど、規模の経済が働き、
さらには、高騰する原材料の長期安定供給契約を可能とし、
製造原価を抑制させることができるからです。

Q-Cellsは2005年にフランクフルト証券取引所に上場して資金を集め、
First Solarも2006年にNASDAQに上場し、シリコンバレーの
ベンチャー・キャピタルから多額の資金を集めます。
一方、Suntech Powerは、中国政府の各機関から多額の低金利融資を獲得。
こうして、3社は短期間で大きな資金力を手にすることに成功しました。

一方で、シャープは、新興3社と異なり、太陽電池専業ではありません。
大きな投資計画を行うためには、他の事業とも含めた中での経営判断が
必要となり、意思決定は遅れ、投下資金は3社に比べ見劣りするレベルでした。
資金力でも新興3社に敗れてしまったのです。

こうして、老舗メーカー・シャープは、
急成長したヨーロッパ市場において、新興3社にコスト競争で敗れ、首位から転落。
後塵を拝していきました。

■ 今後の行方

もちろん、シャープも形成を逆転させるため、新たな施策を始めています。
それが「薄膜型の増強」と「生産量の拡大」です。
2007年1月に富山県でのシリコン内製化を開始。
同年3月には奈良県の葛城工場でシリコン型の生産増強と薄膜型の生産に着手。
2010年3月には、大阪府堺市での新工場をオープンし、
2011年にはイタリアのEnel社やスイスのSTMicroelectronics社と共同で
イタリアに初の海外工場もオープンさせる予定です。

しかし、状況は依然としてシャープにとって厳しいままです。
2010年に入り、世界の導入量の1、2位となっていたドイツやスペイン、
さらにその他のEU諸国で、財政難を理由に「固定価格買取制度」の買取価格見直し
議論がスタート。価格が下がることで、導入量が一気に冷え込んできました。
シャープが、イタリアの新工場建設で見込んでいたヨーロッパへの販売に暗雲が
立ち込めています。

さらに、ヨーロッパ市場が急速に悪化する中で、世界中での生産過多が発生し、
太陽電池価格が下落。各社の利益を圧迫しはじめています。
そうした中で、新興3社も、将来性が大きい中国での生産拡大に乗り出しています。
中国では、2009年から政府の”Gold Sun”プログラムが始まり、
太陽光発電への政府の予算が多く投下される取組が開始されているためです。
一方で、シャープからはまだ中国への進出についての発表はありません。

そして、昨今の円高。日本国内での生産を重視してきたシャープにとっては、
大きな逆風です。

最先端の太陽電池技術を有するシャープ。
世界シェアを奪還するための課題は、
日本政府の太陽光発電への取組や、シリコンの安定供給契約だけでなく、
むしろ新興3社に負けない資金力の確保と意思決定スピードにありそうです。

再生可能エネルギーという分野は、
環境活動家やエコ推進者からみると、社会セクターとも位置付けられています。
しかし、実際の従事者の立場からは、激しい競争にさらされているビジネスの場です。
いかに、サステイナブルな事業体になっていけるか。
これは業界の分野を問わず、どの事業体にも必要な要素なのだと思います。

世界に冠たるアパレルメーカー、GAP.Inc

「GAP」「BANANA REPUBLIC」「OLD NAVY」「PIPER RIME」等の
ブランド有し、世界各国に合計3200以上の店舗を持っています。

このGAP本社のCSR部門の方からレクチャーを受ける機会があったので、
その内容をもとに、アメリカの大手企業のCSR活動の実状を紹介したいと思います。

GAPは、CSR活動が高く評価されているアメリカの大手企業の中の1社です。
Dan Henkle常務(社会的責任担当)率いるCSR担当のメンバーは現在、総勢70名。
GAPの全ブランドを横断的に担当しているコーポレート組織です。
そのうち、サンフランシスコのベイアリアの本社にいるのは10名ほど。
残りのメンバーは、世界中に散らばり業務を遂行しています。

この部署のメンバーの多くは、物流部門や製造部門、デザイン部門など、
社内のそれぞれの部署から異動してきた人が多く、
それぞれの部署での専門知識をいかして、業務に取り組んでいます。
NPOなどの出身者は極めて少数派です。

部署は大きく4つのセクションから構成されています。

■モニタリング/販売店開発

世の中の関心の高い「児童労働」「有毒物質」などに対し、
GAPの全ブランドのサプライヤー(供給者)が、これらの活動に抵触していないかどうか、
モニタリングし、調達から販売まで一貫した「CSR的なサプライチェーン」の構築に
責任を持っています。
担当範囲は自社だけでなく、無数の協力企業や、協力企業の協力企業に及びます。

■パートナーシップ

外部の環境団体や政治団体、人権団体などとパートナーシップを組み、
GAP本体や協力会社の改善をしていくのが役割です。
CSR活動の多くは、このような外部団体からの持込み案件が多く、
一歩関係構築を間違えると、GAPのブランドを大きく傷つけることにもなってしまうため、
非常に重要な役割を担っています。

■環境

ゴミ削減や省エネ、廃棄物削減など、社内の環境改善活動に責任を負っています。
「省エネ電気の導入」「デスク周辺のゴミ箱設置廃止」など地道な活動もありますが、
リサイクルを推進するため、行政当局に働きかけていく大がかりなものもあります。
ニューヨークに新たなデザインセンターを開設した際には、
リサイクルシステムのなかったニューヨーク市と粘り強く交渉し、
市としてのリサイクル活動開始に大きな影響力を発揮しました。

■戦略企画/コミュニケーション

CSRレポート作成や重大テーマの設定などを担当しています。
最大の課題は、CSR活動の効果測定や利益インパクトの算出。
効果の量的分析については、GAP以外の企業も悩んでいるテーマです。
※実際のレポートをコチラからダウンロードできます。

このように、CSR活動の担当範囲は、
人事、総務、調達、店舗管理、法務、政府交渉など多岐にわたり、
部署をまたぐ案件をプロジェクトマネジメントをして推進していくことが中心となっています。

活動テーマの多くは、外部の団体(NPOなど)からの指摘や提言によるもので、
その中で重要で解決できそうなテーマから着手をしていきます。
持ちかけのある代表的な外部団体は、
As You Sow Foundation
Domini Social Investments
Calvert Asset Management Company
Center for Reflection, Education and Action
Interfaith Center on Corporate Responsibility
などです。

これらの団体は、GAPが抱える潜在的な「リスク」を教えてくれる頼もしい存在ですが、
同時に、無理難題を持ちかけてくる「厄介な」存在でもあります。
彼らは、指摘とともに解決方法を提示してくれることもありますが、
「原料のトレーサビリティ」など、GAPだけでは手に負えるものでもないものが多く、
頭を悩ませています。

そこで、NPOが持ちかけてきた案件を、ソリューションをともに考えてくれるNPOに相談し、
状況を改善していくことが多くなります。
このソリューション担当NPOの代表格が、BSRです。
BSRは世界の大手企業や、ソーシャルエンタープライズ、NPOとネットワークを持っており、
一社単独では解決しにくいテーマに対し、
業界全体で手を打っていくソリューションや、
他のソーシャルエンタープライズを巻き込んで、
効率的・効果的に解決していくソリューションを強みとしています。

こうした中で、GAPはCSR活動、または社会的貢献活動の財務的メリットを、
「企業ブランドの維持・向上」「製品の質の向上」に置いています。
すなわち、企業ブランドを維持することで、製品ボイコットなどのリスクを減らすとともに、
労働環境の改善や、原料の改善から、製品の質そのものが向上することを、
全社利益への貢献と定義しています。
また、省エネによるコスト削減効果も意識されています。

社会的責任部門と、ファイナンス部門との関係も良好で、
CEOのリーダーシップのもと、昨今の不景気の中でも、社会的貢献部門の予算は
一切削減されなかったという事実を、彼ら自身も誇りにしているようです。

今後の大きなテーマは、
① オペレーションレベルでの行動モニタリングと効果測定
② サプライチェーンの省エネを徹底したコスト削減
が2大テーマとされていました。

上記のようなGAPの取り組みから、

・「エコ推進派」の企業による、「エコ消極派」行政の改革
・NPOによる課題発見とソリューション構築
・オペレーションレベルのモニタリングの仕組みの必要性増加

というアメリカの動きが見てとれます。

※僕の別ブログである「アメリカ・サンダーバードMBA留学ブログ」から転載しました。

留学中のサンダーバード国際経営大学院で、
環境コンサルタント企業 Global Ideas社
創業者のひとりMark D. Wilhelm氏の講演を聴くことができました。

彼らが環境コンサルタントとして取り組んでいるのは、「建設」の分野です。
現在、CO2をもっとも排出している分野は、交通輸送ではなく、建設です。
日本でも、全CO2排出量における建設(資材、施工、運用)が占める割合は43%。

CO2排出量を削減するためには、「建設」のエネルギー効率をあげることが
とても重要なのです。

Global Ideas社が取り組んでいるのは、以下の内容です。

‐ エネルギー効率の高い建設素材、部材、機器の選定
‐ 無駄の少ないエネルギー循環、水循環のデザイン
‐ 都市環境の改善に寄与する外観や土地利用のデザイン
‐ 建築物寿命の長い建設設計、運用の提案
‐ 廃棄物の少ない施工プロセスの設計
‐ 企業等への環境ポリシー策定コンサルティング

現在のメイン顧客は、大学、高校、州政府、市政府、ビジネスセンター等
大型施設の運用者。
彼らのコンサルティングを通じて、
建築費用や運用費用が50%以上削減できています。

彼らは、環境保護の大切さを訴えるだけでなく、それをコスト削減という
実利に結び付けることで、クライアントの獲得に成功しています。
その中で、Mark氏が強調していたのは、
今後のファイシリティー管理者は、年単位の購買コストの削減だけでなく、
‐ 施設寿命をいかに長くするか
‐ 運用コスト(人件費も含めて)をいかに削減するか
を真剣に考えることで、より多くのコスト削減が可能となる、
ということです。

Global Ideas社は、この動きを少しでも社会に普及させるため、
同時に環境保護教育にも力を入れています。
具体的には、オンラインで教育プログラムを提供したり、
セミナーの開催、書籍の出版なども行っています。

彼らの行動の源泉は、CO2排出量をなんとか早く減らしたい、という使命感です。
環境ビジネスは、産業廃棄物処理業以外、ビジネスになりにくいと言われていますが、
ビジネスの実利と結び付けることで、チャンスはたくさんありそうです。