前回に続き、ウォルマートの活動を紹介したいと思います。

今回のテーマは、サステイナビリティの「測定」(Measure)。

ウォルマートでは、サステイナビリティ分野での
テーマ設定、目標設定、効果測定(モニタリング)を効果的に行うため、
数多くの指標の効果測定を行っています。

とりわけ強化しているのが、「食料」「農作物」分野の測定です。
ウォルマートが提供する食料品を作るのに、
どれだけの環境、社会的な負荷をかけているのか、
どれだけ効率的(経済的な効率性だけではない)に
食料品を生産できているのかを測定しているのです。

ウォルマートは、この測定をするにあたり、
カリフォルニア州を中心に導入が進んでいる”Stewardship Index for Specialty Crops
を採用しています。

Stewardship Index for Specialty Cropsとは、
社会や環境の持続可能性強化を目指すNPOや企業の集合プロジェクトである
Stewardship Index for Specialty Cropsが生み出した
食料品に特化した持続可能性測定モデルです。
※参加団体の一覧はコチラ

この測定モデルが測定しようとしている項目は、以下です。
※出所はコチラ

1. 人的要素
 - 人的資源(労働者の健康・安全、労働条件等)
 - コミュニティ(地域雇用の実施等)

2. 環境要素
 - 大気の質
 - 生物多様性・生態系
 - エネルギー消費
 - 温室効果ガス排出量
 - 栄養素
 - パッケージング
 - 殺虫剤使用
 - 土壌
 - 廃棄物
 - 水質
 - 水消費量

2. 経済要素
 - 環境に配慮した生産・流通された製品の購買
 - 公平な価格設定

このプロジェクトでは、各測定項目の具体的な測定指標について
検討を進めています。

このウォルマートが進めている測定の取組は、決して実現が容易ではありません。
一般的に企業が進めている「サステイナビリティ」測定は、
電気消費量、エネルギー消費量、水消費量、温室効果ガス排出量など、
自社で測定が完結できるものがほとんどです。
しかしながら、ウォルマートでは、その測定を、自社だけでなく、
生産者・加工者・流通者などサプライチェーン全体に広げようとしています。
ウォルマートが販売する食料品にかかわるすべてのフットプリントを、
測定しようとしているのです。

このように食料品のサプライチェーン全体を測定していく試みは、
今後重要性を増していきます。
なぜなら、世界の食料問題への解決に寄与していくからです。
例えば、世界食糧機関(FAO)は、世界で生産された食料品の1/3は、
「無駄」「ゴミ」として廃棄されていると発表しています。
※出所はコチラ

サプライチェーン全体の「無駄」を削減していくことは、
食料品の増産ではない、もうひとつの食糧問題解決の道となりえます。

Stweardship Indexが進めているサプライチェーン全体の及ぶ測定の枠組みは、
他の業界にも展開されようとしています。
例えば、Sustainability Consortiumという同様のNPO・企業・大学連合は、

「消費者科学」「測定科学」「電化製品」「食料・飲料品」「紙製品」
「ホームケア」「ヘルスケア」「IT製品」「パッケージ」「小売」「おもちゃ」

のそれぞれの分野でワーキンググループを形成し、
測定手法の検討を進めています。

このコンソーシアムを組成している大学・企業・NPOは、

〇 大学(主催者)
アリゾナ州立大学のサステイナビリティ研究所(Arizona State University)
アーカンソー州立大学の応用サステイナビリティセンター(University of Arkansas)

〇 企業
アルコア
BASF
ベストバイ
カーギル
クロロックス
コカ・コーラ
デル
ディズニー
ダウ
ケロッグ
ロレアル
マクドナルド
ペプシコ
P&G
パナソニック
サムソン
SAP
ユニリーバ
ウォルマート
東芝 など

〇 NPO
BSR
世界自然保護基金(WWF)
チリ基金
アメリカ環境保護庁
イギリス環境食糧省

Sustainability Consortiumに参加している日本企業は、
現在、パナソニックと東芝の2社のみです。

今後の企業経営において大きな影響を与えていくと思われるサステイナビリティ。
この大きな世界の動きに、日本企業も積極的に参加していく必要があります。

「持続可能性計画(サステイナビリティプラン)」。

日本ではまだあまり浸透していない概念ですが、
これは、近年、欧米の企業を中心に進められている
社会や環境に配慮した経営計画や新規事業開発のことを指します。

とりわけ注目を集めているのが、世界の小売最大手ウォルマート
トップダウンによるイニシアチブにより、サステイナビリティプランを
積極的に展開しています。

今回、Forbe紙に、
「ウォルマートの10大持続可能性プロジェクトが世界のリーダーシップを
明確に示す」
と題した記事が発表されていました。(原文はコチラ

1. キャリア・トレーニング
トレーニングセンターを通じた職業訓練。インドでは5000人が訓練を受けている。
訓練を施す体制を整えることで、全ての社会層の人たちに対して、成長機会を
与えていく。

2. 2000万トンの温室効果ガスを削減
2015年までにサプライヤーと協働で2000万トンの温室効果ガスを削減。

3. 輸送効率の向上
2005年に全米の輸送効率を65%向上、日本での輸送効率を33.5%向上。

4. 全プレイヤー参加によるグローバルバリューネットワークの構築。
自社だけでなく、顧客、サプライヤー、地域社会と共同で持続可能性
プロジェクトを推進。

5. 地域農産品調達、零細企業活用、農家支援
2015年までに1万件の中小農家から10億ドルの農産品を調達。
100万人の農家を支援し、農家収入を10%~15%向上させる。

6. 店内エネルギー消費量の削減
中国の新規店舗にてエネルギー消費量を40%削減するモデルを開発。

7. オペレーション効率を高めるためテクノロジーを活用
LED電球や薄型太陽光発電型フォークリフトなど最新のテクノロジーを導入。

8. 全米の飢餓を削減
2015年までに20億ドル相当の現金等を全米の飢餓削減のために拠出。
10億ポンドの食糧を提供。食料バンクの推進のために物流専門社員を提供。

9. 高度成長マーケットでのエネルギー効率向上
エネルギー効率向上に寄与する設備投資をサプライヤーに対して実施。

10. 果物・野菜価格の削減
安価な果物・野菜を顧客に提供するため合計10億ドルの価格削減を展開。
 

ウォルマートで展開している持続可能性プロジェクトの内容は、
いわゆる「節電」「植林」などのエコ対策にとどまらず、
幅広く社会や環境に寄与する事業運営を検討・推進しています。

私たちは、
日本企業もこのようプロジェクトを推進していける支援をしていきます。

世界に冠たるアパレルメーカー、GAP.Inc

「GAP」「BANANA REPUBLIC」「OLD NAVY」「PIPER RIME」等の
ブランド有し、世界各国に合計3200以上の店舗を持っています。

このGAP本社のCSR部門の方からレクチャーを受ける機会があったので、
その内容をもとに、アメリカの大手企業のCSR活動の実状を紹介したいと思います。

GAPは、CSR活動が高く評価されているアメリカの大手企業の中の1社です。
Dan Henkle常務(社会的責任担当)率いるCSR担当のメンバーは現在、総勢70名。
GAPの全ブランドを横断的に担当しているコーポレート組織です。
そのうち、サンフランシスコのベイアリアの本社にいるのは10名ほど。
残りのメンバーは、世界中に散らばり業務を遂行しています。

この部署のメンバーの多くは、物流部門や製造部門、デザイン部門など、
社内のそれぞれの部署から異動してきた人が多く、
それぞれの部署での専門知識をいかして、業務に取り組んでいます。
NPOなどの出身者は極めて少数派です。

部署は大きく4つのセクションから構成されています。

■モニタリング/販売店開発

世の中の関心の高い「児童労働」「有毒物質」などに対し、
GAPの全ブランドのサプライヤー(供給者)が、これらの活動に抵触していないかどうか、
モニタリングし、調達から販売まで一貫した「CSR的なサプライチェーン」の構築に
責任を持っています。
担当範囲は自社だけでなく、無数の協力企業や、協力企業の協力企業に及びます。

■パートナーシップ

外部の環境団体や政治団体、人権団体などとパートナーシップを組み、
GAP本体や協力会社の改善をしていくのが役割です。
CSR活動の多くは、このような外部団体からの持込み案件が多く、
一歩関係構築を間違えると、GAPのブランドを大きく傷つけることにもなってしまうため、
非常に重要な役割を担っています。

■環境

ゴミ削減や省エネ、廃棄物削減など、社内の環境改善活動に責任を負っています。
「省エネ電気の導入」「デスク周辺のゴミ箱設置廃止」など地道な活動もありますが、
リサイクルを推進するため、行政当局に働きかけていく大がかりなものもあります。
ニューヨークに新たなデザインセンターを開設した際には、
リサイクルシステムのなかったニューヨーク市と粘り強く交渉し、
市としてのリサイクル活動開始に大きな影響力を発揮しました。

■戦略企画/コミュニケーション

CSRレポート作成や重大テーマの設定などを担当しています。
最大の課題は、CSR活動の効果測定や利益インパクトの算出。
効果の量的分析については、GAP以外の企業も悩んでいるテーマです。
※実際のレポートをコチラからダウンロードできます。

このように、CSR活動の担当範囲は、
人事、総務、調達、店舗管理、法務、政府交渉など多岐にわたり、
部署をまたぐ案件をプロジェクトマネジメントをして推進していくことが中心となっています。

活動テーマの多くは、外部の団体(NPOなど)からの指摘や提言によるもので、
その中で重要で解決できそうなテーマから着手をしていきます。
持ちかけのある代表的な外部団体は、
As You Sow Foundation
Domini Social Investments
Calvert Asset Management Company
Center for Reflection, Education and Action
Interfaith Center on Corporate Responsibility
などです。

これらの団体は、GAPが抱える潜在的な「リスク」を教えてくれる頼もしい存在ですが、
同時に、無理難題を持ちかけてくる「厄介な」存在でもあります。
彼らは、指摘とともに解決方法を提示してくれることもありますが、
「原料のトレーサビリティ」など、GAPだけでは手に負えるものでもないものが多く、
頭を悩ませています。

そこで、NPOが持ちかけてきた案件を、ソリューションをともに考えてくれるNPOに相談し、
状況を改善していくことが多くなります。
このソリューション担当NPOの代表格が、BSRです。
BSRは世界の大手企業や、ソーシャルエンタープライズ、NPOとネットワークを持っており、
一社単独では解決しにくいテーマに対し、
業界全体で手を打っていくソリューションや、
他のソーシャルエンタープライズを巻き込んで、
効率的・効果的に解決していくソリューションを強みとしています。

こうした中で、GAPはCSR活動、または社会的貢献活動の財務的メリットを、
「企業ブランドの維持・向上」「製品の質の向上」に置いています。
すなわち、企業ブランドを維持することで、製品ボイコットなどのリスクを減らすとともに、
労働環境の改善や、原料の改善から、製品の質そのものが向上することを、
全社利益への貢献と定義しています。
また、省エネによるコスト削減効果も意識されています。

社会的責任部門と、ファイナンス部門との関係も良好で、
CEOのリーダーシップのもと、昨今の不景気の中でも、社会的貢献部門の予算は
一切削減されなかったという事実を、彼ら自身も誇りにしているようです。

今後の大きなテーマは、
① オペレーションレベルでの行動モニタリングと効果測定
② サプライチェーンの省エネを徹底したコスト削減
が2大テーマとされていました。

上記のようなGAPの取り組みから、

・「エコ推進派」の企業による、「エコ消極派」行政の改革
・NPOによる課題発見とソリューション構築
・オペレーションレベルのモニタリングの仕組みの必要性増加

というアメリカの動きが見てとれます。