2012年6月19日に、主要メディアが一斉に、
「日本国債の海外保有者比率が過去最高の8%となった」という内容を報じました。

各紙の報道では、この背景には、
「ヨーロッパ国債危機」により安全資産と目される日本国債に、
海外投資家が逃げて来たという内容が書かれています。

このブログでは、「サステナビリティ」をテーマとしています。

通常、サステナビリティでは、環境や社会への影響が一般的に語られ、
国債や政府といったものが対象となることはあまりありません。

しかしながら、国債は社会に大きな影響を与える政府の負債。
この負債の償還が回らなくなったとき、国債危機が発生し、
社会の「継続性」は大きく損なわれることになります。

今回は、その日本国債の状況をご紹介したいと思います。

■ 日本の国債は2011年度末に900兆円を突破


※出所:日本銀行「資金循環」
※数値ローデータは、このページの最下部に掲載

日本の国債は毎年着々と増え続け、2011年度末には900兆円を突破。

新聞では海外勢の国債投資が活発化していることが報じられましたが、
保有額が増えているのは、海外勢だけでなく、銀行等や保険も大きく額が伸びています。

そこで、次に内訳のグラフを用いて、
保有割合が増えたのはどの機関なのかを見ていきましょう。

この図からわかることをまとめてみました。
● 預金取扱機関の保有割合が大きく上昇している
● 保険の保有割合も近年大きく伸びている
● その他金融仲介機関の保有割合が著しく減少
● 中央銀行は減少傾向にあり、一般政府も2007年以降減少傾向
● 海外の保有割合も一定して増加

このように、年々増えて行く年金は、各機関によって一律に伸びているのではなく、
保有者割合は大きく変化をして行っています。

日本ではかねてより国債の安定性についてこう言われてきました。

「日本国債は諸国と異なり、国内保有者比率が多い」
「預金の多い日本では国債危機は起こらない」

確かに、預金取扱機関の保有比率は群を抜いて多く、上の説も頷けます。

しかしながら、さらにデータを詳細に見て行くと、どうでしょうか。

日本銀行の「資金循環」統計では、
さらに細かい分類まで国債の保有者を調べることができます。

そして、その細かい保有者分類を見て行くと、
実は、上の説が、徐々に時代遅れになってきていることがわかってきます。

■ 預金取扱機関の詳細内訳

これは、国債保有者割合が最大だった「預金取扱機関」の詳細を見たものです。

俗説で言われる通り、2000年頃までは、
「国内銀行」が、最大の国債保有者でした。
しかし、その後、国内銀行の国債保有割合は、多少の増減をしつつも、
1997年から2011年にかけて大きく上昇しているとは言いがたい状況です。
国内銀行は、2000年代前半から保有割合を下げ、2008年頃から再び上昇しています。
すなわち、好景気のときには、
他の金融資産の利回りが上がりリスクが下がるため、
国債を手放して、株式などで運用し、
2008年以降の経済不況では、
低リスク資産と言われる日本国債の運用を増やしていると言うことができそうです。

一方、2000年初期以降「中小企業金融機関」が「国内銀行」を抜き去り、
最大の国債保有者に躍り出ています。

この中小企業金融機関とは何かというと、
この分類のほとんどの割合を占めているのが
旧称「郵便貯金」、現「ゆうちょ銀行」です。

しかしながら、「ゆうちょ銀行」の増加にはカラクリがありますので、
なぜゆうちょ銀行の割合が増えているのかについては、
「その他金融仲介機関」の項目で併せて後述します。

■ 保険会社の詳細内訳

続いて、保険会社を見て行きましょう。

保険の中でも、国債を保有しているのは、
圧倒的に生命保険会社であることがわかります。
そして、その割合は、一貫して年々増加しています。

生命保険会社の国債保有割合は、15.4%にもなり、
国内銀行の16.2%とほぼ変わらないほど大きな存在となりました。

生命保険の加入者が、細かい銘柄を意識せず積み立てているお金は、
生命保険会社により日本国債に巨額投じられています。

生命保険会社は、近年、貯蓄型の生命保険に力を入れてきた結果、
顧客から積み立ててもらっているお金が増加し、
その結果、安全資産と目される日本国債で多くを運用してきています。

個人向け国債はまだそれほどメジャーではありませんが、
貯蓄型生命保険という間接的な手法で、
日本国民は国債発行を下支えしています。

もはや、日本国債の引き受け先は、
「銀行」から「生保」に変わろうとしています。

■ その他金融仲介機関

その他金融仲介機関の多くを占めてきたのが、「公的金融機関」です。

ここには、国民生活金融公庫・中小企業金融公庫・商工組合中央金庫などの他、
以前は、国家財政において大きな存在感であった
「大蔵省資金運用部」も含まれていました。

資金運用部とは、
旧・大蔵省において政府関係資金の管理・運用を行っていたところで、
従来、郵便貯金、国民年金や厚生年金の掛金、政府特別会計の余裕金などは、
法律によって大蔵省資金運用部に集められ、
国債や財政投融資債、特殊法人融資などで運用されてきました。

しかし、2001年度の法改正により、
郵便貯金や年金掛金の資金運用部への預託義務が廃止され、
資金運用部自体も廃止されました。

この中央政府が吸い上げて来たお金の流れが廃止された結果、
「その他金融仲介機関」全体の国債保有割合は下がってきています。

そして、現在、ゆうちょ銀行やかんぽ生命は、
顧客から預かった資産を、自分たちの判断で、国債に投じています。

一般政府の割合が増えているのも同じ理由で、
以前は資金運用部がまとめて運用していた社会保障基金が、
各省で運用されるようになったためです。

こうして見る来ると、
日本国債は、生命保険を通じた国民一人一人、そして海外勢に依存する比率が
高まってきているということができます。

国債の引き受け先がいなくなったとき、
それは、既存の国債も含めて国債全体の価値が大きく下がることを意味します。

生命保険の分野では、インターネット保険の登場により、
貯蓄型生命保険の存在意義が問われるようにもなってきました。

近年、国債を買い支えてきた生保に頼れなくなるということでもあります。

国内の年金基金は高い利回りを求めて、海外投資を増やしているとも聞きますし、
これまで見て来たように、国債の海外保有者の割合は昨今増えてきています。

今後、誰が新たな国債の引き受け手となるのか。
はたまた国債の発行数自体をそもそも減らせるのか。

消費税政局の続く中、国債のサステナビリティについても、
社会の一人一人がもっと気にかけてよいテーマなのではないかと思います。

※ローデータは下の図をクリックすると拡大表示されます。

太陽光発電モジュールの心臓部となる太陽電池セル。

太陽電池セル製造において、古くから世界の頂点に君臨し続けたのは、日本のシャープ。
1963年に太陽電池の生産を開始し、その後2007年まで生産量世界一を誇り続けます。

しかし、2008年、ドイツのQ-Cellsと中国のSuntech Powerに抜かれ3位に陥落。
さらに、2009年、アメリカのFirst Solarに抜かれ4位に転落。

シャープを上回った3社はいずれも新興企業。
Q-CellsとFirst Solarは1999年に創業。Suntech Powerの創業は2001年。
いずれも、創業から10年経たない間に、老舗のシャープを追い越して行きました。

今でも太陽電池セル市場において技術力は世界一だと言われているシャープが、
なぜ新興企業に一気に追い越されていったのでしょうか。

この原因として、よく挙げられるのが、以下の2つです。
1) 日本政府が太陽光発電への補助金を停止したため
2) シリコンの原材料価格が高騰し、生産量拡大が間に合わなかったため

1)だとすると、なぜシャープは海外市場を狙わなかったのか。
2)だとすると、なぜ他の新興3社は生産量を拡大できたのか。
この2つの説では説明できません。

そこで、より包括的な敗因分析を行ってみたいと思います。

■ 国ごとの太陽光発電の推移

日本は「家庭用太陽光発電」の急速な普及のもとに、
太陽光発電の導入量は2003年まで世界一を誇っていました。
それを後押ししたのが、
経済産業省資源エネルギー庁所管の財団法人である「新エネルギー財団」が
実施していた補助金、「住宅用太陽光発電導入促進事業」でした。
しかし、この補助金は、再生可能エネルギーの重要性が認識されていた2005年に、
突然終了してしまいます。原因は、申請数増加による財源不足でした。
その結果、日本の累積導入量の伸び率は鈍化していきました。

一方で、対象的な動きをとったのはヨーロッパ諸国。特にドイツとスペインでした。
ドイツでは2004年、スペインでは2007年に、本格的な補助金制度が法整備されました。
日本の補助金が設備導入時への支給という形態をとったのに対し、
ヨーロッパでは「固定価格買取制度」、英語名Feed-in Tariff方式が一般的。
これは、太陽光発電で発電した電力を、電力会社が割増し固定価格で買い取る制度。
割増した分のコストは、一般電力消費者が分担して負担するため、
国庫からの負担はありません。

この「固定価格買取制度」を背景に、ドイツ、スペインでは急速に導入量が増加。
2009年の単年の導入量では、EU諸国だけで世界の導入量の75%を占めました。
こうして、日本の国としての導入量は世界3位に陥落しました。

シャープは、日本市場においてシェアは今も昔もナンバーワン。
仮に、日本もヨーロッパ諸国と同様に、「固定価格買取制度」を導入し、
ドイツやスペインと同等かそれ以上の導入実績を持てていたとしたら、
シャープは、その日本の伸びを、自社の実績とし、
世界一の座を守り続けることができていたかもしれません。
これが、1) 日本の補助金廃止が敗因という説につながっていきます。

しかし、すでに触れたように、なぜシャープは世界でシェアを伸ばせなかった
のかを説明してはくれません。

■ シャープと新興3社の業績推移

次に、シャープの売上推移を見てみましょう。
下の図は、シャープのIR資料をもとに作成したものです。

確かに日本で補助金が廃止となった2005年以降、業績が低迷しています。
しかし、よくよくグラフをみてみると、シャープの太陽電池の売上の半分以上は、
海外での売上です。
シャープの売上は、国内の市場動向よりも、
海外での売上動向に大きく左右されることがわかると思います。

一方で、新興3社の推移を見てみましょう。

このグラフは、日本政策投資銀行のレポートから抜粋しました。

シャープが売上を低迷させた2005年以降、新興3社は売上を拡大しています。
これは、同時期に拡大したヨーロッパ市場を見事に3社が取り込んでいったためです。
Q-Cellsは、本国ドイツでの生産を拡大し、マレーシアにも生産工場を設立。
Suntech Powerは、本国中国のほか、ドイツ、日本、アメリカでの生産に着手。
First Solarは、本国アメリカのほか、ドイツ、マレーシア、フランス、ベトナムに
工場を開設し、現在は中国での生産も視野に入れています。

こうして、新興3社は、ヨーロッパ内での生産を大幅に拡大し、
急上昇したヨーロッパの太陽光市場を制していきました。

■ シャープの敗因

では、なぜシャープは、ヨーロッパ市場で存在感を出せなかったのでしょうか。
原因は、コストと資金力でした。

コスト

シャープは、新興3社に比べ、製造原価が高く、価格競争力がありませんでした。

理由のひとつめは、「過度な技術信仰」です。
シャープは世界市場でのシェアを現在落としてしまいましたが、
それでもシャープの太陽電池は、エネルギー効率の面で「世界一」の技術と評されています。
シャープは古くから、太陽電池の普及に欠かせない「エネルギー効率」の向上
に力を入れ、シリコン型という太陽電池の方式にこだわってきました。
シリコン型は、数ある他の方式の中でも、最も高いエネルギー効率を誇ったからです。

しかし、シリコン型には欠点もあります。
原材料のシリコンが高価なため、高コストだということです。
太陽光の力を電力に変える力は高いけれども、
その電力を発電させるためのコストが高い。
さらに、世界的な太陽電池産業の盛り上がりのなかで、シリコン価格は高騰。
シャープの製造原価はさらに上がっていってしまいました。

一方で、新興3社は、原価の削減に成功していきました。


出所:仏Yole Developpement

このグラフを見ていただくと、アメリカやドイツでは、CIGS型、CdTe型の比率が
比較的多いことがわかります。
このCIGS型、CdTe型は、薄膜型方式と呼ばれる新しい技術で、
エネルギー効率の面ではシリコン型に敵いませんが、
原材料が安く、製造原価を大きくおさえることができます。
First Solarは、このような薄膜型で市場に勝負をかけていきました。

一方、Suntech Powerは、シャープと同様、シリコン型を主力商品としましたが、
中国という地の利を生かし、人件費等を大幅に抑え、コスト圧縮に成功していました。
そして、Q-Cellsも、シリコン型を主力としましたが、
世界一市場となったドイツの政府からの後押しや、マレーシアでの生産によるコスト
削減努力などから、シェアを伸ばしていきました。

そして、急成長したヨーロッパ市場。
EU諸国は、再生可能エネルギーに力を入れる一方で、財政難にも苦しんでいました。
政府にとって重要なのは、製品の技術レベルではなく、導入しやすい価格の安さ。
シャープの高単価高品質製品より、新興3社の商品のほうが魅力的だったのです。

この価格競争にさらに追い打ちをかけたのが、「規模の経済」です。
太陽電池は、大量生産型の商品です。
大量に生産すればするほど、規模の経済が働き、製品単価を下げていくことができます。
ヨーロッパで大量の受注を獲得した新興3社は、さらに製品単価を下げることに成功し、
新たな受注を獲得していったのです。

資金力

コスト競争力には、それぞれの企業の資金力が大きく左右しました。
なぜなら、生産量を拡大させればさせるほど、規模の経済が働き、
さらには、高騰する原材料の長期安定供給契約を可能とし、
製造原価を抑制させることができるからです。

Q-Cellsは2005年にフランクフルト証券取引所に上場して資金を集め、
First Solarも2006年にNASDAQに上場し、シリコンバレーの
ベンチャー・キャピタルから多額の資金を集めます。
一方、Suntech Powerは、中国政府の各機関から多額の低金利融資を獲得。
こうして、3社は短期間で大きな資金力を手にすることに成功しました。

一方で、シャープは、新興3社と異なり、太陽電池専業ではありません。
大きな投資計画を行うためには、他の事業とも含めた中での経営判断が
必要となり、意思決定は遅れ、投下資金は3社に比べ見劣りするレベルでした。
資金力でも新興3社に敗れてしまったのです。

こうして、老舗メーカー・シャープは、
急成長したヨーロッパ市場において、新興3社にコスト競争で敗れ、首位から転落。
後塵を拝していきました。

■ 今後の行方

もちろん、シャープも形成を逆転させるため、新たな施策を始めています。
それが「薄膜型の増強」と「生産量の拡大」です。
2007年1月に富山県でのシリコン内製化を開始。
同年3月には奈良県の葛城工場でシリコン型の生産増強と薄膜型の生産に着手。
2010年3月には、大阪府堺市での新工場をオープンし、
2011年にはイタリアのEnel社やスイスのSTMicroelectronics社と共同で
イタリアに初の海外工場もオープンさせる予定です。

しかし、状況は依然としてシャープにとって厳しいままです。
2010年に入り、世界の導入量の1、2位となっていたドイツやスペイン、
さらにその他のEU諸国で、財政難を理由に「固定価格買取制度」の買取価格見直し
議論がスタート。価格が下がることで、導入量が一気に冷え込んできました。
シャープが、イタリアの新工場建設で見込んでいたヨーロッパへの販売に暗雲が
立ち込めています。

さらに、ヨーロッパ市場が急速に悪化する中で、世界中での生産過多が発生し、
太陽電池価格が下落。各社の利益を圧迫しはじめています。
そうした中で、新興3社も、将来性が大きい中国での生産拡大に乗り出しています。
中国では、2009年から政府の”Gold Sun”プログラムが始まり、
太陽光発電への政府の予算が多く投下される取組が開始されているためです。
一方で、シャープからはまだ中国への進出についての発表はありません。

そして、昨今の円高。日本国内での生産を重視してきたシャープにとっては、
大きな逆風です。

最先端の太陽電池技術を有するシャープ。
世界シェアを奪還するための課題は、
日本政府の太陽光発電への取組や、シリコンの安定供給契約だけでなく、
むしろ新興3社に負けない資金力の確保と意思決定スピードにありそうです。

再生可能エネルギーという分野は、
環境活動家やエコ推進者からみると、社会セクターとも位置付けられています。
しかし、実際の従事者の立場からは、激しい競争にさらされているビジネスの場です。
いかに、サステイナブルな事業体になっていけるか。
これは業界の分野を問わず、どの事業体にも必要な要素なのだと思います。