行政改革。行財政改革。構造改革。公共サービス改革。行政刷新。
過去約15年、名前を変えながらもこのテーマの必要性が叫ばれてきました。

自民党政権、民主党政権ともに、このテーマを政府の重要取組課題として位置付けましたが、
なかなかその成果は伝わってきません。

今回は、現在、政府で行われている行政改革の体制や中身を紹介するとともに、
「新しい公共」への新たな一歩を提言したいと思います。

以前このブログで、イギリス政府の事例を紹介しました。
イギリス政府が進める公共サービスの“社会企業”への委託
イギリス政府は、今後の行政や「国」のあり方として、
市民社会、より詳細にはいわゆる「ソーシャルビジネス」と協働して、
公共サービスを市民に提供していく方向への転換を発表しています。

すなわち、従来、公共サービスは、
「国や地方政府が提供する」
「国や地方政府が定めたものを、外部機関にアウトソースする」
と定義されてきたのに対し、
このイギリス政府の発表では、
「国とソーシャルビジネスが台頭に公共サービスの担い手となる」
「国はソーシャルビジネスが活躍できる環境を整える役割を担う」
と斬新な定義をしているのです。

さて、日本政府においては、どのような検討がされているのでしょうか。

具体的な政府の活動を紹介する前に、
まず、あらためて、「行政改革」という言葉を定義したいと思います。

2006年に自民党政権下で制定された「行政改革推進法」では、
行政改革は「簡素で効率的な政府を実現するための改革」と位置付けられました。
また、2009年に民主党政権下で閣議決定した「行政刷新会議の設置」においては、
行政刷新を「国民的な観点から、国の予算、制度その他国の行政全般の在り方を刷新するとと
もに、国、地方公共団体及び民間の役割の在り方の見直しを行う」ことと定義されています。

正直、どちらの定義も非常にぼんやりとしています。
そこで、ここでは、行政改革の定義を、
「国や地方政府が行うべき事業やサービスを再定義し、さらに公共サービスを提供するための
手法として、国、地方政府、民間の役割を再設計する改革」としたいと思います。

現在、日本政府は、行政改革に関する検討を複数の別々の場で実施しています。

・内閣府行政刷新会議 (事業仕訳・規制緩和改革)
・内閣府「新しい公共」推進会議(ソーシャルビジネス・NPOの環境整備)
・内閣府地域主権戦略会議(国から地方への権限移譲)
・内閣官房国家戦略室(国がやるべきことの整理)

※自民党政権で発足した内閣行政改革推進本部は一定の役割を終えて2011年6月に廃止
 され、現在は後継組織「内閣官房行政改革推進室」にて、独立行政法人の見直し業務や役員
 公募事務のみ実施しています。

それぞれの検討ボードには、担当の大臣がいます。
・行政刷新会議:     蓮舫 内閣府特命担当大臣(行政刷新担当)
・「新しい公共」推進会議:蓮舫 内閣府特命担当大臣(「新しい公共」担当)
・地域主権戦略会議:   川端達夫 内閣府特命担当大臣(地域主権推進担当)
・国家戦略室:      古川元久 国家戦略担当大臣

また、いずれの検討ボードにも事務局員として官僚が配置されています。
基本的な活動は、方針を定めるために、外部委員を含めた検討会議を定期的に開催し、
政府方針や骨格となる法律の制定を一定のゴールとしています。
そのための各府省との折衝、定めた事項のモニタリングも実施しています。

続いて、それぞれの会議体の中身を見ていきたいと思います。

〇 行政刷新会議

行政刷新会議の主な仕事のひとつは、政府歳出の削減です。
「事業仕分け」という名前で、テレビでも大きく報道されました。

行政刷新会議の議員
 議長: 野田 佳彦(内閣総理大臣)
 副議長: 蓮舫 (内閣府特命担当大臣/行政刷新)
 議員: 藤村 修(内閣官房長官)
    古川 元久(国家戦略担当大臣) 
    安住 淳(財務大臣)
    川端 達夫(総務大臣)
    葛西 敬之(東海旅客鉄道株式会社代表取締役会長)
    加藤 秀樹(行政刷新会議事務局長)
    片山 善博(慶應義塾大学法学部教授)
    草野 忠義(公益財団法人連合総合生活開発研究所理事長)
    松井 孝典(千葉工業大学惑星探査研究センター所長)
    茂木 友三郎(キッコーマン株式会社取締役名誉会長 取締役会議長)
    吉川 廣和(DOWAホールディングス株式会社相談役)

民主党政権下で始まった行政刷新会議(事業仕分け)は、
2009年秋の第1弾、2010年春の第2弾、2010年秋の第3弾の3回行われ、
この過程で、政府の一般会計および特別会計の無駄が洗い出されました。
成果は、合計で約1兆円の事業削減(歳出削減)の方向性が出されたことです。

しかしながら、日本全体の政府負債が1000兆円を超えている現在、
1兆円の事業削減では埒があきません。
また、事業削減の方向性が出された政府事業の中には、
所管官庁が事業削減に抵抗しているものも多数あります。(内容はコチラ

また、行政刷新会議の組織下には、「規制・制度改革に関する分科会」があり、
ここでは、政府の「権限」をスリム化し、自由市場によるイノベーションを期待する検討が
なされています。

規制・制度改革に関する分科会の構成員(2010年10月時点)
 分科会長:平野達男(内閣府副大臣/規制改革担当)
 分科会長代理:園田康博(内閣府大臣政務官/規制改革担当)
 分科会長代理:岡素之(住友商事株式会社代表取締役会長)
 メンバー  :安念潤司(中央大学法科大学院教授)
         大上二三雄(エム・アイ・コンサルティンググループ株式会社代表取締役)
         大室康一(三井不動産株式会社代表取締役副社長)
         翁百合(株式会社日本総合研究所理事)
         黒岩祐治(ジャーナリスト・国際医療福祉大学大学院教授)
         中条潮(慶應義塾大学商学部教授)
         土屋了介(財団法人癌研究会顧問)
         新浪剛史(株式会社ローソン代表取締役社長CEO)
         星野佳路(株式会社星野リゾート代表取締役社長)
         若田部昌澄(早稲田大学政治経済学術院教授)
         渡邊佳英(日本商工会議所特別顧問、東京商工会議所副会頭、
              大崎電気工業株式会社会長)

規制緩和の重点は、「グリーンイノベーション」「ライフイノベーション」
「農林・地域活性化」「アジア経済戦略、金融」という4テーマに置かれています。

東日本大震災の前の2011年1月26日に行われた最後の会議では、
現在検討されている規制緩和ポイントのレビューが行われました。

レビューには、それぞれの規制緩和に関する所管省庁の反論が記されています。
そして、所管省庁は、「国の管理下から離れると、行政庁の監督が行き届かなくなる。
公益性が損なわれる」という理由で、基本的に規制緩和に反対する姿勢を示しています。

所管省庁が規制緩和に反対する姿はある意味当然だといえます。
規制をするそれなりの理由がなければ、そもそも規制をされていないからです。
市場の公平性を担保するのが政府の役割だとすれば、
規制することは政府の当然の仕事だといえます。

この状況下で、規制緩和を議論するためには、
「国や地方政府として最低限担保しなければならないことは何か?」
「何を得るために、何を犠牲にするのか?」
という規制の有無を判断するための大きな判断軸が必要となります。

このように行政刷新会議は行政改革のための十分な成果を挙げられずにいます。
その原因の一つは、
「大きな判断軸をもって個別案件の必要性を判断する」という方法をとるための、
「大きな判断軸」を持っていないという点です。
この大きな判断軸の不在という課題は、国家戦略室の議論と絡んできますので、
そちらのコーナーで解説していきます。

そして、行政刷新介護が空回りしているもう一つの原因は、
「公益性のある事業は政府が担当する」という姿勢を所管省庁が貫いている点です。
公益性のある事業を政府だけでなく、
ソーシャルビジネス・NPOとともに提供していくというイギリス政府のような考え方は、
「新しい公共」推進会議にて検討されていますので、
この2つ目の原因については、「新しい公共」推進会議のコーナーにて、
より深くみていきたいと思います。
 

〇 「新しい公共」推進会議

この会議体の趣旨は、
「官だけでなく、市民、NPO、企業などが積極的に公共的な財・サービスの提供主体となり、
身近な分野において、共助の精神で活動する「新しい公共」の推進について、「新しい公共」
を支える多様な担い手が検討を行う場」
となっています。

「新しい公共」推進会議構成員
 委員: 秋山をね(株式会社インテグレックス代表取締役社長)
     浅岡美恵(気候ネットワーク代表・弁護士)
     小澤浩子(東京都赤羽消防団副団長)
     加藤好一(生活クラブ事業連合生活協同組合連合会会長)
     金子郁容(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)
     兼間道子(特定非営利活動法人日本ケアシステム協会会長・
          新しい公共をつくる市民キャビネット共同代表)
     北城恪太郎(日本アイ・ビー・エム株式会社最高顧問)
     黒田かをり(CSOネットワーク 共同事業責任者)
     佐野章二(ビッグイシュー日本代表)
     白井智子(特定非営利活動法人トイボックス代表理事)
     高橋公(特定非営利活動法人ふるさと回帰支援センター専務理事・事務局長)
     坪郷實(早稲田大学社会科学総合学術院教授)
     寺脇研(京都造形芸術大学芸術学部教授)
     中竹竜二(財団法人ラグビーフットボール協会コーチングディレクター)
     新浪剛史(株式会社ローソン代表取締役社長CEO)
     西田厚聰(株式会社東芝取締役会長)
     早瀬昇(社会福祉法人大阪ボランティア協会常務理事・
         特定非営利活動法人日本NPOセンター副代表理事)
     藤岡喜美子(特定非営利活動法人市民フォーラム21・NPOセンター事務局長・
           一般社団法人日本サードセクター経営者協会執行理事兼事務局長)
     向田映子(女性・市民コミュニティバンク理事長)
     山口誠史(特定非営利活動法人国際協力NGOセンター事務局長・理事)

2011年7月22日に開催された最後の会合では、
新たな公共サービスの担い手となるNPOの財務基盤改善のための取組や
NPOのキャパシティビルティングのための政府事業がレビューされました。

財務基盤改善のための柱としてニュース等で報道されたのが、
「特定非営利活動促進法(通称NPO法)の改正」です。
改正のポイントは、寄付に対して税制優遇を受けられる「認定NPO法人」の認定要件緩和です。
従来、「寄附金が総収入に占める割合が1/5以上」とされたいた要件の他に、
「各事業年度に3,000円以上の寄附を平均100人以上から受けること」又は
「事務所所在地の自治体の条例による個別指定を受けること」でも、
認定が受けられるようになりました。

また、同日の会合では、
政府と市民セクターとの関係のあり方等に関する報告」が発表され、
「新たな公共」についての重要な骨子となる政府とNPOの関係のあり方についての検討報告も
なされました。

しかしながら、この「新たな公共」推進会議も大きな課題をかかえています。
それは、「新たな公共」の推進の意味合いが、「NPO活動の普及促進」にとどまり、
「国の役割を縮小し、公共サービスの担い手を民間に移す」という行政改革の側面が、
ほとんど検討から抜け落ちているという点です。

例えば、目玉施策であった認定NPO法人の要件緩和。
認定されたNPOは、政府にかわり公共サービスを担っていくことが期待されていそうですが、
政府はこの要件緩和による財源の移行(NPOの税額控除)の規模を
たったの3000万円と見積もっています。(出所はコチラ
これでは行政改革としては大きな成果とはなりません。

また、キャパシティビルディングの分野においても、
特定事業への補助金支給がメインとなっており、
結果的に、行政のスリム化ではなく政府歳出の拡大を招いています。
例えば、この会議体のもうひとつの目玉施策であり、予算87.5億円がついた
「新しい公共支援事業」では、モデル事業の推進という名のもとに、
予算が各都道府県にばらまかれています。
確かにこの予算は、将来の行政スリム化のための先行投資だともいえます。
しかしながら、この投資が生む将来効果については明らかにされていません。

行政改革として、「新しい公共」をとらえていくためには、
「新たな公共」がどのような未来を想像しているのかを具体的にイメージすることが重要です。

政府の歳出規模はいくらぐらいか。国と地方と民間の役割分担は何か。
どのように市民は声を民間の公共サービス担い手に反映していくのか。
サービスの公平性・平等性はどのように担保していけるのか。
「新たな公共」時代のナショナル・ミニマムは何か。

これらの将来ゴールに対するイメージが不明確な状況では、
有効な先行投資のあり方は意思決定できませんし、
官庁側もNPOや他のプレーヤーを信頼して規制緩和や事業廃止を意思決定できません。
 

〇 地域主権戦略会議

2010年6月に閣議決定された「地域主権戦略大綱」。
その中で、地域主権改革の意義は、
「国と地方公共団体の関係を、国が地方に優越する上下の関係から、対等の立場で対話のでき
る新たなパートナーシップの関係へと根本的に転換し、国民が、地域の住民として、自らの暮
らす地域の在り方について自ら考え、主体的に行動し、その行動と選択に責任を負うという住
民主体の発想に基づいて、改革を推進していかなければならない。」
と謳われています。

この会議体では、国から地方への権限移譲、財源移譲、国と地方の協議の場の制度化、
国の出先機関の原則廃止などが具体的に検討され、検討スケジュールも組まれています。
 
地域主権戦略会議の構成員(2011年7月7日時点)
 議長:菅直人(内閣総理大臣)
 副議長:片山善博(内閣府特命担当大臣/地域主権推進)
 構成員:野田佳彦(財務大臣)
     枝野幸男(内閣官房長官)
     玄葉光一郎(国家戦略担当大臣)
     上田清司(埼玉県知事)
     北川正恭(早稲田大学大学院公共経営研究科教授)
     北橋健治(北九州市長)
     小早川光郎(成蹊大学法科大学院教授)
     神野直彦(東京大学名誉教授)
     橋下徹(大阪府知事)
     前田正子(甲南大学マネジメント創造学部教授)
     盛泰子(伊万里市議会議員)
     渡邊廣吉(聖籠町長)

しかしながら、やはりこの地域主権戦略会議にも大きな課題があります。
それは、議論の内容が、国から地方への権限移譲にのみ焦点があてられており、
行政改革にとって不可欠な「行政のスリム化」の方向性が不明確である点です。

例えば、地域主権戦略大綱の中では、財源について、
「(財源の取扱い)事務・権限の地方自治体への移譲及び国から地方自治体への人員の移管等
に際しては、改革の理念に沿って、それに伴う財源を確保することとし必要な措置を講ずる。」
とだけ述べており、具体的な方策は示されていません。

一方で、昨今の景気後退や東日本大震災の影響を受け、
地方財政の国庫依存度は高まるばかりです。
本格的な地方主権改革のためには、
国と地方との歳出総額削減の検討、国の役割の特定という
大きなプロセスが必要です。
 

〇 国家戦略室

民主党政権の肝入りとして登場した「国家戦略室」は。
国家の長期的な役割を定めるために設置されました。
すなわち、行政刷新会議、「新たな公共」推進会議、地方主権戦略会議のいずれにおいても
課題となっている「国家の長期的な役割・ビジョン」を定める役割をになっています。

当初は、内閣官房に「国家戦略局」を設置するまでの時限的な「国家戦略室」だったのですが、
局化のための法案審議がとりやめになり、引き続き「国家戦略室」として存続しています。
そのため、国家の長期的なビジョンづくりは、国家戦略局が誕生するまでお預けになっている
と思っている方もいるかもしれませんが、
実は、国家の長期的役割や重要政策は、なんと2010年6月にすでに設定されています。
新成長戦略 〜「元気な日本」復活のシナリオ〜

この新成長戦略は、21の国家戦略プロジェクトが指定し、
それぞれのプロジェクトについて2020年時点の到達ゴールが設定されています。
到達ゴールは、数値目標を持って設定されており、比較的わかりやすい内容です。

また、2010年9月には「新成長戦略実現会議」が設置され、
新成長戦略実現に向けての短期目標設定や進捗確認がなされています。

新成長戦略実現会議の委員(2011年8月3日時点)
 議長:菅直人(内閣総理大臣)
 副議長:枝野幸男(内閣官房長官)
     玄葉光一郎(国家戦略担当大臣兼内閣府特命担当大臣)
     海江田万里(経済産業大臣)
 委員:野田佳彦(財務大臣)
    内閣総理大臣が指名する大臣
    白川方明(日本銀行総裁)
    伊藤元重(東京大学大学院経済学研究科教授)
    岡村正(日本商工会議所会頭)
    河野栄子(DIC株式会社社外取締役)
    古賀伸明(日本労働組合総連合会会長)
    小宮山宏(三菱総合研究所理事長)
    桜井正光(経済同友会代表幹事)
    清家篤(慶応義塾塾長)
    宮本太郎(北海道大学大学院法学研究科教授)
    米倉弘昌(日本経済団体連合会会長)

しかしながら、「行政改革」の要となるはずの政府の役割を定めた新成長戦略は、
大きな欠陥をもっています。

それは、長期的なゴールが定められている一方で、
その実現ために必要な予算が明らかでない点です。

企業に例えるならば、10か年戦略の中に到達すべき事業イメージがあれども、
そのためのコスト・投資計画、および利益計画がないということになります。
それでは、せっかく定めた戦略を推進する間に倒産してしまうかもしれませんし、
様々な事業課題の中で、投資対効果を鑑みた優先順位づけもできません。

この「予算に関する記述がない」長期目標では、
将来の必要歳入・歳出規模に関する見通しが立たないため、
税改革議論も、歳出削減の検討も、規制改革の検討もできません。
さらに、どのぐらい公共サービスを効率化する必要があるかも不明瞭なため、
国と地方と民間の役割分担の設計もできません。

結果として、この「新成長戦略」は、
行政改革を推進するための重要な機能を果たしていないことになります。

逆説的に、もし「新成長戦略」が明確な財政計画をもっている場合を、
考えてみましょう。

明確な財政計画をもった「新成長戦略」があれば、
国家(政府)が果たすべき役割とそれが実現された場合の財政インパクトがわかり、
同時に、非重要政策項目および削るべき予算額が明らかになります。

その結果、行政刷新会議において、非重要政策項目と削るべき予算額を判断軸とし、
大胆な事業仕分けと規制緩和を実施することができます。
同時に、地方主権戦略会議においても、地方分権の中で実現すべきコスト削減、
行政サービスの効率化目標を明確に定めることができます。
さらに、政府が事業撤退したサービスを民間が担っていくために必要な措置や基盤整備内容が
同時に明らかになるため、「新しい公共」推進会議での検討課題も明確となり、
市民社会も「今後何を自分たちで担う必要があるのか」を認識し、
NPOやソーシャルビジネスの活動も活発化していきます。

イギリス政府は、歳出削減の必要性を前に、「新しい公共」の概念をいち早く確立しました。
一方で、日本政府は、歳出削減の必要性に苛まれながらも、
従来公共サービスを担ってきた所管官庁が「新しい公共」の概念を信頼しきれず、
新たな公共サービスの担い手に役割を受け渡していくことに躊躇しています。
所管官庁の立場からすると、自らの権益や人事的利益を冒した上に、
維持してきた公共サービスを質の面でもリスクに追いやることはしたくないはずです。

しかしながら、日本政府の歳出削減の必要性は待ったないところまできています。
所管官庁に対して「事業縮小」を説得力をもって交渉していくためには、
政府の長期的ゴール(財政計画含む)を政治的リーダーシップをもって設定したうえで、
「何が議論の余地なく必要なのか」を所管官庁に示すプロセスが欠かせません。

こうした将来の到達ゴールイメージを明確にするバックキャスティングの取組が、
日本の行政改革、「新たな公共」の推進のために有効に機能するのではないでしょうか。

震災直後から、震災対応の取組として、
「短期的な復旧だけでなく、中長期的な復興プランが必要だ」
という声が政府をはじめ、様々な機関から発信されました。

この流れで、中長期的な復興プランを検討するために、
政府内に設置された会議体が「東日本大震災復興会議」。
6月24日に公布・施行された東日本大震災復興対策基本法(以下、復興基本法)の中にも
設置根拠・権限等が定められ、今では法的機関となっています。

内閣官房は、この東日本大震災復興構想会議の役割を以下と定めています。
※出所はコチラ

未曾有の被害をもたらした東日本大震災からの復興に当たっては、被災者、被
災地の住民のみならず、今を生きる国民全体が相互扶助と連帯の下でそれぞ
れの役割を担っていくことが必要不可欠であるとともに、復旧の段階から、
単なる復旧ではなく、未来に向けた創造的復興を目指していくことが重要で
ある。このため、被災地の住民に未来への明るい希望と勇気を与えるととも
に、国民全体が共有でき、豊かで活力ある日本の再生につながる復興構想を
早期に取りまとめることが求められている。
このため、有識者からなる東日本大震災復興構想会議(以下「会議」という
。)を開催し、復興に向けた指針策定のための復興構想について幅広く議論
を行うこととし、会議の議論の結果を、復興に関する指針等に反映させるも
のとする。

そして、ここで議論された内容は、
最終的に東日本復興構想会議本部長である内閣総理大臣に建議され、
その後継続的に必要に応じて意見を述べていくことが、
復興基本法の中で定められています。

多くの人が日本の将来ビジョンに関心を寄せる中、
この東日本大震災復興構想会議の議論の動向が注目されていますが、
実際には、同会議は基本法制定の翌日6月25日に
実質的にその検討を終了しています。
それは、4月14日に活動を始めた同会議は、
6月25日にすでに最終的な建議を菅直人内閣総理大臣に提出しているためです。
※具体的な活動スケジュールはコチラから確認できます。

日本の将来ビジョンの指針をまとめた、
東日本大震災復興構想会議の建議の内容は、
コチラから閲覧することができます。

内容は全84ページ。含まれているテーマは、

〇地理的・工学的な将来の防災対策計画およびまちづくり
〇コミュニティ再建のための復興・合意形成プロセス
〇地域の社会機能再建のための教育・雇用・医療体制整備
〇地域の経済活動再建のための産業復興方針
〇地域の未来を見据えたエネルギー・交通整備
〇原子力災害からの回復のための中期的方針
〇財源

です。

この中で、特に評価できる点は、
将来の災害発生に備えた「立地計画」や「インフラ整備計画」が
比較的わかりやすく具体的に書かれていることです。
このような青写真があることで、自治体が新たな区画計画を考える際に、
方向性を与えてくれます。

一方で、評価できない点として挙げられるのは、
「経済方針」「財源」の部分です。

例えば、未来の持続可能な地域活動のために必要な経済システムの確立
について、「資金調達支援」「連携促進」「低コスト化」「高付加価値化」
など抽象的な言葉が目立ち、具体性が欠けています。
国・地方自治体の双方で財源が枯渇する中、
自立した経済システムを確立させる必要がある状況の中で、
具体的に何をどう変えるべきかというところには
残念ながら、触れられていません。

これについて、
産業界を代表して同会議に参加していた中鉢良治ソニー代表執行役副会長
も、最終会合の締めくくり発言の中で、以下のように問題表明をしています。

※出所はコチラ

私は産業界に身を置く者でございますけれども、率直に申し上げまして、
なかなか産業界の現実を理解していただけなかったのではないかと感じ
ております。特にグローバル競争にさらされている企業にとりましては、
大震災以前から国内のものづくりにつきまして、日々悩みながら経営を
しておりました。立地補助金等のインセンティブの有効性について、ま
た再生可能エネルギーへの過度な期待に対する戒めめいた意見をさせて
いただいたのは、産業界の現状を少しでも理解してもらいたいがためで
ございました。

また、実行のために不可欠な財源。
建議の中では「将来の世代に負担を先送りしないように増税しよう」と
謳っていますが、具体的な増税計画やそのプロセスについては、
何も指針を提示してくれていません。

最終の会議の場でも、議員から
「建議の内容は二次補正予算・三次補正予算に反映されていくだろう」
との発言がありましたが、
今のところ補正予算の中に、
今回の建議で示された内容が盛り込まれていく気配はありません。

そうした中、政府は8月15日に、
政策推進の全体像」という政府運営方針を閣議決定しました。
この中でも、財源の問題、経済成長戦略の問題は大きく扱われています。

復興の中長期計画を定めるために設置された東日本大震災復興構想会議。
しかしながら、確実に政府の活動として実施していくための、
経済・財政的な肉付けまではできず、建議の内容は宙に浮いたままとなっています。

日本に必要とされる「国家のかたち」を確実に実現していくためには、
再度、経済・財政問題にフォーカスした東日本大震災復興構想会議の検討部会を設置し、
焦点を絞った検討をしてみると良いのではないかと考えます。