東日本大震災後に、再生可能エネルギーに対する世論や政治機運が、一気に高まりました。

その後、これまで電気行政を管轄してきた経済産業省において、
「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」が計画され、衆参両議院で可決され、
再生可能エネルギーに対する投資・事業面での環境も改善されました。

では、実際に、震災後に、
再生可能エネルギー、特に、太陽光発電、風力発電、地熱発電は、
どのように進展してきているでしょうか。
今日は、そのあたりをまとめました。

■ 太陽光発電

震災後、一般電気事業者10社(北海道電力、東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、
関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力)は、
太陽光発電の運転を開始したり、新たな建設計画を発表したりしました。

東北電力:
八戸太陽光発電所(青森県八戸市)  1.5MW [2011/12/20 運転開始]
仙台太陽光発電所(宮城県宮城郡)  2MW [2012/5/25 運転開始]
原町太陽光発電所(福島県南相馬市) 1MW [2015年度運転開始予定]

東京電力:
浮島太陽光発電所(神奈川県川崎市) 7MW [2011/8/10 運転開始]
扇島太陽光発電所(神奈川県川崎市) 13MW [2011/12/19 運転開始]
米倉山太陽光発電所(山梨県甲府市) 10MW [2012/1/27 運転開始]

中部電力:
メガソーラーたけとよ(愛知県知多郡)7.5MW [2011/10/31 運転開始]
メガソーラーしみず(静岡県静岡市) 8MW [2014年度運転開始予定]

北陸電力:
三国太陽光発電所(福井県坂井市)  1MW [2012年9月運転開始予定]
珠洲太陽光発電所(石川県珠洲市)  1MW [2012年11月運転開始予定]

関西電力:
堺太陽光発電所(大阪府堺市)    10MW [2011/9/7 運転開始]

中国電力:
福山太陽光発電所(広島県福山市)  3MW [2011/12 運転開始]

上記のように、震災後、54MW分の太陽光発電所が運転を開始し、
11MW分が今後の運転開始に向けて、建設計画が進行しています。

しかしながら、これらの太陽光発電所は、震災後に計画されたものではなく、
震災前に政府主導で進められた「エネルギー大綱」によって、計画されたものです。
震災後の再生可能エネルギーの盛り上がりによるものではありません。
これら電力会社から、震災後に、新たな大規模太陽光発電所の建設計画は発表されていません。

一方で、震災後に、太陽光発電所建設を発表したのが、ソフトバンクの孫正義社長が主導する、
SBエナジー社です。

ソフトバンク京都ソーラーパーク(京都府京都市) 4.2MW [2012/7/1 運転開始]
ソフトバンク榛東ソーラーパーク(群馬県北群馬郡)2.1MW [2012/7/1 運転開始]
ソフトバンク徳島ソーラーパーク(徳島県板野郡) 5.6MW [近年中に運転開始予定]
ソフトバンク矢板ソーラーパーク(栃木県矢板市) 2MW [近年中に運転開始予定]

また、2012年7月1日に、SBエナジーは、
北海道苫小牧市で111MW、鳥取県米子市で39.5MW、長崎県長崎市で2.5MW、
熊本県で14MWの太陽光発電所の建設計画を発表しました。

SBエナジー社は、上記を含め、全国で合計200MWの太陽光発電所の計画を検討しています。

また、新たなプレーヤーとして登場したのが、
JA(全国農業共同組合連合会)が三菱商事と合弁でつくる「JAMCソーラーエナジー合同会社」です。
大型の畜舎や選果場、物流関連施設など400~600か所を対象に、主に屋根の上に太陽光パネルを設置する
という計画で、2014年度末までに合計で200MWの発電を達成させる計画です。

また、ソフトバンク京都ソーラーパークでの、太陽光発電モジュール納品と施行を担当した
京セラも、東京センチュリーリースと合弁で「京セラTCLソーラー合同会社」を2012年7月設立し、
今後3年間で合計60~70MWの太陽光発電所を稼働させる計画を発表しています。
すでに、大分県、香川県、福岡県、山口県で合計9か所、発電能力で16MWの建設計画が内定。
2012年度中に合計15~20か所で30~35MWの太陽光発電所を建設する見込みとなっています。
また、京セラ単独でも、鹿児島県で国内最大の発電能力をもつ70MWの太陽光発電所を2012年9月から
建設を開始することとなっています。

その他、長崎県松浦市で、市主導でメガソーラーの建設(1.2MW)が決まるなど、
「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」のもとで、地方自治体が新たな収入源を探る
動きも出て来ています。

一方で、発電事業者ではなく、住宅での太陽光発電も2011年度には大きく進みました。
太陽光発電協会の調べでは、
2011年度に、発電事業者で53.6MWが新たに運転を開始したのに比べ、
住宅用では1205.9MWの太陽光発電が開始されました。

■ 風力発電

風力発電は、太陽光発電よりも発電コストが低く、世界で大きな注目を集めていますが、
震災後の日本の風力発電の伸び率はあまり芳しくはありません。

上記は、日本風力発電協会がまとめているデータです。
2011年度は、単年度の新規導入量が85MWと低迷し、過去に比べ新規導入が著しく落ち込みました。

電力界社別に見ると、東北電力と九州電力が、累積の導入量では数が多いことがわかります。
最近では、北陸電力や四国電力、中国電力が、
関西電力圏内の電力不足を補うための送電を強化しており(風力発電系統連携)、
その手段として、風力発電を300MW~600MW強化する計画が進行しています。

メーカー別では、世界での風力発電のビッグプレーヤーである、
Vestas、GEの2社が、日本国内勢を抑え、日本国内の風力発電を牽引しています。

一方で、世界各国で注目を集めている洋上風力発電に関する大規模実証実験が、
日本でも始まろうとしています。
環境省、NEDO、及び資源エネルギー庁の国家プロジェクトとして、
着床式あるいは浮体式の洋上風力発電に係る実証研究計画が次々と始まっていきます。

しかしながら、まだまだ諸外国の洋上風力に比べ、実証実験レベルに留まっており、
大きな発電力をもたらすまでには、まだまだ時間がかかりそうです。
また、表の中で、国が管轄するプロジェクトは、全て日本のメーカーが受託しており、
国産の風力発電に対するR&D強化および、低迷する日本企業への投資支援の様子も伺えます。

洋上風力発電については、国土交通省海事局も、2012年8月1日に、
浮体式洋上風力発電施設の建築基準法適用除外を発表し、規制が緩和されたことで、
開発に対する環境面での整備は一部進みました。

また、太陽光発電に力を入れるSBエナジー社も、2012年7月1日、
島根県で48MWの風力発電所建設計画も発表しています。

このように、風力発電分野では、電力会社による推進が一部進むものの、
住宅用も進まない中、政府主導での研究開発色が強くなっています。

■ 地熱発電

地熱発電は、発電コストが太陽光、風力に比べても低く、期待が集まっていますが、
太陽光、風力に比べ、発電所の建設が大規模となることから、
技術面、資金面で開発着手までに多大な時間を要するため、
震災後の新規発電所はまだひとつもありません。

さらに、新規発電所の運転開始までには10年以上要すると言われており、
新たな発電所はまだまだ遠い先の話です。

建設開始の大きなハードルとなっているのが、温泉地への影響です。
環境省は国立・国定公園内の地熱発電開発において、
環境面を配慮した一定条件を満たせば特別地域内での「垂直掘り」を認める
規制緩和策を3月に決定ましたが、
その条件を満たすためには、長期的なアセスメントが欠かせず、
そのアセスメントに10年ほどがかかると言われています。

そんな中、直接、地下の熱水を吸い上げない「バイナリー発電」の分野では、
早期に検討が進んでおり、
福島県の磐梯朝日国立公園の特別地域内にある土湯温泉(福島市)では、
温泉の熱を使った「バイナリー発電」の施設が2013年度中に稼働する見通しとなっています。
しかし、発電出力は0.5MWと小規模です。

地熱発電は、やっと本格的に検討が始まったという段階です。

震災を機に、日本でも再生可能エネルギーに対する機運が非常に高まっています。
個人的な見解としては、すでに着工が進んでいる太陽光発電もさることながら、
潜在的な発電コストの低さで考えると、
洋上風力発電および地熱発電が、将来の日本の発電の柱になると考えています。

この洋上風力発電および地熱発電は、まだまだ実証事件や検討という段階で、
大きな躍進はこれからです。
政府は国産の技術力強化に余念がなさそうという状況ですが、
海外の技術活用も視野にいれ、スピード重視の稼働を早めてほしいと思っています。

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前回、地熱発電の仕組みを紹介しました。
地熱発電所とは何か?~仕組みと可能性~

地熱発電は、地球が発する熱を利用した環境に優しい発電方法です。

しかしながら、太陽光や風力発電が昨今注目される中、
地熱発電は、ここ近年日本で進展はしていません。

日本の地熱発電の推移
※出所:資源エネルギー庁

日本で初めて地熱発電所が実用化されたのは1966年。
岩手県八幡平市の松川地熱発電所が日本第1号です。
最大出力量は23,500kw。
現在も稼働している現役の発電所です。

もともとは、日本重化学工業社が建設・所有していましたが、
現在は、東北電力のグループ会社、東北水力地熱が所有しています。

その後、東北地方と九州地方を中心に、合計18か所に地熱発電所が建設されます。


※図:国立環境研究所

そして、最後に建設された地熱発電所は1999年に運転を開始した八丈島地熱発電所。
現在まで、東京電力が保有する最初にして唯一の地熱発電所です。
最大出力は3,300kwと小規模ですが、八丈島で消費される電力の1/3を賄っています。

この八丈島での運転開始から今日まで12年間、日本で地熱発電所は建設されていません。
その背景については、後日、解説していきたいと思います。

さて、現在、全国18の地熱発電所で生産されている電力量は、年間2,750GWh。
数が大きいように言えますが、日本の総電力消費量1,083,142GWh(2008年)の、
わずか0.025%を占めているにすぎません。

この日本の状況を他の国と比較してみましょう。

〇 日本と世界各国の地熱発電量

世界の地熱発電量推移

世界の地熱発電量推移


※出所:EIA

〇 地熱発電各国における地熱発電の割合

地熱発電は世界全体の発電量の0.3%(2008年)。
ちなみに、再生可能エネルギーの分野では、
水力16.2%、風力1.1%、バイオマス1.0%、太陽光0.06%、
バイオマス0.04%という状況です。


※出所:IEA

世界の地熱発電量が限られている理由のひとつに、
地熱を活用できるエリアが世界で限られているという点が挙げられます。

今日、上記の図で赤くなっているところを中心に、地熱発電が推進されています。

地熱発電の設備容量(2008年)をみても、発電量とほぼ同様の順位が得られます。


※出所:EIA

■ 世界の地熱発電大国アメリカ

世界のトップは30年前からアメリカです。
西部の火山地帯にある広大な土地を中心に、77の地熱発電所が現在稼働しています。

アメリカの地熱発電所での発電量(赤)と熱源利用量(緑)

アメリカの潜在的な地熱資源量

1970年代の石油危機を機にアメリカでは、エネルギー源の分散が図られ、
その中で注目されたもののひとつが地熱発電です。
アメリカ政府は、地熱発電の研究開発に資金を投じると同時に、
Geothermal Energy Research, Development and Demonstration (RD&D) Act
(地熱エネルギー研究開発実証法)を1974年に施行し、
巨額の資金が必要な地熱発電所建設に対する政府のローン保証プログラムを開始。
低リスクとなった地熱発電に対する電力会社等の投資が促進されていきます。

さらに、地熱発電の加速要因となったのが、バイナリーサイクル技術の誕生です。
※バイナリーサイクル技術については前回ブログを参照ください。
従来では発電に必要な熱エネルギーを持たなかったエリアでも、
地熱発電が可能となり、さらに投資が進みました。

その流れで1980年に相次いで地熱発電所が稼働を開始、一気に世界をリードしました。
しかし、1990年以降、地熱発電量は横ばいです。
原因としては、ローンプログラムの欠乏、連邦政府管理地の使用許可規制などが、
挙げられており、現在、地熱発電促進の阻害要因を取り除く検討が、
連邦政府及び州政府にて進められています。

そして、2005年に制定されたエネルギー政策法により、
地熱発電が米国政府の再生可能エネルギー生産税控除を受けられるようになったため、
米国西部の多くの市場で は現在、
地熱資源で発電される電力のコストが化石燃料による電力コストと等しくなり、。
経済情勢が追い風となり、地熱産業は急速に活性化しています。(コチラを参照)

■ 原子力発電を中止し、地熱発電に注力したフィリピン

世界の第2位の地熱発電量を誇るのがフィリピンです。
1972年に制定された地熱発電開発に関する大統領令(PD1442)で、
地熱発電事業者に対する大幅減税や減価償却期間引き伸ばし、専門家招致など、
インセンティブ施策が整備されました。

さらに、1976年に原子力発電所が着工し、1985年工事がほぼ終了したものの、
1986年に発足したアキノ政権は、同発電所の安全性および経済性を疑問視し、
運転認可が見送った結果、さらに地熱発電の重要性が増していきました。
結果、1990年代にフィリピンの地熱発電量は大きく増加しました。

フィリピンでは発電量の17.6%が地熱発電で賄われています。

現在でも政府は地熱発電をさらに推進していく姿勢を示しており、
現在の地熱発電設備容量195.8万kWhを、2013年までに313.0万kWhにまで
高める計画を掲げています。

■ 地熱発電の新たなリーダーになるインドネシア

インドネシアは、2000年代に入ってから急速に地熱発電量を増加させてきています。

インドネシアにおける地熱発電の魅力は、その資源量の豊富さです。


※出所:NEDO

インドネシアは地熱資源量において世界でダントツのトップです。
地熱発電量2位のフィリピンを大きく上回る地熱資源量を有しています。

2005年に当時のユドヨノ政権は、2025年までの地熱発電量目標を設定。
2008年時点で93.3万kWhの地熱発電設備容量を、
2025年に950.0万kWhにまで増加させるとしています。
ちなみに、福島第一原子力発電所の発電容量は約500.0万kWh。
その約2倍もの地熱発電を行うという計画です。(コチラを参照)

しかしながら、現在、この計画はスケジュールが大幅に遅れている状況です。
原因は、地熱発電への設備投資を民間設備投資に大きく依存している状況です。
政府政策の不安定性、政府からの財政支援の欠如、発電建設所投資の不確実性リスクなど
から民間企業の設備投資が思うように進んでいないことが、
インドネシアの現在の大きな課題です。

■ 急速に地熱発電の開発が進むアイスランド

アイスランドはほぼすべての全力を、再生可能エネルギーで賄っている国です。
そのうち75.5%を水力、残りの24.5%を地熱発電で調達している、地熱先進国です。

アイスランドの特異な点は、その立地にあります。
その他の地熱発電がマグマ溜りを熱エネルギーの供給源にしているのに対し、
アイスランドだけは、ホットプルームを熱供給源としています。
アイスランドは、ホットプルームの上に位置している特異な島なのです。
※マグマ溜りとホットプルームについては前回ブログをご覧ください。

そのため、アイスランドでは他のエリアより高温の熱エネルギーが得られ、
効率的な地熱発電が可能となっています。
2000年入ってから、大型の地熱発電所が次々と操業を開始し、
地熱発電の電力が急速に伸びています。

さらに、アイスランドでは地熱を発電目的だけでなく、
熱エネルギー目的でも使用しています。
具体的には、冬期の路上凍結を防ぐための路面温度上昇のための熱、
商業用・家庭用の温水生成のための熱などが挙げられます。

■ 新たな発電所建設が進まず年々発電量が衰える日本

一方、日本は1997年をピークに、年々地熱発電量が減少しています。
理由は、新たな発電所の建設が1999年以降進んでいないことと、
既存の発電所の発電量が、地下熱の低下により、落ちてきていることです。
そこで、2006年に地下熱の低下でも発電を可能にするためのバイナリーサイクル方式が、
八丁原発電所に導入されました。

それでも、日本は世界第3位の地熱資源量を誇る国です。
他の地熱資源保有国が地熱発電への投資を加速させる中、日本は出遅れています。

この日本における地熱発電はなぜ停滞しているのか。
その原因については、あらためてこのブログでお伝えしていきたいます。

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最近、日本でも地熱発電への関心が集まってきました。

もともと、火山地帯に位置する日本は、
地熱発電の可能性が高いと言われていましたが、
ここ数年は、風力発電や太陽光発電などと比べ、
あまり注目を集めてきていませんでした。

東日本大震災を機に、再生可能エネルギー促進のひとつの選択肢として、
今、地熱発電がスポットライトを浴びています。

八丁原発電所
※日本で最大の地熱発電所「八丁原発電所」

■ 地熱とは何か?

地熱発電とは、地球が地面の奥底に持っている熱エネルギー「地熱」を利用して、
発電を行う手法です。


※図:Wikipedia

地球の内側は非常に高温です。
地球の中心に最も近い内核と呼ばれる部分(地下5100km~6400km)は、
約6000度もの温度があります。
その次に中心に近い外核と呼ばれる部分「外核」(地下2900km~5100km)でも、
およそ4300度と言われています。

その外核の外側には「マントル」と呼ばれる部分があります。
このマントルは、地中約60kmから2900kmまでを占めています。
下部の2900km付近は、約3000度ほどありますが、
外側にいくにつれ温度は下がり、上部の60km付近では1000度以下にまで下がります。
地熱としては1000度もあれば十分なエネルギーが得られますが、
さすがに、このマントル上部まで掘削する技術や資金はありません。

しかしながら、マントルは、固体の岩ですが、緩やかに対流をしています。
マントルが下部から上部にかけて上昇する箇所は「ホットプルーム」と呼ばれています。
このホットプルームは、マントル下部の高温の岩盤を上に運ぶため、
ホットプルームの上にある地殻は、他よりも高温となっています。
このホットプルーム現象が、地熱発電のための大きな熱エネルギー供給源となっています。

ホットプルーム
※図:岡山大学理学部浦川研究室

しかしながら、ホットプルームは地球上でも限られた箇所にしかありません。
地熱発電のためのもう一つの重要な熱エネルギー供給源は、「マグマ溜り」です。
マグマとは、マントルの一部がなんらかの影響で高温および高圧となり、
固体であった岩盤が溶けて流体になった個所のことを指します。
そして、流体となった岩盤は、浮力の影響で上へ上へと上昇し、
地下5kmから10kmの付近で滞留して、「マグマ溜り」となります。
マグマ溜りの温度は1000度以上あると言われています。
これが地熱発電のための熱エネルギー源となります。。

■ 地熱発電とは何か?

地熱発電は、
ホットプルームやマグマ溜りが周囲の地下水層を高温化させることを利用した
発電方法です。

平たく言えば、水が高温化して発生した水蒸気のエネルギーを利用して、
タービンを回し、発電をするのが、地熱発電です。
沸騰したやかんが、やかんの蓋を持ち上げる力があることと原理は同じです。

熱水化している地下水層を、専門用語で「地熱貯留層」と呼びます。
 

■ フラッシュサイクル

まず、ベーシックな地熱発電の方法(フラッシュサイクル地熱発電)をご紹介します。

フラッシュサイクル地熱発電
※図:東北発電株式会社

まず、地下700メートルから3,000メートルくらいの深い井戸(蒸気井)を掘ります。
この蒸気井から高温化して熱水と蒸気が混ざった流体物質を取り出します。

続いて、気水分離機により、熱水と蒸気が分離されます。
抽出された蒸気は、タービンに運ばれ、タービンを回転させ、発電を行います。
残った温水は、一部、金属物などの有害物質が含まれている可能性があるため、
別の井戸(還元井)を通り、再び地中深くに戻されます。

また、タービンを回転させた後の熱い蒸気は、復水器にて冷やされて温水となり、
さらに冷却塔にて外気に来よって冷却され、同様に還元井に運ばれ、地中に戻されます。

これが地熱発電の基本的なサイクルです。
この方式は、熱水と蒸気を気水分離機によって一度だけ分離させるので、
シングルフラッシュサイクルとも呼ばれています。
日本で最も多くの地熱発電所で採用されています。
 

■ ダブルフラッシュサイクル


※図:九州電力

シングルフラッシュサイクルに対し、こちらのダブルフラッシュサイクル方式では、
熱水と蒸気を二度にわたって分離させ、より多くの蒸気を抽出することができます。

そのため、設備は複雑となり、建設コストも膨らみますが、
発電量(出力量)を向上させる効果があります。

仕組みとしては、気水分離機によって1回目の熱水・蒸気分離が行われたあとに、
残った熱水はフラッシャーと呼ばれるに送られ、
さらにそこから蒸気が抽出される(2回目)というものです。
国内で最大の地熱発電所、八丁原発電所で採用されています。
 

 

■ ドライスチーム

フラッシュサイクルが熱水と蒸気を分離させる方式であるのに対し、
このドライスチーム方式は、熱水と蒸気を分離させるステップを踏みません。
地下から取り出された蒸気がほとんど熱水を含まず、
気水分離機を使って分離をさせる必要がない場合に用いることができます。
国内初の地熱発電所、松川地熱発電所で採用されています。
 

■ バイナリーサイクル(バイナリー発電)

地下から取り出された蒸気や熱水が温度が低い場合に用いられる方式です。
温度が低い場合には、蒸気のエネルギーが小さいため、効率的にタービンを回すことができません。
そこで、蒸気エネルギーを別のエネルギーに変えるアイデアが生まれました。
それがバイナリーサイクルです。


※図:Cool.jp

バイナリーサイクルのポイントは、蒸気や熱水の力をそのままは使わない点です。
まず、地下から取り出された蒸気や熱水は、それ自体が高温であり熱をもっています。

気水分離器で蒸気と熱水に分離されたあと、熱水は予熱器に、蒸気は蒸発器に送られます。
そして、この予熱器と蒸発器により、
沸点が水よりも低いアンモニアやペンタン・フロンが温められ、蒸発させられます。
アンモニアやペンタン・フロンは沸点が低いため、水蒸気分よりも多くの気体を得られるのです。
そのため、水蒸気をそのままタービンに運ぶより、より多くのタービンを回す力が得られます。

このバイナリーサイクルは、比較的新しい技術です。
日本では八丁原発電所で試験的に運用が行われています。
試験運用にはイスラエルのオーマット社製の設備が用いられています。

さらに、バイナリーサイクルは、比較的低温の熱水でも発電可能な技術であるため、
現在、高温の温泉を施設にバイナリーサイクルの発電設備を併設させ、
発電を行うという構想(温泉発電)も練られています。
 

■ 高温岩体発電


※図:電力中央研究所

これまで説明してきたフラッシュサイクルやドライスチーム、バイナリーサイクルは、
地下から熱水や蒸気を取り出して行う発電方式です。

しかしこの方式は、地下に十分な水分が貯留されている場合には適用できますが、
地下に高温の岩盤(高温岩体)だけがあり、水分がない場合には活用できません。

それに代わって、水分がなくても地下の熱を利用してしまおうというアイデアが、
高温岩体発電です。
仕組みは、地上から高圧の水分を送り込んで岩盤を破砕し、人工的に地熱貯留層を創り出します。
さらに、気水分離後や発電後に発生する温水を、還元井を通じて再び地熱貯留水に戻し、
循環的に地下に水を溜めるシステムを作り上げるモデルです。
高温岩体発電は深度2~3km 程度、岩盤温度200~300度程度のポイントを
掘削対象としています。

この高温岩体発電の建設に際し、還元井のポイントを見極めることも大切です。
還元井された温水は、再び蒸気井へとつながるポイントに戻っていかなければなりませんし、
蒸気井に近すぎると、マグマ溜りで十分に加熱することができません。
そのため、破砕の際の振動を分析し、この人工地熱貯留層へとつながる別のひびを掘削して、
還元井を創りだすという技術が開発されています。

この高温岩体発電は国内ではまだ実用化されていません。
しかしながら、国内で実用化されると、
38GW以上(福島原子力発電所1号機~6号機までの合計が4.7GW)におよぶ資源量が
国内で利用可能と見られています。(電力中央研究会

海外では、グーグル社の社会貢献部門”Google.org”が、
高温岩体発電の研究開発に取り組む研究機関に対し、
合計1025万ドルを投資する計画を2008年に明らかにし(情報はコチラ)、
オーストラリアのジオダイナミクス社は、
南オーストラリア州北東部のクーパーベイズンで建設中の大規模な高温岩体地熱発電プラントを
進めています(2010年完成予定)。(情報はコチラ

高温岩体地熱発電は英語で、Enhanced Geothermal systems”EGS”と呼ばれています。
こちらの動画は英語ですが、とてもわかりやすくEGSを説明してくれています。

さらに、掘削が容易な高温岩体ではなく、
より高温で多くの熱エネルギーが得られるマグマ溜り付近に地熱貯留層を創りだす
という、「マグマ発電」構想も研究機関では練られています。
 

〇 地熱発電のメリット

■ CO2発出量が少ない

地熱発電とCO2排出量
※図:JOGMEC

地熱発電は他の再生可能エネルギーと比べても、CO2排出量が低い優等生です。

■ 発電コストが比較的低い


※出所:IEA

コストの面でも、他の再生可能エネルギーの中でも優等生です。
 

〇地熱発電のデメリット

■ 資源の枯渇化

まず、「いつか地熱貯留層の蒸気や熱水が枯渇してしまうのではないか?」という点です。
枯渇までいかなくても、何らかの状況により地下物質の温度や圧力が変わっても、
従来通りの発電力は期待できなくなってしまいます。
そのため、枯渇が見込まれた場合には、新たな発電所を建設する必要が出てきます。

さらに、地熱貯留層の水源を巡る温泉産業の反発という問題もあります。
地熱発電により地下の熱水や蒸気が早期に枯渇してしまうのではないかという懸念や、
地熱発電所が景観を損ね、観光地の魅力を下げてしまうのではないかという懸念が、
温泉地から実際に上がっています。

■ 費用対効果

次に、「必ず地熱貯留層を掘り当てられるか?」という問題もあります。
地熱貯留層や高温岩体は地上からは100%の確率で掘り当てることはできないため、
失敗すると膨大な費用が無駄になってしまう点です。
この不確実性も、地熱発電促進の大きな足かせとなっています。

■ 自然破壊の可能性

さらに、「自然破壊につながらないか?」という問題もあります。
国内の地熱貯留層は山岳地帯に位置しており、
エリアの大半は国立公園として保護されているエリアに該当します。
1972年に当時の通商産業省と環境庁の間で交わされた覚書により、
既設の発電所を除き、国立公園内に新たな地熱発電所を建設しないというのが
現在の政府方針となっています。
しかしながら、地熱発電の促進のため、東日本大震災後の規制緩和改革の中で、
国立公園での地熱発電建設を認める方向で政府の議論が進んでいます。

日本や世界の地熱発電の現状については、あらためて別の記事でご紹介したいと思います。

世界と日本の地熱発電の状況~日本、アメリカ、フィリピン、インドネシア、アイスランドを中心に~

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