震災直後から、震災対応の取組として、
「短期的な復旧だけでなく、中長期的な復興プランが必要だ」
という声が政府をはじめ、様々な機関から発信されました。

この流れで、中長期的な復興プランを検討するために、
政府内に設置された会議体が「東日本大震災復興会議」。
6月24日に公布・施行された東日本大震災復興対策基本法(以下、復興基本法)の中にも
設置根拠・権限等が定められ、今では法的機関となっています。

内閣官房は、この東日本大震災復興構想会議の役割を以下と定めています。
※出所はコチラ

未曾有の被害をもたらした東日本大震災からの復興に当たっては、被災者、被
災地の住民のみならず、今を生きる国民全体が相互扶助と連帯の下でそれぞ
れの役割を担っていくことが必要不可欠であるとともに、復旧の段階から、
単なる復旧ではなく、未来に向けた創造的復興を目指していくことが重要で
ある。このため、被災地の住民に未来への明るい希望と勇気を与えるととも
に、国民全体が共有でき、豊かで活力ある日本の再生につながる復興構想を
早期に取りまとめることが求められている。
このため、有識者からなる東日本大震災復興構想会議(以下「会議」という
。)を開催し、復興に向けた指針策定のための復興構想について幅広く議論
を行うこととし、会議の議論の結果を、復興に関する指針等に反映させるも
のとする。

そして、ここで議論された内容は、
最終的に東日本復興構想会議本部長である内閣総理大臣に建議され、
その後継続的に必要に応じて意見を述べていくことが、
復興基本法の中で定められています。

多くの人が日本の将来ビジョンに関心を寄せる中、
この東日本大震災復興構想会議の議論の動向が注目されていますが、
実際には、同会議は基本法制定の翌日6月25日に
実質的にその検討を終了しています。
それは、4月14日に活動を始めた同会議は、
6月25日にすでに最終的な建議を菅直人内閣総理大臣に提出しているためです。
※具体的な活動スケジュールはコチラから確認できます。

日本の将来ビジョンの指針をまとめた、
東日本大震災復興構想会議の建議の内容は、
コチラから閲覧することができます。

内容は全84ページ。含まれているテーマは、

〇地理的・工学的な将来の防災対策計画およびまちづくり
〇コミュニティ再建のための復興・合意形成プロセス
〇地域の社会機能再建のための教育・雇用・医療体制整備
〇地域の経済活動再建のための産業復興方針
〇地域の未来を見据えたエネルギー・交通整備
〇原子力災害からの回復のための中期的方針
〇財源

です。

この中で、特に評価できる点は、
将来の災害発生に備えた「立地計画」や「インフラ整備計画」が
比較的わかりやすく具体的に書かれていることです。
このような青写真があることで、自治体が新たな区画計画を考える際に、
方向性を与えてくれます。

一方で、評価できない点として挙げられるのは、
「経済方針」「財源」の部分です。

例えば、未来の持続可能な地域活動のために必要な経済システムの確立
について、「資金調達支援」「連携促進」「低コスト化」「高付加価値化」
など抽象的な言葉が目立ち、具体性が欠けています。
国・地方自治体の双方で財源が枯渇する中、
自立した経済システムを確立させる必要がある状況の中で、
具体的に何をどう変えるべきかというところには
残念ながら、触れられていません。

これについて、
産業界を代表して同会議に参加していた中鉢良治ソニー代表執行役副会長
も、最終会合の締めくくり発言の中で、以下のように問題表明をしています。

※出所はコチラ

私は産業界に身を置く者でございますけれども、率直に申し上げまして、
なかなか産業界の現実を理解していただけなかったのではないかと感じ
ております。特にグローバル競争にさらされている企業にとりましては、
大震災以前から国内のものづくりにつきまして、日々悩みながら経営を
しておりました。立地補助金等のインセンティブの有効性について、ま
た再生可能エネルギーへの過度な期待に対する戒めめいた意見をさせて
いただいたのは、産業界の現状を少しでも理解してもらいたいがためで
ございました。

また、実行のために不可欠な財源。
建議の中では「将来の世代に負担を先送りしないように増税しよう」と
謳っていますが、具体的な増税計画やそのプロセスについては、
何も指針を提示してくれていません。

最終の会議の場でも、議員から
「建議の内容は二次補正予算・三次補正予算に反映されていくだろう」
との発言がありましたが、
今のところ補正予算の中に、
今回の建議で示された内容が盛り込まれていく気配はありません。

そうした中、政府は8月15日に、
政策推進の全体像」という政府運営方針を閣議決定しました。
この中でも、財源の問題、経済成長戦略の問題は大きく扱われています。

復興の中長期計画を定めるために設置された東日本大震災復興構想会議。
しかしながら、確実に政府の活動として実施していくための、
経済・財政的な肉付けまではできず、建議の内容は宙に浮いたままとなっています。

日本に必要とされる「国家のかたち」を確実に実現していくためには、
再度、経済・財政問題にフォーカスした東日本大震災復興構想会議の検討部会を設置し、
焦点を絞った検討をしてみると良いのではないかと考えます。

ソーシャル・ビジネスや社会的セクターと呼ばれる企業や活動の多くは、
「平等な教育の機会を提供する」
「二酸化炭素の排出量を削減する」
など、持続可能な社会の実現を目指す崇高なミッションに基づいて、
運営されています。

一方で、崇高なミッションは、抽象的なフレーズとなりやすい。
方向性としては正しそうなのですが、どこまで前進しているのか、
言いかえると、社会に対してどのぐらい影響をもたらしているのか、
不明確になりがちです。
そのため、事業の社会的インパクトが小さくなってしまったり、
資金調達の際に事業の意義をうまく説明できなかったりすることが、
少なくありません。
これでは、せっかくの崇高なミッションも実現されず、
持続可能な社会には到達できなくなってしまいます。

社会に対して影響力をもっていくために、重要なことは何か。
アメリカのスコル財団はそのブログの中で、
成果を具体的に数値化することが重要であると、説きます。

How to evaluate social impact?

Consider after-school education. The federal government spends billions annually on after-school programs to assist young children who perform below grade level, especially in reading and math. Unfortunately, large-scale studies have found that most of these programs fail to boost student achievement.

「例えば、課外教育について。連邦政府は毎年何十億ドルもの予算を、成績が平均以下
の子供たちを支援するプログラムに費やしているが、残念なことに、子供たちの成績向
上をほとんど実現できていないことが研究によって明らかになっている。」

But not all of them do. (…) One such organization, BELL (Building Educated Leaders for Life), which uses a proven curriculum and has an award-winning training program for its instructors, has demonstrated substantial gains in students’ math and reading skills. Not only can BELL tell you how far its students have advanced during the school year, but it can tell you, week by week, how they are progressing. When a student falls off pace, red flags go up, and the organization does its best to remedy the situation. Most of BELL’s competitors could tell you how many students attended their programs and the number of hours each sat in class, but they can’t tell you what the children learned.

「しかし全部が成果をあげていないわけではない。例えば、低所得者層に対する
教育の分野で受賞実績を挙げているBELLという活動は、生徒の読書と数学能力
を具体的に向上していることが証明されている。BELLは生徒が具体的にどのぐら
い能力を向上させることができたかだけでなく、毎週生徒たちがどのぐらい成長し
ているかも把握している。生徒たちが学習ペースを落としたり、音を上げたときに、
BELLはその状況を打開するために全力をあげている。他の多くの教育機関は、
生徒数は何人か、授業時間は何時間という質問に答えることができても、子供
たちが何を学習したのかについては答えることができない。」

BELLは、自らのミッションの成果を数値化し、それを定期的に効果測定を
することで、社会への影響力を大きくすることに成功しているというです。

成果が具体的に可視化されると、以下のような効果が期待できます。
‐ 組織活動のゴールと現状の把握
‐ 株主、債権者に対する存在意義の説明
‐ 従業員やメンバーに対するモチベーションの向上
‐ 顧客に対する商品・サービス価値の説明

成果の可視化という考え方は、
ソーシャル・ビジネスの世界で最近重要視されつつあるようですが、
企業経営の世界では以前から広く採用され、いわば先輩にあたります。

しかし、このように従来の企業と、社会的セクターや政府を同一視することに、
反発する2種類の意見があります。

1つ目は、
「企業は利益という明確な数値目標があるが、社会的セクター(ソーシャル・ビジネ
ス)はミッションを中心にされており、そのミッションの数値化は容易ではない」

というもの。

2つ目は、
「企業は利益という短期的な目標を目指すのに対し、社会的セクターは長期的な社
会課題に取り組んでおり、長期的な目標は設定しづらい」

というもの。

どちらも、社会的セクターの目標設定は難易度が高いということに着目しています。

しかし、僕は、以下の2つの理由から、成果の数値化というマネジメント手法において、
企業経営と、政府や非営利組織との間には本質的な違いはないと考えています。

1. 企業は利益だけでマネジメントしてはいない

多くの企業が利益目標を設定していることは事実ですが、
実際の事業の場面では、利益でマネジメントをすることは多くはありません。

例えば、スーパーのレジのおばさんはいくら利益を挙げているのか。
コールセンターの担当者はいくら利益をあげているのか。
はたまた、人事部や経理部はいくら利益をあげているのか。
これを明確にすることは単純ではありません。
上記の部署の方々に、「利益をあげろ!」といったところで、
具体的な行動の改善につなげることは容易ではないのです。

そのため、多くの企業では、それぞれの部署や従業員の日々の業務に則した
目標を設定することで、組織の力を最大化しようとしています。
「レジ打ちのスピードをどれだけ向上できるか?」
「コールセンターのお客様満足度をどれだけ向上できるか?」
というように行動目標を具体化したり、
「人事部はコストを使う一方、何をもって部署の価値と呼ぶのか?」
ということをゼロから定める検討をしたりしています。

このように企業は、事業運営に際して、利益以外の成果を数値化しており、
ミッション遂行型のソーシャル・ビジネスと大きな違いはありません。

2. 企業も長期的目標の設定を行っている

企業は短期的な利益目標を追求していると称されがちですが、
従来の企業も、社会的なミッションを掲げてきました。

例えば、新たに事業を起業する際に、
純粋に「いくら儲かるか」だけでなく、「なぜその事業が社会にとって必要なのか」を
起業家たちは考えてきました。

また、既存企業の経営においても、
企業の幅広い利害関係者(株主、債権者、顧客、政府、社会全体)を考慮し、
利益目標だけでなく、理念やビジョンを明確に設定する企業が増えてきています。

ビジネススクールでは、理念やビジョンを数値化し、マネジメントに活用するという難題
に対し、「バランスト・スコア・カード」という解決手法が教えられています。

上記のスコル財団も、社会的セクターも、この「バランスト・ストア・カード」に基づくことで、
効果的な成果の数値化を実現できるのではないかとブログで呼び掛けています。

社会的セクターは、ときに存在しているだけで美談になってしまうことがあります。
しかし、具体的な成果として、社会に何をもたらしたのか、もたらしたいのか、
これらを明確にしないことには、
組織として成長することも、周囲の支援を得ることもできなくなってしまいます。

巧みな成果の数値化や目標設定は重要な経営力のひとつです。
数値化や目標設定の方法を変えることで、
さらに進化できる社会企業や政府はたくさんあると考えています。