前回、地熱発電の仕組みを紹介しました。
地熱発電所とは何か?~仕組みと可能性~

地熱発電は、地球が発する熱を利用した環境に優しい発電方法です。

しかしながら、太陽光や風力発電が昨今注目される中、
地熱発電は、ここ近年日本で進展はしていません。

日本の地熱発電の推移
※出所:資源エネルギー庁

日本で初めて地熱発電所が実用化されたのは1966年。
岩手県八幡平市の松川地熱発電所が日本第1号です。
最大出力量は23,500kw。
現在も稼働している現役の発電所です。

もともとは、日本重化学工業社が建設・所有していましたが、
現在は、東北電力のグループ会社、東北水力地熱が所有しています。

その後、東北地方と九州地方を中心に、合計18か所に地熱発電所が建設されます。


※図:国立環境研究所

そして、最後に建設された地熱発電所は1999年に運転を開始した八丈島地熱発電所。
現在まで、東京電力が保有する最初にして唯一の地熱発電所です。
最大出力は3,300kwと小規模ですが、八丈島で消費される電力の1/3を賄っています。

この八丈島での運転開始から今日まで12年間、日本で地熱発電所は建設されていません。
その背景については、後日、解説していきたいと思います。

さて、現在、全国18の地熱発電所で生産されている電力量は、年間2,750GWh。
数が大きいように言えますが、日本の総電力消費量1,083,142GWh(2008年)の、
わずか0.025%を占めているにすぎません。

この日本の状況を他の国と比較してみましょう。

〇 日本と世界各国の地熱発電量

世界の地熱発電量推移

世界の地熱発電量推移


※出所:EIA

〇 地熱発電各国における地熱発電の割合

地熱発電は世界全体の発電量の0.3%(2008年)。
ちなみに、再生可能エネルギーの分野では、
水力16.2%、風力1.1%、バイオマス1.0%、太陽光0.06%、
バイオマス0.04%という状況です。


※出所:IEA

世界の地熱発電量が限られている理由のひとつに、
地熱を活用できるエリアが世界で限られているという点が挙げられます。

今日、上記の図で赤くなっているところを中心に、地熱発電が推進されています。

地熱発電の設備容量(2008年)をみても、発電量とほぼ同様の順位が得られます。


※出所:EIA

■ 世界の地熱発電大国アメリカ

世界のトップは30年前からアメリカです。
西部の火山地帯にある広大な土地を中心に、77の地熱発電所が現在稼働しています。

アメリカの地熱発電所での発電量(赤)と熱源利用量(緑)

アメリカの潜在的な地熱資源量

1970年代の石油危機を機にアメリカでは、エネルギー源の分散が図られ、
その中で注目されたもののひとつが地熱発電です。
アメリカ政府は、地熱発電の研究開発に資金を投じると同時に、
Geothermal Energy Research, Development and Demonstration (RD&D) Act
(地熱エネルギー研究開発実証法)を1974年に施行し、
巨額の資金が必要な地熱発電所建設に対する政府のローン保証プログラムを開始。
低リスクとなった地熱発電に対する電力会社等の投資が促進されていきます。

さらに、地熱発電の加速要因となったのが、バイナリーサイクル技術の誕生です。
※バイナリーサイクル技術については前回ブログを参照ください。
従来では発電に必要な熱エネルギーを持たなかったエリアでも、
地熱発電が可能となり、さらに投資が進みました。

その流れで1980年に相次いで地熱発電所が稼働を開始、一気に世界をリードしました。
しかし、1990年以降、地熱発電量は横ばいです。
原因としては、ローンプログラムの欠乏、連邦政府管理地の使用許可規制などが、
挙げられており、現在、地熱発電促進の阻害要因を取り除く検討が、
連邦政府及び州政府にて進められています。

そして、2005年に制定されたエネルギー政策法により、
地熱発電が米国政府の再生可能エネルギー生産税控除を受けられるようになったため、
米国西部の多くの市場で は現在、
地熱資源で発電される電力のコストが化石燃料による電力コストと等しくなり、。
経済情勢が追い風となり、地熱産業は急速に活性化しています。(コチラを参照)

■ 原子力発電を中止し、地熱発電に注力したフィリピン

世界の第2位の地熱発電量を誇るのがフィリピンです。
1972年に制定された地熱発電開発に関する大統領令(PD1442)で、
地熱発電事業者に対する大幅減税や減価償却期間引き伸ばし、専門家招致など、
インセンティブ施策が整備されました。

さらに、1976年に原子力発電所が着工し、1985年工事がほぼ終了したものの、
1986年に発足したアキノ政権は、同発電所の安全性および経済性を疑問視し、
運転認可が見送った結果、さらに地熱発電の重要性が増していきました。
結果、1990年代にフィリピンの地熱発電量は大きく増加しました。

フィリピンでは発電量の17.6%が地熱発電で賄われています。

現在でも政府は地熱発電をさらに推進していく姿勢を示しており、
現在の地熱発電設備容量195.8万kWhを、2013年までに313.0万kWhにまで
高める計画を掲げています。

■ 地熱発電の新たなリーダーになるインドネシア

インドネシアは、2000年代に入ってから急速に地熱発電量を増加させてきています。

インドネシアにおける地熱発電の魅力は、その資源量の豊富さです。


※出所:NEDO

インドネシアは地熱資源量において世界でダントツのトップです。
地熱発電量2位のフィリピンを大きく上回る地熱資源量を有しています。

2005年に当時のユドヨノ政権は、2025年までの地熱発電量目標を設定。
2008年時点で93.3万kWhの地熱発電設備容量を、
2025年に950.0万kWhにまで増加させるとしています。
ちなみに、福島第一原子力発電所の発電容量は約500.0万kWh。
その約2倍もの地熱発電を行うという計画です。(コチラを参照)

しかしながら、現在、この計画はスケジュールが大幅に遅れている状況です。
原因は、地熱発電への設備投資を民間設備投資に大きく依存している状況です。
政府政策の不安定性、政府からの財政支援の欠如、発電建設所投資の不確実性リスクなど
から民間企業の設備投資が思うように進んでいないことが、
インドネシアの現在の大きな課題です。

■ 急速に地熱発電の開発が進むアイスランド

アイスランドはほぼすべての全力を、再生可能エネルギーで賄っている国です。
そのうち75.5%を水力、残りの24.5%を地熱発電で調達している、地熱先進国です。

アイスランドの特異な点は、その立地にあります。
その他の地熱発電がマグマ溜りを熱エネルギーの供給源にしているのに対し、
アイスランドだけは、ホットプルームを熱供給源としています。
アイスランドは、ホットプルームの上に位置している特異な島なのです。
※マグマ溜りとホットプルームについては前回ブログをご覧ください。

そのため、アイスランドでは他のエリアより高温の熱エネルギーが得られ、
効率的な地熱発電が可能となっています。
2000年入ってから、大型の地熱発電所が次々と操業を開始し、
地熱発電の電力が急速に伸びています。

さらに、アイスランドでは地熱を発電目的だけでなく、
熱エネルギー目的でも使用しています。
具体的には、冬期の路上凍結を防ぐための路面温度上昇のための熱、
商業用・家庭用の温水生成のための熱などが挙げられます。

■ 新たな発電所建設が進まず年々発電量が衰える日本

一方、日本は1997年をピークに、年々地熱発電量が減少しています。
理由は、新たな発電所の建設が1999年以降進んでいないことと、
既存の発電所の発電量が、地下熱の低下により、落ちてきていることです。
そこで、2006年に地下熱の低下でも発電を可能にするためのバイナリーサイクル方式が、
八丁原発電所に導入されました。

それでも、日本は世界第3位の地熱資源量を誇る国です。
他の地熱資源保有国が地熱発電への投資を加速させる中、日本は出遅れています。

この日本における地熱発電はなぜ停滞しているのか。
その原因については、あらためてこのブログでお伝えしていきたいます。

sustainable japan

電力・エネルギー等サステナビリティに関する最新トピックスは、Sustainable Japanに掲載しています。御覧ください!

3/19に、福島第一原子力発電所の状況が大きく安定化してきました。

1号機: 東北電力からの電源ケーブル敷設が完了。冷却施設の回復見込み。
2号機: 東北電力からの電源ケーブル敷設が完了。冷却施設の回復見込み。
3号機: 東京消防庁の消防車による注水作業で効果があり、施設冷却に成功。
4号機: 3号機と同様の処置を行う予定。
5号機: 仮設の海水ポンプの稼働に成功。使用済み核燃料プールの冷却機能が回復。
6号機: 仮設の海水ポンプの稼働に成功。使用済み核燃料プールの冷却機能が回復。

当初、同様に原子力緊急事態宣言が発令された、福島第二原子力発電所においても、
すでに、1号機~4号機までの全てにおいて、冷温停止状態となり危機を脱しています。

しかしながら、
放射線漏れによる近隣自治体への影響は深刻な状態となっているとともに、
東京電力管内全域でも深刻な電力不足に見舞われています。

東日本大震災(東北関東大震災)前と後の発電量(出力量)をまとめました。
東京電力の公開情報や報道資料をもとに独自作成。
※最大出力量はWikipedia参照。
※震災への影響は3/20時点の内容。
表をクリックすると拡大します。

大震災前に総計6000万kW近くあった発電量が、
大震災後は総計4000万kW弱まで落ち込んでいるのがわかります。

また、実際に供給できる電力は、”供給量 = 発電量 – 配電ロス” となり、
4000万kW全てが供給できるわけではありません。

この大きな需給格差を埋めるために、
東京電力は契約に基づき大口の法人顧客(工場等)への電力抑制を依頼。

そして、震災直後からの電気需要と供給量の予測は以下の通りでした。

3/12(土) 需要 3600万kW 供給 3700万kW
3/13(日) 需要 3700万kW 供給 3700万kW
3/14(月) 需要 4100万kW 供給 3100万kW (電車運行抑制・揚水式水力発電停止)
3/15(火) 需要 3500万kW 供給 3300万kW (計画停電開始)
3/16(水) 需要 3500万kW 供給 3300万kW
3/17(木) 需要 4000万kW 供給 3350万kW (電車本数増加)
3/18(金) 需要 3700万kW 供給 3500万kW
3/19(土) 需要 3100万kW 供給 3450万kW
3/20(日) 需要 3100万kW 供給 3400万kW
東京電力の公開情報をもとに作成。

このように休日は企業活動が休止するため需要が減りますが、
平日は節電したとしても供給量が足りません。
そのため、電車本数の削減や計画停電が実施されている状況です。

さらに、東京電力の発表では、通常、
冬場で5000万kW、
夏場で5500万~6000万kWトの電力供給力が必要だということです。
その結果、東京電力は、政府中枢機関の多い千代田区、港区、中央区の
3区を除く、都内20区においても夏には計画停電が必要となる可能性を
示唆しました。
※元記事はコチラコチラ

東京電力が現在、復帰や再稼働を目指している
東扇島、鹿島、横須賀を含めると発電量は4,863万kWに達し、
供給量は推定4,200万kWまでは回復できそうです。

そのため、今年の夏は大規模な節電が強いられることになりますし、
計画停電は今年の冬にまで続くという見通しもあります。
朝日新聞の記事

もちろん、節電や計画停電の効果は大きいです。



出所:東京電力のHP

上のグラフを見ていただくと、前年の相当日に比べて、
日中および夜間の電力消費量が大きく低下しているのがわかります(3/23時点)。

今回は現状のみの報告となり心苦しいですが、
対策については情報が取れ次第、あらためて説明していきたいと思います。