2010年1月のチュニジアでのジャスミン革命に端を発したアラブや中東での政治動乱。
この原因のひとつは「食料価格の高騰」だと言われています。

どれだけ、世界の食料価格は昨今、高騰しているのでしょうか。

図を見ていただくとわかるように、2011年の赤線は非常に高い位置をマークしています。

ちなみに、ここ数年で食料価格の高騰が大きく話題になったのは、2007~2008年です。
エネルギー価格の高騰や旱魃と相まって、2006年の初めと比較して、
世界のコメの価格は217%上昇し、小麦は136%、トウモロコシは125%、大豆は107%増加しました。
※出所:Wikipedia
日本でも多くのメディアでこの問題が取り上げられました。

上記のグラフによると、高騰した食料価格は2008年後半には沈静化。
しかし、その価格は2009年から再び上昇に転じ、
なんと、2011年には2008年の世界食糧価格危機の水準を上回るまでに至りました。
現在は、未曽有の食料価格高騰時代なのです。

この食料価格には、以下の要因があると考えられています。

1. 世界人口の増加 (食料需要の増加)
2. 食料のバイオ燃料への転換 (食料供給の減少)
3. 途上国の発展 (高カロリーー食品の需要の増加)
4. 原油価格の上昇 (肥料や輸送コストの増加)
5. 金融投機 (価格上昇差益を狙った投機により、価格がさらなる上昇)
6. 耕作面積の減少 (食料供給の減少)

すなわち、食料需要の増加に供給増が追い付かず、需要供給のバランスが崩れ、
価格が高騰。さらに、食糧生産コストが増加し、価格をさらに押し上げているのです。

こうして、世界規模での食糧不足がさらに深刻化すると予想される中で、
富裕国の政府や企業を中心に、発展途上国の農地の買占め行動が頻発しています。
この買占め行動を英語では、”Land Grab” と呼ばれています。

このLand Grabを活発に展開してるのは、中国、韓国、サウジアラビア、UAE。
そして、日本も小規模ですが、この動きをとっています。


※出所:Global Dash Board

ただし、このLand Grabは、既存の農作物を取り合う行為であって、
食料不足の根本的な解決とはなりません。
また、このLand Grabは「持てる国」が「持たざる国」を支配する新たな植民地主義だとの
批判も招いています。(コチラを参考)

そうして中で、食糧問題のひとつの解決策として注目を集めているのが、
「植物工場」 (英語ではPlant Factory)です。

植物工場とは、人工的に栽培に適した環境を室内に作り上げ、
安定的・効率的・計画的に農作物を生産する施設のことです。

この分野では、僕の友人でもあるNPO法人イノプレックス代表理事の
藤本真狩くんが、世界をまたに植物工場の推進に奔走してくれています。
ホームページには、最新の情報が満載ですので、ぜひご覧ください。

一方で、栽培できる農作物の種類に限りがあったり、
施設の設立に莫大な費用を要するという課題もたくさんある分野です。

また、「自然」なものを「人工的」に管理するということに対して、
「人間の傲慢だ」というような思想的な拒否反応を示す人もいます。

しかしながら、慢性的な食料不足という状況を前に、
以下に「限られた空間の中で」、食料生産を最大化させていくという取組を
避けることはできません。

再生可能エネルギーと同様に、植物工場も現在、補助金に頼る構造にあります。
いかにして、設備投資の額を最小化していくかに、知恵を絞っていく必要があります。

特に、ジャスミン革命に代表されるように、この食糧危機が顕在化している地域も
現前としてありますし、
中国やインドでも、食料価格の高騰をはじめとしたインフレーションが続いています。

植物工場の推進を応援したいと思っています。

最近、アントレプレナーシップ、起業家精神という言葉が脚光を浴びています。
特に、社会的起業という言葉も盛んに使われるようになりました。

なぜ社会的起業が必要だと言われるようになってきたのでしょうか。

僕が非常に共感する学者の一人に、
スティーブン・ゴールドスミス(Stephen Goldsmith)氏という方がいます。

彼はアメリカ・インディアナ州インディアナ市の前市長。
現在はニューヨーク市の副市長に在任中で、
ハーバード大学ケネディースクール(公共政策大学院)の教授でもあり、
アメリカの行政改革の中心人物です。

彼はブログの中で、
なぜ社会的起業が必要になるのかについて、こう語っています。

These social entrepreneurs share passion, a focus on outcomes and impact that leverages other resources, a sound business model, and high expectations for not only themselves but also their clients.

「社会的企業とは、情熱、資源を活用した結果と影響力、優れたビジネスモデル、自分自身
ではなく顧客に対する高い期待感を共有しているものと定義します。」

まず、この中で、僕が共感するのは、
「結果」にこだわる、「顧客への期待」をもつという点です。
大胆に言ってしまうと、慈善活動や慈善事業というものは、
提供者の満足のために実施してしまいがちです。

「○○が可哀そうだ。」「○○が不公平だ。」「○○もこうなるべきだ。」

こういう発想は、行動の動機としてはよいと思うのですが、
ともすると、行動していること自体が美談になってしまい、
結果に対するコミットメント、特に顧客視点での結果に対するコミットメントを
欠く傾向があります。

「顧客視点で、結果と影響力にこだわる」。
社会的起業にとって大切にしていきたい要素です。

彼は社会的起業の課題をこう位置付けます。

Early on, many of us involved in these fields mistakenly hoped that a good organization or idea would naturally grow to scale.

In most of the areas where social entrepreneurs are working, no markets exist. The individuals whom we are trying to serve do not have the money to buy needed services; thus someone else pays for them. Thus the start-up capital sufficient to prove a concept will not produce the broad growth needed for transformative change to scale.

「当初、わたしたの多くは、良い組織は自然に拡大すると思っていたが、それは誤りだっ
た。」「社会的起業が活動している分野には、市場が存在しないことが多い。サービス受給
者である個々人は、必要とするサービスを購入するだけのお金がなく、代わりに誰かが負
担しなくてはいけない。そうして、初期投資が十分でないため、組織を拡大するための変革
に必要な成長が果たせないのだ。」

また、その初期投資を提供する社会的投資家の動きも課題解決にはならないと
言及します。

Invariably, philanthropic and social investors rely on an exit strategy that looks to government as the sector that will eventually sustain an organization’s growth.

As a result, an idea’s ability to grow depends on both government and the existing web of providers, funders, and politicians who have a stake in the status quo.

「常に慈善投資家や社会的投資家は出口戦略として、政府にその投資先組織を成
長させていく役割を期待しています。」「結果として、社会的起業の成長能力は、政府や
既得権益者、政治家たちに依存してしまっているのです。」

Blaming government as the primary obstacle to progress, however, misses the mark. (…) Existing providers and their boards, staffs, directors, and sometimes clients lobby funders—whether private or public—to increase support of their efforts regardless of results.

In other words the passion that produced yesterday’s transformative innovation migrates over to sustaining the organization—which in turn precipitates an effort to raise barriers to entry for potential competitors.

「しかしながら、政府を主要な障害物ととらえて非難することは的を外しています。既
得権益者とは、経営陣、従業員、管理職層、ときには顧客を含み、彼らは結果に関わら
ず、既存組織をサポートするよう投資家たちに働きかけているのです。」「言いかえると、
過去の革新的な変革を産み出した情熱は、既存の組織を継続することに向かっていき、
かわりに、新たな参入者に対する障壁を高めることに注がれてしまうのです。」

こうして、彼は従来の社会的起業の取組が世の中に普及して行かないことを、
既得権益者(政府だけでなく)に頼らざるを得なかった構造に見出しました。

そこで、ゴールドスミス教授は、新しい概念として、
Civic Entrepreneurship=市民起業家精神 というものを提唱します。
これは、政府に頼るのではなく、市民の手で新たな行動を起こし、
市民の手でその組織を大きくしていこうという概念です。

古くから、わたしたちは、何かあるたびに政府に苦言を呈してきました。
日本の観光業が盛んでないと、観光庁を批判し、
日本の経済が発展しないのは、経済産業省の政策のせいにし、
日本の教育の責任を文部科学省の責任にしてきました。

この批判は、裏を返すと、それだけ政府に期待をしたいたのだと思います。
しかし、この21世紀は、いい意味で、政府に過剰な期待をするのを辞め、
市民一人一人で社会を望む方向へ変えていかなくてはいけない時代に
なっています。

何か問題や課題を認識したときに、
「なぜ政府はダメなのか?」と不満を言葉にする前に、
「わたしたちに何ができるのか?」を考えていくことこそが、
市民的起業家精神を育み、持続可能性のある社会を築いていく、
重要な一歩だと考えています。