Elaine Cohenという方がいます。

この女性は、CSRコンサルタントや、サステナビリティレポーターというタイトルで、
世界各国の様々な企業のCSRレポートやサステナビリティレポートの、
査読、改善提案を行っています。

最近では、”CSR For HR”という本を出版。
日本ではCSRというと「環境」という言葉が連想されますが、
このElaineさんは、「雇用・労働」という見地からのCSRを大きく提唱されています。

このElaineさんは、ブロガーとしても有名で、
最近の彼女のブログで、
16 Tips for Reading Sustainability Reports
(サステナビリティレポートを読む16のコツ)

という面白い内容があったので、ご紹介したいと思います。

この中で、彼女は、ブログのタイトル通り、
CSRレポートやサステナビリティレポートを読む際に、
心構えやナレッジを16個(実際には15個)挙げています。

1. 偏見のない広い心で読み始める

ブランドイメージの悪い企業や、悪い評判のある企業のレポートを読む際には、
どうしても穿った見方や、あらを探すような姿勢をとってしまいがちです。

しかし、どの企業にも、それぞれの企業環境や事業内容の中で、業を営み、
社会への貢献を示すためにレポートを作成しています。

まずはフラットな姿勢で、レポートを読もうとする姿勢が大切です。

2. レポートは会社ではなく「人」が書いていることを理解する

サステナビリティレポート担当者は、会社の様々な政治力学の中で、
精一杯ベストを尽くそうとして、レポートを作成しています。

協力やデータを得られない社内部署の存在。
開示を拒む社内の声。
結果が思わしくない場合の表現方法。
社内担当者は、大きな苦難の末、レポートを作成しています。

徒にレポートの出来不出来を判断する前に、
レポート作成者が直面する「限界」を理解しようと努め、
次回作を応援するという気持ちを忘れてはいけません。

3. 冒頭の社長挨拶をちゃんと読む

サステナビリティ・CSRレポートでは、冒頭に社長挨拶が載ることが一般的です。

この挨拶文は、当たり障りのない言葉が並び、
内容が伴わないことが多いため、読み飛ばされがちです。

しかし、社長挨拶はレポート全体のトーンをよく表しています。
社長挨拶の内容が濃い場合は、レポートの全体の内容も濃く、
反対に薄い場合は、レポートの内容が薄くなる傾向があります。

企業のトーンを掴むため、社長挨拶を読むことは大切です。

4. レポートの読み方を定める

社長挨拶のあと、どこから読み始めるかは自由です。

ページ順に読んでもいいですし、
気になるトピックスに焦点を絞って読んでもいいです。

レポートの読む目的によって、読み方は違うので、
まずは、レポートから何を得たいかを定めることが大切です。

5. 重要な点を探す

企業活動がもたらす重要な影響は、
直接的な影響ではなく、間接的な影響であることが多いので、
レポートが、その間接的な影響にも触れているかを把握することは
重要です。

6. コピー&ペーストに注意する

毎年同じ文言をコピー&ペーストのように使いまわしているレポートがあります。

レポートの意義は、毎年新たな取り組みや成果について発表をすることにあり、
もし何も成果がない場合は、何も書かない方がましです。

コピー&ペーストの頻度に着目し、レポートの信頼性を測りましょう。

7. データの一貫性に注意を払う

企業が複数年わたりレポートを発表している場合は、
少なくとも過去3年分の連続データを表記すべきです。

そのような連続データがない場合は、何かやましい理由があります。

過去のレポートとデータの扱いが違う場合には、
何が背景にあるのかに注意を払いましょう。

8. フィードバック、質問、コメントをする

企業のレポーティング能力を向上していくためにも、
レポートの読者からのフィードバック、質問、コメントは重要です。

9. レポート発行初年度の企業は大目に見る

レポート発行は容易な作業ではありません。

レポート発行初年度の企業は、大きな困難を抱えた状態で、
発行にこぎつけています。

大目に見ましょう。

10. レポートを読む際には、アイスクリームを食べる

これは実質的なアドバイスではなく、
アイスクリーム好きのElaineさんの余興です。

11. グラフや表には踊らされない

グラフや表に記されているデータや文言を証明する内容を
レポート内から探し出せないことがあります。

レポートの内容とグラフ・表の内容を照合しましょう。

12. 困難な意思決定に着目する

企業が困難な意思決定をしているにもかかわらず、
その内容がレポートで触れられていないことがあります。

例えば、人員削減を行った場合。やむを得ない意思決定であったにせよ、
人員削減プロセスの中で、どのように社会的影響を配慮したのか、
触れておく必要があります。

13. 数値目標の立て方を調べる

一見、数値目標があると、レベルの高いレポーティングのように見えてしまいますが、
よくよくみると、数値目標の立て方が甘いケースがあります。

あまりに低い目標でないか、簡単に達成できる数値目標ではないか、
数値目標の立て方にも関心を払う必要があります。

14. 賞を受賞したレポートはそれだけの理由がある

CSR/サステナビリティレポートで何らかの賞を受賞しているレポートは、
やはり読むに値する内容になっています。

15. 従業員政策に着眼する

サステナビリティ活動を遂行するためには、従業員のマインドや、
企業文化が重要となります。

どのような従業員政策を施しているのか、この内容をレポートから探し出しましょう。

16. インパクトをチェックする

レポーティングにおいて、「何を実施したか」ではなく、
「どれだけのインパクトをもたらしたのか」が重要です。

そのインパクトが書かれているかどうかをチェックしましょう。

Elaineさんは、多少の冗談を交えながら、
CSR/サステナビリティレポートの痛い点を見事についています。

財務諸表と同様、読み手の能力向上は、作成者の能力向上にもつながっていきます。
そしてひいては、活動そのもののグレードアップにもつながります。

CSRレポートやサステナビリティレポートの質の向上を図っている
Global Reporting Initiative(GRI)が、
レポートのデータベースサービスをリリースしました。

Sustainability Disclosure Database

現段階で世界3,005社、合計7,659のCSR/サステナビリティレポートが
データベースとしてまとめられています。

データベースには検索機能がついているため、膨大なデータベースから、
業界や年度、テーマを絞った検索が可能です。

さらに、GRIガイドラインに対する遵守レベルを示すベンチマーク指標も
調べられるようになっているため、
限られた基準ですが、レポートの質を調べることができるようにもなっています。

サステナビリティレポートについては、
従来のファイナンスレポートのようには比較やフレームワークの基準化が
進んではいませんが、
GRIのこの試みは、確実にその一歩となる動きだと思います。