2年半前に日本銀行統計を元に、
日本国債の保有者比率内訳の推移 〜日本国債とサステナビリティ〜
という内容をお届けしました。

その際は、国債の保有者(買い手)が大きく変化してきており、
銀行は国債の主要な担い手のポジションから遠ざかり、
生命保険を通じた国民一人一人、及び海外勢の保有者比率が
増加していることをお伝えしました。

あれから2年半の間に、日本の金融政策は大きく変化しました。
黒田氏が日本銀行総裁になり、「異次元緩和」という大規模な量的緩和政策。
また、国債の利回り低下による国債の資本的価値の低下。
その結果、2013年末時点での国債保有者はどのように変化したのか。
最新の結果をお届けします。

■ 日本の国債は2013年度末に1,000兆円近くに到達

2011年の東日本大震災での大規模な補正予算実施以降、
政権交代後も安倍政権は巨大な予算案を可決し続けています。
その結果、国債の発行額は1,000兆円に届く勢いです。

日本の国債残高(2014年)
※出所:日本銀行「資金循環」
※数値ローデータは、このページの最下部に掲載

では、保有者比率はどのように変化したのでしょうか。
著しく比率を伸ばしたのは、皆さんご推察の通り、日本銀行です。

日本銀行は量的緩和施策の発動により、
長期国債の保有残高が年間約50兆円増加するペースで
買入れを行っています。

結果、日本銀行の保有比率は2011年度末の9.7%から、
2013年度末には20.1%へと増加しました。

日本の国債保有者比率の推移

こちらの図から、2011年以降のトレンドとしてわかることを
まとめてみましょう。

● 日銀の保有比率が大きく増加している
● 銀行等の保有比率は大きく減少している。
● 保険の保有割合は横ばい
● 年金基金の保有割合は微増
● その他金融仲介機関の保有割合は微減
● 中央政府の保有比率は微減
● 海外の保有割合は増加

保有比率が大きく増加したのは、日銀と海外投資家でした。

■ 銀行等の詳細内訳

銀行等による日本国債の保有比率の推移

国内銀行と中小企業金融機関等の保有比率が大きく下がりました。

ちなみに中小企業金融機関等とは、
信用金庫、信用組合、そしてゆうちょ銀行のことです。
このうち国債を保有しているのは、ゆうちょ銀行が大半です。

国内銀行とゆうちょ銀行が国債保有比率を減らした背景には、
日本銀行が高値で国債を買ってくれることにあります。
これが日本銀行の量的緩和策の一つの側面です。

銀行は政府の国債発行時に、入札で国債を購入し、
そしてそれを短期で日本銀行に売却してその売却益を稼いでいます。
また、日本銀行が高値で買ってくれることが、
ある程度保証されているマーケット環境ですので、
日本国債の価格は高騰しており、
特にメガバンクはかつての保有国債も積極的に売却して稼いでいます。

■ 保険会社の詳細内訳

保険会社による日本国債保有比率の推移

保険の国債保有比率はこの3年でほとんど変化していません。

生命保険の安定的な国債買い増しの背景は、
生命保険会社が市場に投入した貯蓄型生命保険での
国債運用残高の増加です。

貯蓄型生命保険は依然として人気を集めており、
商品には国債運用による安全運用を謳うものが多く出回っています。
そのため、生命保険は貯蓄型商品のファンドを通じて、
安定的に国債を買い増しています。

冒頭の表でお見せしたように、同様に年金基金も、
安定的に国債を買い増しています。

■ その他金融仲介機関の詳細内訳

その他金融仲介機関の日本国債保有比率の推移

2011年まで「その他金融仲介機関」の割合が大きく減少した背景は、
前回解説しました。

今回のポイントは、
証券投資信託の保有比率が安定しているということです。
証券投資信託は、前述した保険や年金基金と同様、
国民からの資産性商品の積立によって、安定的に買い増しています。

■ 2015年の国債の行方

2015年に入り、すでに国債は新たな局面を迎えようとしています。

1月21日、「5年物個人国債、金利低下で募集中止 販売開始後初めて 財務省」(日経新聞)
2月3日、「10年物国債入札「不調」 債券市場に激震」(日経新聞)

日銀がどんどん買ってくれた国債の入札は人気があったはずですが、
ここにきて急に入札時の買い手がつかなくなっているのです。

それはすでに国債価格が高くなりすぎていて、
保有者が国債からの利益をあげづらくなっているからです。

まず、最終的にきっと日銀に売却できると言っても、
売却するまでは保有者が国債からの利回りを気にしなければなりません。
1月21日時点では、10年物国債の利回りは0.21%まで下がっていました。
利回りが小さいことは保有者にとっては旨味が少ないのです。

また、日銀が高値で買ってくれるからといっても、
さすがに日銀が額面より高い額(マイナス利回り)で長期間購入してくれるとは
期待しづらい。

そのため、入札に慎重になってきているのです。

2015年のポイントは、存在感を占める海外国債保有者の出方です。
この国債価格の高騰に陰りが見えてきた状況で、海外保有者が売りにでるかどうかには
注目が集まっています。

※ローデータは下の図をクリックすると拡大表示されます。
日本国債の保有者
(注)国債は「資金循環統計」のうち「国庫短期証券」と「国債・財融債」の合計。年度末のデータ。

2010年1月のチュニジアでのジャスミン革命に端を発したアラブや中東での政治動乱。
この原因のひとつは「食料価格の高騰」だと言われています。

どれだけ、世界の食料価格は昨今、高騰しているのでしょうか。

図を見ていただくとわかるように、2011年の赤線は非常に高い位置をマークしています。

ちなみに、ここ数年で食料価格の高騰が大きく話題になったのは、2007~2008年です。
エネルギー価格の高騰や旱魃と相まって、2006年の初めと比較して、
世界のコメの価格は217%上昇し、小麦は136%、トウモロコシは125%、大豆は107%増加しました。
※出所:Wikipedia
日本でも多くのメディアでこの問題が取り上げられました。

上記のグラフによると、高騰した食料価格は2008年後半には沈静化。
しかし、その価格は2009年から再び上昇に転じ、
なんと、2011年には2008年の世界食糧価格危機の水準を上回るまでに至りました。
現在は、未曽有の食料価格高騰時代なのです。

この食料価格には、以下の要因があると考えられています。

1. 世界人口の増加 (食料需要の増加)
2. 食料のバイオ燃料への転換 (食料供給の減少)
3. 途上国の発展 (高カロリーー食品の需要の増加)
4. 原油価格の上昇 (肥料や輸送コストの増加)
5. 金融投機 (価格上昇差益を狙った投機により、価格がさらなる上昇)
6. 耕作面積の減少 (食料供給の減少)

すなわち、食料需要の増加に供給増が追い付かず、需要供給のバランスが崩れ、
価格が高騰。さらに、食糧生産コストが増加し、価格をさらに押し上げているのです。

こうして、世界規模での食糧不足がさらに深刻化すると予想される中で、
富裕国の政府や企業を中心に、発展途上国の農地の買占め行動が頻発しています。
この買占め行動を英語では、”Land Grab” と呼ばれています。

このLand Grabを活発に展開してるのは、中国、韓国、サウジアラビア、UAE。
そして、日本も小規模ですが、この動きをとっています。


※出所:Global Dash Board

ただし、このLand Grabは、既存の農作物を取り合う行為であって、
食料不足の根本的な解決とはなりません。
また、このLand Grabは「持てる国」が「持たざる国」を支配する新たな植民地主義だとの
批判も招いています。(コチラを参考)

そうして中で、食糧問題のひとつの解決策として注目を集めているのが、
「植物工場」 (英語ではPlant Factory)です。

植物工場とは、人工的に栽培に適した環境を室内に作り上げ、
安定的・効率的・計画的に農作物を生産する施設のことです。

この分野では、僕の友人でもあるNPO法人イノプレックス代表理事の
藤本真狩くんが、世界をまたに植物工場の推進に奔走してくれています。
ホームページには、最新の情報が満載ですので、ぜひご覧ください。

一方で、栽培できる農作物の種類に限りがあったり、
施設の設立に莫大な費用を要するという課題もたくさんある分野です。

また、「自然」なものを「人工的」に管理するということに対して、
「人間の傲慢だ」というような思想的な拒否反応を示す人もいます。

しかしながら、慢性的な食料不足という状況を前に、
以下に「限られた空間の中で」、食料生産を最大化させていくという取組を
避けることはできません。

再生可能エネルギーと同様に、植物工場も現在、補助金に頼る構造にあります。
いかにして、設備投資の額を最小化していくかに、知恵を絞っていく必要があります。

特に、ジャスミン革命に代表されるように、この食糧危機が顕在化している地域も
現前としてありますし、
中国やインドでも、食料価格の高騰をはじめとしたインフレーションが続いています。

植物工場の推進を応援したいと思っています。

2011年4月12日で、カリフォルニア州で新たな法案が成立しました。

「2020年までに電力の33%を再生可能エネルギーで供給することを義務付ける」

カリフォルニア州では、2006年に、
2010年までの電力20%再生エネルギー化法案が可決しており、
成立しており、今回、それを20%から33%に大幅に上昇させたことになります。

再生可能エネルギーについて「33%」という高い目標は前例がなく、
野心的な目標と評されています。

この法案に署名をしたジェリー・ブラウン州知事は、背景についてこう語っています。

この法案はカリフォルニア州に重要な利益をもたらす。州内のグリーンテクノロ
ジーへの投資を刺激し、何万もの新たな雇用を創出し、州の大気の質を改善
し、エネルギー自給率を高め、温室効果ガスを削減する
※原文はコチラ

実は、同様の法案は、2008年にも議会を通過していました。
しかし、当時のシュワルツェネッガー州知事は、33%は非現実だとして署名を拒否。
法案を成立させるかわりに、拘束力の弱い「州知事令」として施行しました。

今回の法成立については、昨今のエネルギー事情が大きく影響していると思われます。
北アフリカ・中東アジアにかけての政情不安による原油価格の高騰。
日本での原発事故による原子力発電に対する批判的な意見の増加。
メキシコ湾原油流出事故による原油採掘見通しの後退。
いずれも、再生可能エネルギーの必要性に対する認識を高めることに寄与しました。

この「電力の33%」はどのぐらい野心的なのでしょうか。

下記のグラフは、2004年~2008年までの電力供給源の表です。


※出所:U.S. Energy Information Administration “California Renewable Electricity Profile

2008年の時点で、再生可能エネルギーは、全体の23.5%を占めているのがわかります。
しかし、カリフォルニア州の33%目標は、「再生可能エネルギー」の全体ではなく、
「再生可能エネルギー(水力除く)」の数値についてなのです。
つまり、2008年時点での11.9%を、2020年までに33%にすると言っているのです。
これはすごい躍進です。

このような大胆な目標設定ができるのは、カリフォルニア州ならではの事情もあります。
州内に世界有数のハイテク産業団地、シリコンバレーを抱えているからです。
シリコンバレーには、最先端のグリーンテクノロジーと、
それを支える膨大なマネーが集まっています。
州政府が掲げる目標により、投資家はグリーンテクノロジー開発に対する長期投資を
さらに加速することができるようになります。
そしてそれが、技術開発を促進し、さらに投資を呼び込むという好循環を生むのです。

また、カリフォルニア州は自然条件にも恵まれています。
州の西部には太平洋からの風が吹き、南東部は砂漠地帯で太陽が降り注ぐため、
風力発電や太陽光発電に適した広大な土地を有しているのです。

33%の目標達成のためのシナリオも作成されています。


※出所:カリフォルニア州のサイトコチラの資料

このように複数のシナリオを作成する手法は、「シナリオプランニング」と呼ばれ、
不確実な将来見通しの中で、柔軟に目標を達成する経営手法のひとつです。
 

しかし、この法案には批判も多く集まっているようです。
Financial Times紙の4/19WEB版では、様々な批判が紹介されています。

まず激しく抵抗しているのが、製造業です。
再生可能エネルギーに力を入れてきたカリフォルニア州では、
現在でも他の州に比べて電力価格が50%ほど高い水準なのですが、
カリフォルニア州共和党が、
今回の法律で電力価格がさらに19%上昇すると語っているためです。
※Huffpost Los Angeles, “California Renewable Energy: Brown
To Sign ‘Most Aggressive’ Mandate In The U.S.

国際競争が激化している中でのさらなる電力価格の高騰は、
人員削減や工場閉鎖につながる。
電力消費の大きい鉄鋼業、セメント業、鉱業は警鐘を鳴らしています。

次に反発しているのが、環境保護活動団体です。
今回の法律で拡大が見込まれる太陽光発電に対し、
「砂漠に建設される大規模太陽光発電プラントは動植物固有種に害を与えるため、
太陽光発電は屋根の屋上のみに限定すべき」
と反対しています。

僕はこの法律の野心的な目標設定を応援したいと思っています。
高い目標設定はイノベーションを加速します。
確かに反対派が唱えているように、課題もたくさん存在します。
しかし、いずれにしても電力供給を支えるためには、それらの課題も含めて、
問題をひとつひとつ解決し、前進していかなくてはなりません。

「問題があるから計画中止」というスタンスではなく、
「目標に向けて問題をどう一緒に解決していくか」という協働姿勢が
必要なのではないでしょうか。

「衣食住」の中でも、人が当たり前のように享受している住宅。
しかし、世界には、この当たり前の住宅が享受できない人が数多くいます。
国連の発表によると、
標準住宅以下での生活者が16億人、ホームレス生活者の数も1億人に達します
先進国といわれるアメリカの中でさえ、
9500万人が十分な住居環境がないまま生活しています。

このような住宅問題の多くは、いわゆる「貧困」です。
住宅を購入したり、賃貸するのに十分な資金がないことで大きな原因です。
しかし、この問題を別の切り口から考えた人々がいました。
この問題の原因を、「住宅価格が高すぎる」ということに置いたのです。

2010年8月のハーバード・ビジネス・レビューに、
The $300 House: A Hands-On Lab for Reverse Innovation?
という記事が掲載されました。
生活困窮者にも良好な住宅環境を供給するために、
なんと$300(約3万円)で住宅を建築できるようにしようと呼びかけたのです。

このラフスケッチにあるように、比較的設備の整った住宅をゴールに置いています。
そして、この構想を現実のものにすべく、動き出しているのが、
The $300 House“というプロジェクトです。
このプロジェクトの提案書には、
すでに$358(人件費除く)で1軒建築できる目途がたったことが報告されています。

この提案書を作成したのは、アメリカを代表するガラス建材メーカーの
オーウェンズ・コーニング(Owens Corning)社。
世界有数のガラスメーカーであるコーニング社とオーウェンズ・イリノイ社の合弁会社が、
1938年にスピンオフするかたちで創業し、
現在はニューヨーク証券取引所に株式公開しています。

オーウェンズ・コーニング社の提案は、
破傷性のない軽量ガラス素材で住宅の屋根や壁を構築し、
その断熱効果で、快適な住宅環境をつくりだそうというものです。

この商品は実際にすでに実用化されており、
チリやメキシコなどでは大規模な住宅建設が事業として営まれています。
この事業を担当している同社の国際ビジネス開発部長、R. Jon Kailey氏が
サンダーバード国際経営大学院の卒業生ということで、
今週開催された彼の講演を聞くことができました。

このガラス素材を用いた住宅建設の実績は、
2010年に7000棟、2011年には12000~30000棟の注文が
すでに見込まれているようです。
同社はこの事業を社会貢献としてではなく、実際の営利事業として展開。
オーウェンズ・コーニング社の新たな事業の柱となりつつあります。

この住宅の効能は、安全面にも及びます。
軽量素材のため、災害時の家屋倒壊による社会へのダメージが少なく、
2010年のハイチ大地震(M7.4)では家屋倒壊で約30万人の死者が出たのに対し、
同年のチリ大地震(M8.8)では、この軽量素材の効果により、
死者が500名にとどまったということです。

これまで手の届かなかった住宅が、さらに多くの人が入手できるようになる。
「$300」という具体的なゴール設定が、様々な関係者の知恵を喚起しました。
このように具体的なゴールを設定し、実現方法を模索する思考プロセスは、
「バックキャスティング(Backcasting)」と呼ばれています。
今後の持続可能な社会を創造していく上で、
このバックキャスティングはキーコンセプトになると考えています。

また、Kailey氏は講演の最後に、学生たちにエールを送る意味も込めて、
軽量ガラス素材を低価格で住宅用に用いる手法をひらめいた経緯をこう語りました。

「通常の企業は商品開発をする際に、
途上国に来て短期間のリサーチだけをして帰っていってしまう。
でも、自分はもう何十年も南米やアジアなどの発展途上国に赴任してきた。
だからこそ、彼らの実際の生活にあった住宅環境を設計、建築することができた。
他の企業には真似できない、自分たちの競争力だ。

成功の秘訣は全部で6点。
1. 常に思考をフレキシブルであれ。
2. 現場に張り付け。本部からイノベーションは起こらない。
3. 多様性を重視しろ。アメリカ人の自分が途上国にいくことで多様性は生まれた。
4. 常にコストは最小限。保守コストも最小限。
5. 商品やシステムについて自社のエキスパートになれ。そして新しい市場を創りだせ。
6. 人が嫌がる仕事やプロジェクトを率先してやれ。」

彼のこの姿勢からは、一人の社会人として気づかされることが多かったです。