2年半前に日本銀行統計を元に、
日本国債の保有者比率内訳の推移 〜日本国債とサステナビリティ〜
という内容をお届けしました。

その際は、国債の保有者(買い手)が大きく変化してきており、
銀行は国債の主要な担い手のポジションから遠ざかり、
生命保険を通じた国民一人一人、及び海外勢の保有者比率が
増加していることをお伝えしました。

あれから2年半の間に、日本の金融政策は大きく変化しました。
黒田氏が日本銀行総裁になり、「異次元緩和」という大規模な量的緩和政策。
また、国債の利回り低下による国債の資本的価値の低下。
その結果、2013年末時点での国債保有者はどのように変化したのか。
最新の結果をお届けします。

■ 日本の国債は2013年度末に1,000兆円近くに到達

2011年の東日本大震災での大規模な補正予算実施以降、
政権交代後も安倍政権は巨大な予算案を可決し続けています。
その結果、国債の発行額は1,000兆円に届く勢いです。

日本の国債残高(2014年)
※出所:日本銀行「資金循環」
※数値ローデータは、このページの最下部に掲載

では、保有者比率はどのように変化したのでしょうか。
著しく比率を伸ばしたのは、皆さんご推察の通り、日本銀行です。

日本銀行は量的緩和施策の発動により、
長期国債の保有残高が年間約50兆円増加するペースで
買入れを行っています。

結果、日本銀行の保有比率は2011年度末の9.7%から、
2013年度末には20.1%へと増加しました。

日本の国債保有者比率の推移

こちらの図から、2011年以降のトレンドとしてわかることを
まとめてみましょう。

● 日銀の保有比率が大きく増加している
● 銀行等の保有比率は大きく減少している。
● 保険の保有割合は横ばい
● 年金基金の保有割合は微増
● その他金融仲介機関の保有割合は微減
● 中央政府の保有比率は微減
● 海外の保有割合は増加

保有比率が大きく増加したのは、日銀と海外投資家でした。

■ 銀行等の詳細内訳

銀行等による日本国債の保有比率の推移

国内銀行と中小企業金融機関等の保有比率が大きく下がりました。

ちなみに中小企業金融機関等とは、
信用金庫、信用組合、そしてゆうちょ銀行のことです。
このうち国債を保有しているのは、ゆうちょ銀行が大半です。

国内銀行とゆうちょ銀行が国債保有比率を減らした背景には、
日本銀行が高値で国債を買ってくれることにあります。
これが日本銀行の量的緩和策の一つの側面です。

銀行は政府の国債発行時に、入札で国債を購入し、
そしてそれを短期で日本銀行に売却してその売却益を稼いでいます。
また、日本銀行が高値で買ってくれることが、
ある程度保証されているマーケット環境ですので、
日本国債の価格は高騰しており、
特にメガバンクはかつての保有国債も積極的に売却して稼いでいます。

■ 保険会社の詳細内訳

保険会社による日本国債保有比率の推移

保険の国債保有比率はこの3年でほとんど変化していません。

生命保険の安定的な国債買い増しの背景は、
生命保険会社が市場に投入した貯蓄型生命保険での
国債運用残高の増加です。

貯蓄型生命保険は依然として人気を集めており、
商品には国債運用による安全運用を謳うものが多く出回っています。
そのため、生命保険は貯蓄型商品のファンドを通じて、
安定的に国債を買い増しています。

冒頭の表でお見せしたように、同様に年金基金も、
安定的に国債を買い増しています。

■ その他金融仲介機関の詳細内訳

その他金融仲介機関の日本国債保有比率の推移

2011年まで「その他金融仲介機関」の割合が大きく減少した背景は、
前回解説しました。

今回のポイントは、
証券投資信託の保有比率が安定しているということです。
証券投資信託は、前述した保険や年金基金と同様、
国民からの資産性商品の積立によって、安定的に買い増しています。

■ 2015年の国債の行方

2015年に入り、すでに国債は新たな局面を迎えようとしています。

1月21日、「5年物個人国債、金利低下で募集中止 販売開始後初めて 財務省」(日経新聞)
2月3日、「10年物国債入札「不調」 債券市場に激震」(日経新聞)

日銀がどんどん買ってくれた国債の入札は人気があったはずですが、
ここにきて急に入札時の買い手がつかなくなっているのです。

それはすでに国債価格が高くなりすぎていて、
保有者が国債からの利益をあげづらくなっているからです。

まず、最終的にきっと日銀に売却できると言っても、
売却するまでは保有者が国債からの利回りを気にしなければなりません。
1月21日時点では、10年物国債の利回りは0.21%まで下がっていました。
利回りが小さいことは保有者にとっては旨味が少ないのです。

また、日銀が高値で買ってくれるからといっても、
さすがに日銀が額面より高い額(マイナス利回り)で長期間購入してくれるとは
期待しづらい。

そのため、入札に慎重になってきているのです。

2015年のポイントは、存在感を占める海外国債保有者の出方です。
この国債価格の高騰に陰りが見えてきた状況で、海外保有者が売りにでるかどうかには
注目が集まっています。

※ローデータは下の図をクリックすると拡大表示されます。
日本国債の保有者
(注)国債は「資金循環統計」のうち「国庫短期証券」と「国債・財融債」の合計。年度末のデータ。

東日本大震災後に、再生可能エネルギーに対する世論や政治機運が、一気に高まりました。

その後、これまで電気行政を管轄してきた経済産業省において、
「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」が計画され、衆参両議院で可決され、
再生可能エネルギーに対する投資・事業面での環境も改善されました。

では、実際に、震災後に、
再生可能エネルギー、特に、太陽光発電、風力発電、地熱発電は、
どのように進展してきているでしょうか。
今日は、そのあたりをまとめました。

■ 太陽光発電

震災後、一般電気事業者10社(北海道電力、東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、
関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力)は、
太陽光発電の運転を開始したり、新たな建設計画を発表したりしました。

東北電力:
八戸太陽光発電所(青森県八戸市)  1.5MW [2011/12/20 運転開始]
仙台太陽光発電所(宮城県宮城郡)  2MW [2012/5/25 運転開始]
原町太陽光発電所(福島県南相馬市) 1MW [2015年度運転開始予定]

東京電力:
浮島太陽光発電所(神奈川県川崎市) 7MW [2011/8/10 運転開始]
扇島太陽光発電所(神奈川県川崎市) 13MW [2011/12/19 運転開始]
米倉山太陽光発電所(山梨県甲府市) 10MW [2012/1/27 運転開始]

中部電力:
メガソーラーたけとよ(愛知県知多郡)7.5MW [2011/10/31 運転開始]
メガソーラーしみず(静岡県静岡市) 8MW [2014年度運転開始予定]

北陸電力:
三国太陽光発電所(福井県坂井市)  1MW [2012年9月運転開始予定]
珠洲太陽光発電所(石川県珠洲市)  1MW [2012年11月運転開始予定]

関西電力:
堺太陽光発電所(大阪府堺市)    10MW [2011/9/7 運転開始]

中国電力:
福山太陽光発電所(広島県福山市)  3MW [2011/12 運転開始]

上記のように、震災後、54MW分の太陽光発電所が運転を開始し、
11MW分が今後の運転開始に向けて、建設計画が進行しています。

しかしながら、これらの太陽光発電所は、震災後に計画されたものではなく、
震災前に政府主導で進められた「エネルギー大綱」によって、計画されたものです。
震災後の再生可能エネルギーの盛り上がりによるものではありません。
これら電力会社から、震災後に、新たな大規模太陽光発電所の建設計画は発表されていません。

一方で、震災後に、太陽光発電所建設を発表したのが、ソフトバンクの孫正義社長が主導する、
SBエナジー社です。

ソフトバンク京都ソーラーパーク(京都府京都市) 4.2MW [2012/7/1 運転開始]
ソフトバンク榛東ソーラーパーク(群馬県北群馬郡)2.1MW [2012/7/1 運転開始]
ソフトバンク徳島ソーラーパーク(徳島県板野郡) 5.6MW [近年中に運転開始予定]
ソフトバンク矢板ソーラーパーク(栃木県矢板市) 2MW [近年中に運転開始予定]

また、2012年7月1日に、SBエナジーは、
北海道苫小牧市で111MW、鳥取県米子市で39.5MW、長崎県長崎市で2.5MW、
熊本県で14MWの太陽光発電所の建設計画を発表しました。

SBエナジー社は、上記を含め、全国で合計200MWの太陽光発電所の計画を検討しています。

また、新たなプレーヤーとして登場したのが、
JA(全国農業共同組合連合会)が三菱商事と合弁でつくる「JAMCソーラーエナジー合同会社」です。
大型の畜舎や選果場、物流関連施設など400~600か所を対象に、主に屋根の上に太陽光パネルを設置する
という計画で、2014年度末までに合計で200MWの発電を達成させる計画です。

また、ソフトバンク京都ソーラーパークでの、太陽光発電モジュール納品と施行を担当した
京セラも、東京センチュリーリースと合弁で「京セラTCLソーラー合同会社」を2012年7月設立し、
今後3年間で合計60~70MWの太陽光発電所を稼働させる計画を発表しています。
すでに、大分県、香川県、福岡県、山口県で合計9か所、発電能力で16MWの建設計画が内定。
2012年度中に合計15~20か所で30~35MWの太陽光発電所を建設する見込みとなっています。
また、京セラ単独でも、鹿児島県で国内最大の発電能力をもつ70MWの太陽光発電所を2012年9月から
建設を開始することとなっています。

その他、長崎県松浦市で、市主導でメガソーラーの建設(1.2MW)が決まるなど、
「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」のもとで、地方自治体が新たな収入源を探る
動きも出て来ています。

一方で、発電事業者ではなく、住宅での太陽光発電も2011年度には大きく進みました。
太陽光発電協会の調べでは、
2011年度に、発電事業者で53.6MWが新たに運転を開始したのに比べ、
住宅用では1205.9MWの太陽光発電が開始されました。

■ 風力発電

風力発電は、太陽光発電よりも発電コストが低く、世界で大きな注目を集めていますが、
震災後の日本の風力発電の伸び率はあまり芳しくはありません。

上記は、日本風力発電協会がまとめているデータです。
2011年度は、単年度の新規導入量が85MWと低迷し、過去に比べ新規導入が著しく落ち込みました。

電力界社別に見ると、東北電力と九州電力が、累積の導入量では数が多いことがわかります。
最近では、北陸電力や四国電力、中国電力が、
関西電力圏内の電力不足を補うための送電を強化しており(風力発電系統連携)、
その手段として、風力発電を300MW~600MW強化する計画が進行しています。

メーカー別では、世界での風力発電のビッグプレーヤーである、
Vestas、GEの2社が、日本国内勢を抑え、日本国内の風力発電を牽引しています。

一方で、世界各国で注目を集めている洋上風力発電に関する大規模実証実験が、
日本でも始まろうとしています。
環境省、NEDO、及び資源エネルギー庁の国家プロジェクトとして、
着床式あるいは浮体式の洋上風力発電に係る実証研究計画が次々と始まっていきます。

しかしながら、まだまだ諸外国の洋上風力に比べ、実証実験レベルに留まっており、
大きな発電力をもたらすまでには、まだまだ時間がかかりそうです。
また、表の中で、国が管轄するプロジェクトは、全て日本のメーカーが受託しており、
国産の風力発電に対するR&D強化および、低迷する日本企業への投資支援の様子も伺えます。

洋上風力発電については、国土交通省海事局も、2012年8月1日に、
浮体式洋上風力発電施設の建築基準法適用除外を発表し、規制が緩和されたことで、
開発に対する環境面での整備は一部進みました。

また、太陽光発電に力を入れるSBエナジー社も、2012年7月1日、
島根県で48MWの風力発電所建設計画も発表しています。

このように、風力発電分野では、電力会社による推進が一部進むものの、
住宅用も進まない中、政府主導での研究開発色が強くなっています。

■ 地熱発電

地熱発電は、発電コストが太陽光、風力に比べても低く、期待が集まっていますが、
太陽光、風力に比べ、発電所の建設が大規模となることから、
技術面、資金面で開発着手までに多大な時間を要するため、
震災後の新規発電所はまだひとつもありません。

さらに、新規発電所の運転開始までには10年以上要すると言われており、
新たな発電所はまだまだ遠い先の話です。

建設開始の大きなハードルとなっているのが、温泉地への影響です。
環境省は国立・国定公園内の地熱発電開発において、
環境面を配慮した一定条件を満たせば特別地域内での「垂直掘り」を認める
規制緩和策を3月に決定ましたが、
その条件を満たすためには、長期的なアセスメントが欠かせず、
そのアセスメントに10年ほどがかかると言われています。

そんな中、直接、地下の熱水を吸い上げない「バイナリー発電」の分野では、
早期に検討が進んでおり、
福島県の磐梯朝日国立公園の特別地域内にある土湯温泉(福島市)では、
温泉の熱を使った「バイナリー発電」の施設が2013年度中に稼働する見通しとなっています。
しかし、発電出力は0.5MWと小規模です。

地熱発電は、やっと本格的に検討が始まったという段階です。

震災を機に、日本でも再生可能エネルギーに対する機運が非常に高まっています。
個人的な見解としては、すでに着工が進んでいる太陽光発電もさることながら、
潜在的な発電コストの低さで考えると、
洋上風力発電および地熱発電が、将来の日本の発電の柱になると考えています。

この洋上風力発電および地熱発電は、まだまだ実証事件や検討という段階で、
大きな躍進はこれからです。
政府は国産の技術力強化に余念がなさそうという状況ですが、
海外の技術活用も視野にいれ、スピード重視の稼働を早めてほしいと思っています。

sustainable japan

電力・エネルギー等サステナビリティに関する最新トピックスは、Sustainable Japanに掲載しています。御覧ください!

2012年6月19日に、主要メディアが一斉に、
「日本国債の海外保有者比率が過去最高の8%となった」という内容を報じました。

各紙の報道では、この背景には、
「ヨーロッパ国債危機」により安全資産と目される日本国債に、
海外投資家が逃げて来たという内容が書かれています。

このブログでは、「サステナビリティ」をテーマとしています。

通常、サステナビリティでは、環境や社会への影響が一般的に語られ、
国債や政府といったものが対象となることはあまりありません。

しかしながら、国債は社会に大きな影響を与える政府の負債。
この負債の償還が回らなくなったとき、国債危機が発生し、
社会の「継続性」は大きく損なわれることになります。

今回は、その日本国債の状況をご紹介したいと思います。

■ 日本の国債は2011年度末に900兆円を突破


※出所:日本銀行「資金循環」
※数値ローデータは、このページの最下部に掲載

日本の国債は毎年着々と増え続け、2011年度末には900兆円を突破。

新聞では海外勢の国債投資が活発化していることが報じられましたが、
保有額が増えているのは、海外勢だけでなく、銀行等や保険も大きく額が伸びています。

そこで、次に内訳のグラフを用いて、
保有割合が増えたのはどの機関なのかを見ていきましょう。

この図からわかることをまとめてみました。
● 預金取扱機関の保有割合が大きく上昇している
● 保険の保有割合も近年大きく伸びている
● その他金融仲介機関の保有割合が著しく減少
● 中央銀行は減少傾向にあり、一般政府も2007年以降減少傾向
● 海外の保有割合も一定して増加

このように、年々増えて行く年金は、各機関によって一律に伸びているのではなく、
保有者割合は大きく変化をして行っています。

日本ではかねてより国債の安定性についてこう言われてきました。

「日本国債は諸国と異なり、国内保有者比率が多い」
「預金の多い日本では国債危機は起こらない」

確かに、預金取扱機関の保有比率は群を抜いて多く、上の説も頷けます。

しかしながら、さらにデータを詳細に見て行くと、どうでしょうか。

日本銀行の「資金循環」統計では、
さらに細かい分類まで国債の保有者を調べることができます。

そして、その細かい保有者分類を見て行くと、
実は、上の説が、徐々に時代遅れになってきていることがわかってきます。

■ 預金取扱機関の詳細内訳

これは、国債保有者割合が最大だった「預金取扱機関」の詳細を見たものです。

俗説で言われる通り、2000年頃までは、
「国内銀行」が、最大の国債保有者でした。
しかし、その後、国内銀行の国債保有割合は、多少の増減をしつつも、
1997年から2011年にかけて大きく上昇しているとは言いがたい状況です。
国内銀行は、2000年代前半から保有割合を下げ、2008年頃から再び上昇しています。
すなわち、好景気のときには、
他の金融資産の利回りが上がりリスクが下がるため、
国債を手放して、株式などで運用し、
2008年以降の経済不況では、
低リスク資産と言われる日本国債の運用を増やしていると言うことができそうです。

一方、2000年初期以降「中小企業金融機関」が「国内銀行」を抜き去り、
最大の国債保有者に躍り出ています。

この中小企業金融機関とは何かというと、
この分類のほとんどの割合を占めているのが
旧称「郵便貯金」、現「ゆうちょ銀行」です。

しかしながら、「ゆうちょ銀行」の増加にはカラクリがありますので、
なぜゆうちょ銀行の割合が増えているのかについては、
「その他金融仲介機関」の項目で併せて後述します。

■ 保険会社の詳細内訳

続いて、保険会社を見て行きましょう。

保険の中でも、国債を保有しているのは、
圧倒的に生命保険会社であることがわかります。
そして、その割合は、一貫して年々増加しています。

生命保険会社の国債保有割合は、15.4%にもなり、
国内銀行の16.2%とほぼ変わらないほど大きな存在となりました。

生命保険の加入者が、細かい銘柄を意識せず積み立てているお金は、
生命保険会社により日本国債に巨額投じられています。

生命保険会社は、近年、貯蓄型の生命保険に力を入れてきた結果、
顧客から積み立ててもらっているお金が増加し、
その結果、安全資産と目される日本国債で多くを運用してきています。

個人向け国債はまだそれほどメジャーではありませんが、
貯蓄型生命保険という間接的な手法で、
日本国民は国債発行を下支えしています。

もはや、日本国債の引き受け先は、
「銀行」から「生保」に変わろうとしています。

■ その他金融仲介機関

その他金融仲介機関の多くを占めてきたのが、「公的金融機関」です。

ここには、国民生活金融公庫・中小企業金融公庫・商工組合中央金庫などの他、
以前は、国家財政において大きな存在感であった
「大蔵省資金運用部」も含まれていました。

資金運用部とは、
旧・大蔵省において政府関係資金の管理・運用を行っていたところで、
従来、郵便貯金、国民年金や厚生年金の掛金、政府特別会計の余裕金などは、
法律によって大蔵省資金運用部に集められ、
国債や財政投融資債、特殊法人融資などで運用されてきました。

しかし、2001年度の法改正により、
郵便貯金や年金掛金の資金運用部への預託義務が廃止され、
資金運用部自体も廃止されました。

この中央政府が吸い上げて来たお金の流れが廃止された結果、
「その他金融仲介機関」全体の国債保有割合は下がってきています。

そして、現在、ゆうちょ銀行やかんぽ生命は、
顧客から預かった資産を、自分たちの判断で、国債に投じています。

一般政府の割合が増えているのも同じ理由で、
以前は資金運用部がまとめて運用していた社会保障基金が、
各省で運用されるようになったためです。

こうして見る来ると、
日本国債は、生命保険を通じた国民一人一人、そして海外勢に依存する比率が
高まってきているということができます。

国債の引き受け先がいなくなったとき、
それは、既存の国債も含めて国債全体の価値が大きく下がることを意味します。

生命保険の分野では、インターネット保険の登場により、
貯蓄型生命保険の存在意義が問われるようにもなってきました。

近年、国債を買い支えてきた生保に頼れなくなるということでもあります。

国内の年金基金は高い利回りを求めて、海外投資を増やしているとも聞きますし、
これまで見て来たように、国債の海外保有者の割合は昨今増えてきています。

今後、誰が新たな国債の引き受け手となるのか。
はたまた国債の発行数自体をそもそも減らせるのか。

消費税政局の続く中、国債のサステナビリティについても、
社会の一人一人がもっと気にかけてよいテーマなのではないかと思います。

※ローデータは下の図をクリックすると拡大表示されます。

太陽光発電の普及・推進のためにマーケット分析などを行っている
Solar Plaza(本社オランダ)は、
CIGS型太陽電池のエネルギー効率ランキングを発表しました。

CIGS型太陽電池は、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)からなる
半導体材料CIGSを用いた太陽電池。
エネルギー変換効率、製造コスト、環境基準などの面で優れ、
世界の太陽電池市場を大きく牽引しています。

エネルギー効率の分野で今でもトップに君臨しているのは、単結晶シリコン(Si)型です。
しかし、シリコンは調達コストが高いことが大きなネックとなり、
現在では、コストの低い薄膜型の普及が進んでいます。

CIGS型の研究開発は近年大きく進み、
効率の面でも単結晶シリコン型に追いつこうとしています。


※出所:潜在的高ポテンシャルに期待が集まるCIGS 太陽電池

Solar Plazaは、世界の有数のCIGS型太陽電池を分析し、以下のランキングを発表しました。


※出所:Solar Plaza “Top 25 Solar PV Module Efficiency (CIGS)

トップに輝いたのは、台湾のTSMC
日本のCIGS開発の一端を担うホンダや、
世界のトップ太陽電池メーカーNano Solar(US), Q-cells(Germany)を抑えての堂々の1位。
台湾勢の技術力はどんどん向上しています。

TSMCはもともとは半導体専業のファンドリーメーカー。1987年に設立されました。
半導体製造技術を生かし太陽電池の開発・製造に着手。
2010年9月に台湾の台中市にR&Dセンターが完成。
2012年の第1四半期には100MWの生産工場、2012年末までにはさらに700MWの生産工場が、
完成する予定です。


TSMCのR&Dセンター(台中市)

2位のMiasoléは、米カリフォルニア州サンタクララ市に位置する、
太陽電池専業メーカーで、2003年に創業しました。
クライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズや、
バンテージポイント・ベンチャー・パートナーズといった名だたるプライベートエクイティ企業
からの資金調達を受け、急速に成長しています。
現在、120MWの生産能力を持っています。

太陽光発電普及の最大の課題である高コスト。
それを解決すべく、次々と新たなプレイヤーが登場しています。

太陽光発電が世界の発電力の中に占める割合はとても小さいですが、
この分野に、大きな投資が集まっていることもまた事実です。

sustainable japan

電力・エネルギー等サステナビリティに関する最新トピックスは、Sustainable Japanに掲載しています。御覧ください!

前回、地熱発電の仕組みを紹介しました。
地熱発電所とは何か?~仕組みと可能性~

地熱発電は、地球が発する熱を利用した環境に優しい発電方法です。

しかしながら、太陽光や風力発電が昨今注目される中、
地熱発電は、ここ近年日本で進展はしていません。

日本の地熱発電の推移
※出所:資源エネルギー庁

日本で初めて地熱発電所が実用化されたのは1966年。
岩手県八幡平市の松川地熱発電所が日本第1号です。
最大出力量は23,500kw。
現在も稼働している現役の発電所です。

もともとは、日本重化学工業社が建設・所有していましたが、
現在は、東北電力のグループ会社、東北水力地熱が所有しています。

その後、東北地方と九州地方を中心に、合計18か所に地熱発電所が建設されます。


※図:国立環境研究所

そして、最後に建設された地熱発電所は1999年に運転を開始した八丈島地熱発電所。
現在まで、東京電力が保有する最初にして唯一の地熱発電所です。
最大出力は3,300kwと小規模ですが、八丈島で消費される電力の1/3を賄っています。

この八丈島での運転開始から今日まで12年間、日本で地熱発電所は建設されていません。
その背景については、後日、解説していきたいと思います。

さて、現在、全国18の地熱発電所で生産されている電力量は、年間2,750GWh。
数が大きいように言えますが、日本の総電力消費量1,083,142GWh(2008年)の、
わずか0.025%を占めているにすぎません。

この日本の状況を他の国と比較してみましょう。

〇 日本と世界各国の地熱発電量

世界の地熱発電量推移

世界の地熱発電量推移


※出所:EIA

〇 地熱発電各国における地熱発電の割合

地熱発電は世界全体の発電量の0.3%(2008年)。
ちなみに、再生可能エネルギーの分野では、
水力16.2%、風力1.1%、バイオマス1.0%、太陽光0.06%、
バイオマス0.04%という状況です。


※出所:IEA

世界の地熱発電量が限られている理由のひとつに、
地熱を活用できるエリアが世界で限られているという点が挙げられます。

今日、上記の図で赤くなっているところを中心に、地熱発電が推進されています。

地熱発電の設備容量(2008年)をみても、発電量とほぼ同様の順位が得られます。


※出所:EIA

■ 世界の地熱発電大国アメリカ

世界のトップは30年前からアメリカです。
西部の火山地帯にある広大な土地を中心に、77の地熱発電所が現在稼働しています。

アメリカの地熱発電所での発電量(赤)と熱源利用量(緑)

アメリカの潜在的な地熱資源量

1970年代の石油危機を機にアメリカでは、エネルギー源の分散が図られ、
その中で注目されたもののひとつが地熱発電です。
アメリカ政府は、地熱発電の研究開発に資金を投じると同時に、
Geothermal Energy Research, Development and Demonstration (RD&D) Act
(地熱エネルギー研究開発実証法)を1974年に施行し、
巨額の資金が必要な地熱発電所建設に対する政府のローン保証プログラムを開始。
低リスクとなった地熱発電に対する電力会社等の投資が促進されていきます。

さらに、地熱発電の加速要因となったのが、バイナリーサイクル技術の誕生です。
※バイナリーサイクル技術については前回ブログを参照ください。
従来では発電に必要な熱エネルギーを持たなかったエリアでも、
地熱発電が可能となり、さらに投資が進みました。

その流れで1980年に相次いで地熱発電所が稼働を開始、一気に世界をリードしました。
しかし、1990年以降、地熱発電量は横ばいです。
原因としては、ローンプログラムの欠乏、連邦政府管理地の使用許可規制などが、
挙げられており、現在、地熱発電促進の阻害要因を取り除く検討が、
連邦政府及び州政府にて進められています。

そして、2005年に制定されたエネルギー政策法により、
地熱発電が米国政府の再生可能エネルギー生産税控除を受けられるようになったため、
米国西部の多くの市場で は現在、
地熱資源で発電される電力のコストが化石燃料による電力コストと等しくなり、。
経済情勢が追い風となり、地熱産業は急速に活性化しています。(コチラを参照)

■ 原子力発電を中止し、地熱発電に注力したフィリピン

世界の第2位の地熱発電量を誇るのがフィリピンです。
1972年に制定された地熱発電開発に関する大統領令(PD1442)で、
地熱発電事業者に対する大幅減税や減価償却期間引き伸ばし、専門家招致など、
インセンティブ施策が整備されました。

さらに、1976年に原子力発電所が着工し、1985年工事がほぼ終了したものの、
1986年に発足したアキノ政権は、同発電所の安全性および経済性を疑問視し、
運転認可が見送った結果、さらに地熱発電の重要性が増していきました。
結果、1990年代にフィリピンの地熱発電量は大きく増加しました。

フィリピンでは発電量の17.6%が地熱発電で賄われています。

現在でも政府は地熱発電をさらに推進していく姿勢を示しており、
現在の地熱発電設備容量195.8万kWhを、2013年までに313.0万kWhにまで
高める計画を掲げています。

■ 地熱発電の新たなリーダーになるインドネシア

インドネシアは、2000年代に入ってから急速に地熱発電量を増加させてきています。

インドネシアにおける地熱発電の魅力は、その資源量の豊富さです。


※出所:NEDO

インドネシアは地熱資源量において世界でダントツのトップです。
地熱発電量2位のフィリピンを大きく上回る地熱資源量を有しています。

2005年に当時のユドヨノ政権は、2025年までの地熱発電量目標を設定。
2008年時点で93.3万kWhの地熱発電設備容量を、
2025年に950.0万kWhにまで増加させるとしています。
ちなみに、福島第一原子力発電所の発電容量は約500.0万kWh。
その約2倍もの地熱発電を行うという計画です。(コチラを参照)

しかしながら、現在、この計画はスケジュールが大幅に遅れている状況です。
原因は、地熱発電への設備投資を民間設備投資に大きく依存している状況です。
政府政策の不安定性、政府からの財政支援の欠如、発電建設所投資の不確実性リスクなど
から民間企業の設備投資が思うように進んでいないことが、
インドネシアの現在の大きな課題です。

■ 急速に地熱発電の開発が進むアイスランド

アイスランドはほぼすべての全力を、再生可能エネルギーで賄っている国です。
そのうち75.5%を水力、残りの24.5%を地熱発電で調達している、地熱先進国です。

アイスランドの特異な点は、その立地にあります。
その他の地熱発電がマグマ溜りを熱エネルギーの供給源にしているのに対し、
アイスランドだけは、ホットプルームを熱供給源としています。
アイスランドは、ホットプルームの上に位置している特異な島なのです。
※マグマ溜りとホットプルームについては前回ブログをご覧ください。

そのため、アイスランドでは他のエリアより高温の熱エネルギーが得られ、
効率的な地熱発電が可能となっています。
2000年入ってから、大型の地熱発電所が次々と操業を開始し、
地熱発電の電力が急速に伸びています。

さらに、アイスランドでは地熱を発電目的だけでなく、
熱エネルギー目的でも使用しています。
具体的には、冬期の路上凍結を防ぐための路面温度上昇のための熱、
商業用・家庭用の温水生成のための熱などが挙げられます。

■ 新たな発電所建設が進まず年々発電量が衰える日本

一方、日本は1997年をピークに、年々地熱発電量が減少しています。
理由は、新たな発電所の建設が1999年以降進んでいないことと、
既存の発電所の発電量が、地下熱の低下により、落ちてきていることです。
そこで、2006年に地下熱の低下でも発電を可能にするためのバイナリーサイクル方式が、
八丁原発電所に導入されました。

それでも、日本は世界第3位の地熱資源量を誇る国です。
他の地熱資源保有国が地熱発電への投資を加速させる中、日本は出遅れています。

この日本における地熱発電はなぜ停滞しているのか。
その原因については、あらためてこのブログでお伝えしていきたいます。

sustainable japan

電力・エネルギー等サステナビリティに関する最新トピックスは、Sustainable Japanに掲載しています。御覧ください!

最近、日本でも地熱発電への関心が集まってきました。

もともと、火山地帯に位置する日本は、
地熱発電の可能性が高いと言われていましたが、
ここ数年は、風力発電や太陽光発電などと比べ、
あまり注目を集めてきていませんでした。

東日本大震災を機に、再生可能エネルギー促進のひとつの選択肢として、
今、地熱発電がスポットライトを浴びています。

八丁原発電所
※日本で最大の地熱発電所「八丁原発電所」

■ 地熱とは何か?

地熱発電とは、地球が地面の奥底に持っている熱エネルギー「地熱」を利用して、
発電を行う手法です。


※図:Wikipedia

地球の内側は非常に高温です。
地球の中心に最も近い内核と呼ばれる部分(地下5100km~6400km)は、
約6000度もの温度があります。
その次に中心に近い外核と呼ばれる部分「外核」(地下2900km~5100km)でも、
およそ4300度と言われています。

その外核の外側には「マントル」と呼ばれる部分があります。
このマントルは、地中約60kmから2900kmまでを占めています。
下部の2900km付近は、約3000度ほどありますが、
外側にいくにつれ温度は下がり、上部の60km付近では1000度以下にまで下がります。
地熱としては1000度もあれば十分なエネルギーが得られますが、
さすがに、このマントル上部まで掘削する技術や資金はありません。

しかしながら、マントルは、固体の岩ですが、緩やかに対流をしています。
マントルが下部から上部にかけて上昇する箇所は「ホットプルーム」と呼ばれています。
このホットプルームは、マントル下部の高温の岩盤を上に運ぶため、
ホットプルームの上にある地殻は、他よりも高温となっています。
このホットプルーム現象が、地熱発電のための大きな熱エネルギー供給源となっています。

ホットプルーム
※図:岡山大学理学部浦川研究室

しかしながら、ホットプルームは地球上でも限られた箇所にしかありません。
地熱発電のためのもう一つの重要な熱エネルギー供給源は、「マグマ溜り」です。
マグマとは、マントルの一部がなんらかの影響で高温および高圧となり、
固体であった岩盤が溶けて流体になった個所のことを指します。
そして、流体となった岩盤は、浮力の影響で上へ上へと上昇し、
地下5kmから10kmの付近で滞留して、「マグマ溜り」となります。
マグマ溜りの温度は1000度以上あると言われています。
これが地熱発電のための熱エネルギー源となります。。

■ 地熱発電とは何か?

地熱発電は、
ホットプルームやマグマ溜りが周囲の地下水層を高温化させることを利用した
発電方法です。

平たく言えば、水が高温化して発生した水蒸気のエネルギーを利用して、
タービンを回し、発電をするのが、地熱発電です。
沸騰したやかんが、やかんの蓋を持ち上げる力があることと原理は同じです。

熱水化している地下水層を、専門用語で「地熱貯留層」と呼びます。
 

■ フラッシュサイクル

まず、ベーシックな地熱発電の方法(フラッシュサイクル地熱発電)をご紹介します。

フラッシュサイクル地熱発電
※図:東北発電株式会社

まず、地下700メートルから3,000メートルくらいの深い井戸(蒸気井)を掘ります。
この蒸気井から高温化して熱水と蒸気が混ざった流体物質を取り出します。

続いて、気水分離機により、熱水と蒸気が分離されます。
抽出された蒸気は、タービンに運ばれ、タービンを回転させ、発電を行います。
残った温水は、一部、金属物などの有害物質が含まれている可能性があるため、
別の井戸(還元井)を通り、再び地中深くに戻されます。

また、タービンを回転させた後の熱い蒸気は、復水器にて冷やされて温水となり、
さらに冷却塔にて外気に来よって冷却され、同様に還元井に運ばれ、地中に戻されます。

これが地熱発電の基本的なサイクルです。
この方式は、熱水と蒸気を気水分離機によって一度だけ分離させるので、
シングルフラッシュサイクルとも呼ばれています。
日本で最も多くの地熱発電所で採用されています。
 

■ ダブルフラッシュサイクル


※図:九州電力

シングルフラッシュサイクルに対し、こちらのダブルフラッシュサイクル方式では、
熱水と蒸気を二度にわたって分離させ、より多くの蒸気を抽出することができます。

そのため、設備は複雑となり、建設コストも膨らみますが、
発電量(出力量)を向上させる効果があります。

仕組みとしては、気水分離機によって1回目の熱水・蒸気分離が行われたあとに、
残った熱水はフラッシャーと呼ばれるに送られ、
さらにそこから蒸気が抽出される(2回目)というものです。
国内で最大の地熱発電所、八丁原発電所で採用されています。
 

 

■ ドライスチーム

フラッシュサイクルが熱水と蒸気を分離させる方式であるのに対し、
このドライスチーム方式は、熱水と蒸気を分離させるステップを踏みません。
地下から取り出された蒸気がほとんど熱水を含まず、
気水分離機を使って分離をさせる必要がない場合に用いることができます。
国内初の地熱発電所、松川地熱発電所で採用されています。
 

■ バイナリーサイクル(バイナリー発電)

地下から取り出された蒸気や熱水が温度が低い場合に用いられる方式です。
温度が低い場合には、蒸気のエネルギーが小さいため、効率的にタービンを回すことができません。
そこで、蒸気エネルギーを別のエネルギーに変えるアイデアが生まれました。
それがバイナリーサイクルです。


※図:Cool.jp

バイナリーサイクルのポイントは、蒸気や熱水の力をそのままは使わない点です。
まず、地下から取り出された蒸気や熱水は、それ自体が高温であり熱をもっています。

気水分離器で蒸気と熱水に分離されたあと、熱水は予熱器に、蒸気は蒸発器に送られます。
そして、この予熱器と蒸発器により、
沸点が水よりも低いアンモニアやペンタン・フロンが温められ、蒸発させられます。
アンモニアやペンタン・フロンは沸点が低いため、水蒸気分よりも多くの気体を得られるのです。
そのため、水蒸気をそのままタービンに運ぶより、より多くのタービンを回す力が得られます。

このバイナリーサイクルは、比較的新しい技術です。
日本では八丁原発電所で試験的に運用が行われています。
試験運用にはイスラエルのオーマット社製の設備が用いられています。

さらに、バイナリーサイクルは、比較的低温の熱水でも発電可能な技術であるため、
現在、高温の温泉を施設にバイナリーサイクルの発電設備を併設させ、
発電を行うという構想(温泉発電)も練られています。
 

■ 高温岩体発電


※図:電力中央研究所

これまで説明してきたフラッシュサイクルやドライスチーム、バイナリーサイクルは、
地下から熱水や蒸気を取り出して行う発電方式です。

しかしこの方式は、地下に十分な水分が貯留されている場合には適用できますが、
地下に高温の岩盤(高温岩体)だけがあり、水分がない場合には活用できません。

それに代わって、水分がなくても地下の熱を利用してしまおうというアイデアが、
高温岩体発電です。
仕組みは、地上から高圧の水分を送り込んで岩盤を破砕し、人工的に地熱貯留層を創り出します。
さらに、気水分離後や発電後に発生する温水を、還元井を通じて再び地熱貯留水に戻し、
循環的に地下に水を溜めるシステムを作り上げるモデルです。
高温岩体発電は深度2~3km 程度、岩盤温度200~300度程度のポイントを
掘削対象としています。

この高温岩体発電の建設に際し、還元井のポイントを見極めることも大切です。
還元井された温水は、再び蒸気井へとつながるポイントに戻っていかなければなりませんし、
蒸気井に近すぎると、マグマ溜りで十分に加熱することができません。
そのため、破砕の際の振動を分析し、この人工地熱貯留層へとつながる別のひびを掘削して、
還元井を創りだすという技術が開発されています。

この高温岩体発電は国内ではまだ実用化されていません。
しかしながら、国内で実用化されると、
38GW以上(福島原子力発電所1号機~6号機までの合計が4.7GW)におよぶ資源量が
国内で利用可能と見られています。(電力中央研究会

海外では、グーグル社の社会貢献部門”Google.org”が、
高温岩体発電の研究開発に取り組む研究機関に対し、
合計1025万ドルを投資する計画を2008年に明らかにし(情報はコチラ)、
オーストラリアのジオダイナミクス社は、
南オーストラリア州北東部のクーパーベイズンで建設中の大規模な高温岩体地熱発電プラントを
進めています(2010年完成予定)。(情報はコチラ

高温岩体地熱発電は英語で、Enhanced Geothermal systems”EGS”と呼ばれています。
こちらの動画は英語ですが、とてもわかりやすくEGSを説明してくれています。

さらに、掘削が容易な高温岩体ではなく、
より高温で多くの熱エネルギーが得られるマグマ溜り付近に地熱貯留層を創りだす
という、「マグマ発電」構想も研究機関では練られています。
 

〇 地熱発電のメリット

■ CO2発出量が少ない

地熱発電とCO2排出量
※図:JOGMEC

地熱発電は他の再生可能エネルギーと比べても、CO2排出量が低い優等生です。

■ 発電コストが比較的低い


※出所:IEA

コストの面でも、他の再生可能エネルギーの中でも優等生です。
 

〇地熱発電のデメリット

■ 資源の枯渇化

まず、「いつか地熱貯留層の蒸気や熱水が枯渇してしまうのではないか?」という点です。
枯渇までいかなくても、何らかの状況により地下物質の温度や圧力が変わっても、
従来通りの発電力は期待できなくなってしまいます。
そのため、枯渇が見込まれた場合には、新たな発電所を建設する必要が出てきます。

さらに、地熱貯留層の水源を巡る温泉産業の反発という問題もあります。
地熱発電により地下の熱水や蒸気が早期に枯渇してしまうのではないかという懸念や、
地熱発電所が景観を損ね、観光地の魅力を下げてしまうのではないかという懸念が、
温泉地から実際に上がっています。

■ 費用対効果

次に、「必ず地熱貯留層を掘り当てられるか?」という問題もあります。
地熱貯留層や高温岩体は地上からは100%の確率で掘り当てることはできないため、
失敗すると膨大な費用が無駄になってしまう点です。
この不確実性も、地熱発電促進の大きな足かせとなっています。

■ 自然破壊の可能性

さらに、「自然破壊につながらないか?」という問題もあります。
国内の地熱貯留層は山岳地帯に位置しており、
エリアの大半は国立公園として保護されているエリアに該当します。
1972年に当時の通商産業省と環境庁の間で交わされた覚書により、
既設の発電所を除き、国立公園内に新たな地熱発電所を建設しないというのが
現在の政府方針となっています。
しかしながら、地熱発電の促進のため、東日本大震災後の規制緩和改革の中で、
国立公園での地熱発電建設を認める方向で政府の議論が進んでいます。

日本や世界の地熱発電の現状については、あらためて別の記事でご紹介したいと思います。

世界と日本の地熱発電の状況~日本、アメリカ、フィリピン、インドネシア、アイスランドを中心に~

sustainable japan

電力・エネルギー等サステナビリティに関する最新トピックスは、Sustainable Japanに掲載しています。御覧ください!

※2015年の時点の最新データを含めてコチラにアップデートしましたので御覧ください。

前回、日本のエネルギー・発電供給状況についてレポートしました。
日本のエネルギー・発電力の供給量割合

今回は世界各国の状況をお伝えしていきます。

はじめに、2008年の世界主要各国の発電電力の電源割合をまとめました。


※出所:IEA

ヨーロッパ諸国は原子力発電に対する依存度が高い

ヨーロッパは原子力発電を大いに活用した発電をこれまで実施してきています。
原子力発電の割合は、フランス(76.4%)、ベルギー(53.7%)、スウェーデン(42.6%)、
スイス(40.2%)、フィンランド(29.6%)。
これらの国は日本の原子力割合23.9%を上回っています。
さらに、ドイツ(23.3%)、スペイン(18.8%)、イギリス(13.5%)と続きます。

背景には、エネルギー自給率を高めようという狙いがあります。
例えば、フランスは国内に天然資源が少なく、火力発電を行うためには、
化石燃料を国外より調達する必要があります。
天然ガスパイプラインが高度に整備されているヨーロッパ諸国では、
ロシアやカスピ海周辺からの天然ガスの供給も技術的には可能です。
しかし、安全保障上の観点から海外依存度を高めたくないフランスは、
原子力発電所強化によるエネルギー自給率向上の道を選んでいます。

一方、石炭の産地であるドイツや、北海に油田やガス田を有するイギリス、デンマークでは、
国内産の化石燃料を使った火力発電が可能ですが、
他の先進国と同様、原子力発電を「経済的な新技術」として迎え入れ、
1950年以降建設を進めてきました。

しかしながら、国内外での原発事故を機に、脱原発の機運がいくつかの国で高まっています。
結果、ドイツ、ベルギー、スイスでは、原子力発電所を全廃する方針が決まっています。
その他の原子力発電所依存度の高い、イギリス、スペイン、スウェーデンでも、
脱原発を求める社会運動が活発化しています。

原子力発電所依存度ゼロのイタリア、デンマーク、ノルウェー

原子力発電所の安全性に懐疑的なイタリア、デンマークでは、
早くから原子力発電所を放棄する選択をし、現在、原子力発電所は稼働していません。
※放棄を決めた年は、イタリア(1987年)、デンマーク(1985年)。
国内での発電能力が乏しくフランスからの電力輸入に依存しているイタリアは、
原発再開を政権目標としていましたが、福島第一原子力発電所事故後の国民投票で、
原発再開に94%が反対し、再開計画を見送りとなっています。

再生可能エネルギーに力を入れるデンマーク、ドイツ、スペイン、イタリア、イギリス

エネルギー自給率の向上、原子力発電所への懸念という大きな流れ、
さらには、環境に対する関心の高まりを受け、
デンマーク、ドイツ、スペイン、イタリア、イギリスでは、
風力や太陽光などの再生可能エネルギーが大々的に促進されています。

ドイツ、スペイン、イタリアでは2005年から大規模太陽光発電所(メガソーラー)の建設が活発になっています。
※詳細は「メガソーラーの可能性 ~世界の太陽光発電プラント・トップ30~
2008年時点で、太陽光発電の占める割合は、
ドイツ(0.7%)、スペイン(0.8%)、イタリア(0.1%)ですが、
2009年、2010年にこの割合は、2倍前後に拡大していると推測されます。

一方、風力発電が促進されている国は、デンマーク、スペイン、ドイツ、イタリア、イギリスです。
太陽光発電と同様2005年前後から建設は進み、2008年時点で、風力発電が占める割合は、
デンマーク(19.0%)、スペイン(10.3%)、ドイツ(6.4%)、
イタリア(1.5%)、イギリス(1.8%)。
こららの国では、2009年、2010年ともに風力発電はさらに拡大を続け、
特に最近では、イギリス、デンマークでの洋上風力発電(オフショア風力)の建設が進んでいます。
※詳細は「世界の風力発電動向~各国発電量と洋上・陸上風力発電所ランキング~

ヨーロッパにおける再生可能エネルギー促進の背景となっているのが、EU目標設定です。
1997年にEUは、
「2010年までに最終エネルギー消費の12%を再生可能エネルギーで賄う」という
政策目標を掲げ、さらに2004年に、
「2020年までに20%」という長期目標を掲げました。
このEU目標は、各加盟国に対する目標設定を義務付けることにつながり、
結果として、国を挙げての再生可能エネルギー大号令が始まっています。
EUが定義している再生可能エネルギーには、水力発電も含んでいるため、
各国の目標設定には、水力発電の状況を鑑み、大きな開きがあります。
※EU加盟国ごとの目標数値はコチラ

海外からの化石燃料輸入に依存する日本・韓国・台湾

国内に化石燃料資源の乏しい日本・韓国・台湾は、
石炭・石油・天然ガスを輸入することで電力需要を賄っています。

その結果、この3か国の化石燃料輸入量は世界でもトップレベルです。
========================================
石炭:日本1位(187Mt)、韓国3位(119Mt)、台湾5位(63Mt)
石油:日本3位(179Mt)、韓国5位(115Mt)
天然ガス:日本1位(99bcm)、韓国6位(43bcm)
========================================

化石燃料の海外依存度は、「資源枯渇時の脆弱性」「安全保障上の脆弱性」
「資源逼迫時の価格高騰」という3つの脆弱性を内包します。
エネルギー自給率の向上は3か国それぞれの戦略課題となっています。

また、非資源国であるという同じ理由で、原子力発電の割合も多いのが特徴です。

国内産石炭に大きく依存する中国・インド・オーストラリア・南アフリカ

世界の石炭産出国ランキングは、2010年時点で以下となっています。
============================
1位 中国(3,162Mt)
2位 アメリカ(997Mt)
3位 インド(571Mt)
4位 オーストラリア(420Mt)
5位 インドネシア(336Mt)
6位 ロシア(324Mt)
7位 南アフリカ(255Mt)
=============================

この上位7か国で世界全体の石炭産出量の84%に達します。
そして、この産出国は国内の発電における石炭依存度が非常に高い状況になっています。
中国(79.1%)、インド(68.6%)、オーストラリア(76.8%)、南アフリカ(93.2%)。
その他のアメリカ、インドネシア、ロシアでは石油や天然ガスも産出できるため、
石炭単独の依存度は50%を下回っていますが、化石燃料全体の割合はやはり高いです。

今後、上記の中国、インド、南アフリカなどの新興国が経済発展するにつれ、
同国内での電力需要は飛躍的に向上していくことが予想されます。
その際、世界の石炭価格はさらに高騰し、石炭だけで電力需要を賄いきれなくなった
国々は、他のエネルギー源を用いた発電に着手をしていくと考えられます。
例えば、昨年、世界の半数近くの石炭を算出している中国が、
さらに海外産の石炭を輸入し始めるという石炭の純輸入国に転じています。
インドもすでに石炭の純輸入国となっています。
中国やインドでは、風力発電、太陽光発電などの建設が進んでいますが、
この流れをどこまで加速できるかに、世界の化石燃料価格の趨勢がかかっています。

さらに、石炭は、石油や天然ガスに比べ、発電1kWあたりの温室効果ガス発生量が多く、
環境面から問題視されている燃料源です。

石炭を効率的に電気エネルギーに転換する技術においては日本企業が優れています。
日本の技術を他国に導入していくことで、世界の石炭消費量の増加を抑制することも可能です。

拡大する先進国・新興国での天然ガスの活用

多くの先進国、新興国では、天然ガスに対する依存度が非常に大きい状態となっています。

特に、原子力発電所をもたない新興国(東南アジア、西アジア、アフリカ、南米)では、
この天然ガスからの発電割合がとても大きいのが目立ちます。

天然ガスは、石炭や石油に比べ、温室効果ガス排出量が少ないですが、
温室効果ガスそのものを排出することには変わりはなく、
天然ガス火力発電の伸長は、地球温暖化に悪影響を与えます。

多くの国では、原子力発電所の設置を検討して言いますが、
福島第一原子力発電所事故の経験もあり、どこまで浸透するかは不透明な状況です。
その状況下で、新興国でも再生可能エネルギーの建設が促進されています。
再生可能エネルギーの発電コストが高いことが注目されていますが、
天然ガス価格の高騰は、既存の火力発電コストを押し上げることも意味します。
火力と再生可能エネルギーとの相対的な発電コストの差は縮まっています。

フィリピンとインドネシアで進む地熱発電

再生可能エネルギー全体の中でも、フィリピンの地熱発電割合(14.4%)は目立ちます。
また、インドネシアでも3.2%をマークしています。
フィリピンとインドネシアは環太平洋造山帯に位置する火山地帯。
豊富な地熱を重要なエネルギー源として位置付けています。

フィリピンでは、1976年に原子力発電所が着工し、1985年工事がほぼ終了したものの、
1986年に発足したアキノ政権によって同発電所の安全性および経済性が疑問視され、
運転認可が見送られた経緯があり、その後、地熱発電を大きく促進しています。
インドネシアでも、一時検討されていた原子力発電所計画が、福島第一原子力発電所事故を契機に頓挫し、
その後、大規模な地熱発電の拡大計画を政府が打ち出しています。
こうして、フィリピン、インドネシアともに、地熱発電プロジェクトには、
海外の金融機関や商社も大規模に出資を行い、開発が進んでいます。
※詳細は「世界と日本の地熱発電の状況~日本、アメリカ、フィリピン、インドネシア、アイスランドを中心に~

水力発電の割合が大きいブラジル、スイス、ノルウェー、カナダ、スウェーデン、ベトナム

水色の水力発電の割合が大きいのがこの6か国。
豊富な水資源と勾配の激しい山地により、大規模な水力発電所が設置されています。
特に顕著なのがノルウェーとブラジルで、
それぞれの発電全体の98.5%、79.8%を占めています。

水力発電も再生可能エネルギーのひとつとみなされ、注目を集めていますが、
多くの先進国では、大規模ダムの建設は一通り終了しており、
水力発電所の数は横ばいとなっています。
一方、発展途上国では今後の発電の柱として、水力発電を位置付けており、
世界銀行などが建設を支援しています。

水力は温室効果ガス排出量が最も少なく、維持コストも小さいエネルギー源である一方、
堆砂によるダム寿命の縮小、魚類生態系への影響、水質の変化など負の側面も有しています。
さらに、近隣居住地や歴史的文化物の水没など社会的な損失ももたらします。
そのため、大規模水力発電を再生可能エネルギーから除外して考える考え方もあります。
 

ここまで、発電割合から各国の状況を見てきましたが、
最後に、2008年の各国の電力消費量の状況もみておきたいと思います。


※出所:IEA

ここから3つのポイントを指摘できます。

北欧諸国は一人あたりの電力消費量が多い

電力消費量が突出しているのが、ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、そしてカナダ。
背景にあるのは、厳しい冬場の暖房費です。
寒冷地域の暖房性能の改善や、家全体の断熱効果の改善は、
これらの国の電力消費量を下げることにつながります。

アメリカ・オーストラリアは電力浪費が多い

一方、寒冷地域でないのにかかわらず、電力消費量が多いのがアメリカ、オーストラリア。
この2か国は、一人あたりの電力「浪費」が多い、電力浪費大国社会であるといえます。
世界全体のエネルギー効率改善のために、
浪費生活の見直しと、発電、配電、エネルギー転換のそれぞれの効率を
さらに向上することが求められます。

新興国の電力消費量は今後上がる可能性大

ヨーロッパ諸国と日本の電力消費量が6000~8000kWhであるのに対し、
新興国の水準は500~2000kWh。
すなわち、今後の経済発展により、電力消費量は10倍程度まで増加すると見込まれます。
そのため、世界全体の見地から見た、エネルギーの最適化が今後必要となります。
改善できるものを素早く見極め、企業・政府・家庭が一体となって減らせるものを減らすという
努力が必要になっていきます。
 

原子力発電に関する懸念が高まる中、発電拡大に対するスピードが遅くなるのであれば、
消費を効率化することを考えなければなりません。
東日本大震災後に展開された「節電」を一時的なものと考えず、むしろチャンスととらえ、
「何を減らせるか?」「どうしたら効率をあげられるか?」という知恵が今求められています。

sustainable japan

電力・エネルギー等サステナビリティに関する最新トピックスは、Sustainable Japanに掲載しています。御覧ください!

※2015年の時点の最新データを含めてコチラにアップデートしましたので御覧ください。

東日本大震災をきっかけに、日本でもエネルギー・電力への関心が高まっています。
そこで、今回、日本のエネルギー・発電の供給量割合をあらためて、紹介したいと思います。

ちなみに、供給量割合とは、日本のエネルギー・電力が、
石油、石炭、原子力、水力、再生可能エネルギー(風力、地熱、太陽光など)で
どのぐらい賄われているかというものです。

一般的によく使われているものが、以下のデータで、
こちらは経済産業省エネルギー庁が発表している「エネルギー白書」で公表されています。

このデータから、一般電気事業者の発電供給量の供給源割合がわかります。
一般電気事業者とは、地域ごとの電力供給をしている、いわゆる「電力会社」です。
日本にはこの一般電気事業者が10社あります。
※北海道電力、東北電力、東京電力、北陸電力、中部電力、関西電力、中国電力、四国電力
九州電力、沖縄電力。

この中で、石油等、LPG、石炭の3つを合計したものが火力発電に相当します。
全体で61.7%という圧倒的なシェアを誇っています。

次に多いのが原子力発電。29.2%のシェアがあります。
そして、水力が8.0%。水力のシェアはそれほど大きくはありません。
また、昨今注目が集まっている再生可能エネルギーは1.1%と非常に限られています。

それでは、ここから、それぞれの項目について少しずつ解説していきます。

■ 水力(一般水力・揚水水力)

1960年代まで日本の発電を牽引した水力発電は、
1975年に日本で落差最大の黒部ダムが完成した頃から、それほど増えていはいません。
水力発電は、維持コストが低く、CO2排出のないクリーンエネルギーである一方、
ダム建設に莫大な費用がかかる上、水没による社会的コストも大きく、
大規模に発電量を増やす手法としては適してこなかったためです。

一方、1980年代から増えてきたのが、揚水式水力発電です。
こちらは、電力需要の少ない夜間に、電気を使って水を高地に引揚げ、
電力需要の多い昼間に、その水を使って水力発電を行うというものです。
この揚水式水力発電は、発電総量を増加させることにはあまり寄与しませんが、
電力の需給バランスを調整するための手法として活用されてきました。

また、最近注目が集まっているのが、「中小水力発電」です。
巨大なダムを建設するのではなく、既存の河川の流水を利用して行う、
中小規模の水力発電です。
再生可能エネルギー(自然エネルギー)として注目されていますが、
発電量が限られていることや、生態系への影響などから、日本ではほとんど実績がありません。

■ 石油等

日本の火力発電は、石油を燃料として活用してきました。
中東からの原油安定供給を手にした日本は、
発電所建設コストの低い火力発電所の建設ラッシュのためのエネルギー原料として、
原油を用いてきたからです。

しかし、原油は発電以外の燃料源(特にガソリン)として貴重な原料であり、
発電目的で使うことを控えるという国際気運の中、
1975年の第3回国際エネルギー機関(IEA)閣僚理事会において、「石炭利用拡大に関するIEA宣言」
の採択が行われ、石油火力発電所の新設禁止が盛りこまれました。
さらに、1973年と1979年のオイルショックにより、
「石油依存」を減らすということを日本政府も大きく掲げ、
以降、火力発電の原料が、石油から石炭、LPGなどに移っていきました。

昨今の発電議論の中で、依然として火力発電と石油を結びつける内容が多いですが、
火力発電において、実際に日本が注視すべきものは、石炭や天然ガスの世界の動きです。
特に、CO2排出量が比較的少ない天然ガスへの期待が、世界全体で大きくなっています。

また、この石油を使った火力発電に関する大きな懸念は、
原油価格の高騰です。
原油価格の高騰は、火力発電コストの増加だけでなく、
エネルギーの安定供給においても、大きな不安要因となります。


※出所:IEA “Key World Energy Statistics 2011

■ 石炭

明治時代から盛んとなった日本の炭鉱業は、
昭和時代には主要炭鉱はほぼ閉山し、
現在火力発電に使われている石炭はほぼ100%輸入石炭です。
石炭の輸入先は、オーストラリアとインドネシアで全体の82%を占めています。
2010年時点で日本は世界一の石炭輸入国でもあります。


※出所:帝国書院

エネルギー供給源としての石炭の不安材料は、石油と同様価格の高騰です。


※出所:IEA “Key World Energy Statistics 2011

この価格高騰をさらに脅かすのが、中国の動向です。
中国は世界で圧倒的な石炭の生産シェアを持っています。


※出所:IEA “Key World Energy Statistics 2011

その中国が、2010年に石炭の純輸入国に転じました。(出所
それは、中国が急増するの国内電力需要を賄う手法として、
石炭火力発電に頼ってきたためです。

IEAの”World Energy Statistics 2011″によると、
2009年の中国の総電力消費量は3545TWhでアメリカの3961TWhに続いて世界第2位。
同年の日本の消費量997TWhの3.5倍以上となっています。

中国は石炭依存度を下げるため、再生可能エネルギーや原子力発電を積極化させる
動きを見せていますが、
さらに増え続ける中国の電力需要は、石炭価格を押し上げる大きな要因ともなります。

■ 天然ガス

日本では、天然ガスは一般的に”LNG(液化天然ガス)”と呼ばれます。
それは、天然ガスが諸外国では、産地から消費地まで「パイプライン」で輸送される
のに対し、日本ではパイプラインを持っていないため、
気体である天然ガスを-162℃以下に冷却して液体にした”LNG”を輸入しているためです。

天然ガスの輸入先は、マレーシア、インドネシア、オーストラリアの3か国で、
全体の57.2%を占めています。


※出所:帝国書院

天然ガスは、一般的にパイプラインで運ぶ場合輸送コストが低く、
さらにエネルギー転換効率も高く、CO2排出量を相対的に抑えることができるため、
火力発電のエネルギー源として世界中での注目が集まっています。

日本の政府・企業も天然ガス権益を確保するため、
世界各国で天然ガス発掘プロジェクトを大きく展開しています。(コチラ

天然ガス価格も石炭や原油と同様、高騰してきています。
特に、パイプラインではなく、LNGに依存する日本は、他国よりも
天然ガスの輸入価格が高い傾向があり、
電力価格を他国よりも押し上げる要因の一つにもなっています。


※出所:IEA “Key World Energy Statistics 2011

■ 原子力

原子力発電は、CO2排出量が非常に少なく、さらにエネルギー自給率を高めることが
できる「夢の発電所」として、日本のエネルギー政策の柱となってきました。

2010年に改訂された日本政府の「エネルギー基本計画」の中でも、
CO2排出量の削減と電力価格の安定化を実現させるため、
原子力発電のシェアを大きく向上させることを掲げていました。

しかし、2011年3月の東日本大震災による原発事故を機に、
見直しの機運が大きく高まっています。

それでも、依然として原子力発電に対する期待は根強いものがあります。
その期待の大きなポイントは、発電コストの低さです。

しかしこの発電コストの低さを強調する議論に対し、
「原発事故が起こった場合の対策費用や社会的損失費用などが考慮されていない」
として、原子力の発電コストの計算方法に異議を唱える人々も多くいます。

さらに、原子力発電については、日本企業がリードする分野でもあり、
日本政府や経済界からも原発の普及を進めるべきだという強い声があります。


※出所:資源エネルギー庁

■ 再生可能エネルギー(自然エネルギー)

CO2排出量や環境サステナビリティに観点から2000年から耳目を集める
再生可能エネルギーですが、
日本国内における発電実績としては、微々たるシェアに留まっています。

2010年6月に改訂された日本政府の「エネルギー基本計画」では、
原子力と再生可能エネルギー(水力含む)の比率を、
2020年までに50%、2030年までに70%とする計画を打ち上げました。
さらに、その中で、再生可能エネルギーが占める割合を、
2020年までに全体の10%に達するという計画も含まれています。

しかし、この計画も、自然エネルギーを促進する材料とはなりません。
水力が全体の約8%を占める日本において、
再生可能エネルギー(水力含む)を10%にするということは、
水力を除いた現在のシェア1%をわずか2%にするということにしか
ならないためです。

再生可能エネルギーの推進が進まない大きな要因は、
上図からわかる発電コストの高さです。
発電コストの増加は、家庭用電力価格の増加を招くだけでなく、
産業用電力価格を押し上げ、産業の国際競争力を下げることにもつながります。

しかしながら、風力、太陽光、太陽熱、地熱など、それぞれの分野での、
技術革新が進み、発電コストが今後大きく下がることも予想されています。

Hydro:水力
Geothermal:地熱
Wind Onshore:陸上風力
Wind Offshore:水上風力
Biomass:バイオマス
Concentrating solar:太陽熱
Solar PV:太陽光

東日本大震災後、政府はすでに、「エネルギー基本計画」を見直すことを
表明しました。
この中で、再生可能エネルギーがどこまで原子力分を担えるのかが、
大きな議論のポイントなっています。

ここまで、現在の日本の発電供給量割合について、
「エネルギー白書」のデータを基に内容を見てきました。
ここから先は、よりデータ分析について興味がある方に向けて、
少し専門的な話をしてきたいと思います。

日本のエネルギー・発電力の供給量割合についてより専門的に分析する際、
冒頭で用いた「エネルギー白書」のデータを用いることいろいろな問題があります。

理由の一つ目は、上記のデータが「電力」に限られている点です。
世界的にエネルギー供給量について議論される場合、
対象は電力だけでなく、その他の熱源等も含んだ概念としての、
「一次エネルギー供給」が用いられています。
英語では、Total Primary Energy Supply(略称TPES) と呼ばれています。
そのため、特に国際比較などをする場合には、
一次エネルギー供給の数値を用いなくてはなりません。

理由の2つ目は、エネルギー白書のデータの出所が、一般的な情報リソースを
用いていない点です。
世界や日本のエネルギー・電力の供給量割合としてよく用いられるのは以下ですが、
エネルギー白書のデータは、下記のいずれとも一致せず、比較ができません。

<一次エネルギー供給>
・国際エネルギー機関(IEA) “Balances
・経済産業省資源エネルギー庁 “総合エネルギー統計/エネルギーバランス表

<発電>
・国際エネルギー機関(IEA) “Electricity/Heat
・米国エネルギー庁(EIA) “Electricity/Generation
・経済産業省資源エネルギー庁 “電力調査統計/発電実績(総括)

それぞれの供給量割合は以下となります。

さらに、EUは再生可能エネルギーの目標設定に際し、
「発電量」でも「一次エネルギー供給」でもない、「最終エネルギー消費」
という指標を用いています。
「最終エネルギー消費」とは、「一次エネルギー供給」から、
発電に要するエネルギーと配電ロスを差し引いた数値を指します。

また、国際データ比較をする際や、他のデータ分析を参照する際には、
データの定義を確認することも欠かせません。
特に、このエネルギー供給割合においては、まぎらわしい定義の違いがあります。
例えば、
・「エネルギー供給実績」or「エネルギー供給設備能力」
・「電力会社のみの数値」or「他の供給主体も含めた数値」
・再生可能エネルギーが水力を含むのか含まないのか
というものが主なものです。
ご注意ください。

先日、世界のメガソーラー(大規模太陽光発電)の世界の状況についてレポートしたのに続き、
今回は、世界の風力発電の状況をご紹介したいと思います。

世界の風力発電の大規模化は、太陽光発電を大きく凌駕する勢いで進んでいます。
例えば、現在の世界最大規模の太陽光発電所は、カナダのSarnia で92MW。
一方、現在の世界で最大規模の風力発電所は、アメリカのRoscoe で781.5MW。
8倍以上の開きがあります。
さらに、風力発電所の大規模化は今後も大きく進むと予想され、
中国は5000MWを超える超巨大風力発電所を2020年に甘肃省にオープンする
ことを発表しています。
※世界の風力発電所ランキングについては後述します。

世界の風力発電は、2006年あたりから、急速に造塊しています。
世界風力エネルギー協議会(Global Wind Energy Council: 通称GWEC)が
発表している、世界の風力発電トップ12か国を見てみましょう。


※出所:GWECレポート Global Wind Report 2010, 2009, 2008

ご覧いただくと、中国、アメリカ、ドイツ、スペイン、インドが
世界の風力発電を大きくリードしていることがわかります。

ドイツ、スペインは太陽光発電の分野でも世界をリードしており、
再生可能エネルギー全般にを政府が全面的に後押ししていますが、
その両国を超えるスピードで、中国、アメリカ、インドでは、
風力発電の建設が進んでいます。
中国は2010年ついに累積風力発電量で世界トップとなりました。

続いて、大規模風力発電所の状況を紹介します。
風力発電所はその立地により、オンショア風力発電(陸上風力発電)と
オンショア風力発電(洋上風力発電)に大きく分けられます。

大規模化が著しく進んでいるのは、建設コストが少ないオンショア風力発電です。

オンショア風力発電出力量の世界ランキングトップ35>

オフショア風力発電出力量の世界ランキングトップ35>

オンショア風力発電の分野では、アメリカ、特にテキサス州での建設が目立ちます。
理由としては、テキサス州政府が発令している送電網の電力会社(風力発電電気の買い手)
負担政策が挙げられます。
この政策により、
風力の強いテキサス州の荒地から都市部などの電力消費エリアに送電するコストが軽減され、
風力発電の発電事業者が積極的に大規模風力発電所を建設できるようになりました。

オフショア風力発電の分野では、イギリスとデンマークの存在が目立ちます。
両国ともに、風力発電量全体としては、それぞれランキング8位、11位ですが、
オフショア風力発電の分野では、世界を牽引しています。
特にデンマークは、国営企業Vattenfallと、国営色の濃いエネルギー企業DONG Energyが、
自国内だけの発電量増加だけでなく、積極的に近隣諸国に展開し、
発電プラントを積極的に建設しています。

一方、イギリスは、オフショア風力発電の一層の促進を計画しています。
2010年1月イギリス政府は、オフショア風力発電のライセンスを大規模に発行。
世界最大となる9,000MW規模の発電所をはじめ、
超巨大風力発電所が複数誕生する予定となっています。


※出所:BBC News

今回はデータを中心に紹介しましたが、各国の事情については、
今後紹介していきたいと思います。

sustainable japan

電力・エネルギー等サステナビリティに関する最新トピックスは、Sustainable Japanに掲載しています。御覧ください!

8月30日、米国カリフォルニア州に本社を置く、
太陽光発電パネルメーカーのSolyndra社が、連邦倒産法第11章に基づく
申請を行い、倒産しました。
(ニュースはコチラ

Solyndra社は、CIGS型薄膜太陽光パネルメーカーとして2005年に創業。
クリーンエネルギーの担い手として、オバマ大統領からも絶賛されていました。

ベンチャー・キャピタルから10億ドル以上の資金を調達。
さらに米国エネルギー省からも「債務保証」を受け、
仮に債務不履行となった場合に、エネルギー省が負担をする契約も
とりつけていました。

2009年には、1億ドルの売上を記録しましたが、巨額の債務は山積みのままで、
エネルギー省より「債務保証」に基づき、5億3500万ドルの支払いを受けます。

しかしながら、新たな産業促進を目指したエネルギー省の政策もむなしく、
2年後に倒産。1000人以上の従業員が職を失いました。
また、血税5億3500万ドルも返済はされず、ベンチャー・キャピタルも
10億ドル以上の損失を蒙りました。

このため、アメリカでは、太陽光発電に対する政府補助に対して、
批判的な意見が巻き起こり始めました。

その中で、サステイナビリティ関連のニュースを報道するメディア、
TriplePunditは、面白い議論を展開しています。
 

=====================================
 

未来への教訓

Q. 太陽光発電関連企業は落ち目にあるのか?
A. ノー。世界を見渡せば、この業界は激しい競争にある。太陽光発電パネルの価格は
 著しく下がってきている。今回の問題は、Sokyndraが競争に生き残れなかったという
 だけだ。

Q. ベンチャー・キャピタルはクリーンテクノロジー新興企業への投資をやめるべきか?
A. ノー。むしろ逆で、試行錯誤プロセスは市場メカニズムだ。新興企業は失敗確率の
 高い高リスクビジネスだ。ベンチャー・キャピタルはそのリスクを心得ておくべきだ。

Q. 米国連邦政府はクリーンテクノロジー新興企業への投資をやめるべきか?
A. イエス。政府は債務をどんどん膨らましている。適切な歳出を維持することすら
 できていない。政府は、ベンチャー・キャピタルのような高いリスクをとる余裕は
 ない。これが今回の真の教訓だ。
 

=====================================
 

新しい技術は、競争原理の中で育ってきます。
競争原理の中では、勝者も生まれれば、敗者も生まれます。
上記のTriplePunditの教訓には、僕は合点がいきます。

1 / 3123