The Princeton Reviewが、

北米の大学の「環境配慮度」(The Green Rating)を毎年発表しています。

ちなみに、この「環境配慮度」とは以下の項目で測定されています。

・地域産品、オーガニック食材、エコ食品への支出が食品支出全体に占める割合。
・大学が、バスのフリーパス、他の交通機関のフリーパス、自転車シェアリングや
 自転車レンタル、カーシェアリング、乗り合いバスサービスなど、車の一人乗り
 を避けるための取組をしているかどうか。
・キャンパスの持続可能性を改善するために、学生も委員として参加した公式な
 委員会を開催しているかどうか。
・新校舎建設時に、LEED Silver規格や同等規格に則っているかどうか。
・廃棄物再利用の割合。
・大学が、環境学の主専攻、副専攻、認証プログラムを設けているか。
・大学が、入学選考時に「環境リテラシー」を審査しているか。
・大学が、温室効果ガス排出の目録を作成して公開し、さらに2050年までに
 温室効果ガス排出量を80%削減する気候行動計画を採択しているか。
・大学エネルギー消費量(冷暖房含む)のうち、再生可能エネルギー(原子力、
 大規模水力発電除く)が占める割合。
・大学が、フルタイムのサステイナビリティ担当理事を置いているかどうか。

2011年のこの審査において、満点の「99点」を取得した大学は次の15校です。
※審査全体は311校。

American University (Washington DC)
Arizona State University (Tempe)
College of the Atlantic (Bar Harbor ME) Dickinson College (Carlisle PA)
Georgia Institute of Technology (Atlanta)
Harvard College (Cambridge MA)
Northeastern University (Boston MA)
Oregon State University (Corvallis)
San Francisco State University (San Francisco CA)
State University of New York – Binghamton University
University of California – Santa Cruz
University of Maine (Orono)
University of Washington (Seattle)
University of Wisconsin – Stevens Point
Virginia Tech (Blacksburg VA)
Warren Wilson College (Asheville NC)
※アルファベット順

大学の顔ぶれがどうなのかはさておき、
「環境配慮度」を上記と定義した発想は、参考になります。

昨今では、環境やサステイナビリティについての専攻を設置する
欧米の大学や大学院が増えてきていますが、
まだまだ、その質の評価については明らかになっていませんし、
その「教育の質」についての評価は未知です。

この分野を志す方々のためにも、その質の評価が待たれます。

※僕の別ブログである「アメリカ・サンダーバードMBA留学ブログ」から転載しました。

今回は、最近、日本でも注目が集まりつつある「社会起業家」と
MBAの関係について、トレンドをお伝えしていきたいと思います。

以前は、「資本主義社会の士官学校」と呼ばれたビジネススクールも
最近はプログラムの種類を増やす動きをとりつつあります。

そして、その中でも一番力を入れているといっても過言ではないのが、
「社会起業家(Social Entrepreneurship)」プログラムの拡充です。

主要な欧米のビジネススクールでは、
プログラムの中に、社会起業家関連の授業を開講したり、
実際に社会起業家のもとでの実務を行う特別プラグラムを開設したり、
社会起業家に関連するカリキュラムを次々と用意をしていっています。

この動きの背景には、学生側と企業側のそれぞれのニーズの変化が、
影響していると考えられます。

まず、学生側のニーズについて考えていきましょう。

以前は、「ビジネススクールを出たら、コンサルティング企業が投資銀行へ」
と言われた時代も大きく変化をしつつあります。

最近では欧米の主要なビジネススクールの卒業生の中には、
NPOや社会的企業と言われる「社会的役割に重視をおいた企業」へ就職したり、
このような企業や組織を卒業後起業する学生が増えてきました。

また、こちらのUS Newsの記事でも紹介さているように、
卒業後の就職先を選ぶ際の軸として、
「社会的貢献性の強い」という要素を挙げる学生も増えてきています。

さらに、多くの学生は、
「環境や社会を意識している企業は高収益である」と考えるように、
なってきているということも併せて報じられています。

このような学生の関心の変化に対応するため、
各ビジネススクールは、
環境や社会などサステイナビリティに関連する履修科目や
開発支援、社会変革などに関するプログラムを拡充しているようです。

さらに、企業側のニーズも変化してきました。

以前、ビジネススクールに期待を寄せてきたのはいわゆる「大手企業」
だったのですが、
最近では、NPOや社会的セクターからの期待もたくさん集まるように
なってきました。

それは、従来は政府やコミュニティーからの財政的支援によって
支えられていたNPOや社会的セクターが、
昨今の政府の財政難を前に、財政的な自立を迫られ、
これまでMBAが提供してきた、マネジメントスキル、財務分析スキル、
組織運営スキル、ITスキルなどを必要とするようになってきたためです。

このような社会起業家教育を求める方々に向けて、
US Newsが全米のビジネススクールの社会起業家教育ランキングと
そのプログラムの内容を発表しています。

1. Yale University (School of Management)

2. University of California-Berkeley (Haas School)

3. Stanford University (Graduate School of Business)

4. Northwestern University (Kellogg School of Management)

5. Harvard Business School

6. University of Michigan (Ross School of Business)

7. Duke University (Fuqua School of Business)

8. University of Pennsylvania (Wharton School)

9. Columbia University (School of Business)

10. New York University (Stern School of Business)

11. Case Western Reserve University (Weatherhead School of Business)

また、アメリカ以外のビジネススクールでは、
University of Oxford (Saïd Business School)の
Skoll Centre for Social Entrepreneurship
が有名です。

このように大きなトレンドになりつつある「社会起業家プログラム」ですが、
個人的には、まだまだ2つの大きな課題があると感じています。

(1) 理論な確立が未整備

多くの日本人の多くは、大学に「理論教育」を求めているように感じています。
しかしながら、社会起業家(Social Entrepreneurship)の分野は、
まだ理論的な裏付けがほとんどなされておらず、
ソーシャルビジネスのマネジメントは、
通常の企業マネジメントとほぼ同様に扱われています。
※同様に扱われていることそのものに大きな問題はないと思います。

ビジネススクールが新たに開設したプログラムの多くは、
「ケーススタディのケースとして、社会的企業を扱う」
「オフキャンパスプログラムとして、社会的企業への訪問を行う」
「社会的企業へのインターンシップ斡旋を行う」
というもので、理論教育ではなく、「自分で体験して学ぶ」ものとなっています。

そのため、何か「理論的に特殊なことを学びたい」と考えている方にとっては、
これらのプログラムは多少物足りないかもしれません。
しかしながら、「そもそも実務家スキルは体験して学ぶものだ」という側面から
考えると、上記のプログラムは実践を体験する良い機会になると思います。

(2) コストパフォーマンス

もう一つの課題は、MBAの高い学費と将来の報酬をいかにペイさせるかという点です。
従来は、MBA取得に多額の資金を投資したとしても、
コンサルティング企業や投資銀行、大手メーカー等への就職から得られる報酬増を
考えると、MBA投資は十分にペイすると言われてきました。

ですが、今回紹介したNPOやソーシャルビジネスの分野は、
一般的にはさほど給与水準の高い「業界」ではありません。

誤解を恐れずに言うと、
資金的にゆとりのある家庭で生まれ育ったり、
なんらか組織的な財政援助を受けられる人でない限り、
社会起業家教育のためにMBAを取得することには大きな覚悟がいります。

ビジネススクール側には、
「顧客(学生)への付加価値をいくらと見積もるのか?」
「教育機会提供のための収益源は授業料だけでよいのか?」
という新たな課題がつきつけられているように感じます。

「資本主義の士官学校」の姿は、徐々に変わりつつあります。

※僕の別ブログである「アメリカ・サンダーバードMBA留学ブログ」から転載しました。

「環境」「持続可能性(サステイナビリティ)」の必要性が増す中、
アメリカでのビジネススクール(MBA)の動きにも変化が出始めています。
今日は、「Green MBA」「Sustainable MBA」の動きを紹介します。

2年前にBusinessWeek紙は、
「Green MBA」「Sustainable MBA」が登場してきた背景について
このように報じました。

MBA Programs Go Green

At one time, business schools “greened” their MBA curriculums in response to a new wave of students for whom sustainability was more than just a catchphrase.

「かつて、ビジネススクールが、持続可能性を重視する学生の新たな波に
反応して、MBAカリキュラムを「グリーン化」しはじめた」

Today, business schools are continuing to ramp up their efforts for green curricula, but for a much different reason. In a world beset by economic woes as well as environmental problems, sustainability represents one of the few potential bright spots in an otherwise dismal recruiting environment.

「しかし今、ビジネススクールは、他の理由から「グリーン化」の動きを加速している。
経済不況と環境問題に悩む世界の中で、持続可能性は雇用が明るい数少ない領域
のひとつになっている。」

つまり、以前は、ただの「人気集め」だったGreen MBAが、
実利的な「就職」のためにも、重要性が増してきたというわけです。

そんな中、レベルの高低を問わず、様々なビジネススクールが、
カリキュラムの「グリーン化」に積極的に取り組み始めています。

この流れを受けて、MBA受験生が好きな「ランキング」にも、
「Sustainablily」や「CSR」という切り口のものが登場してきました。

Financial Times (2011):

1 University of Notre Dame (Mendoza)
2 University of California at Berkeley (Haas)
3 University of Virginia (Darden)
4 Ipade
5 Yale School of Management
6 University of North Carolina (Kenan-Flagler)
7 Thunderbird School of Global Management
8 University of Michigan (Ross)
9 Northwestern University (Kellogg)
10 York University (Schulich)

Beyond Grey Pinstripes (2009):

1 York University (Schulich)
2 University of Michigan (Ross)
3 Yale School of Management
4 Stanford Graduate School of Business
5 Notre Dame (Mendoza)
6 University of California at Berkeley (Haas)
7 RSM Erasmus MBA
8 New York University (Stern)
9 IE Business School
10 Columbia Business School

また、起業家教育(Entrepreneurship)に強いビジネススクールである

Massachusetts Institute of Technology (Sloan)
Stanford Graduate School of Business
Babson College (Olin)

は、カリキュラムの中に、理工学系の大学院とタイアップし、
技術ベースの起業を推進していったことで、
起業家教育の地位を盤石にしていきました。
ここからも、Greenという名の最先端技術が雇用やビジネスを生む
土台となってきていることがわかります。

さらに、Wikipediaでは、Sustainable MBAに特化した学校として、
以下の学校が紹介されています。

Anaheim University
Antioch University New England
Bainbridge Graduate Institute
BSL – Business School Lausanne
Colorado State University – Global Social & Sustainable Enterprise program
Dominican University of California – MBA in Sustainable Enterprise
Duquesne University – Donahue – Palumbo Schools of Business – MBA – Sustainability Program
Green Mountain College
Marlboro College Graduate School – MBA in Managing for Sustainability
Marylhurst University- MBA in Sustainable Business
National Institute of Industrial Engineering, Mumbai, India
Presidio School of Management of Alliant International University
University of East Anglia – MBA Strategic Carbon Management
University of Exeter – One Planet MBA
University of Michigan – Erb Institute for Global Sustainable Enterprise

このように、ビジネスがCSRやSustainablityが取り組んでいく流れには反対意見もあります。
一番の急先鋒は、ノーベル経済学賞も受賞している
ミルトン・フリードマン・シカゴ大学経済学教授です。

フリードマン教授は、2006年に亡くなっていますが、
1970年から一貫して、「企業の社会的責任」という考え方を否定し続けてました。

The Social Responsibility of Business is to Increase its Profits

彼の考え方は、

“There is one and only one social responsibility of business – to use its resources and engage in activities designed to increase its profits”

「唯一のビジネスの社会的責任は、資源と活動を利益の増加のために使うことだ」

というものです。

もちろん、フリードマン教授は、
倫理や社会への影響を考慮することは重要だと言っていますが、
「社会的責任」が広範囲の意味合いをもつことを退けました。
彼は、利己心や利益追求がもたらす社会の活力を重視していたためです。

フリードマン教授はシカゴ学派というマクロ経済のひとつの流行を作り出し、
国際金融の世界にも大きな影響を与えてきました。
そのフリーマン教授のアメリカは、「利益志向が強い」国だと言われてきました。

しかし、「企業の責任は利益の向上」という考え方に関する国際的な調査の中で、
この考えに賛同する人はアメリカよりも日本のほうが多く、
日本はアラブ首長国連邦に次いで、世界第2位(賛成 70%)でした。
ちなみにアメリカは9位(賛成 55%強)。

意外な結果かと思われるかもしれませんが、僕は、
以下のような、パナソニック創業者の松下幸之助氏の思想が
強く広く共有されているためではないかと考えています。

企業の利益というと
何か好ましくないもののように
考える傾向が一部にある。

しかし、そういう考え方は正しくない。
もちろん、利益追求をもって企業の至上の目的と
考えて、そのために本来の使命を見忘れ、
目的のためには手段を選ばないというような
姿勢があれば、それは許されないことである。

けれども、その事業を通じて社会に貢献すると
いう使命と適正な利益というものは
決して相反するものではない。

そうでなく、その使命を遂行し
社会に貢献した報酬として社会から
与えられるのが適正利益だと考えられるのである。

だから、利益なき経営は、それだけ社会に対する
貢献が少なく、その本来の使命を果たし得ていない
という見方もできるのである。

持続可能性を向上していこうとする際、企業という手法を、
どのように活用し連携していくかが大きなカギを握っていると思います。
ビジネススクールでもそれを模索する試みが始まっています。

※僕の別ブログである「アメリカ・サンダーバードMBA留学ブログ」から転載しました。

こんにちは。

先日、アリゾナ州立大学(Arizona State University, ASU)の
テクノロジー&イノベーション学部(College of Technology and innovation)の
Mark Henderson教授が、
僕が留学中のサンダーバード国際経営大学院で出張講義を開催してくれました。

プレゼンテーションのテーマは、
今後ますます注目されていくBOP市場(世界の貧困層向けビジネス)について。

途上国支援というと、ボランティアやNPO活動が想像されますが、
僕、個人としては、ボランティアベースの活動は、あまり好きではありません。
従事者の奉仕の精神に依存しすぎていて、持続可能性がないからです。
しかし、援助をビジネスベースで実施していくスタイルに対しては
非常に興味がありますし、応援していきたいと考えています。

Mark Henderson教授の取り組みは、ビジネスベースで実施していこうという発想。
GlobalResolveという名のプロジェクトを運営しており、
講義の中では、その成果と課題について説明がありました。

<GlobalResolveとは>

このプロジェクトでは、
途上国の現地のニーズに対応した画期的な製品を
デザインして提供しています。

具体的には、

1. 現地を訪問 (現在はガーナが舞台)
2. 現地のニーズを把握
3. 製品デザイン
4. ビジネスプラン設計
5. 現地に製造販売会社設立

という流れです。

これまでの実績としては、下記のようなものがあります。

‐調理用加熱機器の販売
 [現地課題] 人体に悪影響のある煙を吸い、現地で多数死傷者が出ている。
 [製品] 現地で製造メンテナンス可能な加熱機器をデザイン

・家庭用ランプの販売
 [現地課題] 電気供給がないため、夜に団らん、勉強などができない。
 [製品] 持ち運び可能で、発電装置つきのランプをデザイン

<GlobalResolveの課題>

製品の経営としては赤字ではないので、
一応、ビジネスっぽくなっていますが、
残念ながら、持続可能性がまだありません。

なぜなら、運営に必要な製品設計、製造、マーケティング、販売などすべてが
ASUおよび現地大学の教授や学生によって提供されているためです。

活動はまだビジネスと呼べるレベルではなく、
大学によるボランティア活動の域を出ていません。
これでは、大学の教授や学生を超えた規模での運営はできませんし、
大学が予算を削れば、おのずと活動は継続できなくなってしまいます。

Thunderbirdはビジネススクールなので、
この点は僕も含め学生から厳しい言及がなされてました。

このように、課題が多いGlobalResolveではありますが、
活動の概念としては素晴らしいものなので、
応援していきたいと思っています。

余談ですが、ASUは素敵な大学です。
今回、テクノロジー&イノベーション学部の活動を紹介しましたが、
そもそも「テクノロジー&イノベーション学部」とは何なのでしょうか。

かつては、ASUも、法学部、経済学部、工学部というように、
伝統的な学部区分をしていました。
しかし、現在の学長が、「学際(学問横断)的な研究をすべし」という方針のもと、
学部区分の再編を断行したのです。

そのため、テクノロジー&イノベーション学部は、
社会イノベーションを目的とする
工学、社会学、経済学、経営学、文化人類学などの教授が集まって
構成されています。
学生のカリキュラムも、これらの学問を横断的に履修することが
求められています。

「機能単位→ミッション単位」という組織論の大きな流れを、
大学というレベルで実現している、面白い取組です。

ASUで勉強している日本人留学生の数は約100名ほど。
残念ながら、年々減少しているようです。

ASUでは最先端の社会起業家教育が受けられます。
社会起業 Social entrepreneurshipを大学で学びたい方は、
Stanford, Yaleなどと合わせ、ASUも検討してみてください。