東日本大震災後に、再生可能エネルギーに対する世論や政治機運が、一気に高まりました。

その後、これまで電気行政を管轄してきた経済産業省において、
「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」が計画され、衆参両議院で可決され、
再生可能エネルギーに対する投資・事業面での環境も改善されました。

では、実際に、震災後に、
再生可能エネルギー、特に、太陽光発電、風力発電、地熱発電は、
どのように進展してきているでしょうか。
今日は、そのあたりをまとめました。

■ 太陽光発電

震災後、一般電気事業者10社(北海道電力、東北電力、東京電力、中部電力、北陸電力、
関西電力、中国電力、四国電力、九州電力、沖縄電力)は、
太陽光発電の運転を開始したり、新たな建設計画を発表したりしました。

東北電力:
八戸太陽光発電所(青森県八戸市)  1.5MW [2011/12/20 運転開始]
仙台太陽光発電所(宮城県宮城郡)  2MW [2012/5/25 運転開始]
原町太陽光発電所(福島県南相馬市) 1MW [2015年度運転開始予定]

東京電力:
浮島太陽光発電所(神奈川県川崎市) 7MW [2011/8/10 運転開始]
扇島太陽光発電所(神奈川県川崎市) 13MW [2011/12/19 運転開始]
米倉山太陽光発電所(山梨県甲府市) 10MW [2012/1/27 運転開始]

中部電力:
メガソーラーたけとよ(愛知県知多郡)7.5MW [2011/10/31 運転開始]
メガソーラーしみず(静岡県静岡市) 8MW [2014年度運転開始予定]

北陸電力:
三国太陽光発電所(福井県坂井市)  1MW [2012年9月運転開始予定]
珠洲太陽光発電所(石川県珠洲市)  1MW [2012年11月運転開始予定]

関西電力:
堺太陽光発電所(大阪府堺市)    10MW [2011/9/7 運転開始]

中国電力:
福山太陽光発電所(広島県福山市)  3MW [2011/12 運転開始]

上記のように、震災後、54MW分の太陽光発電所が運転を開始し、
11MW分が今後の運転開始に向けて、建設計画が進行しています。

しかしながら、これらの太陽光発電所は、震災後に計画されたものではなく、
震災前に政府主導で進められた「エネルギー大綱」によって、計画されたものです。
震災後の再生可能エネルギーの盛り上がりによるものではありません。
これら電力会社から、震災後に、新たな大規模太陽光発電所の建設計画は発表されていません。

一方で、震災後に、太陽光発電所建設を発表したのが、ソフトバンクの孫正義社長が主導する、
SBエナジー社です。

ソフトバンク京都ソーラーパーク(京都府京都市) 4.2MW [2012/7/1 運転開始]
ソフトバンク榛東ソーラーパーク(群馬県北群馬郡)2.1MW [2012/7/1 運転開始]
ソフトバンク徳島ソーラーパーク(徳島県板野郡) 5.6MW [近年中に運転開始予定]
ソフトバンク矢板ソーラーパーク(栃木県矢板市) 2MW [近年中に運転開始予定]

また、2012年7月1日に、SBエナジーは、
北海道苫小牧市で111MW、鳥取県米子市で39.5MW、長崎県長崎市で2.5MW、
熊本県で14MWの太陽光発電所の建設計画を発表しました。

SBエナジー社は、上記を含め、全国で合計200MWの太陽光発電所の計画を検討しています。

また、新たなプレーヤーとして登場したのが、
JA(全国農業共同組合連合会)が三菱商事と合弁でつくる「JAMCソーラーエナジー合同会社」です。
大型の畜舎や選果場、物流関連施設など400~600か所を対象に、主に屋根の上に太陽光パネルを設置する
という計画で、2014年度末までに合計で200MWの発電を達成させる計画です。

また、ソフトバンク京都ソーラーパークでの、太陽光発電モジュール納品と施行を担当した
京セラも、東京センチュリーリースと合弁で「京セラTCLソーラー合同会社」を2012年7月設立し、
今後3年間で合計60~70MWの太陽光発電所を稼働させる計画を発表しています。
すでに、大分県、香川県、福岡県、山口県で合計9か所、発電能力で16MWの建設計画が内定。
2012年度中に合計15~20か所で30~35MWの太陽光発電所を建設する見込みとなっています。
また、京セラ単独でも、鹿児島県で国内最大の発電能力をもつ70MWの太陽光発電所を2012年9月から
建設を開始することとなっています。

その他、長崎県松浦市で、市主導でメガソーラーの建設(1.2MW)が決まるなど、
「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」のもとで、地方自治体が新たな収入源を探る
動きも出て来ています。

一方で、発電事業者ではなく、住宅での太陽光発電も2011年度には大きく進みました。
太陽光発電協会の調べでは、
2011年度に、発電事業者で53.6MWが新たに運転を開始したのに比べ、
住宅用では1205.9MWの太陽光発電が開始されました。

■ 風力発電

風力発電は、太陽光発電よりも発電コストが低く、世界で大きな注目を集めていますが、
震災後の日本の風力発電の伸び率はあまり芳しくはありません。

上記は、日本風力発電協会がまとめているデータです。
2011年度は、単年度の新規導入量が85MWと低迷し、過去に比べ新規導入が著しく落ち込みました。

電力界社別に見ると、東北電力と九州電力が、累積の導入量では数が多いことがわかります。
最近では、北陸電力や四国電力、中国電力が、
関西電力圏内の電力不足を補うための送電を強化しており(風力発電系統連携)、
その手段として、風力発電を300MW~600MW強化する計画が進行しています。

メーカー別では、世界での風力発電のビッグプレーヤーである、
Vestas、GEの2社が、日本国内勢を抑え、日本国内の風力発電を牽引しています。

一方で、世界各国で注目を集めている洋上風力発電に関する大規模実証実験が、
日本でも始まろうとしています。
環境省、NEDO、及び資源エネルギー庁の国家プロジェクトとして、
着床式あるいは浮体式の洋上風力発電に係る実証研究計画が次々と始まっていきます。

しかしながら、まだまだ諸外国の洋上風力に比べ、実証実験レベルに留まっており、
大きな発電力をもたらすまでには、まだまだ時間がかかりそうです。
また、表の中で、国が管轄するプロジェクトは、全て日本のメーカーが受託しており、
国産の風力発電に対するR&D強化および、低迷する日本企業への投資支援の様子も伺えます。

洋上風力発電については、国土交通省海事局も、2012年8月1日に、
浮体式洋上風力発電施設の建築基準法適用除外を発表し、規制が緩和されたことで、
開発に対する環境面での整備は一部進みました。

また、太陽光発電に力を入れるSBエナジー社も、2012年7月1日、
島根県で48MWの風力発電所建設計画も発表しています。

このように、風力発電分野では、電力会社による推進が一部進むものの、
住宅用も進まない中、政府主導での研究開発色が強くなっています。

■ 地熱発電

地熱発電は、発電コストが太陽光、風力に比べても低く、期待が集まっていますが、
太陽光、風力に比べ、発電所の建設が大規模となることから、
技術面、資金面で開発着手までに多大な時間を要するため、
震災後の新規発電所はまだひとつもありません。

さらに、新規発電所の運転開始までには10年以上要すると言われており、
新たな発電所はまだまだ遠い先の話です。

建設開始の大きなハードルとなっているのが、温泉地への影響です。
環境省は国立・国定公園内の地熱発電開発において、
環境面を配慮した一定条件を満たせば特別地域内での「垂直掘り」を認める
規制緩和策を3月に決定ましたが、
その条件を満たすためには、長期的なアセスメントが欠かせず、
そのアセスメントに10年ほどがかかると言われています。

そんな中、直接、地下の熱水を吸い上げない「バイナリー発電」の分野では、
早期に検討が進んでおり、
福島県の磐梯朝日国立公園の特別地域内にある土湯温泉(福島市)では、
温泉の熱を使った「バイナリー発電」の施設が2013年度中に稼働する見通しとなっています。
しかし、発電出力は0.5MWと小規模です。

地熱発電は、やっと本格的に検討が始まったという段階です。

震災を機に、日本でも再生可能エネルギーに対する機運が非常に高まっています。
個人的な見解としては、すでに着工が進んでいる太陽光発電もさることながら、
潜在的な発電コストの低さで考えると、
洋上風力発電および地熱発電が、将来の日本の発電の柱になると考えています。

この洋上風力発電および地熱発電は、まだまだ実証事件や検討という段階で、
大きな躍進はこれからです。
政府は国産の技術力強化に余念がなさそうという状況ですが、
海外の技術活用も視野にいれ、スピード重視の稼働を早めてほしいと思っています。

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太陽光発電の普及・推進のためにマーケット分析などを行っている
Solar Plaza(本社オランダ)は、
CIGS型太陽電池のエネルギー効率ランキングを発表しました。

CIGS型太陽電池は、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)からなる
半導体材料CIGSを用いた太陽電池。
エネルギー変換効率、製造コスト、環境基準などの面で優れ、
世界の太陽電池市場を大きく牽引しています。

エネルギー効率の分野で今でもトップに君臨しているのは、単結晶シリコン(Si)型です。
しかし、シリコンは調達コストが高いことが大きなネックとなり、
現在では、コストの低い薄膜型の普及が進んでいます。

CIGS型の研究開発は近年大きく進み、
効率の面でも単結晶シリコン型に追いつこうとしています。


※出所:潜在的高ポテンシャルに期待が集まるCIGS 太陽電池

Solar Plazaは、世界の有数のCIGS型太陽電池を分析し、以下のランキングを発表しました。


※出所:Solar Plaza “Top 25 Solar PV Module Efficiency (CIGS)

トップに輝いたのは、台湾のTSMC
日本のCIGS開発の一端を担うホンダや、
世界のトップ太陽電池メーカーNano Solar(US), Q-cells(Germany)を抑えての堂々の1位。
台湾勢の技術力はどんどん向上しています。

TSMCはもともとは半導体専業のファンドリーメーカー。1987年に設立されました。
半導体製造技術を生かし太陽電池の開発・製造に着手。
2010年9月に台湾の台中市にR&Dセンターが完成。
2012年の第1四半期には100MWの生産工場、2012年末までにはさらに700MWの生産工場が、
完成する予定です。


TSMCのR&Dセンター(台中市)

2位のMiasoléは、米カリフォルニア州サンタクララ市に位置する、
太陽電池専業メーカーで、2003年に創業しました。
クライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズや、
バンテージポイント・ベンチャー・パートナーズといった名だたるプライベートエクイティ企業
からの資金調達を受け、急速に成長しています。
現在、120MWの生産能力を持っています。

太陽光発電普及の最大の課題である高コスト。
それを解決すべく、次々と新たなプレイヤーが登場しています。

太陽光発電が世界の発電力の中に占める割合はとても小さいですが、
この分野に、大きな投資が集まっていることもまた事実です。

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前回、地熱発電の仕組みを紹介しました。
地熱発電所とは何か?~仕組みと可能性~

地熱発電は、地球が発する熱を利用した環境に優しい発電方法です。

しかしながら、太陽光や風力発電が昨今注目される中、
地熱発電は、ここ近年日本で進展はしていません。

日本の地熱発電の推移
※出所:資源エネルギー庁

日本で初めて地熱発電所が実用化されたのは1966年。
岩手県八幡平市の松川地熱発電所が日本第1号です。
最大出力量は23,500kw。
現在も稼働している現役の発電所です。

もともとは、日本重化学工業社が建設・所有していましたが、
現在は、東北電力のグループ会社、東北水力地熱が所有しています。

その後、東北地方と九州地方を中心に、合計18か所に地熱発電所が建設されます。


※図:国立環境研究所

そして、最後に建設された地熱発電所は1999年に運転を開始した八丈島地熱発電所。
現在まで、東京電力が保有する最初にして唯一の地熱発電所です。
最大出力は3,300kwと小規模ですが、八丈島で消費される電力の1/3を賄っています。

この八丈島での運転開始から今日まで12年間、日本で地熱発電所は建設されていません。
その背景については、後日、解説していきたいと思います。

さて、現在、全国18の地熱発電所で生産されている電力量は、年間2,750GWh。
数が大きいように言えますが、日本の総電力消費量1,083,142GWh(2008年)の、
わずか0.025%を占めているにすぎません。

この日本の状況を他の国と比較してみましょう。

〇 日本と世界各国の地熱発電量

世界の地熱発電量推移

世界の地熱発電量推移


※出所:EIA

〇 地熱発電各国における地熱発電の割合

地熱発電は世界全体の発電量の0.3%(2008年)。
ちなみに、再生可能エネルギーの分野では、
水力16.2%、風力1.1%、バイオマス1.0%、太陽光0.06%、
バイオマス0.04%という状況です。


※出所:IEA

世界の地熱発電量が限られている理由のひとつに、
地熱を活用できるエリアが世界で限られているという点が挙げられます。

今日、上記の図で赤くなっているところを中心に、地熱発電が推進されています。

地熱発電の設備容量(2008年)をみても、発電量とほぼ同様の順位が得られます。


※出所:EIA

■ 世界の地熱発電大国アメリカ

世界のトップは30年前からアメリカです。
西部の火山地帯にある広大な土地を中心に、77の地熱発電所が現在稼働しています。

アメリカの地熱発電所での発電量(赤)と熱源利用量(緑)

アメリカの潜在的な地熱資源量

1970年代の石油危機を機にアメリカでは、エネルギー源の分散が図られ、
その中で注目されたもののひとつが地熱発電です。
アメリカ政府は、地熱発電の研究開発に資金を投じると同時に、
Geothermal Energy Research, Development and Demonstration (RD&D) Act
(地熱エネルギー研究開発実証法)を1974年に施行し、
巨額の資金が必要な地熱発電所建設に対する政府のローン保証プログラムを開始。
低リスクとなった地熱発電に対する電力会社等の投資が促進されていきます。

さらに、地熱発電の加速要因となったのが、バイナリーサイクル技術の誕生です。
※バイナリーサイクル技術については前回ブログを参照ください。
従来では発電に必要な熱エネルギーを持たなかったエリアでも、
地熱発電が可能となり、さらに投資が進みました。

その流れで1980年に相次いで地熱発電所が稼働を開始、一気に世界をリードしました。
しかし、1990年以降、地熱発電量は横ばいです。
原因としては、ローンプログラムの欠乏、連邦政府管理地の使用許可規制などが、
挙げられており、現在、地熱発電促進の阻害要因を取り除く検討が、
連邦政府及び州政府にて進められています。

そして、2005年に制定されたエネルギー政策法により、
地熱発電が米国政府の再生可能エネルギー生産税控除を受けられるようになったため、
米国西部の多くの市場で は現在、
地熱資源で発電される電力のコストが化石燃料による電力コストと等しくなり、。
経済情勢が追い風となり、地熱産業は急速に活性化しています。(コチラを参照)

■ 原子力発電を中止し、地熱発電に注力したフィリピン

世界の第2位の地熱発電量を誇るのがフィリピンです。
1972年に制定された地熱発電開発に関する大統領令(PD1442)で、
地熱発電事業者に対する大幅減税や減価償却期間引き伸ばし、専門家招致など、
インセンティブ施策が整備されました。

さらに、1976年に原子力発電所が着工し、1985年工事がほぼ終了したものの、
1986年に発足したアキノ政権は、同発電所の安全性および経済性を疑問視し、
運転認可が見送った結果、さらに地熱発電の重要性が増していきました。
結果、1990年代にフィリピンの地熱発電量は大きく増加しました。

フィリピンでは発電量の17.6%が地熱発電で賄われています。

現在でも政府は地熱発電をさらに推進していく姿勢を示しており、
現在の地熱発電設備容量195.8万kWhを、2013年までに313.0万kWhにまで
高める計画を掲げています。

■ 地熱発電の新たなリーダーになるインドネシア

インドネシアは、2000年代に入ってから急速に地熱発電量を増加させてきています。

インドネシアにおける地熱発電の魅力は、その資源量の豊富さです。


※出所:NEDO

インドネシアは地熱資源量において世界でダントツのトップです。
地熱発電量2位のフィリピンを大きく上回る地熱資源量を有しています。

2005年に当時のユドヨノ政権は、2025年までの地熱発電量目標を設定。
2008年時点で93.3万kWhの地熱発電設備容量を、
2025年に950.0万kWhにまで増加させるとしています。
ちなみに、福島第一原子力発電所の発電容量は約500.0万kWh。
その約2倍もの地熱発電を行うという計画です。(コチラを参照)

しかしながら、現在、この計画はスケジュールが大幅に遅れている状況です。
原因は、地熱発電への設備投資を民間設備投資に大きく依存している状況です。
政府政策の不安定性、政府からの財政支援の欠如、発電建設所投資の不確実性リスクなど
から民間企業の設備投資が思うように進んでいないことが、
インドネシアの現在の大きな課題です。

■ 急速に地熱発電の開発が進むアイスランド

アイスランドはほぼすべての全力を、再生可能エネルギーで賄っている国です。
そのうち75.5%を水力、残りの24.5%を地熱発電で調達している、地熱先進国です。

アイスランドの特異な点は、その立地にあります。
その他の地熱発電がマグマ溜りを熱エネルギーの供給源にしているのに対し、
アイスランドだけは、ホットプルームを熱供給源としています。
アイスランドは、ホットプルームの上に位置している特異な島なのです。
※マグマ溜りとホットプルームについては前回ブログをご覧ください。

そのため、アイスランドでは他のエリアより高温の熱エネルギーが得られ、
効率的な地熱発電が可能となっています。
2000年入ってから、大型の地熱発電所が次々と操業を開始し、
地熱発電の電力が急速に伸びています。

さらに、アイスランドでは地熱を発電目的だけでなく、
熱エネルギー目的でも使用しています。
具体的には、冬期の路上凍結を防ぐための路面温度上昇のための熱、
商業用・家庭用の温水生成のための熱などが挙げられます。

■ 新たな発電所建設が進まず年々発電量が衰える日本

一方、日本は1997年をピークに、年々地熱発電量が減少しています。
理由は、新たな発電所の建設が1999年以降進んでいないことと、
既存の発電所の発電量が、地下熱の低下により、落ちてきていることです。
そこで、2006年に地下熱の低下でも発電を可能にするためのバイナリーサイクル方式が、
八丁原発電所に導入されました。

それでも、日本は世界第3位の地熱資源量を誇る国です。
他の地熱資源保有国が地熱発電への投資を加速させる中、日本は出遅れています。

この日本における地熱発電はなぜ停滞しているのか。
その原因については、あらためてこのブログでお伝えしていきたいます。

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最近、日本でも地熱発電への関心が集まってきました。

もともと、火山地帯に位置する日本は、
地熱発電の可能性が高いと言われていましたが、
ここ数年は、風力発電や太陽光発電などと比べ、
あまり注目を集めてきていませんでした。

東日本大震災を機に、再生可能エネルギー促進のひとつの選択肢として、
今、地熱発電がスポットライトを浴びています。

八丁原発電所
※日本で最大の地熱発電所「八丁原発電所」

■ 地熱とは何か?

地熱発電とは、地球が地面の奥底に持っている熱エネルギー「地熱」を利用して、
発電を行う手法です。


※図:Wikipedia

地球の内側は非常に高温です。
地球の中心に最も近い内核と呼ばれる部分(地下5100km~6400km)は、
約6000度もの温度があります。
その次に中心に近い外核と呼ばれる部分「外核」(地下2900km~5100km)でも、
およそ4300度と言われています。

その外核の外側には「マントル」と呼ばれる部分があります。
このマントルは、地中約60kmから2900kmまでを占めています。
下部の2900km付近は、約3000度ほどありますが、
外側にいくにつれ温度は下がり、上部の60km付近では1000度以下にまで下がります。
地熱としては1000度もあれば十分なエネルギーが得られますが、
さすがに、このマントル上部まで掘削する技術や資金はありません。

しかしながら、マントルは、固体の岩ですが、緩やかに対流をしています。
マントルが下部から上部にかけて上昇する箇所は「ホットプルーム」と呼ばれています。
このホットプルームは、マントル下部の高温の岩盤を上に運ぶため、
ホットプルームの上にある地殻は、他よりも高温となっています。
このホットプルーム現象が、地熱発電のための大きな熱エネルギー供給源となっています。

ホットプルーム
※図:岡山大学理学部浦川研究室

しかしながら、ホットプルームは地球上でも限られた箇所にしかありません。
地熱発電のためのもう一つの重要な熱エネルギー供給源は、「マグマ溜り」です。
マグマとは、マントルの一部がなんらかの影響で高温および高圧となり、
固体であった岩盤が溶けて流体になった個所のことを指します。
そして、流体となった岩盤は、浮力の影響で上へ上へと上昇し、
地下5kmから10kmの付近で滞留して、「マグマ溜り」となります。
マグマ溜りの温度は1000度以上あると言われています。
これが地熱発電のための熱エネルギー源となります。。

■ 地熱発電とは何か?

地熱発電は、
ホットプルームやマグマ溜りが周囲の地下水層を高温化させることを利用した
発電方法です。

平たく言えば、水が高温化して発生した水蒸気のエネルギーを利用して、
タービンを回し、発電をするのが、地熱発電です。
沸騰したやかんが、やかんの蓋を持ち上げる力があることと原理は同じです。

熱水化している地下水層を、専門用語で「地熱貯留層」と呼びます。
 

■ フラッシュサイクル

まず、ベーシックな地熱発電の方法(フラッシュサイクル地熱発電)をご紹介します。

フラッシュサイクル地熱発電
※図:東北発電株式会社

まず、地下700メートルから3,000メートルくらいの深い井戸(蒸気井)を掘ります。
この蒸気井から高温化して熱水と蒸気が混ざった流体物質を取り出します。

続いて、気水分離機により、熱水と蒸気が分離されます。
抽出された蒸気は、タービンに運ばれ、タービンを回転させ、発電を行います。
残った温水は、一部、金属物などの有害物質が含まれている可能性があるため、
別の井戸(還元井)を通り、再び地中深くに戻されます。

また、タービンを回転させた後の熱い蒸気は、復水器にて冷やされて温水となり、
さらに冷却塔にて外気に来よって冷却され、同様に還元井に運ばれ、地中に戻されます。

これが地熱発電の基本的なサイクルです。
この方式は、熱水と蒸気を気水分離機によって一度だけ分離させるので、
シングルフラッシュサイクルとも呼ばれています。
日本で最も多くの地熱発電所で採用されています。
 

■ ダブルフラッシュサイクル


※図:九州電力

シングルフラッシュサイクルに対し、こちらのダブルフラッシュサイクル方式では、
熱水と蒸気を二度にわたって分離させ、より多くの蒸気を抽出することができます。

そのため、設備は複雑となり、建設コストも膨らみますが、
発電量(出力量)を向上させる効果があります。

仕組みとしては、気水分離機によって1回目の熱水・蒸気分離が行われたあとに、
残った熱水はフラッシャーと呼ばれるに送られ、
さらにそこから蒸気が抽出される(2回目)というものです。
国内で最大の地熱発電所、八丁原発電所で採用されています。
 

 

■ ドライスチーム

フラッシュサイクルが熱水と蒸気を分離させる方式であるのに対し、
このドライスチーム方式は、熱水と蒸気を分離させるステップを踏みません。
地下から取り出された蒸気がほとんど熱水を含まず、
気水分離機を使って分離をさせる必要がない場合に用いることができます。
国内初の地熱発電所、松川地熱発電所で採用されています。
 

■ バイナリーサイクル(バイナリー発電)

地下から取り出された蒸気や熱水が温度が低い場合に用いられる方式です。
温度が低い場合には、蒸気のエネルギーが小さいため、効率的にタービンを回すことができません。
そこで、蒸気エネルギーを別のエネルギーに変えるアイデアが生まれました。
それがバイナリーサイクルです。


※図:Cool.jp

バイナリーサイクルのポイントは、蒸気や熱水の力をそのままは使わない点です。
まず、地下から取り出された蒸気や熱水は、それ自体が高温であり熱をもっています。

気水分離器で蒸気と熱水に分離されたあと、熱水は予熱器に、蒸気は蒸発器に送られます。
そして、この予熱器と蒸発器により、
沸点が水よりも低いアンモニアやペンタン・フロンが温められ、蒸発させられます。
アンモニアやペンタン・フロンは沸点が低いため、水蒸気分よりも多くの気体を得られるのです。
そのため、水蒸気をそのままタービンに運ぶより、より多くのタービンを回す力が得られます。

このバイナリーサイクルは、比較的新しい技術です。
日本では八丁原発電所で試験的に運用が行われています。
試験運用にはイスラエルのオーマット社製の設備が用いられています。

さらに、バイナリーサイクルは、比較的低温の熱水でも発電可能な技術であるため、
現在、高温の温泉を施設にバイナリーサイクルの発電設備を併設させ、
発電を行うという構想(温泉発電)も練られています。
 

■ 高温岩体発電


※図:電力中央研究所

これまで説明してきたフラッシュサイクルやドライスチーム、バイナリーサイクルは、
地下から熱水や蒸気を取り出して行う発電方式です。

しかしこの方式は、地下に十分な水分が貯留されている場合には適用できますが、
地下に高温の岩盤(高温岩体)だけがあり、水分がない場合には活用できません。

それに代わって、水分がなくても地下の熱を利用してしまおうというアイデアが、
高温岩体発電です。
仕組みは、地上から高圧の水分を送り込んで岩盤を破砕し、人工的に地熱貯留層を創り出します。
さらに、気水分離後や発電後に発生する温水を、還元井を通じて再び地熱貯留水に戻し、
循環的に地下に水を溜めるシステムを作り上げるモデルです。
高温岩体発電は深度2~3km 程度、岩盤温度200~300度程度のポイントを
掘削対象としています。

この高温岩体発電の建設に際し、還元井のポイントを見極めることも大切です。
還元井された温水は、再び蒸気井へとつながるポイントに戻っていかなければなりませんし、
蒸気井に近すぎると、マグマ溜りで十分に加熱することができません。
そのため、破砕の際の振動を分析し、この人工地熱貯留層へとつながる別のひびを掘削して、
還元井を創りだすという技術が開発されています。

この高温岩体発電は国内ではまだ実用化されていません。
しかしながら、国内で実用化されると、
38GW以上(福島原子力発電所1号機~6号機までの合計が4.7GW)におよぶ資源量が
国内で利用可能と見られています。(電力中央研究会

海外では、グーグル社の社会貢献部門”Google.org”が、
高温岩体発電の研究開発に取り組む研究機関に対し、
合計1025万ドルを投資する計画を2008年に明らかにし(情報はコチラ)、
オーストラリアのジオダイナミクス社は、
南オーストラリア州北東部のクーパーベイズンで建設中の大規模な高温岩体地熱発電プラントを
進めています(2010年完成予定)。(情報はコチラ

高温岩体地熱発電は英語で、Enhanced Geothermal systems”EGS”と呼ばれています。
こちらの動画は英語ですが、とてもわかりやすくEGSを説明してくれています。

さらに、掘削が容易な高温岩体ではなく、
より高温で多くの熱エネルギーが得られるマグマ溜り付近に地熱貯留層を創りだす
という、「マグマ発電」構想も研究機関では練られています。
 

〇 地熱発電のメリット

■ CO2発出量が少ない

地熱発電とCO2排出量
※図:JOGMEC

地熱発電は他の再生可能エネルギーと比べても、CO2排出量が低い優等生です。

■ 発電コストが比較的低い


※出所:IEA

コストの面でも、他の再生可能エネルギーの中でも優等生です。
 

〇地熱発電のデメリット

■ 資源の枯渇化

まず、「いつか地熱貯留層の蒸気や熱水が枯渇してしまうのではないか?」という点です。
枯渇までいかなくても、何らかの状況により地下物質の温度や圧力が変わっても、
従来通りの発電力は期待できなくなってしまいます。
そのため、枯渇が見込まれた場合には、新たな発電所を建設する必要が出てきます。

さらに、地熱貯留層の水源を巡る温泉産業の反発という問題もあります。
地熱発電により地下の熱水や蒸気が早期に枯渇してしまうのではないかという懸念や、
地熱発電所が景観を損ね、観光地の魅力を下げてしまうのではないかという懸念が、
温泉地から実際に上がっています。

■ 費用対効果

次に、「必ず地熱貯留層を掘り当てられるか?」という問題もあります。
地熱貯留層や高温岩体は地上からは100%の確率で掘り当てることはできないため、
失敗すると膨大な費用が無駄になってしまう点です。
この不確実性も、地熱発電促進の大きな足かせとなっています。

■ 自然破壊の可能性

さらに、「自然破壊につながらないか?」という問題もあります。
国内の地熱貯留層は山岳地帯に位置しており、
エリアの大半は国立公園として保護されているエリアに該当します。
1972年に当時の通商産業省と環境庁の間で交わされた覚書により、
既設の発電所を除き、国立公園内に新たな地熱発電所を建設しないというのが
現在の政府方針となっています。
しかしながら、地熱発電の促進のため、東日本大震災後の規制緩和改革の中で、
国立公園での地熱発電建設を認める方向で政府の議論が進んでいます。

日本や世界の地熱発電の現状については、あらためて別の記事でご紹介したいと思います。

世界と日本の地熱発電の状況~日本、アメリカ、フィリピン、インドネシア、アイスランドを中心に~

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電力・エネルギー等サステナビリティに関する最新トピックスは、Sustainable Japanに掲載しています。御覧ください!

※2015年の時点の最新データを含めてコチラにアップデートしましたので御覧ください。

前回、日本のエネルギー・発電供給状況についてレポートしました。
日本のエネルギー・発電力の供給量割合

今回は世界各国の状況をお伝えしていきます。

はじめに、2008年の世界主要各国の発電電力の電源割合をまとめました。


※出所:IEA

ヨーロッパ諸国は原子力発電に対する依存度が高い

ヨーロッパは原子力発電を大いに活用した発電をこれまで実施してきています。
原子力発電の割合は、フランス(76.4%)、ベルギー(53.7%)、スウェーデン(42.6%)、
スイス(40.2%)、フィンランド(29.6%)。
これらの国は日本の原子力割合23.9%を上回っています。
さらに、ドイツ(23.3%)、スペイン(18.8%)、イギリス(13.5%)と続きます。

背景には、エネルギー自給率を高めようという狙いがあります。
例えば、フランスは国内に天然資源が少なく、火力発電を行うためには、
化石燃料を国外より調達する必要があります。
天然ガスパイプラインが高度に整備されているヨーロッパ諸国では、
ロシアやカスピ海周辺からの天然ガスの供給も技術的には可能です。
しかし、安全保障上の観点から海外依存度を高めたくないフランスは、
原子力発電所強化によるエネルギー自給率向上の道を選んでいます。

一方、石炭の産地であるドイツや、北海に油田やガス田を有するイギリス、デンマークでは、
国内産の化石燃料を使った火力発電が可能ですが、
他の先進国と同様、原子力発電を「経済的な新技術」として迎え入れ、
1950年以降建設を進めてきました。

しかしながら、国内外での原発事故を機に、脱原発の機運がいくつかの国で高まっています。
結果、ドイツ、ベルギー、スイスでは、原子力発電所を全廃する方針が決まっています。
その他の原子力発電所依存度の高い、イギリス、スペイン、スウェーデンでも、
脱原発を求める社会運動が活発化しています。

原子力発電所依存度ゼロのイタリア、デンマーク、ノルウェー

原子力発電所の安全性に懐疑的なイタリア、デンマークでは、
早くから原子力発電所を放棄する選択をし、現在、原子力発電所は稼働していません。
※放棄を決めた年は、イタリア(1987年)、デンマーク(1985年)。
国内での発電能力が乏しくフランスからの電力輸入に依存しているイタリアは、
原発再開を政権目標としていましたが、福島第一原子力発電所事故後の国民投票で、
原発再開に94%が反対し、再開計画を見送りとなっています。

再生可能エネルギーに力を入れるデンマーク、ドイツ、スペイン、イタリア、イギリス

エネルギー自給率の向上、原子力発電所への懸念という大きな流れ、
さらには、環境に対する関心の高まりを受け、
デンマーク、ドイツ、スペイン、イタリア、イギリスでは、
風力や太陽光などの再生可能エネルギーが大々的に促進されています。

ドイツ、スペイン、イタリアでは2005年から大規模太陽光発電所(メガソーラー)の建設が活発になっています。
※詳細は「メガソーラーの可能性 ~世界の太陽光発電プラント・トップ30~
2008年時点で、太陽光発電の占める割合は、
ドイツ(0.7%)、スペイン(0.8%)、イタリア(0.1%)ですが、
2009年、2010年にこの割合は、2倍前後に拡大していると推測されます。

一方、風力発電が促進されている国は、デンマーク、スペイン、ドイツ、イタリア、イギリスです。
太陽光発電と同様2005年前後から建設は進み、2008年時点で、風力発電が占める割合は、
デンマーク(19.0%)、スペイン(10.3%)、ドイツ(6.4%)、
イタリア(1.5%)、イギリス(1.8%)。
こららの国では、2009年、2010年ともに風力発電はさらに拡大を続け、
特に最近では、イギリス、デンマークでの洋上風力発電(オフショア風力)の建設が進んでいます。
※詳細は「世界の風力発電動向~各国発電量と洋上・陸上風力発電所ランキング~

ヨーロッパにおける再生可能エネルギー促進の背景となっているのが、EU目標設定です。
1997年にEUは、
「2010年までに最終エネルギー消費の12%を再生可能エネルギーで賄う」という
政策目標を掲げ、さらに2004年に、
「2020年までに20%」という長期目標を掲げました。
このEU目標は、各加盟国に対する目標設定を義務付けることにつながり、
結果として、国を挙げての再生可能エネルギー大号令が始まっています。
EUが定義している再生可能エネルギーには、水力発電も含んでいるため、
各国の目標設定には、水力発電の状況を鑑み、大きな開きがあります。
※EU加盟国ごとの目標数値はコチラ

海外からの化石燃料輸入に依存する日本・韓国・台湾

国内に化石燃料資源の乏しい日本・韓国・台湾は、
石炭・石油・天然ガスを輸入することで電力需要を賄っています。

その結果、この3か国の化石燃料輸入量は世界でもトップレベルです。
========================================
石炭:日本1位(187Mt)、韓国3位(119Mt)、台湾5位(63Mt)
石油:日本3位(179Mt)、韓国5位(115Mt)
天然ガス:日本1位(99bcm)、韓国6位(43bcm)
========================================

化石燃料の海外依存度は、「資源枯渇時の脆弱性」「安全保障上の脆弱性」
「資源逼迫時の価格高騰」という3つの脆弱性を内包します。
エネルギー自給率の向上は3か国それぞれの戦略課題となっています。

また、非資源国であるという同じ理由で、原子力発電の割合も多いのが特徴です。

国内産石炭に大きく依存する中国・インド・オーストラリア・南アフリカ

世界の石炭産出国ランキングは、2010年時点で以下となっています。
============================
1位 中国(3,162Mt)
2位 アメリカ(997Mt)
3位 インド(571Mt)
4位 オーストラリア(420Mt)
5位 インドネシア(336Mt)
6位 ロシア(324Mt)
7位 南アフリカ(255Mt)
=============================

この上位7か国で世界全体の石炭産出量の84%に達します。
そして、この産出国は国内の発電における石炭依存度が非常に高い状況になっています。
中国(79.1%)、インド(68.6%)、オーストラリア(76.8%)、南アフリカ(93.2%)。
その他のアメリカ、インドネシア、ロシアでは石油や天然ガスも産出できるため、
石炭単独の依存度は50%を下回っていますが、化石燃料全体の割合はやはり高いです。

今後、上記の中国、インド、南アフリカなどの新興国が経済発展するにつれ、
同国内での電力需要は飛躍的に向上していくことが予想されます。
その際、世界の石炭価格はさらに高騰し、石炭だけで電力需要を賄いきれなくなった
国々は、他のエネルギー源を用いた発電に着手をしていくと考えられます。
例えば、昨年、世界の半数近くの石炭を算出している中国が、
さらに海外産の石炭を輸入し始めるという石炭の純輸入国に転じています。
インドもすでに石炭の純輸入国となっています。
中国やインドでは、風力発電、太陽光発電などの建設が進んでいますが、
この流れをどこまで加速できるかに、世界の化石燃料価格の趨勢がかかっています。

さらに、石炭は、石油や天然ガスに比べ、発電1kWあたりの温室効果ガス発生量が多く、
環境面から問題視されている燃料源です。

石炭を効率的に電気エネルギーに転換する技術においては日本企業が優れています。
日本の技術を他国に導入していくことで、世界の石炭消費量の増加を抑制することも可能です。

拡大する先進国・新興国での天然ガスの活用

多くの先進国、新興国では、天然ガスに対する依存度が非常に大きい状態となっています。

特に、原子力発電所をもたない新興国(東南アジア、西アジア、アフリカ、南米)では、
この天然ガスからの発電割合がとても大きいのが目立ちます。

天然ガスは、石炭や石油に比べ、温室効果ガス排出量が少ないですが、
温室効果ガスそのものを排出することには変わりはなく、
天然ガス火力発電の伸長は、地球温暖化に悪影響を与えます。

多くの国では、原子力発電所の設置を検討して言いますが、
福島第一原子力発電所事故の経験もあり、どこまで浸透するかは不透明な状況です。
その状況下で、新興国でも再生可能エネルギーの建設が促進されています。
再生可能エネルギーの発電コストが高いことが注目されていますが、
天然ガス価格の高騰は、既存の火力発電コストを押し上げることも意味します。
火力と再生可能エネルギーとの相対的な発電コストの差は縮まっています。

フィリピンとインドネシアで進む地熱発電

再生可能エネルギー全体の中でも、フィリピンの地熱発電割合(14.4%)は目立ちます。
また、インドネシアでも3.2%をマークしています。
フィリピンとインドネシアは環太平洋造山帯に位置する火山地帯。
豊富な地熱を重要なエネルギー源として位置付けています。

フィリピンでは、1976年に原子力発電所が着工し、1985年工事がほぼ終了したものの、
1986年に発足したアキノ政権によって同発電所の安全性および経済性が疑問視され、
運転認可が見送られた経緯があり、その後、地熱発電を大きく促進しています。
インドネシアでも、一時検討されていた原子力発電所計画が、福島第一原子力発電所事故を契機に頓挫し、
その後、大規模な地熱発電の拡大計画を政府が打ち出しています。
こうして、フィリピン、インドネシアともに、地熱発電プロジェクトには、
海外の金融機関や商社も大規模に出資を行い、開発が進んでいます。
※詳細は「世界と日本の地熱発電の状況~日本、アメリカ、フィリピン、インドネシア、アイスランドを中心に~

水力発電の割合が大きいブラジル、スイス、ノルウェー、カナダ、スウェーデン、ベトナム

水色の水力発電の割合が大きいのがこの6か国。
豊富な水資源と勾配の激しい山地により、大規模な水力発電所が設置されています。
特に顕著なのがノルウェーとブラジルで、
それぞれの発電全体の98.5%、79.8%を占めています。

水力発電も再生可能エネルギーのひとつとみなされ、注目を集めていますが、
多くの先進国では、大規模ダムの建設は一通り終了しており、
水力発電所の数は横ばいとなっています。
一方、発展途上国では今後の発電の柱として、水力発電を位置付けており、
世界銀行などが建設を支援しています。

水力は温室効果ガス排出量が最も少なく、維持コストも小さいエネルギー源である一方、
堆砂によるダム寿命の縮小、魚類生態系への影響、水質の変化など負の側面も有しています。
さらに、近隣居住地や歴史的文化物の水没など社会的な損失ももたらします。
そのため、大規模水力発電を再生可能エネルギーから除外して考える考え方もあります。
 

ここまで、発電割合から各国の状況を見てきましたが、
最後に、2008年の各国の電力消費量の状況もみておきたいと思います。


※出所:IEA

ここから3つのポイントを指摘できます。

北欧諸国は一人あたりの電力消費量が多い

電力消費量が突出しているのが、ノルウェー、フィンランド、スウェーデン、そしてカナダ。
背景にあるのは、厳しい冬場の暖房費です。
寒冷地域の暖房性能の改善や、家全体の断熱効果の改善は、
これらの国の電力消費量を下げることにつながります。

アメリカ・オーストラリアは電力浪費が多い

一方、寒冷地域でないのにかかわらず、電力消費量が多いのがアメリカ、オーストラリア。
この2か国は、一人あたりの電力「浪費」が多い、電力浪費大国社会であるといえます。
世界全体のエネルギー効率改善のために、
浪費生活の見直しと、発電、配電、エネルギー転換のそれぞれの効率を
さらに向上することが求められます。

新興国の電力消費量は今後上がる可能性大

ヨーロッパ諸国と日本の電力消費量が6000~8000kWhであるのに対し、
新興国の水準は500~2000kWh。
すなわち、今後の経済発展により、電力消費量は10倍程度まで増加すると見込まれます。
そのため、世界全体の見地から見た、エネルギーの最適化が今後必要となります。
改善できるものを素早く見極め、企業・政府・家庭が一体となって減らせるものを減らすという
努力が必要になっていきます。
 

原子力発電に関する懸念が高まる中、発電拡大に対するスピードが遅くなるのであれば、
消費を効率化することを考えなければなりません。
東日本大震災後に展開された「節電」を一時的なものと考えず、むしろチャンスととらえ、
「何を減らせるか?」「どうしたら効率をあげられるか?」という知恵が今求められています。

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※2015年の時点の最新データを含めてコチラにアップデートしましたので御覧ください。

東日本大震災をきっかけに、日本でもエネルギー・電力への関心が高まっています。
そこで、今回、日本のエネルギー・発電の供給量割合をあらためて、紹介したいと思います。

ちなみに、供給量割合とは、日本のエネルギー・電力が、
石油、石炭、原子力、水力、再生可能エネルギー(風力、地熱、太陽光など)で
どのぐらい賄われているかというものです。

一般的によく使われているものが、以下のデータで、
こちらは経済産業省エネルギー庁が発表している「エネルギー白書」で公表されています。

このデータから、一般電気事業者の発電供給量の供給源割合がわかります。
一般電気事業者とは、地域ごとの電力供給をしている、いわゆる「電力会社」です。
日本にはこの一般電気事業者が10社あります。
※北海道電力、東北電力、東京電力、北陸電力、中部電力、関西電力、中国電力、四国電力
九州電力、沖縄電力。

この中で、石油等、LPG、石炭の3つを合計したものが火力発電に相当します。
全体で61.7%という圧倒的なシェアを誇っています。

次に多いのが原子力発電。29.2%のシェアがあります。
そして、水力が8.0%。水力のシェアはそれほど大きくはありません。
また、昨今注目が集まっている再生可能エネルギーは1.1%と非常に限られています。

それでは、ここから、それぞれの項目について少しずつ解説していきます。

■ 水力(一般水力・揚水水力)

1960年代まで日本の発電を牽引した水力発電は、
1975年に日本で落差最大の黒部ダムが完成した頃から、それほど増えていはいません。
水力発電は、維持コストが低く、CO2排出のないクリーンエネルギーである一方、
ダム建設に莫大な費用がかかる上、水没による社会的コストも大きく、
大規模に発電量を増やす手法としては適してこなかったためです。

一方、1980年代から増えてきたのが、揚水式水力発電です。
こちらは、電力需要の少ない夜間に、電気を使って水を高地に引揚げ、
電力需要の多い昼間に、その水を使って水力発電を行うというものです。
この揚水式水力発電は、発電総量を増加させることにはあまり寄与しませんが、
電力の需給バランスを調整するための手法として活用されてきました。

また、最近注目が集まっているのが、「中小水力発電」です。
巨大なダムを建設するのではなく、既存の河川の流水を利用して行う、
中小規模の水力発電です。
再生可能エネルギー(自然エネルギー)として注目されていますが、
発電量が限られていることや、生態系への影響などから、日本ではほとんど実績がありません。

■ 石油等

日本の火力発電は、石油を燃料として活用してきました。
中東からの原油安定供給を手にした日本は、
発電所建設コストの低い火力発電所の建設ラッシュのためのエネルギー原料として、
原油を用いてきたからです。

しかし、原油は発電以外の燃料源(特にガソリン)として貴重な原料であり、
発電目的で使うことを控えるという国際気運の中、
1975年の第3回国際エネルギー機関(IEA)閣僚理事会において、「石炭利用拡大に関するIEA宣言」
の採択が行われ、石油火力発電所の新設禁止が盛りこまれました。
さらに、1973年と1979年のオイルショックにより、
「石油依存」を減らすということを日本政府も大きく掲げ、
以降、火力発電の原料が、石油から石炭、LPGなどに移っていきました。

昨今の発電議論の中で、依然として火力発電と石油を結びつける内容が多いですが、
火力発電において、実際に日本が注視すべきものは、石炭や天然ガスの世界の動きです。
特に、CO2排出量が比較的少ない天然ガスへの期待が、世界全体で大きくなっています。

また、この石油を使った火力発電に関する大きな懸念は、
原油価格の高騰です。
原油価格の高騰は、火力発電コストの増加だけでなく、
エネルギーの安定供給においても、大きな不安要因となります。


※出所:IEA “Key World Energy Statistics 2011

■ 石炭

明治時代から盛んとなった日本の炭鉱業は、
昭和時代には主要炭鉱はほぼ閉山し、
現在火力発電に使われている石炭はほぼ100%輸入石炭です。
石炭の輸入先は、オーストラリアとインドネシアで全体の82%を占めています。
2010年時点で日本は世界一の石炭輸入国でもあります。


※出所:帝国書院

エネルギー供給源としての石炭の不安材料は、石油と同様価格の高騰です。


※出所:IEA “Key World Energy Statistics 2011

この価格高騰をさらに脅かすのが、中国の動向です。
中国は世界で圧倒的な石炭の生産シェアを持っています。


※出所:IEA “Key World Energy Statistics 2011

その中国が、2010年に石炭の純輸入国に転じました。(出所
それは、中国が急増するの国内電力需要を賄う手法として、
石炭火力発電に頼ってきたためです。

IEAの”World Energy Statistics 2011″によると、
2009年の中国の総電力消費量は3545TWhでアメリカの3961TWhに続いて世界第2位。
同年の日本の消費量997TWhの3.5倍以上となっています。

中国は石炭依存度を下げるため、再生可能エネルギーや原子力発電を積極化させる
動きを見せていますが、
さらに増え続ける中国の電力需要は、石炭価格を押し上げる大きな要因ともなります。

■ 天然ガス

日本では、天然ガスは一般的に”LNG(液化天然ガス)”と呼ばれます。
それは、天然ガスが諸外国では、産地から消費地まで「パイプライン」で輸送される
のに対し、日本ではパイプラインを持っていないため、
気体である天然ガスを-162℃以下に冷却して液体にした”LNG”を輸入しているためです。

天然ガスの輸入先は、マレーシア、インドネシア、オーストラリアの3か国で、
全体の57.2%を占めています。


※出所:帝国書院

天然ガスは、一般的にパイプラインで運ぶ場合輸送コストが低く、
さらにエネルギー転換効率も高く、CO2排出量を相対的に抑えることができるため、
火力発電のエネルギー源として世界中での注目が集まっています。

日本の政府・企業も天然ガス権益を確保するため、
世界各国で天然ガス発掘プロジェクトを大きく展開しています。(コチラ

天然ガス価格も石炭や原油と同様、高騰してきています。
特に、パイプラインではなく、LNGに依存する日本は、他国よりも
天然ガスの輸入価格が高い傾向があり、
電力価格を他国よりも押し上げる要因の一つにもなっています。


※出所:IEA “Key World Energy Statistics 2011

■ 原子力

原子力発電は、CO2排出量が非常に少なく、さらにエネルギー自給率を高めることが
できる「夢の発電所」として、日本のエネルギー政策の柱となってきました。

2010年に改訂された日本政府の「エネルギー基本計画」の中でも、
CO2排出量の削減と電力価格の安定化を実現させるため、
原子力発電のシェアを大きく向上させることを掲げていました。

しかし、2011年3月の東日本大震災による原発事故を機に、
見直しの機運が大きく高まっています。

それでも、依然として原子力発電に対する期待は根強いものがあります。
その期待の大きなポイントは、発電コストの低さです。

しかしこの発電コストの低さを強調する議論に対し、
「原発事故が起こった場合の対策費用や社会的損失費用などが考慮されていない」
として、原子力の発電コストの計算方法に異議を唱える人々も多くいます。

さらに、原子力発電については、日本企業がリードする分野でもあり、
日本政府や経済界からも原発の普及を進めるべきだという強い声があります。


※出所:資源エネルギー庁

■ 再生可能エネルギー(自然エネルギー)

CO2排出量や環境サステナビリティに観点から2000年から耳目を集める
再生可能エネルギーですが、
日本国内における発電実績としては、微々たるシェアに留まっています。

2010年6月に改訂された日本政府の「エネルギー基本計画」では、
原子力と再生可能エネルギー(水力含む)の比率を、
2020年までに50%、2030年までに70%とする計画を打ち上げました。
さらに、その中で、再生可能エネルギーが占める割合を、
2020年までに全体の10%に達するという計画も含まれています。

しかし、この計画も、自然エネルギーを促進する材料とはなりません。
水力が全体の約8%を占める日本において、
再生可能エネルギー(水力含む)を10%にするということは、
水力を除いた現在のシェア1%をわずか2%にするということにしか
ならないためです。

再生可能エネルギーの推進が進まない大きな要因は、
上図からわかる発電コストの高さです。
発電コストの増加は、家庭用電力価格の増加を招くだけでなく、
産業用電力価格を押し上げ、産業の国際競争力を下げることにもつながります。

しかしながら、風力、太陽光、太陽熱、地熱など、それぞれの分野での、
技術革新が進み、発電コストが今後大きく下がることも予想されています。

Hydro:水力
Geothermal:地熱
Wind Onshore:陸上風力
Wind Offshore:水上風力
Biomass:バイオマス
Concentrating solar:太陽熱
Solar PV:太陽光

東日本大震災後、政府はすでに、「エネルギー基本計画」を見直すことを
表明しました。
この中で、再生可能エネルギーがどこまで原子力分を担えるのかが、
大きな議論のポイントなっています。

ここまで、現在の日本の発電供給量割合について、
「エネルギー白書」のデータを基に内容を見てきました。
ここから先は、よりデータ分析について興味がある方に向けて、
少し専門的な話をしてきたいと思います。

日本のエネルギー・発電力の供給量割合についてより専門的に分析する際、
冒頭で用いた「エネルギー白書」のデータを用いることいろいろな問題があります。

理由の一つ目は、上記のデータが「電力」に限られている点です。
世界的にエネルギー供給量について議論される場合、
対象は電力だけでなく、その他の熱源等も含んだ概念としての、
「一次エネルギー供給」が用いられています。
英語では、Total Primary Energy Supply(略称TPES) と呼ばれています。
そのため、特に国際比較などをする場合には、
一次エネルギー供給の数値を用いなくてはなりません。

理由の2つ目は、エネルギー白書のデータの出所が、一般的な情報リソースを
用いていない点です。
世界や日本のエネルギー・電力の供給量割合としてよく用いられるのは以下ですが、
エネルギー白書のデータは、下記のいずれとも一致せず、比較ができません。

<一次エネルギー供給>
・国際エネルギー機関(IEA) “Balances
・経済産業省資源エネルギー庁 “総合エネルギー統計/エネルギーバランス表

<発電>
・国際エネルギー機関(IEA) “Electricity/Heat
・米国エネルギー庁(EIA) “Electricity/Generation
・経済産業省資源エネルギー庁 “電力調査統計/発電実績(総括)

それぞれの供給量割合は以下となります。

さらに、EUは再生可能エネルギーの目標設定に際し、
「発電量」でも「一次エネルギー供給」でもない、「最終エネルギー消費」
という指標を用いています。
「最終エネルギー消費」とは、「一次エネルギー供給」から、
発電に要するエネルギーと配電ロスを差し引いた数値を指します。

また、国際データ比較をする際や、他のデータ分析を参照する際には、
データの定義を確認することも欠かせません。
特に、このエネルギー供給割合においては、まぎらわしい定義の違いがあります。
例えば、
・「エネルギー供給実績」or「エネルギー供給設備能力」
・「電力会社のみの数値」or「他の供給主体も含めた数値」
・再生可能エネルギーが水力を含むのか含まないのか
というものが主なものです。
ご注意ください。

先日、世界のメガソーラー(大規模太陽光発電)の世界の状況についてレポートしたのに続き、
今回は、世界の風力発電の状況をご紹介したいと思います。

世界の風力発電の大規模化は、太陽光発電を大きく凌駕する勢いで進んでいます。
例えば、現在の世界最大規模の太陽光発電所は、カナダのSarnia で92MW。
一方、現在の世界で最大規模の風力発電所は、アメリカのRoscoe で781.5MW。
8倍以上の開きがあります。
さらに、風力発電所の大規模化は今後も大きく進むと予想され、
中国は5000MWを超える超巨大風力発電所を2020年に甘肃省にオープンする
ことを発表しています。
※世界の風力発電所ランキングについては後述します。

世界の風力発電は、2006年あたりから、急速に造塊しています。
世界風力エネルギー協議会(Global Wind Energy Council: 通称GWEC)が
発表している、世界の風力発電トップ12か国を見てみましょう。


※出所:GWECレポート Global Wind Report 2010, 2009, 2008

ご覧いただくと、中国、アメリカ、ドイツ、スペイン、インドが
世界の風力発電を大きくリードしていることがわかります。

ドイツ、スペインは太陽光発電の分野でも世界をリードしており、
再生可能エネルギー全般にを政府が全面的に後押ししていますが、
その両国を超えるスピードで、中国、アメリカ、インドでは、
風力発電の建設が進んでいます。
中国は2010年ついに累積風力発電量で世界トップとなりました。

続いて、大規模風力発電所の状況を紹介します。
風力発電所はその立地により、オンショア風力発電(陸上風力発電)と
オンショア風力発電(洋上風力発電)に大きく分けられます。

大規模化が著しく進んでいるのは、建設コストが少ないオンショア風力発電です。

オンショア風力発電出力量の世界ランキングトップ35>

オフショア風力発電出力量の世界ランキングトップ35>

オンショア風力発電の分野では、アメリカ、特にテキサス州での建設が目立ちます。
理由としては、テキサス州政府が発令している送電網の電力会社(風力発電電気の買い手)
負担政策が挙げられます。
この政策により、
風力の強いテキサス州の荒地から都市部などの電力消費エリアに送電するコストが軽減され、
風力発電の発電事業者が積極的に大規模風力発電所を建設できるようになりました。

オフショア風力発電の分野では、イギリスとデンマークの存在が目立ちます。
両国ともに、風力発電量全体としては、それぞれランキング8位、11位ですが、
オフショア風力発電の分野では、世界を牽引しています。
特にデンマークは、国営企業Vattenfallと、国営色の濃いエネルギー企業DONG Energyが、
自国内だけの発電量増加だけでなく、積極的に近隣諸国に展開し、
発電プラントを積極的に建設しています。

一方、イギリスは、オフショア風力発電の一層の促進を計画しています。
2010年1月イギリス政府は、オフショア風力発電のライセンスを大規模に発行。
世界最大となる9,000MW規模の発電所をはじめ、
超巨大風力発電所が複数誕生する予定となっています。


※出所:BBC News

今回はデータを中心に紹介しましたが、各国の事情については、
今後紹介していきたいと思います。

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日本で最近話題になり始めた、
「メガソーラー」と呼ばれるような大規模太陽光発電プラント。

日本の電力企業10社が加盟する電気事業連合会は、
2020年度までに全国約30地点(電力会社10社合計)で、
約140MWの太陽光発電設備を設置する「メガソーラー発電」計画を公表しています。

その中でも、最大の規模を計画しているのが東京電力。
東日本大震災より以前、2008年10月に、20MWのメガソーラーを川崎市と
協働で推進することに合意。
そして、2011年8月12日に、第1号となる「浮島太陽光発電所」(7MW)の運転開始
を開始しました。(ニュースはコチラ

また、ソフトバンク社は、2011年の5月に、
日本全国約10か所に2MW規模のメガソーラーを建設する構想を発表。
7月には全国の知事が参加する「自然エネルギー協議会」を発足。
今日現在で、北海道、岩手県、秋田県、山形県、福島県、栃木県、群馬県、
埼玉県、神奈川県、富山県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、
滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、和歌山県、鳥取県、徳島県、奈良県、
島根県、岡山県、広島県、山口県、香川県、愛媛県、高知県、佐賀県、
長崎県、熊本県、大分県、宮崎県の計34道府県が参加しています。

一方で、太陽光発電の高コスト体質を理由に、
メガソーラー計画に批判的な意見もあります。

そこで、今回、世界のメガソーラーの現状を見ていきたいと思います。

Solar Plazaという団体が、
世界の太陽光発電プラント(Solar Photovoltaic Plant)の
ランキングを発表してくれています。

太陽光発電所名 最大出力(MW) 発電所所有者 発電所所有者の業態 発電所建設企業 太陽光発電パネルメーカー パネルタイプ 完成年
1 カナダ Sarnia 92 Enbridge エネルギー企業 First Solar First Solar CdTe 2010
2 イタリア Montalto di Castro 84 Sunpower 太陽光発電パネルメーカー Sunpower, Sunray Sunpower c-Si 2011
3 ドイツ Finsterwalde I, II & III 83 Q-Cells 太陽光発電パネルメーカー Q-Cells Q-Cells c-Si 2010
4 イタリア Rovigo 70 First Reserve プライベート・エクイティ企業 SunEdison Canadian Solar a.o. c-Si 2010
5 スペイン Olmedilla de Alarcón 60 Nobesol Levante 太陽光発電プラント建設・売電企業 Nobesol Levante Siliken a.o. c-Si 2008
6 米国 Boulder City (Copper Mountain) 55 Sempra Generation エネルギー企業 First Solar First Solar CdTe 2010
7 ドイツ Strasskirchen 53 Q-Cells 太陽光発電パネルメーカー Q-Cells Q-Cells c-Si 2009
8 ドイツ Lieberose 53 Juwi Solar 太陽光発電プラント建設・売電企業 Juwi Solar First Solar CdTe 2009
9 スペイン Puertollano I 52 Renovalia Energy 太陽光・風力発電売電企業 Renovalia Energy Suntech, Solaria c-Si 2008
10 ポルトガル Moura (Amareleja) 46 Acciona Solar 持続可能(再生可能エネルギー、インフラ、水)施設デベロッパー Acciona Solar Yingli Solar c-Si 2008
11 ドイツ Köthen 45 Deutsche Eco 太陽光発電プラント建設・売電企業 Deutsche Eco BP Solar c-Si 2011
12 イタリア Cellino San Marco 43 AES Solar 太陽光発電プラント建設・売電企業 AES Solar First Solar CdTe 2010
13 ドイツ Waldpolenz 40 Juwi Solar 太陽光発電プラント建設・売電企業 Juwi Solar First Solar CdTe 2008
14 チェコ Ralsko 38 CEZ Group エネルギー企業 CEZ Group c-Si 2010
15 イタリア Alfonsine 36 Reno Solar, Tozzi Holding 太陽光発電プラント建設・売電企業 Reno Solar, Tozzi Holding
16 チェコ Vepřek Solar Park 35 Decci 不明 Decci PhonoSolar c-Si 2010
17 スペイン La Magascona & Magasquilla 35 Fotowatio Renewable Ventures 太陽光発電プラント建設・売電企業 Fotowatio Renewable Ventures Suntech c-Si 2008
18 スペイン Arnedo 34 T-Solar 太陽光発電プラント建設・売電企業 T-Solar 2008
19 ドイツ Reckahn 32 Belectric 太陽光発電プラント建設・売電企業 Belectric First Solar CdTe 2010
20 フランス Le Gabardan 26 EDF Energies Nouvelles 太陽光・風力発電プラント建設・売電企業 EDF Energies Nouvelles
21 ドイツ Ernsthof 34 Relatio 太陽光発電プラント建設・売電企業 Relatio LDK Solar c-Si 2010
22 スペイン Dulcinea 32 Avanzalia 太陽光・風力発電プラント建設・売電企業 Avanzalia Kyocera, Suntech c-Si 2010
23 イタリア Sant’ Alberto 35
24 スペイン Alamo (I, II, III, IV) 34 Gestamp 太陽光発電プラント建設・売電企業 Gestamp Trina Solar c-Si 2010
25 ドイツ Tutow I, II 31 Juwi Solar 太陽光発電プラント建設・売電企業 Juwi Solar, RIO Energie First Solar CdTe 2010
26 米国 Cimarron Solar Facility 30 Tri-State エネルギー企業 First Solar First Solar CdTe 2010
27 スペイン SPEX Merida/Don Alvaro 30 Deutsche Bank, ecoEnergías 銀行, 太陽光発電プラント建設・売電企業 Deutsche Bank, ecoEnergías Solarworld c-Si 2008
28 チェコ Ševětín 30 CEZ Group 太陽光発電プラント建設・売電企業 CEZ Group c-Si 2010
29 ドイツ Helmeringen 26 Gehrlicher Solar 太陽光発電プラント建設・売電企業 Gehrlicher Solar First Solar CdTe 2010
30 米国 DeSoto 25 Floride Power & Light エネルギー企業 Floride Power & Light Sunpower c-Si 2009

メガソーラー・トップ30の場所


より大きな地図で 世界の太陽光発電プラント最大出力ランキングトップ30 を表示

ここから、読み取れるものを、いくつかまとめていきたいと思います。

1. メガソーラーは、ヨーロッパ諸国に集中。

上記の30メガソーラーを国別にまとめてみると、

ドイツ  9
スペイン 7
イタリア 5
チェコ 3
米国 3
フランス 1
ポルトガル 1
カナダ 1

となり、ヨーロッパ諸国が86.7%を占めています。

実際に、ドイツ、イタリア、スペイン、チェコでは、
2007年前後から急速に太陽光発電での発電量が上昇しています。


※出所:”Photovoltaic Power Systems Programme”, IEA-PVPS, 2010
     and “Top 30 Solar PV Markets”, Solar Plaza, 2011

この背景には、
固定価格買取り制度」(Feed-in-Tariff)の存在が挙げられます。
ドイツでは2000年、チェコとイタリアでは2005年、スペインでは2007年から開始された、
固定価格買い取り制度により、太陽光発電所で発電された電力の販売価格が上昇し、
太陽光発電所運営の収益性が良くなりました。

その結果、メガソーラーの建設も進んできています。

日本でも、2011年8月26日に固定価格買い取り制度を定めた、
「再生可能エネルギー特別措置法」が成立しました。
この法律による影響については、あらためてブログでとりあげたいと思っています。
 

2. 専業者中心のヨーロッパとエネルギー会社主導の北米

ヨーロッパでは、「太陽光発電プラント建設・売電企業」が
メガソーラーの事業者となる傾向があるのに対し、
北米では、「エネルギー企業」がメガソーラー事業を牽引しています。

これは、大規模な固定価格買い取り制度や、再生可能エネルギー比率を高める
法律が整備されているヨーロッパでは、
太陽光や再生可能エネルギーを専業とした新興企業の設立を後押ししているのに対し、
まだ整備が進んでいない北米では、
資本力のある既存のエネルギー企業が、将来に向けての事業多角化や、
社会に対するブランド戦略の意味合いで、太陽光発電に取り組んでいるという違いが、
挙げられます。

また、ヨーロッパ、北米双方で、太陽光発電パネルメーカーによる、
メガソーラー運営も最近の大きな流れの一つです。
こちらについては、パネルメーカーが、製造、建設、運営までの、
一連のサプライチェーンを、垂直統合し、
利益率の上昇や、PDCAサイクルの高速回転を目指すという、
戦略上の要因が挙げられます。
 

3. 農地や荒れ地を中心とした立地

メガソーラーの立地については、
地方都市近郊の農地や荒れ地での建設が中心です。
洋上や山間部に設置されているケースは、
トップ30の中にはありません。

また、既存の地方空港の空き地を利用したメガソーラーの建設も、
ヨーロッパを中心に見られます。
 

4. 金融関係資本の投資が加速

ランキング18位のT-Solarに対し、
プライベートエクイティ世界大手のKKRがドイツの再保険会社Munich Reと共同で
49%の株式を買収したり、(ニュースはコチラ
ランキング30位のFPLが、2億5000万ドルの社債発行に成功したりと、
金融関連の資本が、メガソーラーにも集まってきています。(ニュースはコチラ
 

冒頭で紹介した、日本の電気事業連合会の14MWメガソーラー構想は、
これらの世界レベルのメガソーラーを見ると、規模が霞んで見えます。

また、ソフトバンクが打ち出している約200MW規模の構想については、
すでに、ヨーロッパ諸国では、専業メーカーにより実現されている規模であり、
規模の観点では、決して「絵空事」ではありません。

日本の太陽光発電については、
再生可能エネルギーを推進するという考えでは一致していても、
各論の推進の場面で、高コストを理由に反対する声があります。

であるならば、ポイントは、
「高コストだからダメ」で終わらせるのではなく、
いかに発電コストを削減していけるかにあるのではないでしょうか。

そのための、太陽光パネルのエネルギー変換効率の向上、
太陽光パネルおよびその部品の製造技術の向上、
低コストオペレーションのための取組の推進、
そして、その技術革新を支えるための官民資金の呼び込み。

こうした会話や取組こそが今、必要なんだと思います。

sustainable japan

電力・エネルギー等サステナビリティに関する最新トピックスは、Sustainable Japanに掲載しています。御覧ください!

3/19に、福島第一原子力発電所の状況が大きく安定化してきました。

1号機: 東北電力からの電源ケーブル敷設が完了。冷却施設の回復見込み。
2号機: 東北電力からの電源ケーブル敷設が完了。冷却施設の回復見込み。
3号機: 東京消防庁の消防車による注水作業で効果があり、施設冷却に成功。
4号機: 3号機と同様の処置を行う予定。
5号機: 仮設の海水ポンプの稼働に成功。使用済み核燃料プールの冷却機能が回復。
6号機: 仮設の海水ポンプの稼働に成功。使用済み核燃料プールの冷却機能が回復。

当初、同様に原子力緊急事態宣言が発令された、福島第二原子力発電所においても、
すでに、1号機~4号機までの全てにおいて、冷温停止状態となり危機を脱しています。

しかしながら、
放射線漏れによる近隣自治体への影響は深刻な状態となっているとともに、
東京電力管内全域でも深刻な電力不足に見舞われています。

東日本大震災(東北関東大震災)前と後の発電量(出力量)をまとめました。
東京電力の公開情報や報道資料をもとに独自作成。
※最大出力量はWikipedia参照。
※震災への影響は3/20時点の内容。
表をクリックすると拡大します。

大震災前に総計6000万kW近くあった発電量が、
大震災後は総計4000万kW弱まで落ち込んでいるのがわかります。

また、実際に供給できる電力は、”供給量 = 発電量 – 配電ロス” となり、
4000万kW全てが供給できるわけではありません。

この大きな需給格差を埋めるために、
東京電力は契約に基づき大口の法人顧客(工場等)への電力抑制を依頼。

そして、震災直後からの電気需要と供給量の予測は以下の通りでした。

3/12(土) 需要 3600万kW 供給 3700万kW
3/13(日) 需要 3700万kW 供給 3700万kW
3/14(月) 需要 4100万kW 供給 3100万kW (電車運行抑制・揚水式水力発電停止)
3/15(火) 需要 3500万kW 供給 3300万kW (計画停電開始)
3/16(水) 需要 3500万kW 供給 3300万kW
3/17(木) 需要 4000万kW 供給 3350万kW (電車本数増加)
3/18(金) 需要 3700万kW 供給 3500万kW
3/19(土) 需要 3100万kW 供給 3450万kW
3/20(日) 需要 3100万kW 供給 3400万kW
東京電力の公開情報をもとに作成。

このように休日は企業活動が休止するため需要が減りますが、
平日は節電したとしても供給量が足りません。
そのため、電車本数の削減や計画停電が実施されている状況です。

さらに、東京電力の発表では、通常、
冬場で5000万kW、
夏場で5500万~6000万kWトの電力供給力が必要だということです。
その結果、東京電力は、政府中枢機関の多い千代田区、港区、中央区の
3区を除く、都内20区においても夏には計画停電が必要となる可能性を
示唆しました。
※元記事はコチラコチラ

東京電力が現在、復帰や再稼働を目指している
東扇島、鹿島、横須賀を含めると発電量は4,863万kWに達し、
供給量は推定4,200万kWまでは回復できそうです。

そのため、今年の夏は大規模な節電が強いられることになりますし、
計画停電は今年の冬にまで続くという見通しもあります。
朝日新聞の記事

もちろん、節電や計画停電の効果は大きいです。



出所:東京電力のHP

上のグラフを見ていただくと、前年の相当日に比べて、
日中および夜間の電力消費量が大きく低下しているのがわかります(3/23時点)。

今回は現状のみの報告となり心苦しいですが、
対策については情報が取れ次第、あらためて説明していきたいと思います。

太陽光発電モジュールの心臓部となる太陽電池セル。

太陽電池セル製造において、古くから世界の頂点に君臨し続けたのは、日本のシャープ。
1963年に太陽電池の生産を開始し、その後2007年まで生産量世界一を誇り続けます。

しかし、2008年、ドイツのQ-Cellsと中国のSuntech Powerに抜かれ3位に陥落。
さらに、2009年、アメリカのFirst Solarに抜かれ4位に転落。

シャープを上回った3社はいずれも新興企業。
Q-CellsとFirst Solarは1999年に創業。Suntech Powerの創業は2001年。
いずれも、創業から10年経たない間に、老舗のシャープを追い越して行きました。

今でも太陽電池セル市場において技術力は世界一だと言われているシャープが、
なぜ新興企業に一気に追い越されていったのでしょうか。

この原因として、よく挙げられるのが、以下の2つです。
1) 日本政府が太陽光発電への補助金を停止したため
2) シリコンの原材料価格が高騰し、生産量拡大が間に合わなかったため

1)だとすると、なぜシャープは海外市場を狙わなかったのか。
2)だとすると、なぜ他の新興3社は生産量を拡大できたのか。
この2つの説では説明できません。

そこで、より包括的な敗因分析を行ってみたいと思います。

■ 国ごとの太陽光発電の推移

日本は「家庭用太陽光発電」の急速な普及のもとに、
太陽光発電の導入量は2003年まで世界一を誇っていました。
それを後押ししたのが、
経済産業省資源エネルギー庁所管の財団法人である「新エネルギー財団」が
実施していた補助金、「住宅用太陽光発電導入促進事業」でした。
しかし、この補助金は、再生可能エネルギーの重要性が認識されていた2005年に、
突然終了してしまいます。原因は、申請数増加による財源不足でした。
その結果、日本の累積導入量の伸び率は鈍化していきました。

一方で、対象的な動きをとったのはヨーロッパ諸国。特にドイツとスペインでした。
ドイツでは2004年、スペインでは2007年に、本格的な補助金制度が法整備されました。
日本の補助金が設備導入時への支給という形態をとったのに対し、
ヨーロッパでは「固定価格買取制度」、英語名Feed-in Tariff方式が一般的。
これは、太陽光発電で発電した電力を、電力会社が割増し固定価格で買い取る制度。
割増した分のコストは、一般電力消費者が分担して負担するため、
国庫からの負担はありません。

この「固定価格買取制度」を背景に、ドイツ、スペインでは急速に導入量が増加。
2009年の単年の導入量では、EU諸国だけで世界の導入量の75%を占めました。
こうして、日本の国としての導入量は世界3位に陥落しました。

シャープは、日本市場においてシェアは今も昔もナンバーワン。
仮に、日本もヨーロッパ諸国と同様に、「固定価格買取制度」を導入し、
ドイツやスペインと同等かそれ以上の導入実績を持てていたとしたら、
シャープは、その日本の伸びを、自社の実績とし、
世界一の座を守り続けることができていたかもしれません。
これが、1) 日本の補助金廃止が敗因という説につながっていきます。

しかし、すでに触れたように、なぜシャープは世界でシェアを伸ばせなかった
のかを説明してはくれません。

■ シャープと新興3社の業績推移

次に、シャープの売上推移を見てみましょう。
下の図は、シャープのIR資料をもとに作成したものです。

確かに日本で補助金が廃止となった2005年以降、業績が低迷しています。
しかし、よくよくグラフをみてみると、シャープの太陽電池の売上の半分以上は、
海外での売上です。
シャープの売上は、国内の市場動向よりも、
海外での売上動向に大きく左右されることがわかると思います。

一方で、新興3社の推移を見てみましょう。

このグラフは、日本政策投資銀行のレポートから抜粋しました。

シャープが売上を低迷させた2005年以降、新興3社は売上を拡大しています。
これは、同時期に拡大したヨーロッパ市場を見事に3社が取り込んでいったためです。
Q-Cellsは、本国ドイツでの生産を拡大し、マレーシアにも生産工場を設立。
Suntech Powerは、本国中国のほか、ドイツ、日本、アメリカでの生産に着手。
First Solarは、本国アメリカのほか、ドイツ、マレーシア、フランス、ベトナムに
工場を開設し、現在は中国での生産も視野に入れています。

こうして、新興3社は、ヨーロッパ内での生産を大幅に拡大し、
急上昇したヨーロッパの太陽光市場を制していきました。

■ シャープの敗因

では、なぜシャープは、ヨーロッパ市場で存在感を出せなかったのでしょうか。
原因は、コストと資金力でした。

コスト

シャープは、新興3社に比べ、製造原価が高く、価格競争力がありませんでした。

理由のひとつめは、「過度な技術信仰」です。
シャープは世界市場でのシェアを現在落としてしまいましたが、
それでもシャープの太陽電池は、エネルギー効率の面で「世界一」の技術と評されています。
シャープは古くから、太陽電池の普及に欠かせない「エネルギー効率」の向上
に力を入れ、シリコン型という太陽電池の方式にこだわってきました。
シリコン型は、数ある他の方式の中でも、最も高いエネルギー効率を誇ったからです。

しかし、シリコン型には欠点もあります。
原材料のシリコンが高価なため、高コストだということです。
太陽光の力を電力に変える力は高いけれども、
その電力を発電させるためのコストが高い。
さらに、世界的な太陽電池産業の盛り上がりのなかで、シリコン価格は高騰。
シャープの製造原価はさらに上がっていってしまいました。

一方で、新興3社は、原価の削減に成功していきました。


出所:仏Yole Developpement

このグラフを見ていただくと、アメリカやドイツでは、CIGS型、CdTe型の比率が
比較的多いことがわかります。
このCIGS型、CdTe型は、薄膜型方式と呼ばれる新しい技術で、
エネルギー効率の面ではシリコン型に敵いませんが、
原材料が安く、製造原価を大きくおさえることができます。
First Solarは、このような薄膜型で市場に勝負をかけていきました。

一方、Suntech Powerは、シャープと同様、シリコン型を主力商品としましたが、
中国という地の利を生かし、人件費等を大幅に抑え、コスト圧縮に成功していました。
そして、Q-Cellsも、シリコン型を主力としましたが、
世界一市場となったドイツの政府からの後押しや、マレーシアでの生産によるコスト
削減努力などから、シェアを伸ばしていきました。

そして、急成長したヨーロッパ市場。
EU諸国は、再生可能エネルギーに力を入れる一方で、財政難にも苦しんでいました。
政府にとって重要なのは、製品の技術レベルではなく、導入しやすい価格の安さ。
シャープの高単価高品質製品より、新興3社の商品のほうが魅力的だったのです。

この価格競争にさらに追い打ちをかけたのが、「規模の経済」です。
太陽電池は、大量生産型の商品です。
大量に生産すればするほど、規模の経済が働き、製品単価を下げていくことができます。
ヨーロッパで大量の受注を獲得した新興3社は、さらに製品単価を下げることに成功し、
新たな受注を獲得していったのです。

資金力

コスト競争力には、それぞれの企業の資金力が大きく左右しました。
なぜなら、生産量を拡大させればさせるほど、規模の経済が働き、
さらには、高騰する原材料の長期安定供給契約を可能とし、
製造原価を抑制させることができるからです。

Q-Cellsは2005年にフランクフルト証券取引所に上場して資金を集め、
First Solarも2006年にNASDAQに上場し、シリコンバレーの
ベンチャー・キャピタルから多額の資金を集めます。
一方、Suntech Powerは、中国政府の各機関から多額の低金利融資を獲得。
こうして、3社は短期間で大きな資金力を手にすることに成功しました。

一方で、シャープは、新興3社と異なり、太陽電池専業ではありません。
大きな投資計画を行うためには、他の事業とも含めた中での経営判断が
必要となり、意思決定は遅れ、投下資金は3社に比べ見劣りするレベルでした。
資金力でも新興3社に敗れてしまったのです。

こうして、老舗メーカー・シャープは、
急成長したヨーロッパ市場において、新興3社にコスト競争で敗れ、首位から転落。
後塵を拝していきました。

■ 今後の行方

もちろん、シャープも形成を逆転させるため、新たな施策を始めています。
それが「薄膜型の増強」と「生産量の拡大」です。
2007年1月に富山県でのシリコン内製化を開始。
同年3月には奈良県の葛城工場でシリコン型の生産増強と薄膜型の生産に着手。
2010年3月には、大阪府堺市での新工場をオープンし、
2011年にはイタリアのEnel社やスイスのSTMicroelectronics社と共同で
イタリアに初の海外工場もオープンさせる予定です。

しかし、状況は依然としてシャープにとって厳しいままです。
2010年に入り、世界の導入量の1、2位となっていたドイツやスペイン、
さらにその他のEU諸国で、財政難を理由に「固定価格買取制度」の買取価格見直し
議論がスタート。価格が下がることで、導入量が一気に冷え込んできました。
シャープが、イタリアの新工場建設で見込んでいたヨーロッパへの販売に暗雲が
立ち込めています。

さらに、ヨーロッパ市場が急速に悪化する中で、世界中での生産過多が発生し、
太陽電池価格が下落。各社の利益を圧迫しはじめています。
そうした中で、新興3社も、将来性が大きい中国での生産拡大に乗り出しています。
中国では、2009年から政府の”Gold Sun”プログラムが始まり、
太陽光発電への政府の予算が多く投下される取組が開始されているためです。
一方で、シャープからはまだ中国への進出についての発表はありません。

そして、昨今の円高。日本国内での生産を重視してきたシャープにとっては、
大きな逆風です。

最先端の太陽電池技術を有するシャープ。
世界シェアを奪還するための課題は、
日本政府の太陽光発電への取組や、シリコンの安定供給契約だけでなく、
むしろ新興3社に負けない資金力の確保と意思決定スピードにありそうです。

再生可能エネルギーという分野は、
環境活動家やエコ推進者からみると、社会セクターとも位置付けられています。
しかし、実際の従事者の立場からは、激しい競争にさらされているビジネスの場です。
いかに、サステイナブルな事業体になっていけるか。
これは業界の分野を問わず、どの事業体にも必要な要素なのだと思います。

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