今日、日本におけるCSRやサステイナビリティに対して、
以下のようにとらえる方が数多くいらっしゃいます。

「企業利益を、社会貢献として社会に還元するためのコスト」
「途上国や環境分野に対する支援のためのコスト」
「ブランドイメージをあげるためのコスト」

特に、好景気下で、企業利益が増加しているときは、CSRが強調されますが、
不景気になると、CSR予算がカットされることも多く、
CSR活動そのものの持続可能性が疑われることがよくあります。

また、NPOというと、

「補助金や寄付金に依存する慈善活動」
「専門的スキルやマネジメント力に欠け、継続性に難あり」

と、特にビジネスパーソンの中に、NPOという存在そのものに
懐疑的な方が多くいらっしゃいます。

しかし、上記とは異なる考え方をし、
積極的にCSRやサステイナビリティに取り組むムーブメントが、
サンフランシスコの企業やNPOを中心に巻き起こってきています。

先週、学校の特別プログラムに参加し、サンフランシスコとシリコンバレーに本部を置く、
8つの企業・NPOを実際に訪問することができました。

1. As you sow: 社会的責任投資(SRI)を手掛けているNPO
2. GAP: 世界有数のアパレルメーカーのCSR関連部門
3. BSR: サステイナビリティ構築コンサルティングをしているNPO
4. SAP: ITベンダーの世界大手のCSR関連部門
5. IDEO: デザインコンサルティング会社
6. Taproot Foundation: プロボノサービスを提供しているNPO
7. TechSoup: IT商品を格安で世界のNPOに提供しているNPO
8. Clorox: 消費財メーカー大手のCSR関連部門

この中で、純粋なバックオフィス機能として
CSRやサステイナビリティに関わっているのは、GAPのみ。

その他の企業やNPOは、
CSRやサステイナビリティの分野を事業として営み、売上と利益をあげています。

1. As you sow: 企業に対するSRI商品やアドバイザリーサービスの販売
3. BSR: 企業に対するサステイナビリティ向上コンサルティングサービスの販売
4. SAP: 企業に対するCSR・サステイナビリティ支援システムの販売
5. IDEO: 企業に対するデザインコンサルティングサービスの販売
6. Taproot Foundation: NPOに対する事業コンサルティング・プロボノサービスの販売
7. TechSoup: NPOに対するIT商品の格安販売
8. Clorox: エコ商品「Green Works」の販売

彼らに共通するCSRやサステイナビリティに関する考え方は、

・企業CSR部門はCSRの目的を、社会貢献だけではなく、企業利益の向上ととらえている
・訪問したNPOはみんな収益源がきっちりしていて補助金や寄付金に頼っていない
・有名コンサル企業出身の人たちが実際のNPOの現場で活動している
・NPOには企業経営と同様のスタンスが必要だとみんな思っている

というもの。

CSRやサステイナビリティを、何か神聖なものとして特別扱いすることはなく、
社会のニーズに対する「新たなビジネス・市場」として、捉えています。

さらに、CSRの範囲も、従来は「環境」だけにフォーカスされていたものが、
最近では、社会・環境・ガバナンス・人権(SEG+HR)全体に及んできています。

企業をCSRに駆り立てる動機は何なのでしょうか。

訪問した企業からは、以下のような共通する思惑がみえてきました。

・エコに対する関心の高い層に対する新市場からの売上増
・企業・商品ブランド向上によるプレミアムマージンの獲得
・エネルギーや原材料効率を改善することでのコスト削減
・地域社会との共存を実現することでの原材料の安定供給の実現
・従業員満足度を高めることでの人的関連費の削減
・労働環境改善による製品の質の向上
・訴訟、罰金、ボイコットなど利益減を招くリスクの低減

このように、CSRやサステイナビリティを、企業利益に貢献するものととらえており、
投資対効果の測定も行われています。

そして、企業が利益向上のためにCSRを推進したいというニーズに対応し、
他の企業やNPOがサービスを販売し、市場が形成されているという構造です。
もちろん、ビジネスを継続させるために、それぞれのプレーヤーは、
「より少ない投資でより大きな成果をあげる」ためのイノベーションに取り組んでいます。

一方で、各プレーヤーが抱える課題は大きく2点です。

①CSR活動が果たす財務パフォーマンスへの影響測定の可視化、精緻化
②オペレーションレベルでのモニタリング・効果測定の向上

この課題をニーズと捉え、SAPがいち早く事業として取り組み始めています。

従来、「コストセンター」として見られてきたCSRやサステイナビリティ活動は、
現在、その姿を大きく変えつつあります。

世界に冠たるアパレルメーカー、GAP.Inc

「GAP」「BANANA REPUBLIC」「OLD NAVY」「PIPER RIME」等の
ブランド有し、世界各国に合計3200以上の店舗を持っています。

このGAP本社のCSR部門の方からレクチャーを受ける機会があったので、
その内容をもとに、アメリカの大手企業のCSR活動の実状を紹介したいと思います。

GAPは、CSR活動が高く評価されているアメリカの大手企業の中の1社です。
Dan Henkle常務(社会的責任担当)率いるCSR担当のメンバーは現在、総勢70名。
GAPの全ブランドを横断的に担当しているコーポレート組織です。
そのうち、サンフランシスコのベイアリアの本社にいるのは10名ほど。
残りのメンバーは、世界中に散らばり業務を遂行しています。

この部署のメンバーの多くは、物流部門や製造部門、デザイン部門など、
社内のそれぞれの部署から異動してきた人が多く、
それぞれの部署での専門知識をいかして、業務に取り組んでいます。
NPOなどの出身者は極めて少数派です。

部署は大きく4つのセクションから構成されています。

■モニタリング/販売店開発

世の中の関心の高い「児童労働」「有毒物質」などに対し、
GAPの全ブランドのサプライヤー(供給者)が、これらの活動に抵触していないかどうか、
モニタリングし、調達から販売まで一貫した「CSR的なサプライチェーン」の構築に
責任を持っています。
担当範囲は自社だけでなく、無数の協力企業や、協力企業の協力企業に及びます。

■パートナーシップ

外部の環境団体や政治団体、人権団体などとパートナーシップを組み、
GAP本体や協力会社の改善をしていくのが役割です。
CSR活動の多くは、このような外部団体からの持込み案件が多く、
一歩関係構築を間違えると、GAPのブランドを大きく傷つけることにもなってしまうため、
非常に重要な役割を担っています。

■環境

ゴミ削減や省エネ、廃棄物削減など、社内の環境改善活動に責任を負っています。
「省エネ電気の導入」「デスク周辺のゴミ箱設置廃止」など地道な活動もありますが、
リサイクルを推進するため、行政当局に働きかけていく大がかりなものもあります。
ニューヨークに新たなデザインセンターを開設した際には、
リサイクルシステムのなかったニューヨーク市と粘り強く交渉し、
市としてのリサイクル活動開始に大きな影響力を発揮しました。

■戦略企画/コミュニケーション

CSRレポート作成や重大テーマの設定などを担当しています。
最大の課題は、CSR活動の効果測定や利益インパクトの算出。
効果の量的分析については、GAP以外の企業も悩んでいるテーマです。
※実際のレポートをコチラからダウンロードできます。

このように、CSR活動の担当範囲は、
人事、総務、調達、店舗管理、法務、政府交渉など多岐にわたり、
部署をまたぐ案件をプロジェクトマネジメントをして推進していくことが中心となっています。

活動テーマの多くは、外部の団体(NPOなど)からの指摘や提言によるもので、
その中で重要で解決できそうなテーマから着手をしていきます。
持ちかけのある代表的な外部団体は、
As You Sow Foundation
Domini Social Investments
Calvert Asset Management Company
Center for Reflection, Education and Action
Interfaith Center on Corporate Responsibility
などです。

これらの団体は、GAPが抱える潜在的な「リスク」を教えてくれる頼もしい存在ですが、
同時に、無理難題を持ちかけてくる「厄介な」存在でもあります。
彼らは、指摘とともに解決方法を提示してくれることもありますが、
「原料のトレーサビリティ」など、GAPだけでは手に負えるものでもないものが多く、
頭を悩ませています。

そこで、NPOが持ちかけてきた案件を、ソリューションをともに考えてくれるNPOに相談し、
状況を改善していくことが多くなります。
このソリューション担当NPOの代表格が、BSRです。
BSRは世界の大手企業や、ソーシャルエンタープライズ、NPOとネットワークを持っており、
一社単独では解決しにくいテーマに対し、
業界全体で手を打っていくソリューションや、
他のソーシャルエンタープライズを巻き込んで、
効率的・効果的に解決していくソリューションを強みとしています。

こうした中で、GAPはCSR活動、または社会的貢献活動の財務的メリットを、
「企業ブランドの維持・向上」「製品の質の向上」に置いています。
すなわち、企業ブランドを維持することで、製品ボイコットなどのリスクを減らすとともに、
労働環境の改善や、原料の改善から、製品の質そのものが向上することを、
全社利益への貢献と定義しています。
また、省エネによるコスト削減効果も意識されています。

社会的責任部門と、ファイナンス部門との関係も良好で、
CEOのリーダーシップのもと、昨今の不景気の中でも、社会的貢献部門の予算は
一切削減されなかったという事実を、彼ら自身も誇りにしているようです。

今後の大きなテーマは、
① オペレーションレベルでの行動モニタリングと効果測定
② サプライチェーンの省エネを徹底したコスト削減
が2大テーマとされていました。

上記のようなGAPの取り組みから、

・「エコ推進派」の企業による、「エコ消極派」行政の改革
・NPOによる課題発見とソリューション構築
・オペレーションレベルのモニタリングの仕組みの必要性増加

というアメリカの動きが見てとれます。

※僕の別ブログである「アメリカ・サンダーバードMBA留学ブログ」から転載しました。

「環境」「持続可能性(サステイナビリティ)」の必要性が増す中、
アメリカでのビジネススクール(MBA)の動きにも変化が出始めています。
今日は、「Green MBA」「Sustainable MBA」の動きを紹介します。

2年前にBusinessWeek紙は、
「Green MBA」「Sustainable MBA」が登場してきた背景について
このように報じました。

MBA Programs Go Green

At one time, business schools “greened” their MBA curriculums in response to a new wave of students for whom sustainability was more than just a catchphrase.

「かつて、ビジネススクールが、持続可能性を重視する学生の新たな波に
反応して、MBAカリキュラムを「グリーン化」しはじめた」

Today, business schools are continuing to ramp up their efforts for green curricula, but for a much different reason. In a world beset by economic woes as well as environmental problems, sustainability represents one of the few potential bright spots in an otherwise dismal recruiting environment.

「しかし今、ビジネススクールは、他の理由から「グリーン化」の動きを加速している。
経済不況と環境問題に悩む世界の中で、持続可能性は雇用が明るい数少ない領域
のひとつになっている。」

つまり、以前は、ただの「人気集め」だったGreen MBAが、
実利的な「就職」のためにも、重要性が増してきたというわけです。

そんな中、レベルの高低を問わず、様々なビジネススクールが、
カリキュラムの「グリーン化」に積極的に取り組み始めています。

この流れを受けて、MBA受験生が好きな「ランキング」にも、
「Sustainablily」や「CSR」という切り口のものが登場してきました。

Financial Times (2011):

1 University of Notre Dame (Mendoza)
2 University of California at Berkeley (Haas)
3 University of Virginia (Darden)
4 Ipade
5 Yale School of Management
6 University of North Carolina (Kenan-Flagler)
7 Thunderbird School of Global Management
8 University of Michigan (Ross)
9 Northwestern University (Kellogg)
10 York University (Schulich)

Beyond Grey Pinstripes (2009):

1 York University (Schulich)
2 University of Michigan (Ross)
3 Yale School of Management
4 Stanford Graduate School of Business
5 Notre Dame (Mendoza)
6 University of California at Berkeley (Haas)
7 RSM Erasmus MBA
8 New York University (Stern)
9 IE Business School
10 Columbia Business School

また、起業家教育(Entrepreneurship)に強いビジネススクールである

Massachusetts Institute of Technology (Sloan)
Stanford Graduate School of Business
Babson College (Olin)

は、カリキュラムの中に、理工学系の大学院とタイアップし、
技術ベースの起業を推進していったことで、
起業家教育の地位を盤石にしていきました。
ここからも、Greenという名の最先端技術が雇用やビジネスを生む
土台となってきていることがわかります。

さらに、Wikipediaでは、Sustainable MBAに特化した学校として、
以下の学校が紹介されています。

Anaheim University
Antioch University New England
Bainbridge Graduate Institute
BSL – Business School Lausanne
Colorado State University – Global Social & Sustainable Enterprise program
Dominican University of California – MBA in Sustainable Enterprise
Duquesne University – Donahue – Palumbo Schools of Business – MBA – Sustainability Program
Green Mountain College
Marlboro College Graduate School – MBA in Managing for Sustainability
Marylhurst University- MBA in Sustainable Business
National Institute of Industrial Engineering, Mumbai, India
Presidio School of Management of Alliant International University
University of East Anglia – MBA Strategic Carbon Management
University of Exeter – One Planet MBA
University of Michigan – Erb Institute for Global Sustainable Enterprise

このように、ビジネスがCSRやSustainablityが取り組んでいく流れには反対意見もあります。
一番の急先鋒は、ノーベル経済学賞も受賞している
ミルトン・フリードマン・シカゴ大学経済学教授です。

フリードマン教授は、2006年に亡くなっていますが、
1970年から一貫して、「企業の社会的責任」という考え方を否定し続けてました。

The Social Responsibility of Business is to Increase its Profits

彼の考え方は、

“There is one and only one social responsibility of business – to use its resources and engage in activities designed to increase its profits”

「唯一のビジネスの社会的責任は、資源と活動を利益の増加のために使うことだ」

というものです。

もちろん、フリードマン教授は、
倫理や社会への影響を考慮することは重要だと言っていますが、
「社会的責任」が広範囲の意味合いをもつことを退けました。
彼は、利己心や利益追求がもたらす社会の活力を重視していたためです。

フリードマン教授はシカゴ学派というマクロ経済のひとつの流行を作り出し、
国際金融の世界にも大きな影響を与えてきました。
そのフリーマン教授のアメリカは、「利益志向が強い」国だと言われてきました。

しかし、「企業の責任は利益の向上」という考え方に関する国際的な調査の中で、
この考えに賛同する人はアメリカよりも日本のほうが多く、
日本はアラブ首長国連邦に次いで、世界第2位(賛成 70%)でした。
ちなみにアメリカは9位(賛成 55%強)。

意外な結果かと思われるかもしれませんが、僕は、
以下のような、パナソニック創業者の松下幸之助氏の思想が
強く広く共有されているためではないかと考えています。

企業の利益というと
何か好ましくないもののように
考える傾向が一部にある。

しかし、そういう考え方は正しくない。
もちろん、利益追求をもって企業の至上の目的と
考えて、そのために本来の使命を見忘れ、
目的のためには手段を選ばないというような
姿勢があれば、それは許されないことである。

けれども、その事業を通じて社会に貢献すると
いう使命と適正な利益というものは
決して相反するものではない。

そうでなく、その使命を遂行し
社会に貢献した報酬として社会から
与えられるのが適正利益だと考えられるのである。

だから、利益なき経営は、それだけ社会に対する
貢献が少なく、その本来の使命を果たし得ていない
という見方もできるのである。

持続可能性を向上していこうとする際、企業という手法を、
どのように活用し連携していくかが大きなカギを握っていると思います。
ビジネススクールでもそれを模索する試みが始まっています。

ソーシャル・ビジネスや社会的セクターと呼ばれる企業や活動の多くは、
「平等な教育の機会を提供する」
「二酸化炭素の排出量を削減する」
など、持続可能な社会の実現を目指す崇高なミッションに基づいて、
運営されています。

一方で、崇高なミッションは、抽象的なフレーズとなりやすい。
方向性としては正しそうなのですが、どこまで前進しているのか、
言いかえると、社会に対してどのぐらい影響をもたらしているのか、
不明確になりがちです。
そのため、事業の社会的インパクトが小さくなってしまったり、
資金調達の際に事業の意義をうまく説明できなかったりすることが、
少なくありません。
これでは、せっかくの崇高なミッションも実現されず、
持続可能な社会には到達できなくなってしまいます。

社会に対して影響力をもっていくために、重要なことは何か。
アメリカのスコル財団はそのブログの中で、
成果を具体的に数値化することが重要であると、説きます。

How to evaluate social impact?

Consider after-school education. The federal government spends billions annually on after-school programs to assist young children who perform below grade level, especially in reading and math. Unfortunately, large-scale studies have found that most of these programs fail to boost student achievement.

「例えば、課外教育について。連邦政府は毎年何十億ドルもの予算を、成績が平均以下
の子供たちを支援するプログラムに費やしているが、残念なことに、子供たちの成績向
上をほとんど実現できていないことが研究によって明らかになっている。」

But not all of them do. (…) One such organization, BELL (Building Educated Leaders for Life), which uses a proven curriculum and has an award-winning training program for its instructors, has demonstrated substantial gains in students’ math and reading skills. Not only can BELL tell you how far its students have advanced during the school year, but it can tell you, week by week, how they are progressing. When a student falls off pace, red flags go up, and the organization does its best to remedy the situation. Most of BELL’s competitors could tell you how many students attended their programs and the number of hours each sat in class, but they can’t tell you what the children learned.

「しかし全部が成果をあげていないわけではない。例えば、低所得者層に対する
教育の分野で受賞実績を挙げているBELLという活動は、生徒の読書と数学能力
を具体的に向上していることが証明されている。BELLは生徒が具体的にどのぐら
い能力を向上させることができたかだけでなく、毎週生徒たちがどのぐらい成長し
ているかも把握している。生徒たちが学習ペースを落としたり、音を上げたときに、
BELLはその状況を打開するために全力をあげている。他の多くの教育機関は、
生徒数は何人か、授業時間は何時間という質問に答えることができても、子供
たちが何を学習したのかについては答えることができない。」

BELLは、自らのミッションの成果を数値化し、それを定期的に効果測定を
することで、社会への影響力を大きくすることに成功しているというです。

成果が具体的に可視化されると、以下のような効果が期待できます。
‐ 組織活動のゴールと現状の把握
‐ 株主、債権者に対する存在意義の説明
‐ 従業員やメンバーに対するモチベーションの向上
‐ 顧客に対する商品・サービス価値の説明

成果の可視化という考え方は、
ソーシャル・ビジネスの世界で最近重要視されつつあるようですが、
企業経営の世界では以前から広く採用され、いわば先輩にあたります。

しかし、このように従来の企業と、社会的セクターや政府を同一視することに、
反発する2種類の意見があります。

1つ目は、
「企業は利益という明確な数値目標があるが、社会的セクター(ソーシャル・ビジネ
ス)はミッションを中心にされており、そのミッションの数値化は容易ではない」

というもの。

2つ目は、
「企業は利益という短期的な目標を目指すのに対し、社会的セクターは長期的な社
会課題に取り組んでおり、長期的な目標は設定しづらい」

というもの。

どちらも、社会的セクターの目標設定は難易度が高いということに着目しています。

しかし、僕は、以下の2つの理由から、成果の数値化というマネジメント手法において、
企業経営と、政府や非営利組織との間には本質的な違いはないと考えています。

1. 企業は利益だけでマネジメントしてはいない

多くの企業が利益目標を設定していることは事実ですが、
実際の事業の場面では、利益でマネジメントをすることは多くはありません。

例えば、スーパーのレジのおばさんはいくら利益を挙げているのか。
コールセンターの担当者はいくら利益をあげているのか。
はたまた、人事部や経理部はいくら利益をあげているのか。
これを明確にすることは単純ではありません。
上記の部署の方々に、「利益をあげろ!」といったところで、
具体的な行動の改善につなげることは容易ではないのです。

そのため、多くの企業では、それぞれの部署や従業員の日々の業務に則した
目標を設定することで、組織の力を最大化しようとしています。
「レジ打ちのスピードをどれだけ向上できるか?」
「コールセンターのお客様満足度をどれだけ向上できるか?」
というように行動目標を具体化したり、
「人事部はコストを使う一方、何をもって部署の価値と呼ぶのか?」
ということをゼロから定める検討をしたりしています。

このように企業は、事業運営に際して、利益以外の成果を数値化しており、
ミッション遂行型のソーシャル・ビジネスと大きな違いはありません。

2. 企業も長期的目標の設定を行っている

企業は短期的な利益目標を追求していると称されがちですが、
従来の企業も、社会的なミッションを掲げてきました。

例えば、新たに事業を起業する際に、
純粋に「いくら儲かるか」だけでなく、「なぜその事業が社会にとって必要なのか」を
起業家たちは考えてきました。

また、既存企業の経営においても、
企業の幅広い利害関係者(株主、債権者、顧客、政府、社会全体)を考慮し、
利益目標だけでなく、理念やビジョンを明確に設定する企業が増えてきています。

ビジネススクールでは、理念やビジョンを数値化し、マネジメントに活用するという難題
に対し、「バランスト・スコア・カード」という解決手法が教えられています。

上記のスコル財団も、社会的セクターも、この「バランスト・ストア・カード」に基づくことで、
効果的な成果の数値化を実現できるのではないかとブログで呼び掛けています。

社会的セクターは、ときに存在しているだけで美談になってしまうことがあります。
しかし、具体的な成果として、社会に何をもたらしたのか、もたらしたいのか、
これらを明確にしないことには、
組織として成長することも、周囲の支援を得ることもできなくなってしまいます。

巧みな成果の数値化や目標設定は重要な経営力のひとつです。
数値化や目標設定の方法を変えることで、
さらに進化できる社会企業や政府はたくさんあると考えています。

ソーシャル・ビジネスや社会的起業と言われる世界では、
これまで企業が当然のように追い求めてきた「利益」が敵視される
ような傾向があります。

この利益敵視については、2つのレベルがあります。
1. 企業が当期利益を出すことそのものを問題視する
2. 企業が当期利益を株主に配当することを問題視する
  (当期利益を利益剰余金とし、再投資することは問題視しない)

1の立場をとる方は、そもそも感情的に「企業」「ビジネス」というものが嫌いな方々です。

「非営利」という言葉を大切にする人々はこの立場をとります。

しかし、最近、ソーシャル・ビジネスという言葉が普及するにつれ、
1の考えの方々は相対的に少なくなってきているような印象を受けます。
多くの人が、利益そのものが悪いのではなく、
「利益の最大化」ではない「健全な利益」が重要なのだと主張しています。

特に、低所得者層に融資を行うグラミン銀行(マイクロファイナンス)を設立した
功績で、ノーベル平和賞を受賞したムハンマド・ユヌス氏が、
ソーシャル・ビジネスの定義の一つとして、
「投資家は投資額のみを回収できる。投資の元本を超える配当は行われない」
を挙げ、上記の2の利益敵視の考え方が流行ってきています。

しかし、僕は、2つの理由から、このユヌスの考え方にも疑問を持っています。

1. なぜ配当ばかりを責めるのか?

会計の知識がある方ならご存知かと思いますが、
企業の利害関係者が受け取る「報酬」の中で、配当はそのひとつにすぎません。
主な利害関係者の受け取る報酬としては、以下のものが挙げられます。

・株主への報酬=配当金
・債権者への報酬=利子
・経営者・従業員への報酬=給与

利子や給与は費用として扱われるため、当期利益を算出する際には、
すでに差し引かれています。
例えば、アメリカの投資銀行の経営陣が莫大な報酬を受け取ることが、
メディアで取り沙汰されますが、
彼らが受け取っている給与は、当期利益には含まれません。
どれだけ「利益追求」行動の結果、売上を増やしたとしても、
給与報酬を上げれば、費用の額が大きくなり、利益にはなりません。

ユヌス氏の考え方に基づくと、ソーシャル・ビジネスにおいては、
債権者や経営陣、従業員は報酬が得られるのに、株主だけが報酬を
受け取れないという、非常に不公正な状況を生んでしまいます。

2. 株主もコストを負っている

ファイナンスの世界で、株主への配当金や債権者に対する利子の支払いを
「資本コスト」と呼びます。
これは、ものや情報を購入したり、従業員を雇ったりした場合にコストが発生
するように、調達したお金にもコストが発生するという考え方からです。

企業はコストを負って資金を調達し、それを投資して売上を得ています。
そして、その投資リターンと資本コストの差額が利益になるわけです。
(議論の単純化のため、その他のコストは無視しています)
この原則から考えると、ユヌス氏の発想は、株主を大きく苦しめます。
ソーシャル・ビジネスへの株主となる企業は、
資本コストを負って資金調達をしているにも関わらず、
投資からのリターンを得られず、その投資は純損失を生んでしまうからです。

グラミン銀行そのものは、低所得者層への融資からリターンを得ており、
資本コストという考え方を理解しているはずです。。
債権者の立場で投下した資本からリターンが得られるのであれば、
同様に株主に対してもリターンを認めるべきだと思います。

一方で、ユヌス氏のグラミン銀行は、多くの大企業からの投資を集めることができて
いるのも、また事実です。
しかし、中小企業が同じことをすることは2つの理由からかなりハードルが高いのです。

1つ目は流動資産の問題です。

大企業は手元に流動資産が多く、
ソーシャル・ビジネスへの投資に要した資本(株式発行や借入れ)への資本コストを、
その投資リターン以外から支払うことができます。
しかし、資金に余裕のない中小企業は、投資リターンが得られないと、資本コストの
支払いができなくなってしまい、資金繰りが回らなくなってしまいまうのです。

2つ目は投資目的の違いです。

大企業はソーシャル・ビジネスへの投資を一種のCSR活動、広義のブランディング、
マーケティング活動として位置付けることができます。
ソーシャル・ビジネスへの投資は、メディアなどが「無料で」宣伝してくれます。
さらに、企業イメージや製品イメージが向上し、販売促進にもつながります。
そのためCSR投資を一種のマーケティング予算として捉えることができます。

他方、中小企業は規模が小さいため、ソーシャル・ビジネスへの投資を、
本業として扱わざるをえません。
すなわち、本業としてこの投資から利益を得ないと、
会社の財務状況を悪化させてしまいます。

ユヌス氏は社会発展のために小さな企業をサポートする活動を行う一方で、
他の中小企業を市場から排除してしまう構図を生んでしまっています。

このように冒頭で紹介した、
「企業が当期利益を株主に配当することを問題視する」という考え方については、
アメリカでも賛否両論があります。
反対意見からは、
通常の(=利益分配型の)高評価の社会サービス企業が、
ソーシャル・ビジネスという分類から排除されてしまい、
彼らのモチベーションを下げてしまう、という意見も出ています。

ユヌス氏が、社会への(=事業への)再投資を願ったうえで上記のように定義を
した考え方には理解をします。
また、利益を上げにくいソーシャル・ビジネスの世界で、利益志向ではなく、
ミッション志向でないと、事業の継続が難しいということも理解できます。

一方で、利益は新たな事業を創造するための原資であり、
利益を「健全な利益」と「悪徳な利益」に分類することも容易ではありません。
ミッション志向で事業を行った結果、生じた利益を配当したとしても、
その企業はソーシャル・ビジネス(社会企業)と呼んでいいと考えます。