Forbesの5/20のブログに、
アショカ財団のAlexa Clay氏のインタビューが報じられています。

内容は、彼女がアショカ財団の中で研究テーマにしている
世界に点在する米軍基地が社会・環境に与える影響について語ったもの。

こちらが実際のインタビュー映像です。

米軍基地の存在意義は、米軍とその同盟国の安全保障にありますが、
米軍基地が与える影響は、安全保障にとどまらず、
生態系、公害、犯罪などの人災といった悪影響や、
雇用増などによる地域経済の発展、国際交流の振興などにも及びます。

彼女はこれを総合的に判断していく枠組みづくりに取り組んでいます。
それは、従来の報道や社会的関心が、
環境、安全保障、雇用などがそれぞれバラバラに議論されており、
冷静にメリットとデメリットを分析し、
それを全体として改善していくという考え方の必要性を感じているためです。

サステイナビリティは、環境的側面だけでなく、経済的な側面も含めて、
考慮する必要があります。

「武力による安定」というテーマそのものについては、別途深い議論が必要ですが、
基地が実存している事実に目を向け、それをいかに社会や環境と調和させていくか
という点に着目しているClay氏のテーマは、非常に素晴らしいと思います。

Adam Werbach “Strategy for sustainability -A business manifesto-” Harvard Business Press

約1年前にアメリカで出版され、2009年のベストセラーの一冊としても選ばれた、
CSRやサステイナビリティの世界では有名な本です。

著者は、Adam Werbach氏(出版当時36歳)。
彼は「環境活動家」として注目されていますが、
その活動は彼が高校生だった18歳のときからすでに始まっています。

彼は、アメリカ最大級の環境団体シエラ・クラブの学生組織「シエラ学生連合」を
18歳で立ち上げ、ブラウン大学在学中の21歳のときに、
カリフォルニア州の2つの国立公園を保護する法律の制定に貢献、
23歳で、シエラ・クラブのトップに最年少で就任します。
その後、環境活動家として、名を馳せた後、
2008年、35歳でSaatch and Saatch SのグローバルCEOのポジションに
就きました。

この本の中でも紹介されていますが、アクティブな環境活動家だった彼は、
途中でスタンスを大きく変更しています。
環境活動家というと、同時に「攻撃的」「厄介者」「環境信奉者」というイメージも、
抱かれがちですが、彼は2004年に「環境活動家の死」という講演を行い、
これらの性格を変更。かわりに、
「大手企業との連携」「環境のみではない社会・経済を含めた全体の目標設定」
を強調するようになりました。
この講演は、環境活動家の従来のやり方を否定するもので、大きな論争を呼びました。
しかし、こうして彼は、リスクを顧みずに新たなやり方を説いていきました。

彼のこの変化の発端は、ニューオリンズに多大な被害を及ぼした巨大台風、
カトリーナの経験でした。
当時、彼をはじめとした環境活動家は、
ニューオリンズ周辺の干潟の保護に積極的に活動をしていましたが、
自然保護の目的は果たせても、カトリーナの前にその干潟は保水地として
十分に機能せず、結果的にニューオリンズの街は壊滅してしまいました。
そこで彼は、環境のみを重視するやり方に疑問を抱くようになり、
社会、環境、経済、文化を含む包括的な持続可能性を重視するようになりました。

現在、小売世界最大手のウォルマートは、持続可能性に関する取り組みを
先導している企業としても注目されていますが、
このウォルマートに対して、持続可能性の必要性や、
持続可能性を重視した企業経営戦略の策定方法をアドバイスしていったのが、
このAdam氏です。

Adam氏はこの著書”Strategy for sustainability”の中で、
持続可能性を重視した企業経営戦略の必要性を、以下のように説明します。
(日本語訳は当ブログ著者による)

持続可能性のための経営戦略を開発し遂行することは、急速に世界が
変化する今日、企業の生き残りにとって非常に重要になっている。
不十分な干潟に巨大な台風がやってくるかもしれないし、どんどん
資源は限られてきている。明日にはもっと大きな変化がやってくる
かもしれない。

この本の中で言う持続可能性とは、PR(CSRレポートを作ること)や
エコ商品開発や、地球を救うための取組に時折理解を示すことより
もっと大きいことを意味している。持続可能性とは、もっと包括的に
想像、遂行されるもので、コストを減らす利益戦略であり、新たな
顧客を獲得するためのトップレベル戦略であり、従業員、顧客、
地域社会を獲得、維持、開発するための人材戦略だ。

Adam氏の経営戦略策定フレームワークは、初めにSTaRと名付けられた、
「社会」「テクノロジー」「資源」の予想される変化が、どのように自社経営に
大きな影響を与えていくかを把握していくことから始まります。

次に、North Star goalと名付けられた、5~15年をかけて実現していく
中長期的なゴールを、できる限り数値として設定します。

そして、そのゴールを実現するために、
「情報の透明性の向上」「従業員の巻き込み」「外部ネットワークの構築」
の3つ(TENサイクルと名付けられています)を粘り強く行います。
特に、North Star goalで定めるような壮大なテーマには、
自社だけでは実現できないものが多く、業界全体や、外部の協力団体、
サプライヤーや政府組織などとネットワークを構築していくことが、
大きなカギとなります。

200ページの本の中では、具体的にこれらを導入している、
アメリカの大手企業の事例が細かく紹介されています。

実際に先日サンフランシスコの企業をいくつか訪問した際にも、
このAdam氏の考え方と同様の話を耳にすることが多く、
サンフランシスコやシリコンバレーの中では定着しつつあるという実感を
僕自身も持っています。

今、CSRや持続可能性という概念は、企業経営に大きな変化をもたらしつつあります。
その大きな流れをつかむ中で、この本はとても視界を読者に与えてくれています。

ソーシャル・ビジネスや社会的セクターと呼ばれる企業や活動の多くは、
「平等な教育の機会を提供する」
「二酸化炭素の排出量を削減する」
など、持続可能な社会の実現を目指す崇高なミッションに基づいて、
運営されています。

一方で、崇高なミッションは、抽象的なフレーズとなりやすい。
方向性としては正しそうなのですが、どこまで前進しているのか、
言いかえると、社会に対してどのぐらい影響をもたらしているのか、
不明確になりがちです。
そのため、事業の社会的インパクトが小さくなってしまったり、
資金調達の際に事業の意義をうまく説明できなかったりすることが、
少なくありません。
これでは、せっかくの崇高なミッションも実現されず、
持続可能な社会には到達できなくなってしまいます。

社会に対して影響力をもっていくために、重要なことは何か。
アメリカのスコル財団はそのブログの中で、
成果を具体的に数値化することが重要であると、説きます。

How to evaluate social impact?

Consider after-school education. The federal government spends billions annually on after-school programs to assist young children who perform below grade level, especially in reading and math. Unfortunately, large-scale studies have found that most of these programs fail to boost student achievement.

「例えば、課外教育について。連邦政府は毎年何十億ドルもの予算を、成績が平均以下
の子供たちを支援するプログラムに費やしているが、残念なことに、子供たちの成績向
上をほとんど実現できていないことが研究によって明らかになっている。」

But not all of them do. (…) One such organization, BELL (Building Educated Leaders for Life), which uses a proven curriculum and has an award-winning training program for its instructors, has demonstrated substantial gains in students’ math and reading skills. Not only can BELL tell you how far its students have advanced during the school year, but it can tell you, week by week, how they are progressing. When a student falls off pace, red flags go up, and the organization does its best to remedy the situation. Most of BELL’s competitors could tell you how many students attended their programs and the number of hours each sat in class, but they can’t tell you what the children learned.

「しかし全部が成果をあげていないわけではない。例えば、低所得者層に対する
教育の分野で受賞実績を挙げているBELLという活動は、生徒の読書と数学能力
を具体的に向上していることが証明されている。BELLは生徒が具体的にどのぐら
い能力を向上させることができたかだけでなく、毎週生徒たちがどのぐらい成長し
ているかも把握している。生徒たちが学習ペースを落としたり、音を上げたときに、
BELLはその状況を打開するために全力をあげている。他の多くの教育機関は、
生徒数は何人か、授業時間は何時間という質問に答えることができても、子供
たちが何を学習したのかについては答えることができない。」

BELLは、自らのミッションの成果を数値化し、それを定期的に効果測定を
することで、社会への影響力を大きくすることに成功しているというです。

成果が具体的に可視化されると、以下のような効果が期待できます。
‐ 組織活動のゴールと現状の把握
‐ 株主、債権者に対する存在意義の説明
‐ 従業員やメンバーに対するモチベーションの向上
‐ 顧客に対する商品・サービス価値の説明

成果の可視化という考え方は、
ソーシャル・ビジネスの世界で最近重要視されつつあるようですが、
企業経営の世界では以前から広く採用され、いわば先輩にあたります。

しかし、このように従来の企業と、社会的セクターや政府を同一視することに、
反発する2種類の意見があります。

1つ目は、
「企業は利益という明確な数値目標があるが、社会的セクター(ソーシャル・ビジネ
ス)はミッションを中心にされており、そのミッションの数値化は容易ではない」

というもの。

2つ目は、
「企業は利益という短期的な目標を目指すのに対し、社会的セクターは長期的な社
会課題に取り組んでおり、長期的な目標は設定しづらい」

というもの。

どちらも、社会的セクターの目標設定は難易度が高いということに着目しています。

しかし、僕は、以下の2つの理由から、成果の数値化というマネジメント手法において、
企業経営と、政府や非営利組織との間には本質的な違いはないと考えています。

1. 企業は利益だけでマネジメントしてはいない

多くの企業が利益目標を設定していることは事実ですが、
実際の事業の場面では、利益でマネジメントをすることは多くはありません。

例えば、スーパーのレジのおばさんはいくら利益を挙げているのか。
コールセンターの担当者はいくら利益をあげているのか。
はたまた、人事部や経理部はいくら利益をあげているのか。
これを明確にすることは単純ではありません。
上記の部署の方々に、「利益をあげろ!」といったところで、
具体的な行動の改善につなげることは容易ではないのです。

そのため、多くの企業では、それぞれの部署や従業員の日々の業務に則した
目標を設定することで、組織の力を最大化しようとしています。
「レジ打ちのスピードをどれだけ向上できるか?」
「コールセンターのお客様満足度をどれだけ向上できるか?」
というように行動目標を具体化したり、
「人事部はコストを使う一方、何をもって部署の価値と呼ぶのか?」
ということをゼロから定める検討をしたりしています。

このように企業は、事業運営に際して、利益以外の成果を数値化しており、
ミッション遂行型のソーシャル・ビジネスと大きな違いはありません。

2. 企業も長期的目標の設定を行っている

企業は短期的な利益目標を追求していると称されがちですが、
従来の企業も、社会的なミッションを掲げてきました。

例えば、新たに事業を起業する際に、
純粋に「いくら儲かるか」だけでなく、「なぜその事業が社会にとって必要なのか」を
起業家たちは考えてきました。

また、既存企業の経営においても、
企業の幅広い利害関係者(株主、債権者、顧客、政府、社会全体)を考慮し、
利益目標だけでなく、理念やビジョンを明確に設定する企業が増えてきています。

ビジネススクールでは、理念やビジョンを数値化し、マネジメントに活用するという難題
に対し、「バランスト・スコア・カード」という解決手法が教えられています。

上記のスコル財団も、社会的セクターも、この「バランスト・ストア・カード」に基づくことで、
効果的な成果の数値化を実現できるのではないかとブログで呼び掛けています。

社会的セクターは、ときに存在しているだけで美談になってしまうことがあります。
しかし、具体的な成果として、社会に何をもたらしたのか、もたらしたいのか、
これらを明確にしないことには、
組織として成長することも、周囲の支援を得ることもできなくなってしまいます。

巧みな成果の数値化や目標設定は重要な経営力のひとつです。
数値化や目標設定の方法を変えることで、
さらに進化できる社会企業や政府はたくさんあると考えています。

最近、アントレプレナーシップ、起業家精神という言葉が脚光を浴びています。
特に、社会的起業という言葉も盛んに使われるようになりました。

なぜ社会的起業が必要だと言われるようになってきたのでしょうか。

僕が非常に共感する学者の一人に、
スティーブン・ゴールドスミス(Stephen Goldsmith)氏という方がいます。

彼はアメリカ・インディアナ州インディアナ市の前市長。
現在はニューヨーク市の副市長に在任中で、
ハーバード大学ケネディースクール(公共政策大学院)の教授でもあり、
アメリカの行政改革の中心人物です。

彼はブログの中で、
なぜ社会的起業が必要になるのかについて、こう語っています。

These social entrepreneurs share passion, a focus on outcomes and impact that leverages other resources, a sound business model, and high expectations for not only themselves but also their clients.

「社会的企業とは、情熱、資源を活用した結果と影響力、優れたビジネスモデル、自分自身
ではなく顧客に対する高い期待感を共有しているものと定義します。」

まず、この中で、僕が共感するのは、
「結果」にこだわる、「顧客への期待」をもつという点です。
大胆に言ってしまうと、慈善活動や慈善事業というものは、
提供者の満足のために実施してしまいがちです。

「○○が可哀そうだ。」「○○が不公平だ。」「○○もこうなるべきだ。」

こういう発想は、行動の動機としてはよいと思うのですが、
ともすると、行動していること自体が美談になってしまい、
結果に対するコミットメント、特に顧客視点での結果に対するコミットメントを
欠く傾向があります。

「顧客視点で、結果と影響力にこだわる」。
社会的起業にとって大切にしていきたい要素です。

彼は社会的起業の課題をこう位置付けます。

Early on, many of us involved in these fields mistakenly hoped that a good organization or idea would naturally grow to scale.

In most of the areas where social entrepreneurs are working, no markets exist. The individuals whom we are trying to serve do not have the money to buy needed services; thus someone else pays for them. Thus the start-up capital sufficient to prove a concept will not produce the broad growth needed for transformative change to scale.

「当初、わたしたの多くは、良い組織は自然に拡大すると思っていたが、それは誤りだっ
た。」「社会的起業が活動している分野には、市場が存在しないことが多い。サービス受給
者である個々人は、必要とするサービスを購入するだけのお金がなく、代わりに誰かが負
担しなくてはいけない。そうして、初期投資が十分でないため、組織を拡大するための変革
に必要な成長が果たせないのだ。」

また、その初期投資を提供する社会的投資家の動きも課題解決にはならないと
言及します。

Invariably, philanthropic and social investors rely on an exit strategy that looks to government as the sector that will eventually sustain an organization’s growth.

As a result, an idea’s ability to grow depends on both government and the existing web of providers, funders, and politicians who have a stake in the status quo.

「常に慈善投資家や社会的投資家は出口戦略として、政府にその投資先組織を成
長させていく役割を期待しています。」「結果として、社会的起業の成長能力は、政府や
既得権益者、政治家たちに依存してしまっているのです。」

Blaming government as the primary obstacle to progress, however, misses the mark. (…) Existing providers and their boards, staffs, directors, and sometimes clients lobby funders—whether private or public—to increase support of their efforts regardless of results.

In other words the passion that produced yesterday’s transformative innovation migrates over to sustaining the organization—which in turn precipitates an effort to raise barriers to entry for potential competitors.

「しかしながら、政府を主要な障害物ととらえて非難することは的を外しています。既
得権益者とは、経営陣、従業員、管理職層、ときには顧客を含み、彼らは結果に関わら
ず、既存組織をサポートするよう投資家たちに働きかけているのです。」「言いかえると、
過去の革新的な変革を産み出した情熱は、既存の組織を継続することに向かっていき、
かわりに、新たな参入者に対する障壁を高めることに注がれてしまうのです。」

こうして、彼は従来の社会的起業の取組が世の中に普及して行かないことを、
既得権益者(政府だけでなく)に頼らざるを得なかった構造に見出しました。

そこで、ゴールドスミス教授は、新しい概念として、
Civic Entrepreneurship=市民起業家精神 というものを提唱します。
これは、政府に頼るのではなく、市民の手で新たな行動を起こし、
市民の手でその組織を大きくしていこうという概念です。

古くから、わたしたちは、何かあるたびに政府に苦言を呈してきました。
日本の観光業が盛んでないと、観光庁を批判し、
日本の経済が発展しないのは、経済産業省の政策のせいにし、
日本の教育の責任を文部科学省の責任にしてきました。

この批判は、裏を返すと、それだけ政府に期待をしたいたのだと思います。
しかし、この21世紀は、いい意味で、政府に過剰な期待をするのを辞め、
市民一人一人で社会を望む方向へ変えていかなくてはいけない時代に
なっています。

何か問題や課題を認識したときに、
「なぜ政府はダメなのか?」と不満を言葉にする前に、
「わたしたちに何ができるのか?」を考えていくことこそが、
市民的起業家精神を育み、持続可能性のある社会を築いていく、
重要な一歩だと考えています。