Elaine Cohenという方がいます。

この女性は、CSRコンサルタントや、サステナビリティレポーターというタイトルで、
世界各国の様々な企業のCSRレポートやサステナビリティレポートの、
査読、改善提案を行っています。

最近では、”CSR For HR”という本を出版。
日本ではCSRというと「環境」という言葉が連想されますが、
このElaineさんは、「雇用・労働」という見地からのCSRを大きく提唱されています。

このElaineさんは、ブロガーとしても有名で、
最近の彼女のブログで、
16 Tips for Reading Sustainability Reports
(サステナビリティレポートを読む16のコツ)

という面白い内容があったので、ご紹介したいと思います。

この中で、彼女は、ブログのタイトル通り、
CSRレポートやサステナビリティレポートを読む際に、
心構えやナレッジを16個(実際には15個)挙げています。

1. 偏見のない広い心で読み始める

ブランドイメージの悪い企業や、悪い評判のある企業のレポートを読む際には、
どうしても穿った見方や、あらを探すような姿勢をとってしまいがちです。

しかし、どの企業にも、それぞれの企業環境や事業内容の中で、業を営み、
社会への貢献を示すためにレポートを作成しています。

まずはフラットな姿勢で、レポートを読もうとする姿勢が大切です。

2. レポートは会社ではなく「人」が書いていることを理解する

サステナビリティレポート担当者は、会社の様々な政治力学の中で、
精一杯ベストを尽くそうとして、レポートを作成しています。

協力やデータを得られない社内部署の存在。
開示を拒む社内の声。
結果が思わしくない場合の表現方法。
社内担当者は、大きな苦難の末、レポートを作成しています。

徒にレポートの出来不出来を判断する前に、
レポート作成者が直面する「限界」を理解しようと努め、
次回作を応援するという気持ちを忘れてはいけません。

3. 冒頭の社長挨拶をちゃんと読む

サステナビリティ・CSRレポートでは、冒頭に社長挨拶が載ることが一般的です。

この挨拶文は、当たり障りのない言葉が並び、
内容が伴わないことが多いため、読み飛ばされがちです。

しかし、社長挨拶はレポート全体のトーンをよく表しています。
社長挨拶の内容が濃い場合は、レポートの全体の内容も濃く、
反対に薄い場合は、レポートの内容が薄くなる傾向があります。

企業のトーンを掴むため、社長挨拶を読むことは大切です。

4. レポートの読み方を定める

社長挨拶のあと、どこから読み始めるかは自由です。

ページ順に読んでもいいですし、
気になるトピックスに焦点を絞って読んでもいいです。

レポートの読む目的によって、読み方は違うので、
まずは、レポートから何を得たいかを定めることが大切です。

5. 重要な点を探す

企業活動がもたらす重要な影響は、
直接的な影響ではなく、間接的な影響であることが多いので、
レポートが、その間接的な影響にも触れているかを把握することは
重要です。

6. コピー&ペーストに注意する

毎年同じ文言をコピー&ペーストのように使いまわしているレポートがあります。

レポートの意義は、毎年新たな取り組みや成果について発表をすることにあり、
もし何も成果がない場合は、何も書かない方がましです。

コピー&ペーストの頻度に着目し、レポートの信頼性を測りましょう。

7. データの一貫性に注意を払う

企業が複数年わたりレポートを発表している場合は、
少なくとも過去3年分の連続データを表記すべきです。

そのような連続データがない場合は、何かやましい理由があります。

過去のレポートとデータの扱いが違う場合には、
何が背景にあるのかに注意を払いましょう。

8. フィードバック、質問、コメントをする

企業のレポーティング能力を向上していくためにも、
レポートの読者からのフィードバック、質問、コメントは重要です。

9. レポート発行初年度の企業は大目に見る

レポート発行は容易な作業ではありません。

レポート発行初年度の企業は、大きな困難を抱えた状態で、
発行にこぎつけています。

大目に見ましょう。

10. レポートを読む際には、アイスクリームを食べる

これは実質的なアドバイスではなく、
アイスクリーム好きのElaineさんの余興です。

11. グラフや表には踊らされない

グラフや表に記されているデータや文言を証明する内容を
レポート内から探し出せないことがあります。

レポートの内容とグラフ・表の内容を照合しましょう。

12. 困難な意思決定に着目する

企業が困難な意思決定をしているにもかかわらず、
その内容がレポートで触れられていないことがあります。

例えば、人員削減を行った場合。やむを得ない意思決定であったにせよ、
人員削減プロセスの中で、どのように社会的影響を配慮したのか、
触れておく必要があります。

13. 数値目標の立て方を調べる

一見、数値目標があると、レベルの高いレポーティングのように見えてしまいますが、
よくよくみると、数値目標の立て方が甘いケースがあります。

あまりに低い目標でないか、簡単に達成できる数値目標ではないか、
数値目標の立て方にも関心を払う必要があります。

14. 賞を受賞したレポートはそれだけの理由がある

CSR/サステナビリティレポートで何らかの賞を受賞しているレポートは、
やはり読むに値する内容になっています。

15. 従業員政策に着眼する

サステナビリティ活動を遂行するためには、従業員のマインドや、
企業文化が重要となります。

どのような従業員政策を施しているのか、この内容をレポートから探し出しましょう。

16. インパクトをチェックする

レポーティングにおいて、「何を実施したか」ではなく、
「どれだけのインパクトをもたらしたのか」が重要です。

そのインパクトが書かれているかどうかをチェックしましょう。

Elaineさんは、多少の冗談を交えながら、
CSR/サステナビリティレポートの痛い点を見事についています。

財務諸表と同様、読み手の能力向上は、作成者の能力向上にもつながっていきます。
そしてひいては、活動そのもののグレードアップにもつながります。

CSRレポートやサステナビリティレポートの質の向上を図っている
Global Reporting Initiative(GRI)が、
レポートのデータベースサービスをリリースしました。

Sustainability Disclosure Database

現段階で世界3,005社、合計7,659のCSR/サステナビリティレポートが
データベースとしてまとめられています。

データベースには検索機能がついているため、膨大なデータベースから、
業界や年度、テーマを絞った検索が可能です。

さらに、GRIガイドラインに対する遵守レベルを示すベンチマーク指標も
調べられるようになっているため、
限られた基準ですが、レポートの質を調べることができるようにもなっています。

サステナビリティレポートについては、
従来のファイナンスレポートのようには比較やフレームワークの基準化が
進んではいませんが、
GRIのこの試みは、確実にその一歩となる動きだと思います。

世界の政財界関係者が一堂に会する世界経済フォーラム(通称ダボス会議)。

毎年1月にスイスのダボスで行われる年次総会に加え、
2007年からは毎年夏に中国でニュー・チャンピオン年次総会(通称夏季ダボス会議)が
開催されています。
今年2011年は、9月14日から16日まで大連にて開催されていました。

その中で毎年の恒例行事となっているのが、
ボストン・コンサルティング・グループが調査発表する
「ニュー・サステナビリティ・チャンピオン」(New Sustainability Champion)の発表。

この賞は、今日世界の経済成長課題に対して、革新的で実用的なソリューションを
生み出し推進し、グローバル社会に広めている組織に対して与えられます。
特に、経済活動インフラが整備されている先進国の政府、環境団体、グローバル企業
ではなく、より日々の苦労が大きい新興国の企業・組織を表彰するものとされています。

今年は、世界から合計16の企業・組織が表彰されました。
※レポート(英文)はコチラ

Broad Group (中国:製造業)
Equity Bank (ケニア:金融サービス業)
Florida Ice & Farm (コスタリカ:消費財メーカー)
Grupo Balbo (ブラジル:農業)
Jain Irrigation Systems (インド:製造業)
Manila Water Company (フィリピン:インフラ)
Masisa (チリ:林業/製造業)
MTR Corporation (香港:輸送業)
Natura (ブラジル:消費財メーカー)
New Britain Palm Oil (パプアニューギニア:農業)
Sekem (エジプト:農業)
Shree Cement (インド:セメント)
Suntech (中国:再生可能エネルギー)
Suzlon (インド:再生可能エネルギー)
Woolworths (南アフリカ:小売業)
Zhangzidao Fishery Group (中国:農業)

この審査にあたっての評価基準は、以下となっています。

1. イノベーションにより、積極的に活動制約を機会に転換した
  - 不足する資源に対処した
  - 顧客を教育した
  - 顧客に適切な資金を供給した
2. 企業文化の中にサステナビリティを埋め込んだ
  - 大胆にサステナビリティビジョンを定義した
  - サステナビリティ向上を日々のオペレーションの中に組み込んだ
  - サステイナビリティ向上のための人事施策を導入した
3. ビジネス環境を主体的に生成した
  - 政策や基準策定に影響力を発揮した
  - 共通目的の達成のためのパートナーシップを締結した
  - サステナビリティの重要性を周囲に認知させた
4. 同業界の他社より財務成績が良い


※出所:World Economic Forum “Redefining the Future of Growth”

それではここから、それぞれの受賞企業と受賞理由を紹介していきます。

〇 Broad Group

・本社所在地:中国・長沙
・従業員数:約2000人
・事業内容:電気を使わないエアコンの製造および設置
・売上高:USD379 million (2008)
・電気供給不足の中、エアコンの普及率が進む中国において、電気の代わりに天然ガスと臭化リチウ
 ムの混合溶液を使うエアコンを開発し、現在、非電気エアコンマーケットシェア国内50%。
・電気式エアコンに比べ、電気効率は2倍。二酸化炭素排出量は1/4に削減。
・製品は70か国に輸出されている。
・エネルギー効率を高める技術開発を重視し、その他のエコ製品を多数上市。
・従業員用住宅無料化、ジム完備、オーガニック料理提供など従業員福利厚生も充実。

Equity Bank

・本社所在地:ケニア・ナイロビ
・事業内容:農業銀行
・売上高:USD274 million (2010)
・国民の3/4が農業に従事するケニアで、農家の生活改善に寄与する金融サービスを幅広く提供。
・農地の肥沃化や肥料への融資のほか、農家への金融教育なども実施。
・ケニアの携帯電話会社Safaricomと提携し、携帯電話上での情報サービスも展開。
・長期的なシナリオに基づく、経営戦略や事業計画を策定。
・数多くの国際機関やNGOと協働。

〇 Florida Ice & Farm

・本社所在地:コスタリカ・サンホセ
・事業内容:飲食料品製造・販売
・売上高:USD571 million (2010)
・トリプルボトムライン経営を実施。環境、社会的な指標を利益と同程度に重要視。
・例えば飲料品製造における水資源消費量を半分以下にまで削減。
・経営陣のパフォーマンス評価もトリプルボトムラインの指標を活用。
・トリプルボトムライン経営を他社へ広げるべく、政府やNPOと協働しノウハウを体系化。

〇 Grupo Balbo

・本社所在地:ブラジル・サンパウロ
・事業内容:製糖業
・売上高:USD350 million (2010)
・農薬や肥料が生物多様性に悪影響を与える製糖業において、20年前から無農薬製糖を実施。
・当初は低生産に悩んだが、現在は微生物農法を確立し、業界平均より20%高い生産性を実現。
・ノウハウを広く普及さえるため、情報を広く公開。
・政府と協働し、無農薬製糖の認証制度の制定を推進。

〇 Jain Irrigation Systems

・本社所在地:インド・ジャルガオン
・事業内容:農業用灌漑設備メーカー
・売上高:USD820 million (2010)
・水資源の希少性が増すインドで、水利用効率を高める細流灌漑設備を小規模農家に提供。
・肥料、水、農薬などの利用ノウハウも併せて伝授し、生産性向上とコスト削減を同時に実現。
・灌漑への投資を可能とするため、農家の政府補助金獲得や金融機関からの融資獲得を支援。
・灌漑ノウハウを教育するため、地域人材採用を重視。
・地域イベントの参加など、地域に溶け込んだプロモーションを実施。

〇 Manila Water Company

・本社所在地:フィリピン・マニラ
・事業内容:水供給業
・売上高:USD415 million (2010)
・慢性的な水供給不足に悩むマニラにて、地域と一体となり水供給網を確立。
・新設備を導入し、供給過程で失われる浪費水量を大幅に削減。
・地域社会と協働し、盗水を監視し、水の安定供給を強化。
・二酸化炭素排出量など環境指標を経営に導入。

〇 Masisa

・本社所在地:チリ・サンティアゴ
・事業内容:林業および木工業
・売上高:USD1,080 million (2010)
・森林伐採が進むラテンアメリカで、持続可能な林業・木工業を推進。
・30000人の大工をネットワーク化し、大工ノウハウの共有と生活水準向上に貢献。
・生活水準向上に伴い、持続可能な林業で生産された木材原料の購入促進を実現。
・林業の規制強化を政府と協業。
・低所得者層向けビジネスプランを従業員から広く募集し、事業化。

〇 MTR Corporation

・本社所在地:中国・香港
・事業内容:公共交通機関
・売上高:USD4,316 million (2010)
・人口密度の高い香港にて、環境・社会への影響を最小限にとどめた交通網整備を推進。
・人に優しい駅構内整備や、美観を意識した公園設計などを実施。
・リスクマネジメントや利害関係者の関心を経営戦略に盛り込む。
・中国で最初にサステナビリティレポートを発行。

〇 Natura

・本社所在地:ブラジル・サンパウロ
・事業内容:コスメティクス製造・販売
・売上高:USD3,047 million (2010)
・政府、NGO、地域と協働して設定した環境持続可能性基準を順守した原材料調達を実施。
・地域との信頼関係構築に成功し、地域からの原材料調達やノウハウ獲得で強みを発揮。
・製品の容器にリサイクル容器を用い、環境負荷をさらに削減。
・管理職層や利害関係者に対する持続可能性教育に多額資金の投資。
・地域社会への啓蒙活動を行うNPOを設立。

〇 New Britain Palm Oil

・本社所在地:パプアニューギニア・モサ
・事業内容:パーム油等製造・販売
・売上高:USD470 million (2010)
・パーム生産を草原や荒廃林地に限定し、原生林を保護。
・パーム供給者に対して認証を発行し、サステイナブルなパーム生産を義務化。
・パーク農場において、購入ではなく貸借形態をとり、地域社会に利益を還元。
・NGOとの協働を積極化し、地域社会との信頼関係構築を実現。
・パーム油のトレーサビリティを確立。

〇 Sekem

・本社所在地:エジプト・カイロ
・事業内容:オーガニック食材酪農業
・売上高:USD34 million (2009)
・微生物を活用した有機農法にて、健康食品から乳製品、蜂蜜などを栽培・生産。
・有機廃棄物は微生物分解により肥料として再利用。
・無期廃棄物は紙資源の原料やビニール袋としてリサイクル。
・利益の最大化は目指さず、契約農家に対して利益を還元。
・設立したNGOを通じて、契約農家に対する教育活動も展開。

〇 Shree Cement

・本社所在地:インド・ビーワー
・事業内容:セメント業
・売上高:USD809 million (2010)
・エネルギー生産性を高めるためのシステムを導入。バイオマス発電所も設置。
・生産過程廃棄物「溶滓」を最小限に抑える製法を開発し、気候変動枠組条約事務局から表彰。
・粗悪石灰岩から石膏を創る技術、亜鉛鉱滓を再利用する技術、コークスによる火力発電技術を開発。
・水消費量を最小限にとどめる生産技術も開発。
・従業員に対するサステナビリティ教育も充実。
・高レベルのサステナビリティレポートを発行。競合会社も招いたノウハウ共有も実施。

〇 Suntech

・本社所在地:中国・無錫
・事業内容:太陽光発電パネルメーカー
・売上高:USD2,904 million (2010)
・太陽光発電メーカー売上高で世界トップ。単結晶型・多結晶型のエネルギー変換効率で世界トップ。
・太陽子発電パネルコストの削減に大きく寄与。
・世界中で技術者採用を実施する一方で、ローカル採用にも注力。
・保有ノウハウを他社にも共有し、業界全体をリード。
・太陽光発電の可能性を子供たちに伝え、次世代教育にも貢献。

〇 Suzlon

・本社所在地:インド・プネー
・事業内容:風力発電機メーカー
・売上高:USD4,604 million (2010)
・風力発電機で世界で高いシェアを誇る1社。発電コストの削減に大きく貢献。
・自社エネルギーは太陽光発電または風力発電にて調達。
・利用済み水や廃棄物のリサイクルも実施。
・海外管理職ポジションにローカル人材を抜擢。
・海外にて積極的に再生可能エネルギーについて市民や政治家への普及に従事。

〇 Woolworths

・本社所在地:南アフリカ・ケープタウン
・事業内容:小売量販店チェーン
・売上高:USD3,074 million (2010)
・販売製品の97%が自社ブランドの衣類・食料品小売量販店。
・衣類の原材料にオーガニック綿を使用。納入農家の教育も実施。
・サステナブル経営=経営そのものという概念を確立。
・政府と協働し、農作物基準の策定や、労働環境改善、教育などにも注力。

〇 Zhangzidao Fishery Group

・本社所在地:中国・大連
・事業内容:漁業
・売上高:USD340 million (2010)
・疑似的な捕食環境を構築する養殖手法(IMTA)を用いた漁業(ホタテ貝、ナマコ、ウニ、アワビ)を実施。
・養殖場の病気の削減、生物多様性の増加、二酸化炭素吸収量の向上を実現。
・水質および微生物活動状況を毎月モニタリング。
・研究機関と協働し、さらなる養殖技術の向上にも熱心。

以上、16社。

この16社の取り組みから、先進国だけでなく新興国でもサステイナブル経営が浸透しつつある
ことがおわかりいただけると思います。
特に、サステイブル経営を、「利益を社会に還元する」「CSRレポートを作成する」という
意味以上に、事業の根幹として経営者がとらえているということも重要なポイントです。

上記の企業たちは、
サステナブルな社会・環境をつくるための課題を、事業機会ととらえ、事業を推進し、
大きな財務成績を誇っています。

ひとつ今回の「2011年ニュー・サステナビリティ・チャンピオン」を読み解く中で、
残念に感じたことは、このチャンピオンの審査過程に、日本人が一人も参加していない
という点です。

日本企業が真の意味でグローバル企業となるための課題のひとつに、
このような「サステナブル経営」というグローバル企業の大きなトレンドを掴み、
それを推進していくということがありそうです。

もっと日本人が世界のサステナビリティ活動に推進に大きく貢献できる
ようにしていきたいですね。

イギリス政府の内閣府が、
Open Public Service White Paper“と題するレポートを発表しました。
日本語に直訳すると「開かれた公共サービス白書」となります。

この白書の中で書かれているイギリス政府の狙いは、
これまで中央・地方政府が実施してきた「公共サービス」を、
民間企業が実施していくことができるよう、
政府のあり方や役割を転換をしていくという、
従来の「公共」の考え方を大きく改革していくことにあります。

なぜイギリス政府は、
公共サービスの実施主体を展開してく必要性を感じているのでしょうか。
白書の中で、政府はこう説明しています。

We are opening public services because we believe that giving people more control over the public services they receive, and opening up the delivery of those services to new providers, will lead to better public services for all.

1つ目の理由は、「公共サービスの質の向上」にあります。
公共サービスの提供者が多様になることで、より市民の求める公共サービスが
提供されていくようになるというものです。
競争原理に近い考え方です。

さらに、白書の中で、2つ目の理由についてこう説明しています。

in this economic climate, when times are tight and budgets are being cut to stabilise the economy and reduce our debts, opening public services is more important than ever – if we want to deliver better services for less money, improve public service productivity and stimulate innovation to drive the wider growth of the UK economy.

つまり、2つ目の理由は、「公共サービス提供コストの削減」です。
経済が停滞し、政府予算が厳しくなる中で、競争原理を活用することで、
生産性の向上、新たなサービスの開発などを進めていこうということです。

この動きは、社会の大きな転換を意味していると思います。

従来、公共サービスは政府によって企画・提供されてきました。
そして、人々は、生活や社会に必要だと思うサービスや取り組みを
政府や議会に働きかけて、公共サービスとして制度化してきました。

しかし今回の動きをシンプルに表現すると、
「何か要望がある場合は、政府に働きかけるのではなく、
自分で起業をして公共サービスを提供していってください。」
というものです。

このような新たな社会システムの中で、政府の役割は何か。
白書ではこう説明します。

we will give more freedom and professional discretion to those who deliver them, and provide better value for taxpayers’ money.

「政府は、公共サービス提供者により大きな自由と裁量権を与え、
より価値のあるものに公的資金を投じる」

すなわち、政府の役割を、
市民にとってどのようなサービスが必要かを考え提供することではなく、
市民が自由に公共サービスを考え提供できるように環境を整備すること
と定義しているのです。

さらにこの白書では、この「開かれた公共サービス」を支える仕組みとして、
新たな2つの提案をしています。

■ 委託制度

政府は、公共サービスを「広く社会に開く」としながらも、
市場の公平性やセーフティの観点から、
委託制度を導入するのが良い方策ではないかと提案しています。

■ 互助組織制度

政府は、公務員の社会的起業を促進するため、
従業員が経営と運営を同時に実行する「互助組織制度」を
提案しています。

 

この「委託制度」と「互助組織制度」については、
既存の社会起業家から賛否両論が出ているようです。
(出典はコチラ

委託制度については、政府の管理が厳しくなることに関する懸念。
互助組織制度については、新たなプレーヤーが増え、
市場競争が激しくなることに対する懸念。
特に、互助組織制度については、大手民間企業が、この互助組織制度を
活用して公共サービス市場に参入し、
体力のない既存の社会企業が廃業を余儀なくされることを懸念しているようです。

上記で説明してきた「公共サービスの政府離れ」の背景について、
僕は政府の財政難が大きな影響を及ぼしているのではないかと考えています。
ほぼすべての先進国は、現在深刻な財政難に陥っています。
歳出削減と公共サービスの維持・向上を同時に実現するためには、
公共サービスの運営効率を上げるしかありません。

政府の運営が「非効率」だと言われる中で、
公共サービス主体が政府でなくなっていく流れは、
今後他の国でも大きくなっていくのではと考えています。

2011年3月9日(ちょっと前ですが)に、
アクセンチャア社(米国本社)が、持続可能性に対する報告書を発表しました。

Driving Value from Integrated Sustainability

このレポートは、アクセンチュアの独自に行った調査を基に作られています。
Global Fortune 1000にリスト入りしているうちの275社について、
経営者へのサーベイも含めて定性面、定性面の調査を行い、
ハイパフォーマンス分析をまとめたものです。

結果として報告されているものは、

・42%の経営者が、持続可能性への取り組みはコスト削減につながると回答。
・41%の経営者が、持続可能性への取り組みはブランド価値の向上につながると回答。
・約50%の経営者が、持続可能性への取り組みは株主への信頼向上につながると回答。

というもので、
少なからずリーディングカンパニーに多数が、持続可能性への取り組みを
肯定的にとらえていることがわかります。

アクセンチュアは、このレポートのまとめとして、
持続可能ビジネス戦略を採用している企業の狙いは、

・新製品や新サービスの投入による売上増
・生産効率向上によるコスト削減
・事業リスクや法規制リスクに対するマネジメント強化
・ブランド、評判、協働ネットワークなど無形資産の強化

にあると、報告しています。

もちろん、この情報にはバイアスがかかっている可能性もあります。

1. 発信者のバイアス

このレポートは、アクセンチュア社の持続可能性サービスグループが
とりまとめています。
この「持続可能性グループ」としては、世の中の持続可能性に対する関心が
高まれば高まるほど、グループのビジネスを拡大することができます。
僕自身も事業プランニングの経験があるため、理解できるのですが、
ビジネス拡大を考える際には、データ収集や分析の過程で、
都合よく解釈しようとするバイアスが働いてしまうものです。

2. サーベイ回答者のバイアス

持続可能性に関するサーベイに回答した経営者もバイアスを抱えています。
サステイナビリティやCSRに関するサーベイを実施する場合には、
経営者が「本心とは別に社会的に求められていることに回答してしまう」
というバイアスが働いています。
このバイアスは英語で”Social desirability bias”と呼ばれています。

これらのバイアスがどのぐらい影響を与えているのかはわかりません。
しかしながら、グローバル企業の中で、
持続可能性に対する経営者の関心が高まっていることは確かなようです。

今月、Ernst&Young社が、
Shareholders press boards on social and environmental risks
というレポートを発表しました。

そこで、報告されているのは、2010年の主要企業の株主決議の中で、
持続可能性に関する案件への支持票が急速に増えてきたということです。

同レポートよると、企業経営者は、30%以上の支持を集める株主決議案件については、
真剣に取り組むでいく傾向があると報告しています。

2005年には、30%以上の支持を集めた持続可能性関連案件は2.6%と、
株主の多くの共感を呼ばなかったの対し、
2010年にはこの割合は、26.8%にまで増加、
1/4以上の案件が30%以上の支持を集めるにまで至りました。

また、2011年には、株主決議全体に占める持続可能性関連案件が、
半数を超えるとまでレポートされています。

このように、持続可能性に関する関心が株主の間で高まってきた背景には、
何があるのでしょうか。

株主が急速に「社会貢献」に目覚めてきているのでしょうか。

レポートを作成したErnst&Youngの担当者は、その背景には、
「財務リスクやレピュテーションリスクに関する懸念の高まりがある」と報告。(コチラ
すなわち、通常の事業運営をしていく中で、
持続可能性に関する取り組みを重視していくことが事業の安定性を高めると
株主はとらえはじめているようです。

Ernst&Youngは、今後の経営方針の中で、以下の取り組みを重視するよう
提案しています。

1. 取締役会: 社会・環境問題に起因する機会と脅威を真剣に議論する
2. 経営委員会: 社会・環境問題を専門に検討する委員会を設立する
3. 委員会構成: 取締役と社外取締役(環境専門家)を委員会メンバーとする
4. 具体的制度: 各社会・環境問題の優先順位を定める具体的サイクルを設ける
5. 説明責任: 社会・環境問題についての責任者を明確に定める
6. 報告: 定期的な報告制度を具体的に定める
7. 認証: 報告に対して社内外の認証を得る

持続可能性についての取り組みは、従来は熱狂的なCEOを中心に始まりましたが、
その流れが株主にも波及しつつあるように思います。

Net Impact(ソーシャルビジネスやCSRを推進するアメリカのNPO)が、
この分野での就職を希望する人々へのアドバイスをまとめたレポートを発表しました。

Corporate Careers That Make a Difference

CSRやソーシャルビジネス、持続可能性に興味のある人向けに、
企業の具体的なニーズやキャリアパスの進め方などが
まとめられています。英語です。

Net Impactへのメンバー登録(無料)をしないと閲覧できないのですが、
この分野に関心のある方や、雇用関連を研究している方は、
ご覧頂くと、最近のアメリカでの動きを理解していただける思います。