行政改革。行財政改革。構造改革。公共サービス改革。行政刷新。
過去約15年、名前を変えながらもこのテーマの必要性が叫ばれてきました。

自民党政権、民主党政権ともに、このテーマを政府の重要取組課題として位置付けましたが、
なかなかその成果は伝わってきません。

今回は、現在、政府で行われている行政改革の体制や中身を紹介するとともに、
「新しい公共」への新たな一歩を提言したいと思います。

以前このブログで、イギリス政府の事例を紹介しました。
イギリス政府が進める公共サービスの“社会企業”への委託
イギリス政府は、今後の行政や「国」のあり方として、
市民社会、より詳細にはいわゆる「ソーシャルビジネス」と協働して、
公共サービスを市民に提供していく方向への転換を発表しています。

すなわち、従来、公共サービスは、
「国や地方政府が提供する」
「国や地方政府が定めたものを、外部機関にアウトソースする」
と定義されてきたのに対し、
このイギリス政府の発表では、
「国とソーシャルビジネスが台頭に公共サービスの担い手となる」
「国はソーシャルビジネスが活躍できる環境を整える役割を担う」
と斬新な定義をしているのです。

さて、日本政府においては、どのような検討がされているのでしょうか。

具体的な政府の活動を紹介する前に、
まず、あらためて、「行政改革」という言葉を定義したいと思います。

2006年に自民党政権下で制定された「行政改革推進法」では、
行政改革は「簡素で効率的な政府を実現するための改革」と位置付けられました。
また、2009年に民主党政権下で閣議決定した「行政刷新会議の設置」においては、
行政刷新を「国民的な観点から、国の予算、制度その他国の行政全般の在り方を刷新するとと
もに、国、地方公共団体及び民間の役割の在り方の見直しを行う」ことと定義されています。

正直、どちらの定義も非常にぼんやりとしています。
そこで、ここでは、行政改革の定義を、
「国や地方政府が行うべき事業やサービスを再定義し、さらに公共サービスを提供するための
手法として、国、地方政府、民間の役割を再設計する改革」としたいと思います。

現在、日本政府は、行政改革に関する検討を複数の別々の場で実施しています。

・内閣府行政刷新会議 (事業仕訳・規制緩和改革)
・内閣府「新しい公共」推進会議(ソーシャルビジネス・NPOの環境整備)
・内閣府地域主権戦略会議(国から地方への権限移譲)
・内閣官房国家戦略室(国がやるべきことの整理)

※自民党政権で発足した内閣行政改革推進本部は一定の役割を終えて2011年6月に廃止
 され、現在は後継組織「内閣官房行政改革推進室」にて、独立行政法人の見直し業務や役員
 公募事務のみ実施しています。

それぞれの検討ボードには、担当の大臣がいます。
・行政刷新会議:     蓮舫 内閣府特命担当大臣(行政刷新担当)
・「新しい公共」推進会議:蓮舫 内閣府特命担当大臣(「新しい公共」担当)
・地域主権戦略会議:   川端達夫 内閣府特命担当大臣(地域主権推進担当)
・国家戦略室:      古川元久 国家戦略担当大臣

また、いずれの検討ボードにも事務局員として官僚が配置されています。
基本的な活動は、方針を定めるために、外部委員を含めた検討会議を定期的に開催し、
政府方針や骨格となる法律の制定を一定のゴールとしています。
そのための各府省との折衝、定めた事項のモニタリングも実施しています。

続いて、それぞれの会議体の中身を見ていきたいと思います。

〇 行政刷新会議

行政刷新会議の主な仕事のひとつは、政府歳出の削減です。
「事業仕分け」という名前で、テレビでも大きく報道されました。

行政刷新会議の議員
 議長: 野田 佳彦(内閣総理大臣)
 副議長: 蓮舫 (内閣府特命担当大臣/行政刷新)
 議員: 藤村 修(内閣官房長官)
    古川 元久(国家戦略担当大臣) 
    安住 淳(財務大臣)
    川端 達夫(総務大臣)
    葛西 敬之(東海旅客鉄道株式会社代表取締役会長)
    加藤 秀樹(行政刷新会議事務局長)
    片山 善博(慶應義塾大学法学部教授)
    草野 忠義(公益財団法人連合総合生活開発研究所理事長)
    松井 孝典(千葉工業大学惑星探査研究センター所長)
    茂木 友三郎(キッコーマン株式会社取締役名誉会長 取締役会議長)
    吉川 廣和(DOWAホールディングス株式会社相談役)

民主党政権下で始まった行政刷新会議(事業仕分け)は、
2009年秋の第1弾、2010年春の第2弾、2010年秋の第3弾の3回行われ、
この過程で、政府の一般会計および特別会計の無駄が洗い出されました。
成果は、合計で約1兆円の事業削減(歳出削減)の方向性が出されたことです。

しかしながら、日本全体の政府負債が1000兆円を超えている現在、
1兆円の事業削減では埒があきません。
また、事業削減の方向性が出された政府事業の中には、
所管官庁が事業削減に抵抗しているものも多数あります。(内容はコチラ

また、行政刷新会議の組織下には、「規制・制度改革に関する分科会」があり、
ここでは、政府の「権限」をスリム化し、自由市場によるイノベーションを期待する検討が
なされています。

規制・制度改革に関する分科会の構成員(2010年10月時点)
 分科会長:平野達男(内閣府副大臣/規制改革担当)
 分科会長代理:園田康博(内閣府大臣政務官/規制改革担当)
 分科会長代理:岡素之(住友商事株式会社代表取締役会長)
 メンバー  :安念潤司(中央大学法科大学院教授)
         大上二三雄(エム・アイ・コンサルティンググループ株式会社代表取締役)
         大室康一(三井不動産株式会社代表取締役副社長)
         翁百合(株式会社日本総合研究所理事)
         黒岩祐治(ジャーナリスト・国際医療福祉大学大学院教授)
         中条潮(慶應義塾大学商学部教授)
         土屋了介(財団法人癌研究会顧問)
         新浪剛史(株式会社ローソン代表取締役社長CEO)
         星野佳路(株式会社星野リゾート代表取締役社長)
         若田部昌澄(早稲田大学政治経済学術院教授)
         渡邊佳英(日本商工会議所特別顧問、東京商工会議所副会頭、
              大崎電気工業株式会社会長)

規制緩和の重点は、「グリーンイノベーション」「ライフイノベーション」
「農林・地域活性化」「アジア経済戦略、金融」という4テーマに置かれています。

東日本大震災の前の2011年1月26日に行われた最後の会議では、
現在検討されている規制緩和ポイントのレビューが行われました。

レビューには、それぞれの規制緩和に関する所管省庁の反論が記されています。
そして、所管省庁は、「国の管理下から離れると、行政庁の監督が行き届かなくなる。
公益性が損なわれる」という理由で、基本的に規制緩和に反対する姿勢を示しています。

所管省庁が規制緩和に反対する姿はある意味当然だといえます。
規制をするそれなりの理由がなければ、そもそも規制をされていないからです。
市場の公平性を担保するのが政府の役割だとすれば、
規制することは政府の当然の仕事だといえます。

この状況下で、規制緩和を議論するためには、
「国や地方政府として最低限担保しなければならないことは何か?」
「何を得るために、何を犠牲にするのか?」
という規制の有無を判断するための大きな判断軸が必要となります。

このように行政刷新会議は行政改革のための十分な成果を挙げられずにいます。
その原因の一つは、
「大きな判断軸をもって個別案件の必要性を判断する」という方法をとるための、
「大きな判断軸」を持っていないという点です。
この大きな判断軸の不在という課題は、国家戦略室の議論と絡んできますので、
そちらのコーナーで解説していきます。

そして、行政刷新介護が空回りしているもう一つの原因は、
「公益性のある事業は政府が担当する」という姿勢を所管省庁が貫いている点です。
公益性のある事業を政府だけでなく、
ソーシャルビジネス・NPOとともに提供していくというイギリス政府のような考え方は、
「新しい公共」推進会議にて検討されていますので、
この2つ目の原因については、「新しい公共」推進会議のコーナーにて、
より深くみていきたいと思います。
 

〇 「新しい公共」推進会議

この会議体の趣旨は、
「官だけでなく、市民、NPO、企業などが積極的に公共的な財・サービスの提供主体となり、
身近な分野において、共助の精神で活動する「新しい公共」の推進について、「新しい公共」
を支える多様な担い手が検討を行う場」
となっています。

「新しい公共」推進会議構成員
 委員: 秋山をね(株式会社インテグレックス代表取締役社長)
     浅岡美恵(気候ネットワーク代表・弁護士)
     小澤浩子(東京都赤羽消防団副団長)
     加藤好一(生活クラブ事業連合生活協同組合連合会会長)
     金子郁容(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)
     兼間道子(特定非営利活動法人日本ケアシステム協会会長・
          新しい公共をつくる市民キャビネット共同代表)
     北城恪太郎(日本アイ・ビー・エム株式会社最高顧問)
     黒田かをり(CSOネットワーク 共同事業責任者)
     佐野章二(ビッグイシュー日本代表)
     白井智子(特定非営利活動法人トイボックス代表理事)
     高橋公(特定非営利活動法人ふるさと回帰支援センター専務理事・事務局長)
     坪郷實(早稲田大学社会科学総合学術院教授)
     寺脇研(京都造形芸術大学芸術学部教授)
     中竹竜二(財団法人ラグビーフットボール協会コーチングディレクター)
     新浪剛史(株式会社ローソン代表取締役社長CEO)
     西田厚聰(株式会社東芝取締役会長)
     早瀬昇(社会福祉法人大阪ボランティア協会常務理事・
         特定非営利活動法人日本NPOセンター副代表理事)
     藤岡喜美子(特定非営利活動法人市民フォーラム21・NPOセンター事務局長・
           一般社団法人日本サードセクター経営者協会執行理事兼事務局長)
     向田映子(女性・市民コミュニティバンク理事長)
     山口誠史(特定非営利活動法人国際協力NGOセンター事務局長・理事)

2011年7月22日に開催された最後の会合では、
新たな公共サービスの担い手となるNPOの財務基盤改善のための取組や
NPOのキャパシティビルティングのための政府事業がレビューされました。

財務基盤改善のための柱としてニュース等で報道されたのが、
「特定非営利活動促進法(通称NPO法)の改正」です。
改正のポイントは、寄付に対して税制優遇を受けられる「認定NPO法人」の認定要件緩和です。
従来、「寄附金が総収入に占める割合が1/5以上」とされたいた要件の他に、
「各事業年度に3,000円以上の寄附を平均100人以上から受けること」又は
「事務所所在地の自治体の条例による個別指定を受けること」でも、
認定が受けられるようになりました。

また、同日の会合では、
政府と市民セクターとの関係のあり方等に関する報告」が発表され、
「新たな公共」についての重要な骨子となる政府とNPOの関係のあり方についての検討報告も
なされました。

しかしながら、この「新たな公共」推進会議も大きな課題をかかえています。
それは、「新たな公共」の推進の意味合いが、「NPO活動の普及促進」にとどまり、
「国の役割を縮小し、公共サービスの担い手を民間に移す」という行政改革の側面が、
ほとんど検討から抜け落ちているという点です。

例えば、目玉施策であった認定NPO法人の要件緩和。
認定されたNPOは、政府にかわり公共サービスを担っていくことが期待されていそうですが、
政府はこの要件緩和による財源の移行(NPOの税額控除)の規模を
たったの3000万円と見積もっています。(出所はコチラ
これでは行政改革としては大きな成果とはなりません。

また、キャパシティビルディングの分野においても、
特定事業への補助金支給がメインとなっており、
結果的に、行政のスリム化ではなく政府歳出の拡大を招いています。
例えば、この会議体のもうひとつの目玉施策であり、予算87.5億円がついた
「新しい公共支援事業」では、モデル事業の推進という名のもとに、
予算が各都道府県にばらまかれています。
確かにこの予算は、将来の行政スリム化のための先行投資だともいえます。
しかしながら、この投資が生む将来効果については明らかにされていません。

行政改革として、「新しい公共」をとらえていくためには、
「新たな公共」がどのような未来を想像しているのかを具体的にイメージすることが重要です。

政府の歳出規模はいくらぐらいか。国と地方と民間の役割分担は何か。
どのように市民は声を民間の公共サービス担い手に反映していくのか。
サービスの公平性・平等性はどのように担保していけるのか。
「新たな公共」時代のナショナル・ミニマムは何か。

これらの将来ゴールに対するイメージが不明確な状況では、
有効な先行投資のあり方は意思決定できませんし、
官庁側もNPOや他のプレーヤーを信頼して規制緩和や事業廃止を意思決定できません。
 

〇 地域主権戦略会議

2010年6月に閣議決定された「地域主権戦略大綱」。
その中で、地域主権改革の意義は、
「国と地方公共団体の関係を、国が地方に優越する上下の関係から、対等の立場で対話のでき
る新たなパートナーシップの関係へと根本的に転換し、国民が、地域の住民として、自らの暮
らす地域の在り方について自ら考え、主体的に行動し、その行動と選択に責任を負うという住
民主体の発想に基づいて、改革を推進していかなければならない。」
と謳われています。

この会議体では、国から地方への権限移譲、財源移譲、国と地方の協議の場の制度化、
国の出先機関の原則廃止などが具体的に検討され、検討スケジュールも組まれています。
 
地域主権戦略会議の構成員(2011年7月7日時点)
 議長:菅直人(内閣総理大臣)
 副議長:片山善博(内閣府特命担当大臣/地域主権推進)
 構成員:野田佳彦(財務大臣)
     枝野幸男(内閣官房長官)
     玄葉光一郎(国家戦略担当大臣)
     上田清司(埼玉県知事)
     北川正恭(早稲田大学大学院公共経営研究科教授)
     北橋健治(北九州市長)
     小早川光郎(成蹊大学法科大学院教授)
     神野直彦(東京大学名誉教授)
     橋下徹(大阪府知事)
     前田正子(甲南大学マネジメント創造学部教授)
     盛泰子(伊万里市議会議員)
     渡邊廣吉(聖籠町長)

しかしながら、やはりこの地域主権戦略会議にも大きな課題があります。
それは、議論の内容が、国から地方への権限移譲にのみ焦点があてられており、
行政改革にとって不可欠な「行政のスリム化」の方向性が不明確である点です。

例えば、地域主権戦略大綱の中では、財源について、
「(財源の取扱い)事務・権限の地方自治体への移譲及び国から地方自治体への人員の移管等
に際しては、改革の理念に沿って、それに伴う財源を確保することとし必要な措置を講ずる。」
とだけ述べており、具体的な方策は示されていません。

一方で、昨今の景気後退や東日本大震災の影響を受け、
地方財政の国庫依存度は高まるばかりです。
本格的な地方主権改革のためには、
国と地方との歳出総額削減の検討、国の役割の特定という
大きなプロセスが必要です。
 

〇 国家戦略室

民主党政権の肝入りとして登場した「国家戦略室」は。
国家の長期的な役割を定めるために設置されました。
すなわち、行政刷新会議、「新たな公共」推進会議、地方主権戦略会議のいずれにおいても
課題となっている「国家の長期的な役割・ビジョン」を定める役割をになっています。

当初は、内閣官房に「国家戦略局」を設置するまでの時限的な「国家戦略室」だったのですが、
局化のための法案審議がとりやめになり、引き続き「国家戦略室」として存続しています。
そのため、国家の長期的なビジョンづくりは、国家戦略局が誕生するまでお預けになっている
と思っている方もいるかもしれませんが、
実は、国家の長期的役割や重要政策は、なんと2010年6月にすでに設定されています。
新成長戦略 〜「元気な日本」復活のシナリオ〜

この新成長戦略は、21の国家戦略プロジェクトが指定し、
それぞれのプロジェクトについて2020年時点の到達ゴールが設定されています。
到達ゴールは、数値目標を持って設定されており、比較的わかりやすい内容です。

また、2010年9月には「新成長戦略実現会議」が設置され、
新成長戦略実現に向けての短期目標設定や進捗確認がなされています。

新成長戦略実現会議の委員(2011年8月3日時点)
 議長:菅直人(内閣総理大臣)
 副議長:枝野幸男(内閣官房長官)
     玄葉光一郎(国家戦略担当大臣兼内閣府特命担当大臣)
     海江田万里(経済産業大臣)
 委員:野田佳彦(財務大臣)
    内閣総理大臣が指名する大臣
    白川方明(日本銀行総裁)
    伊藤元重(東京大学大学院経済学研究科教授)
    岡村正(日本商工会議所会頭)
    河野栄子(DIC株式会社社外取締役)
    古賀伸明(日本労働組合総連合会会長)
    小宮山宏(三菱総合研究所理事長)
    桜井正光(経済同友会代表幹事)
    清家篤(慶応義塾塾長)
    宮本太郎(北海道大学大学院法学研究科教授)
    米倉弘昌(日本経済団体連合会会長)

しかしながら、「行政改革」の要となるはずの政府の役割を定めた新成長戦略は、
大きな欠陥をもっています。

それは、長期的なゴールが定められている一方で、
その実現ために必要な予算が明らかでない点です。

企業に例えるならば、10か年戦略の中に到達すべき事業イメージがあれども、
そのためのコスト・投資計画、および利益計画がないということになります。
それでは、せっかく定めた戦略を推進する間に倒産してしまうかもしれませんし、
様々な事業課題の中で、投資対効果を鑑みた優先順位づけもできません。

この「予算に関する記述がない」長期目標では、
将来の必要歳入・歳出規模に関する見通しが立たないため、
税改革議論も、歳出削減の検討も、規制改革の検討もできません。
さらに、どのぐらい公共サービスを効率化する必要があるかも不明瞭なため、
国と地方と民間の役割分担の設計もできません。

結果として、この「新成長戦略」は、
行政改革を推進するための重要な機能を果たしていないことになります。

逆説的に、もし「新成長戦略」が明確な財政計画をもっている場合を、
考えてみましょう。

明確な財政計画をもった「新成長戦略」があれば、
国家(政府)が果たすべき役割とそれが実現された場合の財政インパクトがわかり、
同時に、非重要政策項目および削るべき予算額が明らかになります。

その結果、行政刷新会議において、非重要政策項目と削るべき予算額を判断軸とし、
大胆な事業仕分けと規制緩和を実施することができます。
同時に、地方主権戦略会議においても、地方分権の中で実現すべきコスト削減、
行政サービスの効率化目標を明確に定めることができます。
さらに、政府が事業撤退したサービスを民間が担っていくために必要な措置や基盤整備内容が
同時に明らかになるため、「新しい公共」推進会議での検討課題も明確となり、
市民社会も「今後何を自分たちで担う必要があるのか」を認識し、
NPOやソーシャルビジネスの活動も活発化していきます。

イギリス政府は、歳出削減の必要性を前に、「新しい公共」の概念をいち早く確立しました。
一方で、日本政府は、歳出削減の必要性に苛まれながらも、
従来公共サービスを担ってきた所管官庁が「新しい公共」の概念を信頼しきれず、
新たな公共サービスの担い手に役割を受け渡していくことに躊躇しています。
所管官庁の立場からすると、自らの権益や人事的利益を冒した上に、
維持してきた公共サービスを質の面でもリスクに追いやることはしたくないはずです。

しかしながら、日本政府の歳出削減の必要性は待ったないところまできています。
所管官庁に対して「事業縮小」を説得力をもって交渉していくためには、
政府の長期的ゴール(財政計画含む)を政治的リーダーシップをもって設定したうえで、
「何が議論の余地なく必要なのか」を所管官庁に示すプロセスが欠かせません。

こうした将来の到達ゴールイメージを明確にするバックキャスティングの取組が、
日本の行政改革、「新たな公共」の推進のために有効に機能するのではないでしょうか。

イギリス政府の内閣府が、
Open Public Service White Paper“と題するレポートを発表しました。
日本語に直訳すると「開かれた公共サービス白書」となります。

この白書の中で書かれているイギリス政府の狙いは、
これまで中央・地方政府が実施してきた「公共サービス」を、
民間企業が実施していくことができるよう、
政府のあり方や役割を転換をしていくという、
従来の「公共」の考え方を大きく改革していくことにあります。

なぜイギリス政府は、
公共サービスの実施主体を展開してく必要性を感じているのでしょうか。
白書の中で、政府はこう説明しています。

We are opening public services because we believe that giving people more control over the public services they receive, and opening up the delivery of those services to new providers, will lead to better public services for all.

1つ目の理由は、「公共サービスの質の向上」にあります。
公共サービスの提供者が多様になることで、より市民の求める公共サービスが
提供されていくようになるというものです。
競争原理に近い考え方です。

さらに、白書の中で、2つ目の理由についてこう説明しています。

in this economic climate, when times are tight and budgets are being cut to stabilise the economy and reduce our debts, opening public services is more important than ever – if we want to deliver better services for less money, improve public service productivity and stimulate innovation to drive the wider growth of the UK economy.

つまり、2つ目の理由は、「公共サービス提供コストの削減」です。
経済が停滞し、政府予算が厳しくなる中で、競争原理を活用することで、
生産性の向上、新たなサービスの開発などを進めていこうということです。

この動きは、社会の大きな転換を意味していると思います。

従来、公共サービスは政府によって企画・提供されてきました。
そして、人々は、生活や社会に必要だと思うサービスや取り組みを
政府や議会に働きかけて、公共サービスとして制度化してきました。

しかし今回の動きをシンプルに表現すると、
「何か要望がある場合は、政府に働きかけるのではなく、
自分で起業をして公共サービスを提供していってください。」
というものです。

このような新たな社会システムの中で、政府の役割は何か。
白書ではこう説明します。

we will give more freedom and professional discretion to those who deliver them, and provide better value for taxpayers’ money.

「政府は、公共サービス提供者により大きな自由と裁量権を与え、
より価値のあるものに公的資金を投じる」

すなわち、政府の役割を、
市民にとってどのようなサービスが必要かを考え提供することではなく、
市民が自由に公共サービスを考え提供できるように環境を整備すること
と定義しているのです。

さらにこの白書では、この「開かれた公共サービス」を支える仕組みとして、
新たな2つの提案をしています。

■ 委託制度

政府は、公共サービスを「広く社会に開く」としながらも、
市場の公平性やセーフティの観点から、
委託制度を導入するのが良い方策ではないかと提案しています。

■ 互助組織制度

政府は、公務員の社会的起業を促進するため、
従業員が経営と運営を同時に実行する「互助組織制度」を
提案しています。

 

この「委託制度」と「互助組織制度」については、
既存の社会起業家から賛否両論が出ているようです。
(出典はコチラ

委託制度については、政府の管理が厳しくなることに関する懸念。
互助組織制度については、新たなプレーヤーが増え、
市場競争が激しくなることに対する懸念。
特に、互助組織制度については、大手民間企業が、この互助組織制度を
活用して公共サービス市場に参入し、
体力のない既存の社会企業が廃業を余儀なくされることを懸念しているようです。

上記で説明してきた「公共サービスの政府離れ」の背景について、
僕は政府の財政難が大きな影響を及ぼしているのではないかと考えています。
ほぼすべての先進国は、現在深刻な財政難に陥っています。
歳出削減と公共サービスの維持・向上を同時に実現するためには、
公共サービスの運営効率を上げるしかありません。

政府の運営が「非効率」だと言われる中で、
公共サービス主体が政府でなくなっていく流れは、
今後他の国でも大きくなっていくのではと考えています。

ヨーロッパ各国政府が太陽光発電に対する補助制度を縮小する中、
プライベートエクイティ大手KKRが、太陽光発電分野に大規模投資をする
という報道が、
7/18のFinancial Times紙(Web版)にありました。

KKRはニューヨークに本拠地を置く世界有数のプライベートエクイティー企業。
今回、ドイツの再保険会社Munich Reと共同で、
世界有数の太陽光発電企業のひとつT-Solar Global SA社が保有する
スペインとイタリアの太陽光発電プラント株式の49%を買収するという内容です。
買収される49%のうち、37%をMunich Reが、12%をKKRが保有します。

T-Solarは、イタリアとスペインに42の太陽光発電プラント(合計168MW)を
展開しています。

Broombergの報道によると、今回の買収の背景として、
3社すべてが太陽光発電事業を伸長させる狙いがあることを指摘しています。

T-Solarは、2014年までに太陽光発電量を、3倍の500MWにまで伸ばす計画があり、
今回の株式売却の目的はそのための資金調達をすることにあります。
また、KKRおよびMunich Reは、今後この事業への投資を拡大させる思惑がある
ようです。

特にKKRは、「再生可能エネルギー分野は最も可能性のあるインフラビジネスのひとつだ」
と言明しています。

太陽光発電事業の分野では、政府支援が減退する中、
企業による資金流入という新たな流れが始まってきているようです。

このブログでは、「企業利益に貢献するCSR活動」という概念について、
これまで何度も紹介してきました。

特に、従来CSRを、
「事業から得た利益を社会に還元するためのコスト」と定義することが多かったのに対し、
最近では、
「社会を利する事業を展開することで得られる利益そのもの」と再定義されてきています。

さらに、これまでCSR活動や持続可能ビジネス戦略といった分野では、
資金にゆとりのある先進国グローバル企業が取り上げられることが多かったのですが、
最近では、新興国企業でも上記の新たなCSRの概念が浸透しつつあります。

その一例として、The Economic Timesが、
インドを代表する企業のひとつReliance社がCSR活動を積極展開していく
という内容を報じました。

この記事からは、同社会長のムケシュ・アンバニ氏が、
下記の2つのことに力点を置いていることが読み取れます。

1. CSRとは、単なるチャリティーではなく、他者を富ませる活動のことだ
2. ビジネスは、株主への利益還元だけでなく、社会への利益還元に基づき、評価されるべきだ。

新たなCSR・サステイナビリティの概念は、
先進国だけでなく、新興国企業にも普及しつつあります。

2011年3月9日(ちょっと前ですが)に、
アクセンチャア社(米国本社)が、持続可能性に対する報告書を発表しました。

Driving Value from Integrated Sustainability

このレポートは、アクセンチュアの独自に行った調査を基に作られています。
Global Fortune 1000にリスト入りしているうちの275社について、
経営者へのサーベイも含めて定性面、定性面の調査を行い、
ハイパフォーマンス分析をまとめたものです。

結果として報告されているものは、

・42%の経営者が、持続可能性への取り組みはコスト削減につながると回答。
・41%の経営者が、持続可能性への取り組みはブランド価値の向上につながると回答。
・約50%の経営者が、持続可能性への取り組みは株主への信頼向上につながると回答。

というもので、
少なからずリーディングカンパニーに多数が、持続可能性への取り組みを
肯定的にとらえていることがわかります。

アクセンチュアは、このレポートのまとめとして、
持続可能ビジネス戦略を採用している企業の狙いは、

・新製品や新サービスの投入による売上増
・生産効率向上によるコスト削減
・事業リスクや法規制リスクに対するマネジメント強化
・ブランド、評判、協働ネットワークなど無形資産の強化

にあると、報告しています。

もちろん、この情報にはバイアスがかかっている可能性もあります。

1. 発信者のバイアス

このレポートは、アクセンチュア社の持続可能性サービスグループが
とりまとめています。
この「持続可能性グループ」としては、世の中の持続可能性に対する関心が
高まれば高まるほど、グループのビジネスを拡大することができます。
僕自身も事業プランニングの経験があるため、理解できるのですが、
ビジネス拡大を考える際には、データ収集や分析の過程で、
都合よく解釈しようとするバイアスが働いてしまうものです。

2. サーベイ回答者のバイアス

持続可能性に関するサーベイに回答した経営者もバイアスを抱えています。
サステイナビリティやCSRに関するサーベイを実施する場合には、
経営者が「本心とは別に社会的に求められていることに回答してしまう」
というバイアスが働いています。
このバイアスは英語で”Social desirability bias”と呼ばれています。

これらのバイアスがどのぐらい影響を与えているのかはわかりません。
しかしながら、グローバル企業の中で、
持続可能性に対する経営者の関心が高まっていることは確かなようです。

企業がサステイナビリティ(持続可能性)に対して投資をすることについて、
また、より狭義には “CSR”を促進することについて、
かねてから、大きな疑念が提起されています。

それは、

企業は、利益が多いときにはサステイナビリティに投資するが、
いざ企業の収益が悪化すると、サステイナビリティ関連投資は終焉する。

というものです。

すなわち、企業は好調の時は、懐に余裕があるため、社会貢献に資金を投じるが、
いざ不調となると、事業に関係ない社会貢献活動をやめてしまう。
という考え方です。

このようなサステイナビリティ投資批判に対して、
サンダーバード国際経営大学院のGregory Unruh教授は、
ブログで以下のように反論しています。

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(I) began asking every company executive I knew whether the economic downturn was scuttling their sustainability strategy. Contrary to the logic, I had trouble finding companies dumping sustainability.

私は知り合いの企業経営陣に、不景気でサステイナビリティ戦略は放棄されるかどうかを尋ねた。しかし、(CSR批判者の)ロジックとは逆に、私は、(この不景気時に)サステイナビリティ戦略が失速していることを確認することはできなかった。

What has become clear is that there has been a bifurcation in the sustainable business space. In the downturn some companies cut back on CSR and sustainability efforts. They have become the laggards. Another group doubled down on sustainability. The best explanation for why they did so in a recession is that they have found out how to make sustainability pay.

明らかなことは、企業の持続可能性戦略は現在、分岐点に来ているということだ。景気後退局面で、CSRやサステイナビリティに対する努力を削減する企業もあったが、その企業は活力を失ってしまった。一方で、サステイナビリティ投資を倍増した企業もある。不景気時にその投資を増やした理由は、彼らはサステイナビリティ投資は割に合うということに気づいたからだ。

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Unruh教授によると、いくつかの企業は持続可能性はブランドのためのコストではなく、
利益を伸ばす行為として認識し、投資を活発化しつつあるということです。

それを後押しするレポートが、サステイナビリティに関する調査&コンサルティング機関の
Verdantixから発表されました。

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Global sustainability spending will soar 50 percent to 100 percent between 2011 and 2013, predicted research firm Verdantix.

売上US$1,000万以上の企業は、2011年から2013年の間に、サステイナビリティに関する投資を50%から100%増加させる。

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特に、アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダに本社を置く企業は、
サステイナビリティ、気候変動、二酸化炭素管理、エネルギー効率向上に関する投資を、
現在のUS$約350万から、2013年にはUS$600万に増やしていくとうことです。

サステイナビリティの分野は、今後、大きな市場を形成していきそうです。

「震災後の日本がどのように変化を遂げていくのか。」

持続可能性の観点からも、世界からも多くの関心が寄せられています。

その中で、企業の持続可能性向上を推進する世界的なNPOのひとつBSR
CEOであるAron Cramer氏が、同社のブログにて、
Japan: Tragedy to Turning Point? “と題する記事を発表しています。

非常に示唆に富む内容でしたので、今回はその記事を日本語訳してみました。

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私が今回、ミーティングに参加するために日本を訪れて一週間。
東京は今までにないぐらい人の気配がなく閑散としていた。
おそらく、日本経済は、地震、津波、福島原発事故の三重の波を前に
激しくダメージを受けてしまった。

しかしながら、BSRの会員企業との一週間の会合の中で、
私はより重層的な日本の状況を感じ取った。
日本は明らかに、この悲劇を将来のための転換点として昇華させ、
日本を、安全で、豊かで、持続可能な将来へと導く、
力強い道のりを歩み始めている。

会合の中で、
たくさんの日本の会員企業の代表たちは、自省の念を表明していた。

ある経営者は、日本がこの数十年間謳歌してきた
エネルギー依存の消費型経済モデルから転換していけるのかどうかという
問題提起をしていた。
例えば、「ここでもどこでも」という日本の消費文化のシンボルであり、
大量のエネルギーを消費する自動販売機なしで日本人がやっていけるのかどうか。
彼はこの点について問題を投げかけていた。

別の経営者は、日本企業は、政府と経団連が求めた25%の自発的節電を
「容易に達成することができる」と語った。
そして、彼は続けて、もしこの節電が可能であるならば、
なぜもっと以前からこれに取り組んでこなかったのか、と振り返っていた。
(もちろん、私自身は、エネルギーが非効率で暴飲暴食しているアメリカ国民の
一人として、他国の節電についてあまりとやかく語る筋ではない)

日本は現在、30%のエネルギーを原子力発電で調達している。
この状況を一夜にして転換することはできないし、
もし原子力発電所を削減するとしても、諸外国と同様に、
短期的には二酸化炭素排出量を削減することがより難しくなる。
しかし、多くの日本の人々は、1973年のオイルショック時に日本が
エネルギー効率を国是として推進していったように、
この2011年のできごとを機に、日本が再生可能エネルギーを
さらに促進していってほしいと願っている。

日本の経営者たちは、日本経済は臨機応変に対応できるという自信を見せるとともに、
今回の地震や津波の結果、これまで長い間活動が目立たなかった日本のNPOが、
今後さらに重要になっていくという見通しも示していた。
多くの企業は、震災の救援、復旧、復興においてNPOと共働している。
このような協働はCAREや赤十字などの世界的組織の日本支部が
中心的な役割を果たしているが、NPOとの共働に急速に関心が高まったことで、
今後、日本のNPOが日本社会で果たす役割はますます大きくなっていくだろう。

また、このような企業とNPOの共働が促進された背景には、
政府への信頼が大きく失墜してしまったということがある。
多くの企業経営者は、
今回の災害に対して政府のリーダーシップが欠如していることに大いに失望していた。
自衛隊より迅速に災害に対して救援活動を展開した米軍を称賛している人もいた。
(もちろん米軍は自衛隊より規模も資金も豊富なのだが、この米軍への称賛は、
政府の対応能力とコミットメントの欠如を意味している)

日本は、現在、正念場だ。
かつて、アメリカでは、多くのコメンテーターが、
アメリカは9.11を機に何もかも大きく変わり、
新たな価値観が提起されたり、
社会の共通目的が刷新されるだろうと語っていた。
しかし、残念ながら、これらは実際には実現しなかった。
だが、おそらく日本では、アメリカが成し遂げることができなかったような
前進への転換点を、3.11はもたらしていくだろう。

日本のこの正念場をバネに、将来の世代は再生可能エネルギーと
エネルギー効率の向上にますます拍車をかけていくだろう。
もしそれが実現すれば、日本は世界に対して、かつてのように再び、
プレッシャー下での優雅な対応力、明確な解決策、イノベーション力を
教えていく立場になっていく。

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今月、Ernst&Young社が、
Shareholders press boards on social and environmental risks
というレポートを発表しました。

そこで、報告されているのは、2010年の主要企業の株主決議の中で、
持続可能性に関する案件への支持票が急速に増えてきたということです。

同レポートよると、企業経営者は、30%以上の支持を集める株主決議案件については、
真剣に取り組むでいく傾向があると報告しています。

2005年には、30%以上の支持を集めた持続可能性関連案件は2.6%と、
株主の多くの共感を呼ばなかったの対し、
2010年にはこの割合は、26.8%にまで増加、
1/4以上の案件が30%以上の支持を集めるにまで至りました。

また、2011年には、株主決議全体に占める持続可能性関連案件が、
半数を超えるとまでレポートされています。

このように、持続可能性に関する関心が株主の間で高まってきた背景には、
何があるのでしょうか。

株主が急速に「社会貢献」に目覚めてきているのでしょうか。

レポートを作成したErnst&Youngの担当者は、その背景には、
「財務リスクやレピュテーションリスクに関する懸念の高まりがある」と報告。(コチラ
すなわち、通常の事業運営をしていく中で、
持続可能性に関する取り組みを重視していくことが事業の安定性を高めると
株主はとらえはじめているようです。

Ernst&Youngは、今後の経営方針の中で、以下の取り組みを重視するよう
提案しています。

1. 取締役会: 社会・環境問題に起因する機会と脅威を真剣に議論する
2. 経営委員会: 社会・環境問題を専門に検討する委員会を設立する
3. 委員会構成: 取締役と社外取締役(環境専門家)を委員会メンバーとする
4. 具体的制度: 各社会・環境問題の優先順位を定める具体的サイクルを設ける
5. 説明責任: 社会・環境問題についての責任者を明確に定める
6. 報告: 定期的な報告制度を具体的に定める
7. 認証: 報告に対して社内外の認証を得る

持続可能性についての取り組みは、従来は熱狂的なCEOを中心に始まりましたが、
その流れが株主にも波及しつつあるように思います。

今日、日本におけるCSRやサステイナビリティに対して、
以下のようにとらえる方が数多くいらっしゃいます。

「企業利益を、社会貢献として社会に還元するためのコスト」
「途上国や環境分野に対する支援のためのコスト」
「ブランドイメージをあげるためのコスト」

特に、好景気下で、企業利益が増加しているときは、CSRが強調されますが、
不景気になると、CSR予算がカットされることも多く、
CSR活動そのものの持続可能性が疑われることがよくあります。

また、NPOというと、

「補助金や寄付金に依存する慈善活動」
「専門的スキルやマネジメント力に欠け、継続性に難あり」

と、特にビジネスパーソンの中に、NPOという存在そのものに
懐疑的な方が多くいらっしゃいます。

しかし、上記とは異なる考え方をし、
積極的にCSRやサステイナビリティに取り組むムーブメントが、
サンフランシスコの企業やNPOを中心に巻き起こってきています。

先週、学校の特別プログラムに参加し、サンフランシスコとシリコンバレーに本部を置く、
8つの企業・NPOを実際に訪問することができました。

1. As you sow: 社会的責任投資(SRI)を手掛けているNPO
2. GAP: 世界有数のアパレルメーカーのCSR関連部門
3. BSR: サステイナビリティ構築コンサルティングをしているNPO
4. SAP: ITベンダーの世界大手のCSR関連部門
5. IDEO: デザインコンサルティング会社
6. Taproot Foundation: プロボノサービスを提供しているNPO
7. TechSoup: IT商品を格安で世界のNPOに提供しているNPO
8. Clorox: 消費財メーカー大手のCSR関連部門

この中で、純粋なバックオフィス機能として
CSRやサステイナビリティに関わっているのは、GAPのみ。

その他の企業やNPOは、
CSRやサステイナビリティの分野を事業として営み、売上と利益をあげています。

1. As you sow: 企業に対するSRI商品やアドバイザリーサービスの販売
3. BSR: 企業に対するサステイナビリティ向上コンサルティングサービスの販売
4. SAP: 企業に対するCSR・サステイナビリティ支援システムの販売
5. IDEO: 企業に対するデザインコンサルティングサービスの販売
6. Taproot Foundation: NPOに対する事業コンサルティング・プロボノサービスの販売
7. TechSoup: NPOに対するIT商品の格安販売
8. Clorox: エコ商品「Green Works」の販売

彼らに共通するCSRやサステイナビリティに関する考え方は、

・企業CSR部門はCSRの目的を、社会貢献だけではなく、企業利益の向上ととらえている
・訪問したNPOはみんな収益源がきっちりしていて補助金や寄付金に頼っていない
・有名コンサル企業出身の人たちが実際のNPOの現場で活動している
・NPOには企業経営と同様のスタンスが必要だとみんな思っている

というもの。

CSRやサステイナビリティを、何か神聖なものとして特別扱いすることはなく、
社会のニーズに対する「新たなビジネス・市場」として、捉えています。

さらに、CSRの範囲も、従来は「環境」だけにフォーカスされていたものが、
最近では、社会・環境・ガバナンス・人権(SEG+HR)全体に及んできています。

企業をCSRに駆り立てる動機は何なのでしょうか。

訪問した企業からは、以下のような共通する思惑がみえてきました。

・エコに対する関心の高い層に対する新市場からの売上増
・企業・商品ブランド向上によるプレミアムマージンの獲得
・エネルギーや原材料効率を改善することでのコスト削減
・地域社会との共存を実現することでの原材料の安定供給の実現
・従業員満足度を高めることでの人的関連費の削減
・労働環境改善による製品の質の向上
・訴訟、罰金、ボイコットなど利益減を招くリスクの低減

このように、CSRやサステイナビリティを、企業利益に貢献するものととらえており、
投資対効果の測定も行われています。

そして、企業が利益向上のためにCSRを推進したいというニーズに対応し、
他の企業やNPOがサービスを販売し、市場が形成されているという構造です。
もちろん、ビジネスを継続させるために、それぞれのプレーヤーは、
「より少ない投資でより大きな成果をあげる」ためのイノベーションに取り組んでいます。

一方で、各プレーヤーが抱える課題は大きく2点です。

①CSR活動が果たす財務パフォーマンスへの影響測定の可視化、精緻化
②オペレーションレベルでのモニタリング・効果測定の向上

この課題をニーズと捉え、SAPがいち早く事業として取り組み始めています。

従来、「コストセンター」として見られてきたCSRやサステイナビリティ活動は、
現在、その姿を大きく変えつつあります。

ここ数年、中央政府も地方政府も大きく税収が落ち込んでいます。
これは日本だけでなく、アメリカでも同様です。

昨日、Alliance of Arizona Non-Profitというアリゾナ州のNPO連合会から
届いたメールニュースに、アリゾナ州の苦境が報じられていました。

アリゾナ州では、全米の中でも大きく税収が落ち込み、
来年に、今年度と同様の行政サービスを提供しようとすると、
約14億ドル(約1200億円)不足してしまうということです。

アリゾナ州知事は不足分を支出の削減で乗り切る案を示し、
特に、NPOなどへの支援を削減する姿勢を示しました。

さらに、今後の税収不足を補うため、
これまで税優遇されていたNPOなどに対し、
課税を検討していることも報じられていました。

政府がNPOへの支援を削減することは、社会保障の観点からみて、
喜ばしくない方針のようにも見えますが、そうともいえません。
NPOへの支援を削減しなければ、
政府は他の行政サービスを削減せざるをえず、
結果的に社会的なサービスが削られることになるからです。

この状況に対してアリゾナNPO連合会が示した姿勢は、素晴らしいものでした。
政府からの支援削減に対して抗議をしてもよさそうなものですが、
そうではなく、加盟NPOに対して冷静に、
財政とNPOの持続可能性が密接に結びついていること、
自分たちの活動を継続していくためには、
自分たちが変わらなくてはいけないこと、を呼び掛け、
来る集会では活動の持続可能性を高めていく道を模索していくことを
議題にすることを発表していました。

NPOなど社会的セクターの多くは、現在政府からの財源に頼っています。
しかし、政府自体が資金難に陥っていく中で、
政府とともにNPOの経営自体も変わっていかなくてはいけません。

このような状況に迫られているのは、アリゾナ州以外にも世界にたくさんあります。
自立した社会的セクターの構築を一緒に目指していきたいと思います。

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