Elaine Cohenという方がいます。

この女性は、CSRコンサルタントや、サステナビリティレポーターというタイトルで、
世界各国の様々な企業のCSRレポートやサステナビリティレポートの、
査読、改善提案を行っています。

最近では、”CSR For HR”という本を出版。
日本ではCSRというと「環境」という言葉が連想されますが、
このElaineさんは、「雇用・労働」という見地からのCSRを大きく提唱されています。

このElaineさんは、ブロガーとしても有名で、
最近の彼女のブログで、
16 Tips for Reading Sustainability Reports
(サステナビリティレポートを読む16のコツ)

という面白い内容があったので、ご紹介したいと思います。

この中で、彼女は、ブログのタイトル通り、
CSRレポートやサステナビリティレポートを読む際に、
心構えやナレッジを16個(実際には15個)挙げています。

1. 偏見のない広い心で読み始める

ブランドイメージの悪い企業や、悪い評判のある企業のレポートを読む際には、
どうしても穿った見方や、あらを探すような姿勢をとってしまいがちです。

しかし、どの企業にも、それぞれの企業環境や事業内容の中で、業を営み、
社会への貢献を示すためにレポートを作成しています。

まずはフラットな姿勢で、レポートを読もうとする姿勢が大切です。

2. レポートは会社ではなく「人」が書いていることを理解する

サステナビリティレポート担当者は、会社の様々な政治力学の中で、
精一杯ベストを尽くそうとして、レポートを作成しています。

協力やデータを得られない社内部署の存在。
開示を拒む社内の声。
結果が思わしくない場合の表現方法。
社内担当者は、大きな苦難の末、レポートを作成しています。

徒にレポートの出来不出来を判断する前に、
レポート作成者が直面する「限界」を理解しようと努め、
次回作を応援するという気持ちを忘れてはいけません。

3. 冒頭の社長挨拶をちゃんと読む

サステナビリティ・CSRレポートでは、冒頭に社長挨拶が載ることが一般的です。

この挨拶文は、当たり障りのない言葉が並び、
内容が伴わないことが多いため、読み飛ばされがちです。

しかし、社長挨拶はレポート全体のトーンをよく表しています。
社長挨拶の内容が濃い場合は、レポートの全体の内容も濃く、
反対に薄い場合は、レポートの内容が薄くなる傾向があります。

企業のトーンを掴むため、社長挨拶を読むことは大切です。

4. レポートの読み方を定める

社長挨拶のあと、どこから読み始めるかは自由です。

ページ順に読んでもいいですし、
気になるトピックスに焦点を絞って読んでもいいです。

レポートの読む目的によって、読み方は違うので、
まずは、レポートから何を得たいかを定めることが大切です。

5. 重要な点を探す

企業活動がもたらす重要な影響は、
直接的な影響ではなく、間接的な影響であることが多いので、
レポートが、その間接的な影響にも触れているかを把握することは
重要です。

6. コピー&ペーストに注意する

毎年同じ文言をコピー&ペーストのように使いまわしているレポートがあります。

レポートの意義は、毎年新たな取り組みや成果について発表をすることにあり、
もし何も成果がない場合は、何も書かない方がましです。

コピー&ペーストの頻度に着目し、レポートの信頼性を測りましょう。

7. データの一貫性に注意を払う

企業が複数年わたりレポートを発表している場合は、
少なくとも過去3年分の連続データを表記すべきです。

そのような連続データがない場合は、何かやましい理由があります。

過去のレポートとデータの扱いが違う場合には、
何が背景にあるのかに注意を払いましょう。

8. フィードバック、質問、コメントをする

企業のレポーティング能力を向上していくためにも、
レポートの読者からのフィードバック、質問、コメントは重要です。

9. レポート発行初年度の企業は大目に見る

レポート発行は容易な作業ではありません。

レポート発行初年度の企業は、大きな困難を抱えた状態で、
発行にこぎつけています。

大目に見ましょう。

10. レポートを読む際には、アイスクリームを食べる

これは実質的なアドバイスではなく、
アイスクリーム好きのElaineさんの余興です。

11. グラフや表には踊らされない

グラフや表に記されているデータや文言を証明する内容を
レポート内から探し出せないことがあります。

レポートの内容とグラフ・表の内容を照合しましょう。

12. 困難な意思決定に着目する

企業が困難な意思決定をしているにもかかわらず、
その内容がレポートで触れられていないことがあります。

例えば、人員削減を行った場合。やむを得ない意思決定であったにせよ、
人員削減プロセスの中で、どのように社会的影響を配慮したのか、
触れておく必要があります。

13. 数値目標の立て方を調べる

一見、数値目標があると、レベルの高いレポーティングのように見えてしまいますが、
よくよくみると、数値目標の立て方が甘いケースがあります。

あまりに低い目標でないか、簡単に達成できる数値目標ではないか、
数値目標の立て方にも関心を払う必要があります。

14. 賞を受賞したレポートはそれだけの理由がある

CSR/サステナビリティレポートで何らかの賞を受賞しているレポートは、
やはり読むに値する内容になっています。

15. 従業員政策に着眼する

サステナビリティ活動を遂行するためには、従業員のマインドや、
企業文化が重要となります。

どのような従業員政策を施しているのか、この内容をレポートから探し出しましょう。

16. インパクトをチェックする

レポーティングにおいて、「何を実施したか」ではなく、
「どれだけのインパクトをもたらしたのか」が重要です。

そのインパクトが書かれているかどうかをチェックしましょう。

Elaineさんは、多少の冗談を交えながら、
CSR/サステナビリティレポートの痛い点を見事についています。

財務諸表と同様、読み手の能力向上は、作成者の能力向上にもつながっていきます。
そしてひいては、活動そのもののグレードアップにもつながります。

ここ数年、企業に対して、ESG(環境・社会・ガバナンス)分野に関する法規制が、
欧米諸国を中心に強化しつつあります。

今回は、その中でも特に重要だとされているものをご紹介します。
BSRのレポートを参考にしました。

〇 U.K. Bribery Act 2010(2010年イギリス贈収賄防止法)

イギリスで2010年4月に制定された贈収賄防止法が、2011年4月に施行されます。
この法律は、過去になく適用範囲が大幅に拡大されているのが特徴です。
通常の贈収賄防止法は、国内に上場または登記している企業が対象なのですが、
この法律は、適用範囲が国境を超える、域外適用を認めています。

例えば、登記していなくても、イギリス国内の企業や個人と販売・調達の取引がある、
イギリス国内を通過する物流を行っているなど、なんらかの事業活動のつながりが、
イギリス国内にあれば、その企業は適用範囲となります。

また、イギリス国民に対しては、国外にいても適用されます。

そのため、日本に登記をしている企業が、インドで贈収賄行為を行ったとしても、
その企業がイギリス国内でも事業をすれば、その贈収賄行為にもこのイギリス法が
適用され裁かれます。

また、「贈収賄行為」の範囲も例のないほど拡大され、
いかなる「便宜行為」も例外として認められません。
企業や個人が、自分の利益のために、他者・他社に対して金品を渡す行為は、
すべて「贈収賄行為」として認識されます。
間に代理人等を介して行う場合でも、訴追されます。

この法を犯した場合は、個人に対し10年以下の懲役または禁錮が課せられます。
刑期の長さでも他に例を見ません。
例えこの法律に対する認識がなかったとしても、同法律は適用されます。
 

〇 U.S. Dodd-Frank Act(ドッド・フランク法)

この法律そのものは、リーマンショック後の金融規制強化のために制定されましたが、
同法1502条に、コンゴ民主共和国の紛争資源に関わる条文が盛り込まれています。

同法自体は2010年夏に制定されていますが、紛争資源に関わる詳細は、
SEC(アメリカ証券取引委員会)に審議に委ねられており、
SECは2011年4月に最終ルールを施行する予定としています。

紛争資源として定められているのは、錫、タンタル、タングステン、金の4種類。
そのほか、SECが必要と定めた場合には、他の鉱物も追加されます。

この法律の適用対象者は、アメリカで株式上場をし、さらに、上記の4種類の鉱物を
原料として必要とするすべての製造業者。
これらの企業は、この4種類の鉱物の原産国が、
コンゴ民主共和国および周辺諸国(スーダン、中央アフリカ、コンゴ共和国、アンゴラ、
ザンビア、マラウィ、タンザニア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ、タンザニア)であるかどうかを
開示しなければなりません。
原料の直接の購入者でなくとも、調達先をたどり原産国を特定する必要があるため、
サプライチェーンの途中にいる企業に対しても事実上同様の努力が課せられることとなります。

ルールとして定められている要求事項は、
・原産国がコンゴ民主共和国および周辺諸国であるかどうかを開示しなければならない。
・原産国が当該諸国でない場合は、それを第三者機関などが認証しなければならない。
・原産国が当該諸国である場合や判断できない場合は、「紛争鉱物報告書」を作成しなければならない。

罰則については現在、SECにて検討されています。
 

〇 California Transparency in Supply Chains Act(カリフォルニア州サプライチェーン透明法)

カリフォルニア州で2010年9月に制定された州法です。
米国で社会問題となっている人身売買の防止を強化するために定められました。

カリフォルニア州内のすべての企業は、人身売買を防止するための取組につして、
ホームページ上などで公開することが義務付けられています。
また、国際人権規約を順守することも、同様に義務付けられています。
 

〇 EU Flegt Law(EU木材規制)

2010年にEU域内27か国に適用される木材規制が制定されました。

これは、違法な方法で伐採・生産された木材製品の取引を禁じるものです。

同法は2013年3月3日に施行され、以後、EU域内の木材取引企業には以下の義務が課されます。
・違法な方法で伐採・生産された木材製品の取引の禁止
・全ての木材製品がEU域内に持ち込まれた時点で、違法性有無のデューデリジェンスを実施。
・トレーサビリティ確立のため、全ての木材製品取引において買い手と売り手の記録。
 

〇 OECD Guidelines on multinational enterprises(OECD多国籍企業ガイドライン)

2011年5月に制定されたガイドラインで、環境、労働環境、人権、賄賂などについて、
多国籍企業が守るべき事項が書かれています。

こちらは法律ではありませんが、42か国が同ガイドラインに採択しており、
企業が自主的に守るべき規制として、今後認識されていく可能性が非常に高いです。

〇 UN Guiding Principles on Business and Human Rights(国連ビジネスおよび人権原則)

こちらも人権について書かれた国連のガイドラインで、2011年6月に制定されました。

企業経営において守るべき人権項目が説明されています。

OECDガイドラインと同様、法律ではありませんが、国連の人権委員会で採択されたものであり、
国内法の規制強化へと方向づけるものになる可能性があります。

 

企業のグローバル化とは、海外の法規制に対してもアンテナを張り、
順守していく努力を必然的に伴います。
今回紹介したものは、ぜひ日本のグローバル企業の皆さんにも知っておいて頂きたいと思う
ものたちばかりです。

世界の政財界関係者が一堂に会する世界経済フォーラム(通称ダボス会議)。

毎年1月にスイスのダボスで行われる年次総会に加え、
2007年からは毎年夏に中国でニュー・チャンピオン年次総会(通称夏季ダボス会議)が
開催されています。
今年2011年は、9月14日から16日まで大連にて開催されていました。

その中で毎年の恒例行事となっているのが、
ボストン・コンサルティング・グループが調査発表する
「ニュー・サステナビリティ・チャンピオン」(New Sustainability Champion)の発表。

この賞は、今日世界の経済成長課題に対して、革新的で実用的なソリューションを
生み出し推進し、グローバル社会に広めている組織に対して与えられます。
特に、経済活動インフラが整備されている先進国の政府、環境団体、グローバル企業
ではなく、より日々の苦労が大きい新興国の企業・組織を表彰するものとされています。

今年は、世界から合計16の企業・組織が表彰されました。
※レポート(英文)はコチラ

Broad Group (中国:製造業)
Equity Bank (ケニア:金融サービス業)
Florida Ice & Farm (コスタリカ:消費財メーカー)
Grupo Balbo (ブラジル:農業)
Jain Irrigation Systems (インド:製造業)
Manila Water Company (フィリピン:インフラ)
Masisa (チリ:林業/製造業)
MTR Corporation (香港:輸送業)
Natura (ブラジル:消費財メーカー)
New Britain Palm Oil (パプアニューギニア:農業)
Sekem (エジプト:農業)
Shree Cement (インド:セメント)
Suntech (中国:再生可能エネルギー)
Suzlon (インド:再生可能エネルギー)
Woolworths (南アフリカ:小売業)
Zhangzidao Fishery Group (中国:農業)

この審査にあたっての評価基準は、以下となっています。

1. イノベーションにより、積極的に活動制約を機会に転換した
  - 不足する資源に対処した
  - 顧客を教育した
  - 顧客に適切な資金を供給した
2. 企業文化の中にサステナビリティを埋め込んだ
  - 大胆にサステナビリティビジョンを定義した
  - サステナビリティ向上を日々のオペレーションの中に組み込んだ
  - サステイナビリティ向上のための人事施策を導入した
3. ビジネス環境を主体的に生成した
  - 政策や基準策定に影響力を発揮した
  - 共通目的の達成のためのパートナーシップを締結した
  - サステナビリティの重要性を周囲に認知させた
4. 同業界の他社より財務成績が良い


※出所:World Economic Forum “Redefining the Future of Growth”

それではここから、それぞれの受賞企業と受賞理由を紹介していきます。

〇 Broad Group

・本社所在地:中国・長沙
・従業員数:約2000人
・事業内容:電気を使わないエアコンの製造および設置
・売上高:USD379 million (2008)
・電気供給不足の中、エアコンの普及率が進む中国において、電気の代わりに天然ガスと臭化リチウ
 ムの混合溶液を使うエアコンを開発し、現在、非電気エアコンマーケットシェア国内50%。
・電気式エアコンに比べ、電気効率は2倍。二酸化炭素排出量は1/4に削減。
・製品は70か国に輸出されている。
・エネルギー効率を高める技術開発を重視し、その他のエコ製品を多数上市。
・従業員用住宅無料化、ジム完備、オーガニック料理提供など従業員福利厚生も充実。

Equity Bank

・本社所在地:ケニア・ナイロビ
・事業内容:農業銀行
・売上高:USD274 million (2010)
・国民の3/4が農業に従事するケニアで、農家の生活改善に寄与する金融サービスを幅広く提供。
・農地の肥沃化や肥料への融資のほか、農家への金融教育なども実施。
・ケニアの携帯電話会社Safaricomと提携し、携帯電話上での情報サービスも展開。
・長期的なシナリオに基づく、経営戦略や事業計画を策定。
・数多くの国際機関やNGOと協働。

〇 Florida Ice & Farm

・本社所在地:コスタリカ・サンホセ
・事業内容:飲食料品製造・販売
・売上高:USD571 million (2010)
・トリプルボトムライン経営を実施。環境、社会的な指標を利益と同程度に重要視。
・例えば飲料品製造における水資源消費量を半分以下にまで削減。
・経営陣のパフォーマンス評価もトリプルボトムラインの指標を活用。
・トリプルボトムライン経営を他社へ広げるべく、政府やNPOと協働しノウハウを体系化。

〇 Grupo Balbo

・本社所在地:ブラジル・サンパウロ
・事業内容:製糖業
・売上高:USD350 million (2010)
・農薬や肥料が生物多様性に悪影響を与える製糖業において、20年前から無農薬製糖を実施。
・当初は低生産に悩んだが、現在は微生物農法を確立し、業界平均より20%高い生産性を実現。
・ノウハウを広く普及さえるため、情報を広く公開。
・政府と協働し、無農薬製糖の認証制度の制定を推進。

〇 Jain Irrigation Systems

・本社所在地:インド・ジャルガオン
・事業内容:農業用灌漑設備メーカー
・売上高:USD820 million (2010)
・水資源の希少性が増すインドで、水利用効率を高める細流灌漑設備を小規模農家に提供。
・肥料、水、農薬などの利用ノウハウも併せて伝授し、生産性向上とコスト削減を同時に実現。
・灌漑への投資を可能とするため、農家の政府補助金獲得や金融機関からの融資獲得を支援。
・灌漑ノウハウを教育するため、地域人材採用を重視。
・地域イベントの参加など、地域に溶け込んだプロモーションを実施。

〇 Manila Water Company

・本社所在地:フィリピン・マニラ
・事業内容:水供給業
・売上高:USD415 million (2010)
・慢性的な水供給不足に悩むマニラにて、地域と一体となり水供給網を確立。
・新設備を導入し、供給過程で失われる浪費水量を大幅に削減。
・地域社会と協働し、盗水を監視し、水の安定供給を強化。
・二酸化炭素排出量など環境指標を経営に導入。

〇 Masisa

・本社所在地:チリ・サンティアゴ
・事業内容:林業および木工業
・売上高:USD1,080 million (2010)
・森林伐採が進むラテンアメリカで、持続可能な林業・木工業を推進。
・30000人の大工をネットワーク化し、大工ノウハウの共有と生活水準向上に貢献。
・生活水準向上に伴い、持続可能な林業で生産された木材原料の購入促進を実現。
・林業の規制強化を政府と協業。
・低所得者層向けビジネスプランを従業員から広く募集し、事業化。

〇 MTR Corporation

・本社所在地:中国・香港
・事業内容:公共交通機関
・売上高:USD4,316 million (2010)
・人口密度の高い香港にて、環境・社会への影響を最小限にとどめた交通網整備を推進。
・人に優しい駅構内整備や、美観を意識した公園設計などを実施。
・リスクマネジメントや利害関係者の関心を経営戦略に盛り込む。
・中国で最初にサステナビリティレポートを発行。

〇 Natura

・本社所在地:ブラジル・サンパウロ
・事業内容:コスメティクス製造・販売
・売上高:USD3,047 million (2010)
・政府、NGO、地域と協働して設定した環境持続可能性基準を順守した原材料調達を実施。
・地域との信頼関係構築に成功し、地域からの原材料調達やノウハウ獲得で強みを発揮。
・製品の容器にリサイクル容器を用い、環境負荷をさらに削減。
・管理職層や利害関係者に対する持続可能性教育に多額資金の投資。
・地域社会への啓蒙活動を行うNPOを設立。

〇 New Britain Palm Oil

・本社所在地:パプアニューギニア・モサ
・事業内容:パーム油等製造・販売
・売上高:USD470 million (2010)
・パーム生産を草原や荒廃林地に限定し、原生林を保護。
・パーム供給者に対して認証を発行し、サステイナブルなパーム生産を義務化。
・パーク農場において、購入ではなく貸借形態をとり、地域社会に利益を還元。
・NGOとの協働を積極化し、地域社会との信頼関係構築を実現。
・パーム油のトレーサビリティを確立。

〇 Sekem

・本社所在地:エジプト・カイロ
・事業内容:オーガニック食材酪農業
・売上高:USD34 million (2009)
・微生物を活用した有機農法にて、健康食品から乳製品、蜂蜜などを栽培・生産。
・有機廃棄物は微生物分解により肥料として再利用。
・無期廃棄物は紙資源の原料やビニール袋としてリサイクル。
・利益の最大化は目指さず、契約農家に対して利益を還元。
・設立したNGOを通じて、契約農家に対する教育活動も展開。

〇 Shree Cement

・本社所在地:インド・ビーワー
・事業内容:セメント業
・売上高:USD809 million (2010)
・エネルギー生産性を高めるためのシステムを導入。バイオマス発電所も設置。
・生産過程廃棄物「溶滓」を最小限に抑える製法を開発し、気候変動枠組条約事務局から表彰。
・粗悪石灰岩から石膏を創る技術、亜鉛鉱滓を再利用する技術、コークスによる火力発電技術を開発。
・水消費量を最小限にとどめる生産技術も開発。
・従業員に対するサステナビリティ教育も充実。
・高レベルのサステナビリティレポートを発行。競合会社も招いたノウハウ共有も実施。

〇 Suntech

・本社所在地:中国・無錫
・事業内容:太陽光発電パネルメーカー
・売上高:USD2,904 million (2010)
・太陽光発電メーカー売上高で世界トップ。単結晶型・多結晶型のエネルギー変換効率で世界トップ。
・太陽子発電パネルコストの削減に大きく寄与。
・世界中で技術者採用を実施する一方で、ローカル採用にも注力。
・保有ノウハウを他社にも共有し、業界全体をリード。
・太陽光発電の可能性を子供たちに伝え、次世代教育にも貢献。

〇 Suzlon

・本社所在地:インド・プネー
・事業内容:風力発電機メーカー
・売上高:USD4,604 million (2010)
・風力発電機で世界で高いシェアを誇る1社。発電コストの削減に大きく貢献。
・自社エネルギーは太陽光発電または風力発電にて調達。
・利用済み水や廃棄物のリサイクルも実施。
・海外管理職ポジションにローカル人材を抜擢。
・海外にて積極的に再生可能エネルギーについて市民や政治家への普及に従事。

〇 Woolworths

・本社所在地:南アフリカ・ケープタウン
・事業内容:小売量販店チェーン
・売上高:USD3,074 million (2010)
・販売製品の97%が自社ブランドの衣類・食料品小売量販店。
・衣類の原材料にオーガニック綿を使用。納入農家の教育も実施。
・サステナブル経営=経営そのものという概念を確立。
・政府と協働し、農作物基準の策定や、労働環境改善、教育などにも注力。

〇 Zhangzidao Fishery Group

・本社所在地:中国・大連
・事業内容:漁業
・売上高:USD340 million (2010)
・疑似的な捕食環境を構築する養殖手法(IMTA)を用いた漁業(ホタテ貝、ナマコ、ウニ、アワビ)を実施。
・養殖場の病気の削減、生物多様性の増加、二酸化炭素吸収量の向上を実現。
・水質および微生物活動状況を毎月モニタリング。
・研究機関と協働し、さらなる養殖技術の向上にも熱心。

以上、16社。

この16社の取り組みから、先進国だけでなく新興国でもサステイナブル経営が浸透しつつある
ことがおわかりいただけると思います。
特に、サステイブル経営を、「利益を社会に還元する」「CSRレポートを作成する」という
意味以上に、事業の根幹として経営者がとらえているということも重要なポイントです。

上記の企業たちは、
サステナブルな社会・環境をつくるための課題を、事業機会ととらえ、事業を推進し、
大きな財務成績を誇っています。

ひとつ今回の「2011年ニュー・サステナビリティ・チャンピオン」を読み解く中で、
残念に感じたことは、このチャンピオンの審査過程に、日本人が一人も参加していない
という点です。

日本企業が真の意味でグローバル企業となるための課題のひとつに、
このような「サステナブル経営」というグローバル企業の大きなトレンドを掴み、
それを推進していくということがありそうです。

もっと日本人が世界のサステナビリティ活動に推進に大きく貢献できる
ようにしていきたいですね。

「持続可能性担当マネージャー」。ときには「CSR担当マネージャー」。

日本ではまだあまり耳にすることの少ないポジションですが、
欧米のグローバル企業には広く普及してきたポジションです。
日本でも今後、このポジションを設立する企業が増えてくると
思われます。

「持続可能性担当マネージャー」とは何か。

このブログで解説しているように、
今後の企業経営において、社会や環境への影響を鑑みた意思決定は
企業そのもののサステイナビリティを考える上で不可欠になっていきます。

そうした状況下で、社会や環境をひとつのステークホルダーとしてとらえ、
このステークホルダーの視点を経営に反映していく役割を担うのが、
持続可能性(サステイナビリティ)担当マネージャーです。

このポジションに就任したら、何から手をつければいいのか。
あまりにも新しいポジションのため、多くの人は戸惑うかと思います。
「サステイナビリティ・レポート」「CSRレポート」を作成するだけであれば、
既存の広報部やIR担当部門と役割は重なってしまいます。

この疑問に対して、カナダのNPO、Network for Business Sustainabilityが、
持続可能性(サステイナビリティ)担当マネージャーに就任したら
知っておくべき10のコト
」というレポートを発表してくれています。

ここでは、その10個の内容を紹介したいと思います。

1. 持続可能性向上のための投資は回収できるか?

2. 持続可能性向上を企業文化に中に組み込むにはどうすればよいか?

3. 自社製品のサプライチェーンをより強化するにはどうすればよいか?

4. 顧客は持続可能性を向上させた製品・サービスに対価を支払うか?

5. 株主を魅了するにはどうすればよいか?

6. 自社にとって最適な環境測定指標は何か?

7. 持続可能性向上施策を通じて従業員を魅了するにはどうすればよいか?

8. 気候変動を軽減したり、リスクを回避するにはどうすればよいか?

9. 自社にとって、事業の持続可能性とはどのように定義できるか?

10. 持続可能性向上施策に関する情報収集をどうのようにすればよいか?
 

このレポートの中では、上記の質問に関する一般的な解も提供してくれています。

しかしながら、最終的に持続可能性担当マネージャーは、
上記の質問に関する回答を自社という枠に当てはめて考え、
回答を導く必要があります。

そのため、最初のステップとしては、上記の質問を回答するための情報収集を行い、
経営会議に対して報告を行った上で、
炙り出された課題点を基に、当面の活動方針を設定していくこととなります。

前回に続き、ウォルマートの活動を紹介したいと思います。

今回のテーマは、サステイナビリティの「測定」(Measure)。

ウォルマートでは、サステイナビリティ分野での
テーマ設定、目標設定、効果測定(モニタリング)を効果的に行うため、
数多くの指標の効果測定を行っています。

とりわけ強化しているのが、「食料」「農作物」分野の測定です。
ウォルマートが提供する食料品を作るのに、
どれだけの環境、社会的な負荷をかけているのか、
どれだけ効率的(経済的な効率性だけではない)に
食料品を生産できているのかを測定しているのです。

ウォルマートは、この測定をするにあたり、
カリフォルニア州を中心に導入が進んでいる”Stewardship Index for Specialty Crops
を採用しています。

Stewardship Index for Specialty Cropsとは、
社会や環境の持続可能性強化を目指すNPOや企業の集合プロジェクトである
Stewardship Index for Specialty Cropsが生み出した
食料品に特化した持続可能性測定モデルです。
※参加団体の一覧はコチラ

この測定モデルが測定しようとしている項目は、以下です。
※出所はコチラ

1. 人的要素
 - 人的資源(労働者の健康・安全、労働条件等)
 - コミュニティ(地域雇用の実施等)

2. 環境要素
 - 大気の質
 - 生物多様性・生態系
 - エネルギー消費
 - 温室効果ガス排出量
 - 栄養素
 - パッケージング
 - 殺虫剤使用
 - 土壌
 - 廃棄物
 - 水質
 - 水消費量

2. 経済要素
 - 環境に配慮した生産・流通された製品の購買
 - 公平な価格設定

このプロジェクトでは、各測定項目の具体的な測定指標について
検討を進めています。

このウォルマートが進めている測定の取組は、決して実現が容易ではありません。
一般的に企業が進めている「サステイナビリティ」測定は、
電気消費量、エネルギー消費量、水消費量、温室効果ガス排出量など、
自社で測定が完結できるものがほとんどです。
しかしながら、ウォルマートでは、その測定を、自社だけでなく、
生産者・加工者・流通者などサプライチェーン全体に広げようとしています。
ウォルマートが販売する食料品にかかわるすべてのフットプリントを、
測定しようとしているのです。

このように食料品のサプライチェーン全体を測定していく試みは、
今後重要性を増していきます。
なぜなら、世界の食料問題への解決に寄与していくからです。
例えば、世界食糧機関(FAO)は、世界で生産された食料品の1/3は、
「無駄」「ゴミ」として廃棄されていると発表しています。
※出所はコチラ

サプライチェーン全体の「無駄」を削減していくことは、
食料品の増産ではない、もうひとつの食糧問題解決の道となりえます。

Stweardship Indexが進めているサプライチェーン全体の及ぶ測定の枠組みは、
他の業界にも展開されようとしています。
例えば、Sustainability Consortiumという同様のNPO・企業・大学連合は、

「消費者科学」「測定科学」「電化製品」「食料・飲料品」「紙製品」
「ホームケア」「ヘルスケア」「IT製品」「パッケージ」「小売」「おもちゃ」

のそれぞれの分野でワーキンググループを形成し、
測定手法の検討を進めています。

このコンソーシアムを組成している大学・企業・NPOは、

〇 大学(主催者)
アリゾナ州立大学のサステイナビリティ研究所(Arizona State University)
アーカンソー州立大学の応用サステイナビリティセンター(University of Arkansas)

〇 企業
アルコア
BASF
ベストバイ
カーギル
クロロックス
コカ・コーラ
デル
ディズニー
ダウ
ケロッグ
ロレアル
マクドナルド
ペプシコ
P&G
パナソニック
サムソン
SAP
ユニリーバ
ウォルマート
東芝 など

〇 NPO
BSR
世界自然保護基金(WWF)
チリ基金
アメリカ環境保護庁
イギリス環境食糧省

Sustainability Consortiumに参加している日本企業は、
現在、パナソニックと東芝の2社のみです。

今後の企業経営において大きな影響を与えていくと思われるサステイナビリティ。
この大きな世界の動きに、日本企業も積極的に参加していく必要があります。

「持続可能性計画(サステイナビリティプラン)」。

日本ではまだあまり浸透していない概念ですが、
これは、近年、欧米の企業を中心に進められている
社会や環境に配慮した経営計画や新規事業開発のことを指します。

とりわけ注目を集めているのが、世界の小売最大手ウォルマート
トップダウンによるイニシアチブにより、サステイナビリティプランを
積極的に展開しています。

今回、Forbe紙に、
「ウォルマートの10大持続可能性プロジェクトが世界のリーダーシップを
明確に示す」
と題した記事が発表されていました。(原文はコチラ

1. キャリア・トレーニング
トレーニングセンターを通じた職業訓練。インドでは5000人が訓練を受けている。
訓練を施す体制を整えることで、全ての社会層の人たちに対して、成長機会を
与えていく。

2. 2000万トンの温室効果ガスを削減
2015年までにサプライヤーと協働で2000万トンの温室効果ガスを削減。

3. 輸送効率の向上
2005年に全米の輸送効率を65%向上、日本での輸送効率を33.5%向上。

4. 全プレイヤー参加によるグローバルバリューネットワークの構築。
自社だけでなく、顧客、サプライヤー、地域社会と共同で持続可能性
プロジェクトを推進。

5. 地域農産品調達、零細企業活用、農家支援
2015年までに1万件の中小農家から10億ドルの農産品を調達。
100万人の農家を支援し、農家収入を10%~15%向上させる。

6. 店内エネルギー消費量の削減
中国の新規店舗にてエネルギー消費量を40%削減するモデルを開発。

7. オペレーション効率を高めるためテクノロジーを活用
LED電球や薄型太陽光発電型フォークリフトなど最新のテクノロジーを導入。

8. 全米の飢餓を削減
2015年までに20億ドル相当の現金等を全米の飢餓削減のために拠出。
10億ポンドの食糧を提供。食料バンクの推進のために物流専門社員を提供。

9. 高度成長マーケットでのエネルギー効率向上
エネルギー効率向上に寄与する設備投資をサプライヤーに対して実施。

10. 果物・野菜価格の削減
安価な果物・野菜を顧客に提供するため合計10億ドルの価格削減を展開。
 

ウォルマートで展開している持続可能性プロジェクトの内容は、
いわゆる「節電」「植林」などのエコ対策にとどまらず、
幅広く社会や環境に寄与する事業運営を検討・推進しています。

私たちは、
日本企業もこのようプロジェクトを推進していける支援をしていきます。

Forbesの5/20のブログに、
アショカ財団のAlexa Clay氏のインタビューが報じられています。

内容は、彼女がアショカ財団の中で研究テーマにしている
世界に点在する米軍基地が社会・環境に与える影響について語ったもの。

こちらが実際のインタビュー映像です。

米軍基地の存在意義は、米軍とその同盟国の安全保障にありますが、
米軍基地が与える影響は、安全保障にとどまらず、
生態系、公害、犯罪などの人災といった悪影響や、
雇用増などによる地域経済の発展、国際交流の振興などにも及びます。

彼女はこれを総合的に判断していく枠組みづくりに取り組んでいます。
それは、従来の報道や社会的関心が、
環境、安全保障、雇用などがそれぞれバラバラに議論されており、
冷静にメリットとデメリットを分析し、
それを全体として改善していくという考え方の必要性を感じているためです。

サステイナビリティは、環境的側面だけでなく、経済的な側面も含めて、
考慮する必要があります。

「武力による安定」というテーマそのものについては、別途深い議論が必要ですが、
基地が実存している事実に目を向け、それをいかに社会や環境と調和させていくか
という点に着目しているClay氏のテーマは、非常に素晴らしいと思います。

David Vogel. “The Market for Virtue: The Potential And Limits of Corporate Social Responsibility.” Brookings Institution Press (August 1, 2006)

日本語訳はコチラ↓

2006年とやや古い本ですが、
Amazon.comで”Corporate Social Responsibility”で検索すると、
今でも上位に登場する、CSR業界(?)で話題を呼んだ本です。

著者は、カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkley)のDavid Vogel教授。
Vogel教授は、この大学の政治学部とビジネススクールの双方で教鞭に立ち、
ビジネス倫理を専門としています。

CSRやSustainabilityに関する本が最近は数多く出版される中、
この本の特異な点は、「冷静にCSRの限界を指摘する」という点です。
彼は、CSRそのものに批判的なわけではありません。もちろん高く評価しています。
その上で、緻密なデータやリサーチをもとに、なぜCSRは社会を変えられないのか?
という点を、丁寧に説明されています。

この本で紹介されているテーマは、俗にESG+HRと呼ばれる、
環境、社会、ガバナンス、人権の全域に及びます。
原油、木材、児童労働、フェアトレード、コーヒー、カカオなどなど、
CSRやサステイナビリティで分野で登場するものはほぼ網羅。
それらについての法制度やNGO協定、そしてそれがもたらした効果などを
まさに「研究者」らしく緻密に検証していきます。

そして、CSR活動が、現状の課題を大きな効果を持つことはできておらず、
あくまでも「ないよりはまし」というレベルにとどまっているという結論を導き出します。

大手企業の努力にかかわらず、森林伐採は全体としては悪化しているし、
児童労働問題も頻繁に発生し続けているし、
フェアトレードで取引されている割合は全体の取引額のわずか数%。

大手企業では、特に熱狂的なCEOに導かれ、CSR活動が進んできたが、
他の大多数の企業では、コスト高になるCSR活動に真剣に取り組むことは「許されず」、
企業の自律的な規制では限界があるという主張です。

そして、最後の章で紹介されているVogel教授の提案は、「法規制による強制」です。
企業のCSR活動は、インパクトの面で限界がある。
それを大きなうねりにするためには、自律的な規制だけでなく、法規制すべきである。
そのために、企業は自らの活動を規制するだけでなく、
政府と協働して法整備に力をいれるべきだ、としています。

Vogel教授の膨大なリサーチには、感服させられます。
この本を読むだけで、ESG+HRの大まかな制度や状況を効率的に知ることができます。
そして、感情的ではない冷静な分析を前に、
CSR活動には大きな限界があるということを納得させられます。

一方で、若干の論理の飛躍を感じるのは、
なぜ「法整備」をすれば、ものごとがきれいに解決するのか、という最後の提案については、
丁寧に説明されていないことです。
そして、Vogel教授自身も自ら説明しているように、
「CSRはコストを上昇させるため、顧客・従業員・株主の誰もがその推進を望んでいない」
とするのであれば、誰がこの法整備を推進しようとするのかについても、
説明されていません。

このような論理の飛躍があったとしても、
この著書からは、既存のCSRのアプローチの限界を感じさせられます。
それは、大手企業の「良さげな」活動のみに焦点を当てて、もてはやしたとしても、
真のサステイナブルな社会は実現できないということです。

環境NGOや社会NGOは、大手企業の事業運営方針を転換させることに
力を注いでいますが、個別企業ではなくマクロ的な視点には目を瞑らせがちです。

「全体として何を実現したいのか?」
「そのためには、大手企業の努力でどこまで実現できるのか?」
「大手企業の努力以外に、何を同時に実現していく必要があるのか?」

これらが明確でないことには、広く人々の支持を得ることはできません。
例えるならばそれは、マニフェストのない選挙のようなもので、
個別の候補者の抽象的な訴えを聞いていても、
人々の心が動かされないのと同じことです。

結局は、法整備にしろ、企業の自助的努力にしろ、
社会の構成員(=従業員や顧客や株主)の支持を得ないことには、
社会に対して大きなインパクトをもたらすことはできません。

すなわち、僕の結論としては、Vogel教授のいう「法整備」は真の解決策にはならず、
重要なのは社会の構成員の理解をどうのように得ていくかであり、
それが得られるのであれば、法整備であろうと、企業の自助的努力であろうと、
目的は叶うということです。

そして、この本が上梓されてから5年経った今、
これまでこのブログでも紹介してきましたが、
サステイナビリティやCSR施策は、企業利益に反するものではなく、
企業利益に益するものとして、とらえる企業が増えてきています。

Vogel教授の追跡調査が待たれるとともに、
この業界の急速な変化の息吹も感じます。

CSRを応援する人にも、懐疑的な人にも、
この本は大いに一読に値すると思います。

Adam Werbach “Strategy for sustainability -A business manifesto-” Harvard Business Press

約1年前にアメリカで出版され、2009年のベストセラーの一冊としても選ばれた、
CSRやサステイナビリティの世界では有名な本です。

著者は、Adam Werbach氏(出版当時36歳)。
彼は「環境活動家」として注目されていますが、
その活動は彼が高校生だった18歳のときからすでに始まっています。

彼は、アメリカ最大級の環境団体シエラ・クラブの学生組織「シエラ学生連合」を
18歳で立ち上げ、ブラウン大学在学中の21歳のときに、
カリフォルニア州の2つの国立公園を保護する法律の制定に貢献、
23歳で、シエラ・クラブのトップに最年少で就任します。
その後、環境活動家として、名を馳せた後、
2008年、35歳でSaatch and Saatch SのグローバルCEOのポジションに
就きました。

この本の中でも紹介されていますが、アクティブな環境活動家だった彼は、
途中でスタンスを大きく変更しています。
環境活動家というと、同時に「攻撃的」「厄介者」「環境信奉者」というイメージも、
抱かれがちですが、彼は2004年に「環境活動家の死」という講演を行い、
これらの性格を変更。かわりに、
「大手企業との連携」「環境のみではない社会・経済を含めた全体の目標設定」
を強調するようになりました。
この講演は、環境活動家の従来のやり方を否定するもので、大きな論争を呼びました。
しかし、こうして彼は、リスクを顧みずに新たなやり方を説いていきました。

彼のこの変化の発端は、ニューオリンズに多大な被害を及ぼした巨大台風、
カトリーナの経験でした。
当時、彼をはじめとした環境活動家は、
ニューオリンズ周辺の干潟の保護に積極的に活動をしていましたが、
自然保護の目的は果たせても、カトリーナの前にその干潟は保水地として
十分に機能せず、結果的にニューオリンズの街は壊滅してしまいました。
そこで彼は、環境のみを重視するやり方に疑問を抱くようになり、
社会、環境、経済、文化を含む包括的な持続可能性を重視するようになりました。

現在、小売世界最大手のウォルマートは、持続可能性に関する取り組みを
先導している企業としても注目されていますが、
このウォルマートに対して、持続可能性の必要性や、
持続可能性を重視した企業経営戦略の策定方法をアドバイスしていったのが、
このAdam氏です。

Adam氏はこの著書”Strategy for sustainability”の中で、
持続可能性を重視した企業経営戦略の必要性を、以下のように説明します。
(日本語訳は当ブログ著者による)

持続可能性のための経営戦略を開発し遂行することは、急速に世界が
変化する今日、企業の生き残りにとって非常に重要になっている。
不十分な干潟に巨大な台風がやってくるかもしれないし、どんどん
資源は限られてきている。明日にはもっと大きな変化がやってくる
かもしれない。

この本の中で言う持続可能性とは、PR(CSRレポートを作ること)や
エコ商品開発や、地球を救うための取組に時折理解を示すことより
もっと大きいことを意味している。持続可能性とは、もっと包括的に
想像、遂行されるもので、コストを減らす利益戦略であり、新たな
顧客を獲得するためのトップレベル戦略であり、従業員、顧客、
地域社会を獲得、維持、開発するための人材戦略だ。

Adam氏の経営戦略策定フレームワークは、初めにSTaRと名付けられた、
「社会」「テクノロジー」「資源」の予想される変化が、どのように自社経営に
大きな影響を与えていくかを把握していくことから始まります。

次に、North Star goalと名付けられた、5~15年をかけて実現していく
中長期的なゴールを、できる限り数値として設定します。

そして、そのゴールを実現するために、
「情報の透明性の向上」「従業員の巻き込み」「外部ネットワークの構築」
の3つ(TENサイクルと名付けられています)を粘り強く行います。
特に、North Star goalで定めるような壮大なテーマには、
自社だけでは実現できないものが多く、業界全体や、外部の協力団体、
サプライヤーや政府組織などとネットワークを構築していくことが、
大きなカギとなります。

200ページの本の中では、具体的にこれらを導入している、
アメリカの大手企業の事例が細かく紹介されています。

実際に先日サンフランシスコの企業をいくつか訪問した際にも、
このAdam氏の考え方と同様の話を耳にすることが多く、
サンフランシスコやシリコンバレーの中では定着しつつあるという実感を
僕自身も持っています。

今、CSRや持続可能性という概念は、企業経営に大きな変化をもたらしつつあります。
その大きな流れをつかむ中で、この本はとても視界を読者に与えてくれています。

持続可能性(サステイナビリティ)が環境分野への就職・転職を
希望する方は、情報がなくて困っていらっしゃるかたも少なくありません。

コチラのサイトに英語での就職情報を公開しているサイトがされていました。
海外で経験を積みたい方や、海外での仕事を探している方は、
ぜひ参考にしてみてください。

日本語での情報をお持ちの方は、ぜひコメント下さい!

環境/持続可能性に関する就職情報サイトTOP 10

1. Net Impact

2. Sustainability Recruiting Blog

3. GreenBiz

4. Green Dream Jobs

5. Justmeans

6. Green Drinks

7. LinkedIn の中の各グループ
   “Green Jobs & Career Network Group”
   “Acre Sustainability Recruitment Network”
   “Sustainability Career Group”
   “Renewables Job Market”

8. BSR’s CSR Jobs Board

9. CSR Chicks

10. Simply Hired Job Search Agent

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