世界に冠たるアパレルメーカー、GAP.Inc

「GAP」「BANANA REPUBLIC」「OLD NAVY」「PIPER RIME」等の
ブランド有し、世界各国に合計3200以上の店舗を持っています。

このGAP本社のCSR部門の方からレクチャーを受ける機会があったので、
その内容をもとに、アメリカの大手企業のCSR活動の実状を紹介したいと思います。

GAPは、CSR活動が高く評価されているアメリカの大手企業の中の1社です。
Dan Henkle常務(社会的責任担当)率いるCSR担当のメンバーは現在、総勢70名。
GAPの全ブランドを横断的に担当しているコーポレート組織です。
そのうち、サンフランシスコのベイアリアの本社にいるのは10名ほど。
残りのメンバーは、世界中に散らばり業務を遂行しています。

この部署のメンバーの多くは、物流部門や製造部門、デザイン部門など、
社内のそれぞれの部署から異動してきた人が多く、
それぞれの部署での専門知識をいかして、業務に取り組んでいます。
NPOなどの出身者は極めて少数派です。

部署は大きく4つのセクションから構成されています。

■モニタリング/販売店開発

世の中の関心の高い「児童労働」「有毒物質」などに対し、
GAPの全ブランドのサプライヤー(供給者)が、これらの活動に抵触していないかどうか、
モニタリングし、調達から販売まで一貫した「CSR的なサプライチェーン」の構築に
責任を持っています。
担当範囲は自社だけでなく、無数の協力企業や、協力企業の協力企業に及びます。

■パートナーシップ

外部の環境団体や政治団体、人権団体などとパートナーシップを組み、
GAP本体や協力会社の改善をしていくのが役割です。
CSR活動の多くは、このような外部団体からの持込み案件が多く、
一歩関係構築を間違えると、GAPのブランドを大きく傷つけることにもなってしまうため、
非常に重要な役割を担っています。

■環境

ゴミ削減や省エネ、廃棄物削減など、社内の環境改善活動に責任を負っています。
「省エネ電気の導入」「デスク周辺のゴミ箱設置廃止」など地道な活動もありますが、
リサイクルを推進するため、行政当局に働きかけていく大がかりなものもあります。
ニューヨークに新たなデザインセンターを開設した際には、
リサイクルシステムのなかったニューヨーク市と粘り強く交渉し、
市としてのリサイクル活動開始に大きな影響力を発揮しました。

■戦略企画/コミュニケーション

CSRレポート作成や重大テーマの設定などを担当しています。
最大の課題は、CSR活動の効果測定や利益インパクトの算出。
効果の量的分析については、GAP以外の企業も悩んでいるテーマです。
※実際のレポートをコチラからダウンロードできます。

このように、CSR活動の担当範囲は、
人事、総務、調達、店舗管理、法務、政府交渉など多岐にわたり、
部署をまたぐ案件をプロジェクトマネジメントをして推進していくことが中心となっています。

活動テーマの多くは、外部の団体(NPOなど)からの指摘や提言によるもので、
その中で重要で解決できそうなテーマから着手をしていきます。
持ちかけのある代表的な外部団体は、
As You Sow Foundation
Domini Social Investments
Calvert Asset Management Company
Center for Reflection, Education and Action
Interfaith Center on Corporate Responsibility
などです。

これらの団体は、GAPが抱える潜在的な「リスク」を教えてくれる頼もしい存在ですが、
同時に、無理難題を持ちかけてくる「厄介な」存在でもあります。
彼らは、指摘とともに解決方法を提示してくれることもありますが、
「原料のトレーサビリティ」など、GAPだけでは手に負えるものでもないものが多く、
頭を悩ませています。

そこで、NPOが持ちかけてきた案件を、ソリューションをともに考えてくれるNPOに相談し、
状況を改善していくことが多くなります。
このソリューション担当NPOの代表格が、BSRです。
BSRは世界の大手企業や、ソーシャルエンタープライズ、NPOとネットワークを持っており、
一社単独では解決しにくいテーマに対し、
業界全体で手を打っていくソリューションや、
他のソーシャルエンタープライズを巻き込んで、
効率的・効果的に解決していくソリューションを強みとしています。

こうした中で、GAPはCSR活動、または社会的貢献活動の財務的メリットを、
「企業ブランドの維持・向上」「製品の質の向上」に置いています。
すなわち、企業ブランドを維持することで、製品ボイコットなどのリスクを減らすとともに、
労働環境の改善や、原料の改善から、製品の質そのものが向上することを、
全社利益への貢献と定義しています。
また、省エネによるコスト削減効果も意識されています。

社会的責任部門と、ファイナンス部門との関係も良好で、
CEOのリーダーシップのもと、昨今の不景気の中でも、社会的貢献部門の予算は
一切削減されなかったという事実を、彼ら自身も誇りにしているようです。

今後の大きなテーマは、
① オペレーションレベルでの行動モニタリングと効果測定
② サプライチェーンの省エネを徹底したコスト削減
が2大テーマとされていました。

上記のようなGAPの取り組みから、

・「エコ推進派」の企業による、「エコ消極派」行政の改革
・NPOによる課題発見とソリューション構築
・オペレーションレベルのモニタリングの仕組みの必要性増加

というアメリカの動きが見てとれます。

※僕の別ブログである「アメリカ・サンダーバードMBA留学ブログ」から転載しました。

今回のテーマは、奴隷です。
サンフランシスコ大学神学・宗教学部のDavid Batstone教授が、
ご自身が創立したNPO Not For Saleキャンペーンについて
説明してくれました。

この時代に奴隷や人身売買と言われても、
最初は正直ピンとこないかもしれません。

しかし、人身売買は現在でも行われており、
アメリカでは大きな問題になっています。

Not For Saleは、Batstone教授ご自身の体験談を機に
発足されました。

彼が大好きだったインド料理レストランで、ある日火災が発生。
アルバイトの女性が焼死。
事故究明の過程で、なんと彼女はインドで人身売買で売られ、
アメリカに連れてこられていたことが判明。
この事実を知った、Batstone教授は、
自分の身近に人身売買が行われていたことにショックを受けます。

その後、彼は世界の人身売買状況について調査をし、
人身売買が頻繁に行われているタイ、ラオス、中国南西部、ミャンマー、
カンボジア、インドなどに、
自分の足で赴き、実態を把握していきました。

そこで判明したのは、
生活苦にあえぐ貧しい人々が、自分の子供を売り、
嫌がる子供を、業者が力づくで拘束し、連れ去り、
その「奴隷」は、アメリカなどでも「販売」されているということ。

そこで、彼はNot For Saleを立ち上げます。
このNPOは複合的なアプローチをとっています。

まず、アメリカ国内で人身売買を撲滅するため、
アメリカ全土で、人身売買の調査を継続して行い、
人身売買フローについての、膨大なデータベースを構築します。
「何をするにも、データがないとはじまらない」
彼はそう語ります。
そのデータベースをもとに、警察・検察当局と協議を行い、
現在は、当局とともに取締を強化しています。

同時に、人身売買についての認知を高めるため、
プロスポーツ選手等とタイアップし、
メディアミックス手法によるキャンペーンを展開しています。

これらが、デマンドサイドの対策です。

サプライサイドの対策も実施されています。
人身売買の発生源である、東南アジア地域で、
親が面倒をみれなくなった人々を救う、
学校兼生活支援施設を建設。

同時に、その資金源を獲得するため、
年長者には雇用も提供します。
主に、服飾関連のビジネスを立ち上げ、
基本的に、寄付に頼らない財務体質を作り上げています。
彼は、倫理学の教授でありながら、
自身でベンチャーキャピタルを営んだりもしています。
彼の信念は、「寄付や援助に頼る組織は、継続できない」。
Net For Saleは、今では、毎月利益を出し続けています。

最後の質疑応答の時間で、学生の一人がこう質問しました。

「人身売買を扱う社会的機関は今はほかにもいろいろある。
どのようにそれらの競合と差別化しようとしているのか?」
ビジネススクールらしい質問です。

彼はこう答えます。

「自組織で全部を実施しようとすると、他の全員が競合になる。
 自組織の役割やポジションの詳細を定めると、他の全員が協働者になる。
 Not For Saleは様々な機関と協働して成り立っている。」

とても素敵な言葉でした。

「企業は、社会問題の何を解決しようとしているのかを、まず考える必要がある。
 それを見据えてから、自分たちのビジネスを定めることができる。」

彼は、このようにも語ります。

環境問題、高齢化問題、食糧問題、雇用問題、格差社会問題。
問題が山積している21世紀の企業のあり方について、
ひとつの指針を、Batstone教授は与えてくれているように思います。

「衣食住」の中でも、人が当たり前のように享受している住宅。
しかし、世界には、この当たり前の住宅が享受できない人が数多くいます。
国連の発表によると、
標準住宅以下での生活者が16億人、ホームレス生活者の数も1億人に達します
先進国といわれるアメリカの中でさえ、
9500万人が十分な住居環境がないまま生活しています。

このような住宅問題の多くは、いわゆる「貧困」です。
住宅を購入したり、賃貸するのに十分な資金がないことで大きな原因です。
しかし、この問題を別の切り口から考えた人々がいました。
この問題の原因を、「住宅価格が高すぎる」ということに置いたのです。

2010年8月のハーバード・ビジネス・レビューに、
The $300 House: A Hands-On Lab for Reverse Innovation?
という記事が掲載されました。
生活困窮者にも良好な住宅環境を供給するために、
なんと$300(約3万円)で住宅を建築できるようにしようと呼びかけたのです。

このラフスケッチにあるように、比較的設備の整った住宅をゴールに置いています。
そして、この構想を現実のものにすべく、動き出しているのが、
The $300 House“というプロジェクトです。
このプロジェクトの提案書には、
すでに$358(人件費除く)で1軒建築できる目途がたったことが報告されています。

この提案書を作成したのは、アメリカを代表するガラス建材メーカーの
オーウェンズ・コーニング(Owens Corning)社。
世界有数のガラスメーカーであるコーニング社とオーウェンズ・イリノイ社の合弁会社が、
1938年にスピンオフするかたちで創業し、
現在はニューヨーク証券取引所に株式公開しています。

オーウェンズ・コーニング社の提案は、
破傷性のない軽量ガラス素材で住宅の屋根や壁を構築し、
その断熱効果で、快適な住宅環境をつくりだそうというものです。

この商品は実際にすでに実用化されており、
チリやメキシコなどでは大規模な住宅建設が事業として営まれています。
この事業を担当している同社の国際ビジネス開発部長、R. Jon Kailey氏が
サンダーバード国際経営大学院の卒業生ということで、
今週開催された彼の講演を聞くことができました。

このガラス素材を用いた住宅建設の実績は、
2010年に7000棟、2011年には12000~30000棟の注文が
すでに見込まれているようです。
同社はこの事業を社会貢献としてではなく、実際の営利事業として展開。
オーウェンズ・コーニング社の新たな事業の柱となりつつあります。

この住宅の効能は、安全面にも及びます。
軽量素材のため、災害時の家屋倒壊による社会へのダメージが少なく、
2010年のハイチ大地震(M7.4)では家屋倒壊で約30万人の死者が出たのに対し、
同年のチリ大地震(M8.8)では、この軽量素材の効果により、
死者が500名にとどまったということです。

これまで手の届かなかった住宅が、さらに多くの人が入手できるようになる。
「$300」という具体的なゴール設定が、様々な関係者の知恵を喚起しました。
このように具体的なゴールを設定し、実現方法を模索する思考プロセスは、
「バックキャスティング(Backcasting)」と呼ばれています。
今後の持続可能な社会を創造していく上で、
このバックキャスティングはキーコンセプトになると考えています。

また、Kailey氏は講演の最後に、学生たちにエールを送る意味も込めて、
軽量ガラス素材を低価格で住宅用に用いる手法をひらめいた経緯をこう語りました。

「通常の企業は商品開発をする際に、
途上国に来て短期間のリサーチだけをして帰っていってしまう。
でも、自分はもう何十年も南米やアジアなどの発展途上国に赴任してきた。
だからこそ、彼らの実際の生活にあった住宅環境を設計、建築することができた。
他の企業には真似できない、自分たちの競争力だ。

成功の秘訣は全部で6点。
1. 常に思考をフレキシブルであれ。
2. 現場に張り付け。本部からイノベーションは起こらない。
3. 多様性を重視しろ。アメリカ人の自分が途上国にいくことで多様性は生まれた。
4. 常にコストは最小限。保守コストも最小限。
5. 商品やシステムについて自社のエキスパートになれ。そして新しい市場を創りだせ。
6. 人が嫌がる仕事やプロジェクトを率先してやれ。」

彼のこの姿勢からは、一人の社会人として気づかされることが多かったです。

持続可能性(サステイナビリティ)が環境分野への就職・転職を
希望する方は、情報がなくて困っていらっしゃるかたも少なくありません。

コチラのサイトに英語での就職情報を公開しているサイトがされていました。
海外で経験を積みたい方や、海外での仕事を探している方は、
ぜひ参考にしてみてください。

日本語での情報をお持ちの方は、ぜひコメント下さい!

環境/持続可能性に関する就職情報サイトTOP 10

1. Net Impact

2. Sustainability Recruiting Blog

3. GreenBiz

4. Green Dream Jobs

5. Justmeans

6. Green Drinks

7. LinkedIn の中の各グループ
   “Green Jobs & Career Network Group”
   “Acre Sustainability Recruitment Network”
   “Sustainability Career Group”
   “Renewables Job Market”

8. BSR’s CSR Jobs Board

9. CSR Chicks

10. Simply Hired Job Search Agent

Net Impact(ソーシャルビジネスやCSRを推進するアメリカのNPO)が、
この分野での就職を希望する人々へのアドバイスをまとめたレポートを発表しました。

Corporate Careers That Make a Difference

CSRやソーシャルビジネス、持続可能性に興味のある人向けに、
企業の具体的なニーズやキャリアパスの進め方などが
まとめられています。英語です。

Net Impactへのメンバー登録(無料)をしないと閲覧できないのですが、
この分野に関心のある方や、雇用関連を研究している方は、
ご覧頂くと、最近のアメリカでの動きを理解していただける思います。

※僕の別ブログである「アメリカ・サンダーバードMBA留学ブログ」から転載しました。

「環境」「持続可能性(サステイナビリティ)」の必要性が増す中、
アメリカでのビジネススクール(MBA)の動きにも変化が出始めています。
今日は、「Green MBA」「Sustainable MBA」の動きを紹介します。

2年前にBusinessWeek紙は、
「Green MBA」「Sustainable MBA」が登場してきた背景について
このように報じました。

MBA Programs Go Green

At one time, business schools “greened” their MBA curriculums in response to a new wave of students for whom sustainability was more than just a catchphrase.

「かつて、ビジネススクールが、持続可能性を重視する学生の新たな波に
反応して、MBAカリキュラムを「グリーン化」しはじめた」

Today, business schools are continuing to ramp up their efforts for green curricula, but for a much different reason. In a world beset by economic woes as well as environmental problems, sustainability represents one of the few potential bright spots in an otherwise dismal recruiting environment.

「しかし今、ビジネススクールは、他の理由から「グリーン化」の動きを加速している。
経済不況と環境問題に悩む世界の中で、持続可能性は雇用が明るい数少ない領域
のひとつになっている。」

つまり、以前は、ただの「人気集め」だったGreen MBAが、
実利的な「就職」のためにも、重要性が増してきたというわけです。

そんな中、レベルの高低を問わず、様々なビジネススクールが、
カリキュラムの「グリーン化」に積極的に取り組み始めています。

この流れを受けて、MBA受験生が好きな「ランキング」にも、
「Sustainablily」や「CSR」という切り口のものが登場してきました。

Financial Times (2011):

1 University of Notre Dame (Mendoza)
2 University of California at Berkeley (Haas)
3 University of Virginia (Darden)
4 Ipade
5 Yale School of Management
6 University of North Carolina (Kenan-Flagler)
7 Thunderbird School of Global Management
8 University of Michigan (Ross)
9 Northwestern University (Kellogg)
10 York University (Schulich)

Beyond Grey Pinstripes (2009):

1 York University (Schulich)
2 University of Michigan (Ross)
3 Yale School of Management
4 Stanford Graduate School of Business
5 Notre Dame (Mendoza)
6 University of California at Berkeley (Haas)
7 RSM Erasmus MBA
8 New York University (Stern)
9 IE Business School
10 Columbia Business School

また、起業家教育(Entrepreneurship)に強いビジネススクールである

Massachusetts Institute of Technology (Sloan)
Stanford Graduate School of Business
Babson College (Olin)

は、カリキュラムの中に、理工学系の大学院とタイアップし、
技術ベースの起業を推進していったことで、
起業家教育の地位を盤石にしていきました。
ここからも、Greenという名の最先端技術が雇用やビジネスを生む
土台となってきていることがわかります。

さらに、Wikipediaでは、Sustainable MBAに特化した学校として、
以下の学校が紹介されています。

Anaheim University
Antioch University New England
Bainbridge Graduate Institute
BSL – Business School Lausanne
Colorado State University – Global Social & Sustainable Enterprise program
Dominican University of California – MBA in Sustainable Enterprise
Duquesne University – Donahue – Palumbo Schools of Business – MBA – Sustainability Program
Green Mountain College
Marlboro College Graduate School – MBA in Managing for Sustainability
Marylhurst University- MBA in Sustainable Business
National Institute of Industrial Engineering, Mumbai, India
Presidio School of Management of Alliant International University
University of East Anglia – MBA Strategic Carbon Management
University of Exeter – One Planet MBA
University of Michigan – Erb Institute for Global Sustainable Enterprise

このように、ビジネスがCSRやSustainablityが取り組んでいく流れには反対意見もあります。
一番の急先鋒は、ノーベル経済学賞も受賞している
ミルトン・フリードマン・シカゴ大学経済学教授です。

フリードマン教授は、2006年に亡くなっていますが、
1970年から一貫して、「企業の社会的責任」という考え方を否定し続けてました。

The Social Responsibility of Business is to Increase its Profits

彼の考え方は、

“There is one and only one social responsibility of business – to use its resources and engage in activities designed to increase its profits”

「唯一のビジネスの社会的責任は、資源と活動を利益の増加のために使うことだ」

というものです。

もちろん、フリードマン教授は、
倫理や社会への影響を考慮することは重要だと言っていますが、
「社会的責任」が広範囲の意味合いをもつことを退けました。
彼は、利己心や利益追求がもたらす社会の活力を重視していたためです。

フリードマン教授はシカゴ学派というマクロ経済のひとつの流行を作り出し、
国際金融の世界にも大きな影響を与えてきました。
そのフリーマン教授のアメリカは、「利益志向が強い」国だと言われてきました。

しかし、「企業の責任は利益の向上」という考え方に関する国際的な調査の中で、
この考えに賛同する人はアメリカよりも日本のほうが多く、
日本はアラブ首長国連邦に次いで、世界第2位(賛成 70%)でした。
ちなみにアメリカは9位(賛成 55%強)。

意外な結果かと思われるかもしれませんが、僕は、
以下のような、パナソニック創業者の松下幸之助氏の思想が
強く広く共有されているためではないかと考えています。

企業の利益というと
何か好ましくないもののように
考える傾向が一部にある。

しかし、そういう考え方は正しくない。
もちろん、利益追求をもって企業の至上の目的と
考えて、そのために本来の使命を見忘れ、
目的のためには手段を選ばないというような
姿勢があれば、それは許されないことである。

けれども、その事業を通じて社会に貢献すると
いう使命と適正な利益というものは
決して相反するものではない。

そうでなく、その使命を遂行し
社会に貢献した報酬として社会から
与えられるのが適正利益だと考えられるのである。

だから、利益なき経営は、それだけ社会に対する
貢献が少なく、その本来の使命を果たし得ていない
という見方もできるのである。

持続可能性を向上していこうとする際、企業という手法を、
どのように活用し連携していくかが大きなカギを握っていると思います。
ビジネススクールでもそれを模索する試みが始まっています。

ゴミ問題は現在、世界中で深刻になっています。

どれほど深刻なのかというと、
アメリカ50州の中でアラスカに次いで面積が広いのがテキサス州。
テキサス州は日本の国土面積の2倍弱の大きさです。

そして、なんとのそのテキサス州の約2倍もの面積のゴミの島が、
太平洋を浮遊しています。
つまりの日本の国土面積の4倍です。
下の地図の白くなっている部分が、その島の大きさです。

この島の通称は「太平洋ゴミベルト」。
英語圏では、”Great Pacific Garbage Patch” “Pacific Trash Vortex”
と呼ばれています。

海流域周辺の日本、ロシア、カナダ、アメリカから廃棄されたゴミや、
海流域を航行中の船舶から投棄されるゴミが、
海流の影響で1か所に集中し、1950年ぐらいから今の姿に成長してきました。
Wikipediaによると、陸地から出たゴミが8割、船舶由来のものが2割と
言われています。

このゴミの島による影響は、まだはっきりとはしていませんが、
ゴミが海中分解または光分解されることで、
有毒ガスが発生する可能性が指摘されています。

また、海中生物や鳥などが、プラスチックを誤って捕食したり、
体躯にからまってしまうことにより、危害が及んでいることも報告されています。

そして、このような巨大なゴミの島は、
太平洋以外にも、大西洋やインド洋などでも観測されています。

通常、一般人は洋上を船舶で移動することはなく、
その島を直接眼にすることはあまりありませんが、
広大な海をゴミの山が占領していくことは、気持ちのいいことではありません。

こうしたゴミの島の拡大を阻止する動きも始まっています。
島の拡大の原因となるゴミそのものの投棄や廃棄の撲滅を呼び掛ける運動も
起こっていますし、
2009年には、Project Kaiseiというカリフォルニア州のNPOによる
ゴミの島そのものを消滅させる方法の検討も始まり、現在調査が進められています。

そうした中で、大きな注目を集めているのが、
ゴミそのものをエネルギーに変えていくテクノロジーの開発です。
英語では”Waste-to-Energy Technology“と呼ばれています。

この「ゴミをエネルギーに変える技術」については、
以下のように様々な手法が研究されています。

・焼却してガスを発生し、そのガスの動力で発電する技術
・熱分解して、燃料に変換する技術
・プラスチックを脱重合して、合成原油を生成する技術
・微生物を用いてバイオガスへと分解する技術

こうした「ゴミをエネルギーに変える」リサイクルのビジネスは、
ドイツを中心としたヨーロッパが最先端を走っています。
研究は非営利の研究機関だけでなく、多くの企業で取り組まれており、
ESWETという企業連合体も誕生しています。

さらに、環境保全に貢献する企業を資金面から支えているのが、
昨今の原油高に端を発する中東を中心としたオイルマネーです。[参考]
原油から生じるマネーが、その原油からつくられたプラスチックをさらに燃料に変える
テクノロジーの開発に投資され、新たに燃料を創造していく。
壮大な化石燃料のサプライチェーンが誕生しようとしています。

ゴミ問題の解決策は、「ゴミを減らすこと」とこれまで定義されてきました。
しかしながら、そのゴミを資源そのものに変えてしまう試みが、
まさに研究者や起業家の手によって始められようとしています。

「ゴミを減らす」という人間の行動そのものを変えることは非常に困難です。
教育を通じて、その困難に立ち向かっていく重要性と同時に、
ゴミ問題という概念そのものをなくすというイノベーションを
起こそうとする企業を育くんでいくことも重要だと感じています。

風力、太陽光などの再生可能エネルギーへの関心が高まっていますが、
果てして、再生可能エネルギーのみを活用して、
社会に必要なエネルギーを供給することは可能なのでしょうか?

国際エネルギー機関(IEA: International Energy Agency)が発表している
World Energy Outlook (2008)“では、悲観的な結果となっています。

※”World Energy Outlook”の最新版は2010年のものですが、2010年、2009年の
 ものは有料のため、無料で入手できる最新のものは2008年でした。


2030年までに、発展途上国の経済発展に伴い、
世界のエネルギー需要が急増するのに対し、
再生可能エネルギーによるエネルギー供給は、
2030年時点でもわずか2%にすぎません。

上記のものはガソリンなどの動力エネルギーも含んでいますので、
再生可能エネルギーが活用される電力に絞って見てみるとどうでしょうか。


電力エネルギーも2030年までに需要が大きく増加していきます。

やはり、ここでも再生可能エネルギーの割合は、
風力、地熱、太陽光・太陽熱、潮力を足しても、約6%にすぎません。

石油が枯渇するピーク・オイル説が叫ばれたり、
石油・石炭・天然ガスという化石燃料が与える環境への悪影響の観点からも、
再生可能エネルギーの必要性が唱えられていますが、
世界のエネルギーの権威は悲観的な見方をしています。
再生可能エネルギーの可能性はこんなにも小さいのでしょうか。

僕はそうは思っていません。
上記の国際エネルギー機関のデータの統計手法を考慮すると、
予測が悲観的となるのは当然なのです。

国際エネルギー機関のデータは、過去30年ほどのデータをもとに、
人口変動や交通量推移、GDPなど複数の変数をもとに、
計量経済学の手法で、供給源ごとのエネルギー需要を予測をしています。
ポイントは、過去のデータに依存しているということです。
ある程度の技術革新は変数に加えているようですが、
大規模な技術革新は予測データには反映されないのです。

今後、再生可能エネルギーの技術開発に大きく投資がされていく中、
過去の推移の延長線上に未来があると考えることは適切ではありません。

では、再生可能エネルギーにはどれほどの可能性が将来展望されるのでしょうか。

2011年1月27日のScienceDailyというインターネットメディアは、
スタンフォード大学のジャコブソン教授(市民・環境工学)と
カリフォルニア大学デービス校のデルッチ教授が、
学術論文の中でこのように発言したことを報じました。

「20年~40年後には今日の技術を用いれば、
すべてのエネルギーを再生可能エネルギーで供給できる」

彼らの計画によると、
90%の電力を風力、太陽光・太陽熱、水力でまかない、
残りの10%のうち、4%を地熱、同じく4%を水素燃料、残りの2%を潮力で
調達することが可能だということです。

また、飛行機や船舶、車に使われる流体燃料として、
電気または水素燃料で代替が可能で、
さらに、水素燃料をつくるのに必要な電力も、
再生可能エネルギーで作り出すことができるということです。

2030年までには新たなエネルギー需要をすべて再生可能エネルギーで供給し、
2050年には、全エネルギーを再生可能エネルギーに代替可能となるようです。

再生可能エネルギーについて懸念される課題については、
それぞれ以下のように回答しています。

「風力、太陽光は天候に左右され、安定的な電力供給源にはならない」
⇒ 昼に強い太陽光、夜に強い風力を組み合わせて補完させ、
  それでも不足する電力は、水素燃料で充当すればいい。
⇒ スマートグリッドで長距離電力網を構築すれば、どこかの地域で発電できた
  電力を他の地域に回し、全体的として安定供給は可能となる。
⇒ 消費量の多い時間と、少ない時間の差を活用し、少ない時には蓄積し、
  多い時には放出することも可能。

「発電設備に必要なプラチナやレアアースなど希少資源は足りるのか?」
⇒ 資源量は今でも十分にあり、さらにリサイクルをすれば不足はしない。
⇒ 不足した資源を他の資源でも代替することも可能で問題はない。

「風力や太陽光の発電プラントに必要な土地は十分あるのか?」
⇒ 100%の電力供給をまかなうのに必要な土地専有面積は
  わずか世界の土地の0.4%。設備間のスペースに必要な面積を
  いれても、それでも世界の土地の1.0%にすぎない。

彼らは、今後の展開に対し、
「技術は今でも十分にある。あとはやるかやらないかだ。」と締めくくっています。

個人的には、彼らが認識されていない問題がいくつもあるのだと思います。
しかしながら、IEAが2030年にわずか全体の2%しか供給できないと言っていたところに、
2050年には100%供給できるという意見が登場したことは、
新たな可能性を感じさせてくれます。

再生可能エネルギーの将来や可能性を、低く見積もる必要はないと考えています。

毎年1月末にスイスのダボスで開催される世界経済フォーラムの年次会合、
通称「ダボス会議」。

この会議の中で、カナダを拠点とするメディア企業のCorporate Knights社
から、毎年「世界で最も持続可能性のある企業100社」
“Global 100 Most Sustainable Corporations in the World” (Global 100)
が発表されています。

選定企業は上場企業に限られますが、
持続可能性という新たな指標を作り出そうとしているのが特徴的です。

そして、今日、2011年の100社が発表されました。

http://www.global100.org/

■企業ランキング

1位 スタットオイル(ノルウェー)
2位 ジョンソン・アンド・ジョンソン(アメリカ)
3位 ノボザイムズ(デンマーク)
4位 ノキア(フィンランド)
5位 ユミコア(ベルギー)
6位 インテル(アメリカ)
7位 アストラゼネカ(イギリス)
8位 クレディ・アグリコル(フランス)
9位 ストアブランド(ノルウェー)
10位 ダンスク・バンク(デンマーク)

国別の社数ランキングは、

1位 日本 (19社)
2位 アメリカ (13社)
3位 イギリス (11社)
4位 カナダ (8社)
5位 オーストラリア (6社)
6位 スイス (5社)
6位 フランス (5社)
8位 デンマーク (4社)
8位 フィンランド (4社)
10位 ブラジル (3社)

日本がダントツ1位を飾りました。

ちなみに、日本でランクインした企業は、

14位 日東電工
23位 イオン
24位 T&Dホールディングス
30位 ソニー
32位 商船三井
35位 三菱重工業
49位 東京ガス
53位 大和ハウス工業
54位 日本郵船
59位 ヤマハ発動機
69位 NTTドコモ
70位 コニカミノルタ
71位 リコー
72位 東京エレクトロン
74位 大正製薬
79位 NEC
80位 パナソニック
81位 日産自動車
82位 トヨタ自動車

製造業を中心に、多様な業界から選ばれています。

■評価基準

この「世界で最も持続可能な企業100社」はとてもユニークな評価基準で
ランキングをつけています。

エネルギー生産性: 売上 ÷ 直接的および間接的なエネルギー消費量
炭素生産性: 売上 ÷ 二酸化炭素排出量
水生産性: 売上 ÷ 水使用量
ゴミ生産性: 売上 ÷ ゴミ排出量
リーダーシップ多様性: 女性の役員割合
CEO報酬-従業員平均報酬比率
安全生産性: 売上 ÷ 従業員傷害事故×5万ドル+死亡者数×100万ドル
持続可能性関与: 持続可能性に責任を持つ役員がいるか否か
イノベーション能力: R&D投資 ÷ 売上
透明性: 持続可能性に関連するデータの公開度合い

持続可能性を定量的に「正しく」表現することを求めて、
これらの指標は年々変化しています。
上記の指標だけでは、とても環境社会の持続可能性を網羅できているとは
言えませんし、経済の持続可能性が追求されていないことも難点です。

しかしながら、企業が今後取り組んでいく持続可能性向上施策にとって、
このようなランキングが後押ししてくることはプラスに作用します。

持続可能性という観点から、ダボス会議への批判は多くありますし、
ランキング発表だけでは決して十分ではありませんが、
こうしたひとつひとつの積み重ねが持続可能性を高めていくのだと信じています。

※僕の別ブログである「アメリカ・サンダーバードMBA留学ブログ」から転載しました。

こんにちは。

先日、アリゾナ州立大学(Arizona State University, ASU)の
テクノロジー&イノベーション学部(College of Technology and innovation)の
Mark Henderson教授が、
僕が留学中のサンダーバード国際経営大学院で出張講義を開催してくれました。

プレゼンテーションのテーマは、
今後ますます注目されていくBOP市場(世界の貧困層向けビジネス)について。

途上国支援というと、ボランティアやNPO活動が想像されますが、
僕、個人としては、ボランティアベースの活動は、あまり好きではありません。
従事者の奉仕の精神に依存しすぎていて、持続可能性がないからです。
しかし、援助をビジネスベースで実施していくスタイルに対しては
非常に興味がありますし、応援していきたいと考えています。

Mark Henderson教授の取り組みは、ビジネスベースで実施していこうという発想。
GlobalResolveという名のプロジェクトを運営しており、
講義の中では、その成果と課題について説明がありました。

<GlobalResolveとは>

このプロジェクトでは、
途上国の現地のニーズに対応した画期的な製品を
デザインして提供しています。

具体的には、

1. 現地を訪問 (現在はガーナが舞台)
2. 現地のニーズを把握
3. 製品デザイン
4. ビジネスプラン設計
5. 現地に製造販売会社設立

という流れです。

これまでの実績としては、下記のようなものがあります。

‐調理用加熱機器の販売
 [現地課題] 人体に悪影響のある煙を吸い、現地で多数死傷者が出ている。
 [製品] 現地で製造メンテナンス可能な加熱機器をデザイン

・家庭用ランプの販売
 [現地課題] 電気供給がないため、夜に団らん、勉強などができない。
 [製品] 持ち運び可能で、発電装置つきのランプをデザイン

<GlobalResolveの課題>

製品の経営としては赤字ではないので、
一応、ビジネスっぽくなっていますが、
残念ながら、持続可能性がまだありません。

なぜなら、運営に必要な製品設計、製造、マーケティング、販売などすべてが
ASUおよび現地大学の教授や学生によって提供されているためです。

活動はまだビジネスと呼べるレベルではなく、
大学によるボランティア活動の域を出ていません。
これでは、大学の教授や学生を超えた規模での運営はできませんし、
大学が予算を削れば、おのずと活動は継続できなくなってしまいます。

Thunderbirdはビジネススクールなので、
この点は僕も含め学生から厳しい言及がなされてました。

このように、課題が多いGlobalResolveではありますが、
活動の概念としては素晴らしいものなので、
応援していきたいと思っています。

余談ですが、ASUは素敵な大学です。
今回、テクノロジー&イノベーション学部の活動を紹介しましたが、
そもそも「テクノロジー&イノベーション学部」とは何なのでしょうか。

かつては、ASUも、法学部、経済学部、工学部というように、
伝統的な学部区分をしていました。
しかし、現在の学長が、「学際(学問横断)的な研究をすべし」という方針のもと、
学部区分の再編を断行したのです。

そのため、テクノロジー&イノベーション学部は、
社会イノベーションを目的とする
工学、社会学、経済学、経営学、文化人類学などの教授が集まって
構成されています。
学生のカリキュラムも、これらの学問を横断的に履修することが
求められています。

「機能単位→ミッション単位」という組織論の大きな流れを、
大学というレベルで実現している、面白い取組です。

ASUで勉強している日本人留学生の数は約100名ほど。
残念ながら、年々減少しているようです。

ASUでは最先端の社会起業家教育が受けられます。
社会起業 Social entrepreneurshipを大学で学びたい方は、
Stanford, Yaleなどと合わせ、ASUも検討してみてください。