日本で最近話題になり始めた、
「メガソーラー」と呼ばれるような大規模太陽光発電プラント。

日本の電力企業10社が加盟する電気事業連合会は、
2020年度までに全国約30地点(電力会社10社合計)で、
約140MWの太陽光発電設備を設置する「メガソーラー発電」計画を公表しています。

その中でも、最大の規模を計画しているのが東京電力。
東日本大震災より以前、2008年10月に、20MWのメガソーラーを川崎市と
協働で推進することに合意。
そして、2011年8月12日に、第1号となる「浮島太陽光発電所」(7MW)の運転開始
を開始しました。(ニュースはコチラ

また、ソフトバンク社は、2011年の5月に、
日本全国約10か所に2MW規模のメガソーラーを建設する構想を発表。
7月には全国の知事が参加する「自然エネルギー協議会」を発足。
今日現在で、北海道、岩手県、秋田県、山形県、福島県、栃木県、群馬県、
埼玉県、神奈川県、富山県、山梨県、長野県、静岡県、愛知県、三重県、
滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、和歌山県、鳥取県、徳島県、奈良県、
島根県、岡山県、広島県、山口県、香川県、愛媛県、高知県、佐賀県、
長崎県、熊本県、大分県、宮崎県の計34道府県が参加しています。

一方で、太陽光発電の高コスト体質を理由に、
メガソーラー計画に批判的な意見もあります。

そこで、今回、世界のメガソーラーの現状を見ていきたいと思います。

Solar Plazaという団体が、
世界の太陽光発電プラント(Solar Photovoltaic Plant)の
ランキングを発表してくれています。

太陽光発電所名 最大出力(MW) 発電所所有者 発電所所有者の業態 発電所建設企業 太陽光発電パネルメーカー パネルタイプ 完成年
1 カナダ Sarnia 92 Enbridge エネルギー企業 First Solar First Solar CdTe 2010
2 イタリア Montalto di Castro 84 Sunpower 太陽光発電パネルメーカー Sunpower, Sunray Sunpower c-Si 2011
3 ドイツ Finsterwalde I, II & III 83 Q-Cells 太陽光発電パネルメーカー Q-Cells Q-Cells c-Si 2010
4 イタリア Rovigo 70 First Reserve プライベート・エクイティ企業 SunEdison Canadian Solar a.o. c-Si 2010
5 スペイン Olmedilla de Alarcón 60 Nobesol Levante 太陽光発電プラント建設・売電企業 Nobesol Levante Siliken a.o. c-Si 2008
6 米国 Boulder City (Copper Mountain) 55 Sempra Generation エネルギー企業 First Solar First Solar CdTe 2010
7 ドイツ Strasskirchen 53 Q-Cells 太陽光発電パネルメーカー Q-Cells Q-Cells c-Si 2009
8 ドイツ Lieberose 53 Juwi Solar 太陽光発電プラント建設・売電企業 Juwi Solar First Solar CdTe 2009
9 スペイン Puertollano I 52 Renovalia Energy 太陽光・風力発電売電企業 Renovalia Energy Suntech, Solaria c-Si 2008
10 ポルトガル Moura (Amareleja) 46 Acciona Solar 持続可能(再生可能エネルギー、インフラ、水)施設デベロッパー Acciona Solar Yingli Solar c-Si 2008
11 ドイツ Köthen 45 Deutsche Eco 太陽光発電プラント建設・売電企業 Deutsche Eco BP Solar c-Si 2011
12 イタリア Cellino San Marco 43 AES Solar 太陽光発電プラント建設・売電企業 AES Solar First Solar CdTe 2010
13 ドイツ Waldpolenz 40 Juwi Solar 太陽光発電プラント建設・売電企業 Juwi Solar First Solar CdTe 2008
14 チェコ Ralsko 38 CEZ Group エネルギー企業 CEZ Group c-Si 2010
15 イタリア Alfonsine 36 Reno Solar, Tozzi Holding 太陽光発電プラント建設・売電企業 Reno Solar, Tozzi Holding
16 チェコ Vepřek Solar Park 35 Decci 不明 Decci PhonoSolar c-Si 2010
17 スペイン La Magascona & Magasquilla 35 Fotowatio Renewable Ventures 太陽光発電プラント建設・売電企業 Fotowatio Renewable Ventures Suntech c-Si 2008
18 スペイン Arnedo 34 T-Solar 太陽光発電プラント建設・売電企業 T-Solar 2008
19 ドイツ Reckahn 32 Belectric 太陽光発電プラント建設・売電企業 Belectric First Solar CdTe 2010
20 フランス Le Gabardan 26 EDF Energies Nouvelles 太陽光・風力発電プラント建設・売電企業 EDF Energies Nouvelles
21 ドイツ Ernsthof 34 Relatio 太陽光発電プラント建設・売電企業 Relatio LDK Solar c-Si 2010
22 スペイン Dulcinea 32 Avanzalia 太陽光・風力発電プラント建設・売電企業 Avanzalia Kyocera, Suntech c-Si 2010
23 イタリア Sant’ Alberto 35
24 スペイン Alamo (I, II, III, IV) 34 Gestamp 太陽光発電プラント建設・売電企業 Gestamp Trina Solar c-Si 2010
25 ドイツ Tutow I, II 31 Juwi Solar 太陽光発電プラント建設・売電企業 Juwi Solar, RIO Energie First Solar CdTe 2010
26 米国 Cimarron Solar Facility 30 Tri-State エネルギー企業 First Solar First Solar CdTe 2010
27 スペイン SPEX Merida/Don Alvaro 30 Deutsche Bank, ecoEnergías 銀行, 太陽光発電プラント建設・売電企業 Deutsche Bank, ecoEnergías Solarworld c-Si 2008
28 チェコ Ševětín 30 CEZ Group 太陽光発電プラント建設・売電企業 CEZ Group c-Si 2010
29 ドイツ Helmeringen 26 Gehrlicher Solar 太陽光発電プラント建設・売電企業 Gehrlicher Solar First Solar CdTe 2010
30 米国 DeSoto 25 Floride Power & Light エネルギー企業 Floride Power & Light Sunpower c-Si 2009

メガソーラー・トップ30の場所


より大きな地図で 世界の太陽光発電プラント最大出力ランキングトップ30 を表示

ここから、読み取れるものを、いくつかまとめていきたいと思います。

1. メガソーラーは、ヨーロッパ諸国に集中。

上記の30メガソーラーを国別にまとめてみると、

ドイツ  9
スペイン 7
イタリア 5
チェコ 3
米国 3
フランス 1
ポルトガル 1
カナダ 1

となり、ヨーロッパ諸国が86.7%を占めています。

実際に、ドイツ、イタリア、スペイン、チェコでは、
2007年前後から急速に太陽光発電での発電量が上昇しています。


※出所:”Photovoltaic Power Systems Programme”, IEA-PVPS, 2010
     and “Top 30 Solar PV Markets”, Solar Plaza, 2011

この背景には、
固定価格買取り制度」(Feed-in-Tariff)の存在が挙げられます。
ドイツでは2000年、チェコとイタリアでは2005年、スペインでは2007年から開始された、
固定価格買い取り制度により、太陽光発電所で発電された電力の販売価格が上昇し、
太陽光発電所運営の収益性が良くなりました。

その結果、メガソーラーの建設も進んできています。

日本でも、2011年8月26日に固定価格買い取り制度を定めた、
「再生可能エネルギー特別措置法」が成立しました。
この法律による影響については、あらためてブログでとりあげたいと思っています。
 

2. 専業者中心のヨーロッパとエネルギー会社主導の北米

ヨーロッパでは、「太陽光発電プラント建設・売電企業」が
メガソーラーの事業者となる傾向があるのに対し、
北米では、「エネルギー企業」がメガソーラー事業を牽引しています。

これは、大規模な固定価格買い取り制度や、再生可能エネルギー比率を高める
法律が整備されているヨーロッパでは、
太陽光や再生可能エネルギーを専業とした新興企業の設立を後押ししているのに対し、
まだ整備が進んでいない北米では、
資本力のある既存のエネルギー企業が、将来に向けての事業多角化や、
社会に対するブランド戦略の意味合いで、太陽光発電に取り組んでいるという違いが、
挙げられます。

また、ヨーロッパ、北米双方で、太陽光発電パネルメーカーによる、
メガソーラー運営も最近の大きな流れの一つです。
こちらについては、パネルメーカーが、製造、建設、運営までの、
一連のサプライチェーンを、垂直統合し、
利益率の上昇や、PDCAサイクルの高速回転を目指すという、
戦略上の要因が挙げられます。
 

3. 農地や荒れ地を中心とした立地

メガソーラーの立地については、
地方都市近郊の農地や荒れ地での建設が中心です。
洋上や山間部に設置されているケースは、
トップ30の中にはありません。

また、既存の地方空港の空き地を利用したメガソーラーの建設も、
ヨーロッパを中心に見られます。
 

4. 金融関係資本の投資が加速

ランキング18位のT-Solarに対し、
プライベートエクイティ世界大手のKKRがドイツの再保険会社Munich Reと共同で
49%の株式を買収したり、(ニュースはコチラ
ランキング30位のFPLが、2億5000万ドルの社債発行に成功したりと、
金融関連の資本が、メガソーラーにも集まってきています。(ニュースはコチラ
 

冒頭で紹介した、日本の電気事業連合会の14MWメガソーラー構想は、
これらの世界レベルのメガソーラーを見ると、規模が霞んで見えます。

また、ソフトバンクが打ち出している約200MW規模の構想については、
すでに、ヨーロッパ諸国では、専業メーカーにより実現されている規模であり、
規模の観点では、決して「絵空事」ではありません。

日本の太陽光発電については、
再生可能エネルギーを推進するという考えでは一致していても、
各論の推進の場面で、高コストを理由に反対する声があります。

であるならば、ポイントは、
「高コストだからダメ」で終わらせるのではなく、
いかに発電コストを削減していけるかにあるのではないでしょうか。

そのための、太陽光パネルのエネルギー変換効率の向上、
太陽光パネルおよびその部品の製造技術の向上、
低コストオペレーションのための取組の推進、
そして、その技術革新を支えるための官民資金の呼び込み。

こうした会話や取組こそが今、必要なんだと思います。

sustainable japan

電力・エネルギー等サステナビリティに関する最新トピックスは、Sustainable Japanに掲載しています。御覧ください!

カナダのバンクーバーにあるPakit社が、
これまで開発が困難だった「生分解可能」なパッケージ素材を、
PepsiCo(ペプシコーラのメーカー)と共同で開発しました。
(ニュースはコチラ

Pakit100

この新素材がどれほど画期的なものなのかについて、
今回のブログで解説していきたいと思います。

まず、パッケージが与える地球環境の影響は、ここ数年大きく取り上げられています。
ときには「過剰包装」とも言われる問題は、
現在の消費社会において、プラスチックなどの包装素材「パッケージ」が、
大量生産・大量消費され、省エネに向けての大きなテーマとなっていますし、
また、大量にゴミとして廃棄され、多くの国では深刻な衛生問題ともなっています。

さらに、プラスチックの素材は原油であり、原油枯渇化の面でも、
プラスチックの消費抑制、他の素材への代替化は地球規模の問題となっています。

このプラスチック問題に対しては、主に先進国において、
リサイクルシステムが確立され、無駄の少ない資源利用が追求されてきました。

例えば日本では、2000年代から、ゴミの分別回収や家電リサイクルなどが始まり、
さらに産業界では、プラスチックのゴミを焼却しエネルギーとして活用することが
法制度化され、プラスチックの有効利用を目指してきました。


資料:社団法人プラスチック処理促進協会

例えば、日本で生産されているプラスチック製品約1,400万tのうち、
最終的に21%は再利用され、55%は熱エネルギーとして利用され、
残りの24%が埋め立てられたり、ゴミとして焼却されたりしています。

このリサイクル比率は世界の中でも優等生です。

課題もまだたくさんあります。
廃棄の12%を占める埋め立ては、埋立て地の土地確保問題として顕在化していますし、
リサイクルにかかる膨大な費用も企業の頭を悩ませる要因となっています。
また、このサイクルフローに現れないプラスチックの投棄(山にゴミを捨てるなど)
は、自然破壊の原因ともなっています。

プラスチックゴミの問題は、世界中で深刻になっています。

それは、投棄されたプラスチックは、自然分解されずに、いつまでたっても
ゴミとして残り、さらに有害物質を発生させる危険性があるからです。
この「土に帰らない」というプラスチックの特性が、
プラスチックが根本的に抱える課題です。

そして、特に発展途上国では、ゴミ回収フローが未整備なため、
生活ゴミが慢性的に道路や川や山に投棄され、
深刻な環境・衛生問題を呼び起こしています。

今回、Pakit社が開発した「生分解可能」なパッケージ素材(Patit100)とは、
このプラスチックが抱える「土に帰らない」という課題を、
根本的に解決するものとなっています。

このPakit100は、セルロースという植物素材を活用しているため、
例え投棄されたとしても、短期間で土に帰るのです
そのため、世界のゴミ問題にとって大きな突破口となります。

また、この新素材はほかにも利点があります。

〇ゴミを素材として使える

この新素材は植物素材を原料に使っているため、
「原油消費量が減る一方で、グリーン資源の消費量が増える」という
懸念があります。

しかし、Pakit社は、素材の再利用を活用したり、
農業で生成された「緑のゴミ(枝や葉、皮など)」や枯れ木、
新聞などを原料として活用することを可能としました。
そのため、グリーン資源の消費量が増えるということはありません。
むしろ、緑のゴミを資源として再利用することを可能としています。

〇熱の変化に強い

従来のプラスチックに加え、セルロースの新素材は、
高熱や冷却に強いという特徴をもっています。
そのため、加工食品や医療器具など、幅広く対応できる力をもっています。

〇熱の変化に強い

従来のプラスチックに加え、セルロースの新素材は、
高熱や冷却に強いという特徴をもっています。
そのため、加工食品や医療器具など、幅広く対応できる力をもっています。

〇輸送費が安い

プラスチックの原料は原油のため、プラスチックを生産するためには、
産油国から原料をはるばる輸送してくる必要がありました。

しかし、このPakit100は、身近な「緑のゴミ」や新聞などを
原料とするため、原料調達のための輸送費やエネルギー消費が少なくて
すみます。

さらに、このPakit100は、実用面でも優れています。

〇プラスチックと同様のプリント力をもっている

これまでにもセルロースを用いた素材の開発は進んでいましたが、
実用化のために超えなければならない壁として、
「プラスチックのようにロゴやデザインなどを自由に印刷できない」
「プラスチックのように様々なな形をつくることができない」
という問題がありました。

しかし、Pakit100は、プラスチックと同様に、
様々なプリントを施したり、様々なかたちに加工したりすることが可能です。

この特徴を持つことで、素材面だけではなく、
実用的にもプラスチックを代替することができる力を持っているのです。

この実用的なエコ商品を開発するということは、今後の技術開発に重要となります。
それは、どれほど環境に優れた商品だとしても、
実際のユーザーがそれを使う気にさせることができなければ、
社会を変えることはできないからです。

その点で、Pakit社にとって、PepsiCoとの共同開発は優れた意志決定だといえます。
世界の有数食品メーカーのニーズを十分に把握することで、
実用的な商品を開発することができたからです。
さらに、具体的なユーザーを先に確保することで、
R&Dのための大胆な投資も可能になります。

エコ商品開発のために、開発者とユーザーが協力する枠組みは、
今後ますます増えてくるのでないでしょうか。

ヨーロッパ各国政府が太陽光発電に対する補助制度を縮小する中、
プライベートエクイティ大手KKRが、太陽光発電分野に大規模投資をする
という報道が、
7/18のFinancial Times紙(Web版)にありました。

KKRはニューヨークに本拠地を置く世界有数のプライベートエクイティー企業。
今回、ドイツの再保険会社Munich Reと共同で、
世界有数の太陽光発電企業のひとつT-Solar Global SA社が保有する
スペインとイタリアの太陽光発電プラント株式の49%を買収するという内容です。
買収される49%のうち、37%をMunich Reが、12%をKKRが保有します。

T-Solarは、イタリアとスペインに42の太陽光発電プラント(合計168MW)を
展開しています。

Broombergの報道によると、今回の買収の背景として、
3社すべてが太陽光発電事業を伸長させる狙いがあることを指摘しています。

T-Solarは、2014年までに太陽光発電量を、3倍の500MWにまで伸ばす計画があり、
今回の株式売却の目的はそのための資金調達をすることにあります。
また、KKRおよびMunich Reは、今後この事業への投資を拡大させる思惑がある
ようです。

特にKKRは、「再生可能エネルギー分野は最も可能性のあるインフラビジネスのひとつだ」
と言明しています。

太陽光発電事業の分野では、政府支援が減退する中、
企業による資金流入という新たな流れが始まってきているようです。

6/17~20にかけて、各紙・メディアが一斉に、
「餃子の王将が電気を使わない自動ドアの導入を決めた」
という内容を報道しました。

産経新聞 「王将フードサービス、電気使わない自動ドア設置へ
日経新聞 「自動ドア、電気使わず開閉 餃子の王将が導入
読売新聞 「餃子の王将に足で動かす自動ドア…電気代も節約

報道によると、餃子の王将の今回の導入背景は、

関西電力が15%の節電要請を行うなど、近畿でも電力不足が深刻化していることから、節電の秘策とする考えだ。手始めに7月に開店する吹田春日店(大阪府吹田市)と金沢東店(金沢市)に設置し、順次拡大する。

ということのようです。

この報道で、僕が一番気になったのは、
「電気を使わない自動ドアとは一体なんなのか?」
「どこのメーカーが開発したのか?」という点です。

そこで、開発メーカーについて調べてみました。

今回報じられている、電気不要の自動ドアを開発したのは、
会津若松市にある株式会社有紀という建材メーカーです。

資本金は4000万円とメーカーとしては小規模で、
従業員はパートの方も含めて全部で8名。
現在も社長である橋本保さんが、2001年に創業しました。

株式会社有紀は、自動ドア専業メーカーではありません。
事業の柱は、地元の資源である「会津桐」「会津吉祥杉」を活用した
建材の設計・製造・販売。
「電気を使わない自動ドア」は有紀社にとっての新商品です。
商品名は「オートドア・ゼロ」と言います。
日本で特許を取得した後、今年の2月にはアメリカの特許も獲得。

また、餃子の王将は、「オートドア・ゼロ」の最初の導入企業ではありません。
すでに、会津若松市立北会津中学校(保健室)、
常磐自動車道 湯ノ岳PA、名神高速道路 大津SAに導入されています。
しかし、今回は、日本有数の飲食店への導入が決定したということで、
大々的に報道されたようです。

「オートドア・ゼロ」の仕組みは、ホームページでも多くは紹介されていませんが、
ドアの手間に「踏み台」を置き、その踏み台が体重で下に押されることで、
歯車が回り、ドアを開けることができるようです。

電気を使わないため、節電効果が期待できるだけでなく、
電磁場などを発生せず、音も静かというメリットや、
停電時にも稼働するというメリットがあります。

今回の導入の話には、いくつかの素敵な点があります。
・地方の小規模メーカーの技術が注目を集めている
・震災で大きなダメージを受けた福島県の企業の朗報となる
・エネルギー不足が今後懸念される中で、節電にとっての一助となる
・大企業が導入を決めたことで、将来の技術開発にとってのテストケースにできる

餃子の王将において、今後他店にも導入を拡大するかどうかについては、
いくつかの基準があると考えられます。

・子供や大柄な人などの個々の体重差にスムーズに対応できるか
・ゆっくりと入ってくる人、急いで入ってくる人などにスムーズに対応できるか
・出口と入口で一斉に踏み台を踏んだ時、混乱しないか
・街の振動などの他の影響によって誤作動を起こさないか
・頻繁な開閉に耐えられる耐久性はあるか
・冷暖房効率などを考えた場合に、スムーズにドアが閉まるか
・故障時のメンテナンスや修理は迅速に対応できるか

これらは、他の商用施設等に導入される際には重要な確認ポイントです。
有紀社にとっては、実導入の結果を踏まえ、商品の向上が見込めます。
また、ここでの実証事例を基に、他の企業でも導入の検討が進むと思われます。

また、将来の大規模受注に備え、有紀社の製造能力の拡大も注目されます。
現在の従業員8名体制では、おそらく大規模受注には対応できません。
有紀社が特許をもっているため、自社工場への大規模設備投資を行うか、
他社へのライセンス供与をするのか等々です。

餃子の王将の試みは、電力不足に対する事業リスクを軽減するという、
サステイナブルビジネス戦略ととらえることができます。
「オートドア・ゼロ」のように、企業の持続可能ビジネス戦略を推進する技術は、
大企業だけでなく、様々な企業が今後支えていくのだと思います。

6月15日、ISO (国際標準化機構)が、
エネルギーマネジメントシステムに関する新たな国際規格“ISO50001″
リリースしました。(※リリース記事はコチラ

ISOはこれまでにも数多くの国際規格を制定してきています。
代表的なものとしては、
  ISO 9000 ”品質マネジメントシステム”
  ISO 14000 “環境マネジメントシステム”
があります。

それぞれの国際規格で定められている内容は、
「企業等が製品やサービスを安定的に供給するための仕組みづくり」
についてです。
ISO9000では、いかにして品質水準を担保していくか、
ISO14000では、いかにして環境汚染を防止するか、
について、その手法が書かれています。

この国際規格は、法律ではありません。
企業が自発的に取り組んでい行くための「指針」として提供されているものです。
そのため、この国際規格に則るか否かは、企業等の組織に委ねられています。
ですが、取引先企業が、国際規格に則るよう要求することもあるため、
企業間の取引の中で、取得が実質的に「義務付けられて」いることもあります。

今回リリースされたISO50001では、
企業や政府がエネルギー効率を高めたり、エネルギーコストを下げたりする手法、
「エネルギーマネジメントシステム」が規定されています。

このISO50001創設の背景には、
エネルギーの持続可能性に関する関心の高まりがあるようです。
ISOは、国際連合工業開発機関 (UNIDO) からの要請を受け、
2008年にISO50001検討のための委員会を発足させていました。

ISOは、このISO50001を通じて、
世界のエネルギー消費量を60%削減できるとしています。

具体的な内容としては、PDCAサイクルの回し方が中心となっています。


※”Win the energy challenge with ISO 50001“より抜粋。

ISO50001は、このマネジメントサイクルの中でも特に、
経営層の役割、導入方法の重要性を強調しています。

一般的にISOについては、
「導入コンサルタント費用が高い」「維持が面倒で忙殺される」等の
批判も多いのも事実です。

ISO50001が幅広く普及するかどうかはまだ未知数ですが、
多くの企業が「エネルギーマネジメント」について取り組みをを開始する
きっかけになっていくといいなと思います。

2011年5月31日に、
社会企業を推進している世界的な機関「シュワブ財団」が、
Social Investment Manual“という冊子を発行しました。

ソーシャル・インベストメント・マニュアル。
日本にあえて訳すと、「社会投資マニュアル」となります。

これは、昨今、「社会的投資家」と呼ばれる人々や組織の影響力が大きく
なってきていることに注目し、
どのように社会的投資家との関係を構築し、資金を獲得していくのかを、
実務家の観点からまとめられたものです。

「社会的」という言葉は、ときどき「慈善的」という言葉と混同されがちです。

ときどき、「社会的投資家」というもの対して、
「従来の資本主義的な投資家とは異なり、利益の見返りを多くは求めない」
「儲けが少なくても、社会的な意義のあることに投資をしてくれる」
というイメージが強く語られることもよく目にします。

しかし、実際には、社会的投資家も、投資先から多くの見返りを求めています。
もちろん、従来の投資家とは「見返り」の中身は異なります。
経済的なリターンだけでなく、社会的投資家は活動の中身も重視します。

つまり、経済的なリターンとは別に、
どのような社会的なインパクトをもたらしているのか、
そのインパクトをもたらすために資本を効率的に活用できるか、
スケールアップのプランは用意されているか、
独自のイノーべーションを創造しているか、
このような活動の「質」についての尺度にも大きく関心を払っています。

そのため、社会的投資家から資金を獲得するためには、
財務情報分析に加え、活動の中身に関する入念な計画が必要となります。
※その分、従来の投資家から資金を得るより負担は大きいともいえます。

そこで、冒頭で紹介した「ソーシャル・インベストメント・マニュアル」では、
社会的投資家との関係構築、資金獲得についての一般的な動向、
特に影響力のある社会的投資家の多い西欧の傾向について、
ビジネスパーソンにわかりやすく解説されています。

冊子の章立てとしては、以下のようになっています。

1. イントロダクション
2. 社会的投資の概要
3. 資金獲得プロセス
  - 利用可能な社会投資機関
  - 適切な社会投資機関の選び方
  - 社会的投資家へのアプローチ方法
  - デューデリジェンスの流れ
  - 財務情報についての交渉方法
  - 資金獲得後の社会的投資家との関係構築方法
  - 出口戦略
4. 補筆

社会的投資家とは何であり、
何のために投資をしているのか。

社会的投資家と関わっていく上で、
これをおさえておくことは、とても重要です。

2010年1月のチュニジアでのジャスミン革命に端を発したアラブや中東での政治動乱。
この原因のひとつは「食料価格の高騰」だと言われています。

どれだけ、世界の食料価格は昨今、高騰しているのでしょうか。

図を見ていただくとわかるように、2011年の赤線は非常に高い位置をマークしています。

ちなみに、ここ数年で食料価格の高騰が大きく話題になったのは、2007~2008年です。
エネルギー価格の高騰や旱魃と相まって、2006年の初めと比較して、
世界のコメの価格は217%上昇し、小麦は136%、トウモロコシは125%、大豆は107%増加しました。
※出所:Wikipedia
日本でも多くのメディアでこの問題が取り上げられました。

上記のグラフによると、高騰した食料価格は2008年後半には沈静化。
しかし、その価格は2009年から再び上昇に転じ、
なんと、2011年には2008年の世界食糧価格危機の水準を上回るまでに至りました。
現在は、未曽有の食料価格高騰時代なのです。

この食料価格には、以下の要因があると考えられています。

1. 世界人口の増加 (食料需要の増加)
2. 食料のバイオ燃料への転換 (食料供給の減少)
3. 途上国の発展 (高カロリーー食品の需要の増加)
4. 原油価格の上昇 (肥料や輸送コストの増加)
5. 金融投機 (価格上昇差益を狙った投機により、価格がさらなる上昇)
6. 耕作面積の減少 (食料供給の減少)

すなわち、食料需要の増加に供給増が追い付かず、需要供給のバランスが崩れ、
価格が高騰。さらに、食糧生産コストが増加し、価格をさらに押し上げているのです。

こうして、世界規模での食糧不足がさらに深刻化すると予想される中で、
富裕国の政府や企業を中心に、発展途上国の農地の買占め行動が頻発しています。
この買占め行動を英語では、”Land Grab” と呼ばれています。

このLand Grabを活発に展開してるのは、中国、韓国、サウジアラビア、UAE。
そして、日本も小規模ですが、この動きをとっています。


※出所:Global Dash Board

ただし、このLand Grabは、既存の農作物を取り合う行為であって、
食料不足の根本的な解決とはなりません。
また、このLand Grabは「持てる国」が「持たざる国」を支配する新たな植民地主義だとの
批判も招いています。(コチラを参考)

そうして中で、食糧問題のひとつの解決策として注目を集めているのが、
「植物工場」 (英語ではPlant Factory)です。

植物工場とは、人工的に栽培に適した環境を室内に作り上げ、
安定的・効率的・計画的に農作物を生産する施設のことです。

この分野では、僕の友人でもあるNPO法人イノプレックス代表理事の
藤本真狩くんが、世界をまたに植物工場の推進に奔走してくれています。
ホームページには、最新の情報が満載ですので、ぜひご覧ください。

一方で、栽培できる農作物の種類に限りがあったり、
施設の設立に莫大な費用を要するという課題もたくさんある分野です。

また、「自然」なものを「人工的」に管理するということに対して、
「人間の傲慢だ」というような思想的な拒否反応を示す人もいます。

しかしながら、慢性的な食料不足という状況を前に、
以下に「限られた空間の中で」、食料生産を最大化させていくという取組を
避けることはできません。

再生可能エネルギーと同様に、植物工場も現在、補助金に頼る構造にあります。
いかにして、設備投資の額を最小化していくかに、知恵を絞っていく必要があります。

特に、ジャスミン革命に代表されるように、この食糧危機が顕在化している地域も
現前としてありますし、
中国やインドでも、食料価格の高騰をはじめとしたインフレーションが続いています。

植物工場の推進を応援したいと思っています。

2011年4月12日で、カリフォルニア州で新たな法案が成立しました。

「2020年までに電力の33%を再生可能エネルギーで供給することを義務付ける」

カリフォルニア州では、2006年に、
2010年までの電力20%再生エネルギー化法案が可決しており、
成立しており、今回、それを20%から33%に大幅に上昇させたことになります。

再生可能エネルギーについて「33%」という高い目標は前例がなく、
野心的な目標と評されています。

この法案に署名をしたジェリー・ブラウン州知事は、背景についてこう語っています。

この法案はカリフォルニア州に重要な利益をもたらす。州内のグリーンテクノロ
ジーへの投資を刺激し、何万もの新たな雇用を創出し、州の大気の質を改善
し、エネルギー自給率を高め、温室効果ガスを削減する
※原文はコチラ

実は、同様の法案は、2008年にも議会を通過していました。
しかし、当時のシュワルツェネッガー州知事は、33%は非現実だとして署名を拒否。
法案を成立させるかわりに、拘束力の弱い「州知事令」として施行しました。

今回の法成立については、昨今のエネルギー事情が大きく影響していると思われます。
北アフリカ・中東アジアにかけての政情不安による原油価格の高騰。
日本での原発事故による原子力発電に対する批判的な意見の増加。
メキシコ湾原油流出事故による原油採掘見通しの後退。
いずれも、再生可能エネルギーの必要性に対する認識を高めることに寄与しました。

この「電力の33%」はどのぐらい野心的なのでしょうか。

下記のグラフは、2004年~2008年までの電力供給源の表です。


※出所:U.S. Energy Information Administration “California Renewable Electricity Profile

2008年の時点で、再生可能エネルギーは、全体の23.5%を占めているのがわかります。
しかし、カリフォルニア州の33%目標は、「再生可能エネルギー」の全体ではなく、
「再生可能エネルギー(水力除く)」の数値についてなのです。
つまり、2008年時点での11.9%を、2020年までに33%にすると言っているのです。
これはすごい躍進です。

このような大胆な目標設定ができるのは、カリフォルニア州ならではの事情もあります。
州内に世界有数のハイテク産業団地、シリコンバレーを抱えているからです。
シリコンバレーには、最先端のグリーンテクノロジーと、
それを支える膨大なマネーが集まっています。
州政府が掲げる目標により、投資家はグリーンテクノロジー開発に対する長期投資を
さらに加速することができるようになります。
そしてそれが、技術開発を促進し、さらに投資を呼び込むという好循環を生むのです。

また、カリフォルニア州は自然条件にも恵まれています。
州の西部には太平洋からの風が吹き、南東部は砂漠地帯で太陽が降り注ぐため、
風力発電や太陽光発電に適した広大な土地を有しているのです。

33%の目標達成のためのシナリオも作成されています。


※出所:カリフォルニア州のサイトコチラの資料

このように複数のシナリオを作成する手法は、「シナリオプランニング」と呼ばれ、
不確実な将来見通しの中で、柔軟に目標を達成する経営手法のひとつです。
 

しかし、この法案には批判も多く集まっているようです。
Financial Times紙の4/19WEB版では、様々な批判が紹介されています。

まず激しく抵抗しているのが、製造業です。
再生可能エネルギーに力を入れてきたカリフォルニア州では、
現在でも他の州に比べて電力価格が50%ほど高い水準なのですが、
カリフォルニア州共和党が、
今回の法律で電力価格がさらに19%上昇すると語っているためです。
※Huffpost Los Angeles, “California Renewable Energy: Brown
To Sign ‘Most Aggressive’ Mandate In The U.S.

国際競争が激化している中でのさらなる電力価格の高騰は、
人員削減や工場閉鎖につながる。
電力消費の大きい鉄鋼業、セメント業、鉱業は警鐘を鳴らしています。

次に反発しているのが、環境保護活動団体です。
今回の法律で拡大が見込まれる太陽光発電に対し、
「砂漠に建設される大規模太陽光発電プラントは動植物固有種に害を与えるため、
太陽光発電は屋根の屋上のみに限定すべき」
と反対しています。

僕はこの法律の野心的な目標設定を応援したいと思っています。
高い目標設定はイノベーションを加速します。
確かに反対派が唱えているように、課題もたくさん存在します。
しかし、いずれにしても電力供給を支えるためには、それらの課題も含めて、
問題をひとつひとつ解決し、前進していかなくてはなりません。

「問題があるから計画中止」というスタンスではなく、
「目標に向けて問題をどう一緒に解決していくか」という協働姿勢が
必要なのではないでしょうか。

3/19に、福島第一原子力発電所の状況が大きく安定化してきました。

1号機: 東北電力からの電源ケーブル敷設が完了。冷却施設の回復見込み。
2号機: 東北電力からの電源ケーブル敷設が完了。冷却施設の回復見込み。
3号機: 東京消防庁の消防車による注水作業で効果があり、施設冷却に成功。
4号機: 3号機と同様の処置を行う予定。
5号機: 仮設の海水ポンプの稼働に成功。使用済み核燃料プールの冷却機能が回復。
6号機: 仮設の海水ポンプの稼働に成功。使用済み核燃料プールの冷却機能が回復。

当初、同様に原子力緊急事態宣言が発令された、福島第二原子力発電所においても、
すでに、1号機~4号機までの全てにおいて、冷温停止状態となり危機を脱しています。

しかしながら、
放射線漏れによる近隣自治体への影響は深刻な状態となっているとともに、
東京電力管内全域でも深刻な電力不足に見舞われています。

東日本大震災(東北関東大震災)前と後の発電量(出力量)をまとめました。
東京電力の公開情報や報道資料をもとに独自作成。
※最大出力量はWikipedia参照。
※震災への影響は3/20時点の内容。
表をクリックすると拡大します。

大震災前に総計6000万kW近くあった発電量が、
大震災後は総計4000万kW弱まで落ち込んでいるのがわかります。

また、実際に供給できる電力は、”供給量 = 発電量 – 配電ロス” となり、
4000万kW全てが供給できるわけではありません。

この大きな需給格差を埋めるために、
東京電力は契約に基づき大口の法人顧客(工場等)への電力抑制を依頼。

そして、震災直後からの電気需要と供給量の予測は以下の通りでした。

3/12(土) 需要 3600万kW 供給 3700万kW
3/13(日) 需要 3700万kW 供給 3700万kW
3/14(月) 需要 4100万kW 供給 3100万kW (電車運行抑制・揚水式水力発電停止)
3/15(火) 需要 3500万kW 供給 3300万kW (計画停電開始)
3/16(水) 需要 3500万kW 供給 3300万kW
3/17(木) 需要 4000万kW 供給 3350万kW (電車本数増加)
3/18(金) 需要 3700万kW 供給 3500万kW
3/19(土) 需要 3100万kW 供給 3450万kW
3/20(日) 需要 3100万kW 供給 3400万kW
東京電力の公開情報をもとに作成。

このように休日は企業活動が休止するため需要が減りますが、
平日は節電したとしても供給量が足りません。
そのため、電車本数の削減や計画停電が実施されている状況です。

さらに、東京電力の発表では、通常、
冬場で5000万kW、
夏場で5500万~6000万kWトの電力供給力が必要だということです。
その結果、東京電力は、政府中枢機関の多い千代田区、港区、中央区の
3区を除く、都内20区においても夏には計画停電が必要となる可能性を
示唆しました。
※元記事はコチラコチラ

東京電力が現在、復帰や再稼働を目指している
東扇島、鹿島、横須賀を含めると発電量は4,863万kWに達し、
供給量は推定4,200万kWまでは回復できそうです。

そのため、今年の夏は大規模な節電が強いられることになりますし、
計画停電は今年の冬にまで続くという見通しもあります。
朝日新聞の記事

もちろん、節電や計画停電の効果は大きいです。



出所:東京電力のHP

上のグラフを見ていただくと、前年の相当日に比べて、
日中および夜間の電力消費量が大きく低下しているのがわかります(3/23時点)。

今回は現状のみの報告となり心苦しいですが、
対策については情報が取れ次第、あらためて説明していきたいと思います。

太陽光発電モジュールの心臓部となる太陽電池セル。

太陽電池セル製造において、古くから世界の頂点に君臨し続けたのは、日本のシャープ。
1963年に太陽電池の生産を開始し、その後2007年まで生産量世界一を誇り続けます。

しかし、2008年、ドイツのQ-Cellsと中国のSuntech Powerに抜かれ3位に陥落。
さらに、2009年、アメリカのFirst Solarに抜かれ4位に転落。

シャープを上回った3社はいずれも新興企業。
Q-CellsとFirst Solarは1999年に創業。Suntech Powerの創業は2001年。
いずれも、創業から10年経たない間に、老舗のシャープを追い越して行きました。

今でも太陽電池セル市場において技術力は世界一だと言われているシャープが、
なぜ新興企業に一気に追い越されていったのでしょうか。

この原因として、よく挙げられるのが、以下の2つです。
1) 日本政府が太陽光発電への補助金を停止したため
2) シリコンの原材料価格が高騰し、生産量拡大が間に合わなかったため

1)だとすると、なぜシャープは海外市場を狙わなかったのか。
2)だとすると、なぜ他の新興3社は生産量を拡大できたのか。
この2つの説では説明できません。

そこで、より包括的な敗因分析を行ってみたいと思います。

■ 国ごとの太陽光発電の推移

日本は「家庭用太陽光発電」の急速な普及のもとに、
太陽光発電の導入量は2003年まで世界一を誇っていました。
それを後押ししたのが、
経済産業省資源エネルギー庁所管の財団法人である「新エネルギー財団」が
実施していた補助金、「住宅用太陽光発電導入促進事業」でした。
しかし、この補助金は、再生可能エネルギーの重要性が認識されていた2005年に、
突然終了してしまいます。原因は、申請数増加による財源不足でした。
その結果、日本の累積導入量の伸び率は鈍化していきました。

一方で、対象的な動きをとったのはヨーロッパ諸国。特にドイツとスペインでした。
ドイツでは2004年、スペインでは2007年に、本格的な補助金制度が法整備されました。
日本の補助金が設備導入時への支給という形態をとったのに対し、
ヨーロッパでは「固定価格買取制度」、英語名Feed-in Tariff方式が一般的。
これは、太陽光発電で発電した電力を、電力会社が割増し固定価格で買い取る制度。
割増した分のコストは、一般電力消費者が分担して負担するため、
国庫からの負担はありません。

この「固定価格買取制度」を背景に、ドイツ、スペインでは急速に導入量が増加。
2009年の単年の導入量では、EU諸国だけで世界の導入量の75%を占めました。
こうして、日本の国としての導入量は世界3位に陥落しました。

シャープは、日本市場においてシェアは今も昔もナンバーワン。
仮に、日本もヨーロッパ諸国と同様に、「固定価格買取制度」を導入し、
ドイツやスペインと同等かそれ以上の導入実績を持てていたとしたら、
シャープは、その日本の伸びを、自社の実績とし、
世界一の座を守り続けることができていたかもしれません。
これが、1) 日本の補助金廃止が敗因という説につながっていきます。

しかし、すでに触れたように、なぜシャープは世界でシェアを伸ばせなかった
のかを説明してはくれません。

■ シャープと新興3社の業績推移

次に、シャープの売上推移を見てみましょう。
下の図は、シャープのIR資料をもとに作成したものです。

確かに日本で補助金が廃止となった2005年以降、業績が低迷しています。
しかし、よくよくグラフをみてみると、シャープの太陽電池の売上の半分以上は、
海外での売上です。
シャープの売上は、国内の市場動向よりも、
海外での売上動向に大きく左右されることがわかると思います。

一方で、新興3社の推移を見てみましょう。

このグラフは、日本政策投資銀行のレポートから抜粋しました。

シャープが売上を低迷させた2005年以降、新興3社は売上を拡大しています。
これは、同時期に拡大したヨーロッパ市場を見事に3社が取り込んでいったためです。
Q-Cellsは、本国ドイツでの生産を拡大し、マレーシアにも生産工場を設立。
Suntech Powerは、本国中国のほか、ドイツ、日本、アメリカでの生産に着手。
First Solarは、本国アメリカのほか、ドイツ、マレーシア、フランス、ベトナムに
工場を開設し、現在は中国での生産も視野に入れています。

こうして、新興3社は、ヨーロッパ内での生産を大幅に拡大し、
急上昇したヨーロッパの太陽光市場を制していきました。

■ シャープの敗因

では、なぜシャープは、ヨーロッパ市場で存在感を出せなかったのでしょうか。
原因は、コストと資金力でした。

コスト

シャープは、新興3社に比べ、製造原価が高く、価格競争力がありませんでした。

理由のひとつめは、「過度な技術信仰」です。
シャープは世界市場でのシェアを現在落としてしまいましたが、
それでもシャープの太陽電池は、エネルギー効率の面で「世界一」の技術と評されています。
シャープは古くから、太陽電池の普及に欠かせない「エネルギー効率」の向上
に力を入れ、シリコン型という太陽電池の方式にこだわってきました。
シリコン型は、数ある他の方式の中でも、最も高いエネルギー効率を誇ったからです。

しかし、シリコン型には欠点もあります。
原材料のシリコンが高価なため、高コストだということです。
太陽光の力を電力に変える力は高いけれども、
その電力を発電させるためのコストが高い。
さらに、世界的な太陽電池産業の盛り上がりのなかで、シリコン価格は高騰。
シャープの製造原価はさらに上がっていってしまいました。

一方で、新興3社は、原価の削減に成功していきました。


出所:仏Yole Developpement

このグラフを見ていただくと、アメリカやドイツでは、CIGS型、CdTe型の比率が
比較的多いことがわかります。
このCIGS型、CdTe型は、薄膜型方式と呼ばれる新しい技術で、
エネルギー効率の面ではシリコン型に敵いませんが、
原材料が安く、製造原価を大きくおさえることができます。
First Solarは、このような薄膜型で市場に勝負をかけていきました。

一方、Suntech Powerは、シャープと同様、シリコン型を主力商品としましたが、
中国という地の利を生かし、人件費等を大幅に抑え、コスト圧縮に成功していました。
そして、Q-Cellsも、シリコン型を主力としましたが、
世界一市場となったドイツの政府からの後押しや、マレーシアでの生産によるコスト
削減努力などから、シェアを伸ばしていきました。

そして、急成長したヨーロッパ市場。
EU諸国は、再生可能エネルギーに力を入れる一方で、財政難にも苦しんでいました。
政府にとって重要なのは、製品の技術レベルではなく、導入しやすい価格の安さ。
シャープの高単価高品質製品より、新興3社の商品のほうが魅力的だったのです。

この価格競争にさらに追い打ちをかけたのが、「規模の経済」です。
太陽電池は、大量生産型の商品です。
大量に生産すればするほど、規模の経済が働き、製品単価を下げていくことができます。
ヨーロッパで大量の受注を獲得した新興3社は、さらに製品単価を下げることに成功し、
新たな受注を獲得していったのです。

資金力

コスト競争力には、それぞれの企業の資金力が大きく左右しました。
なぜなら、生産量を拡大させればさせるほど、規模の経済が働き、
さらには、高騰する原材料の長期安定供給契約を可能とし、
製造原価を抑制させることができるからです。

Q-Cellsは2005年にフランクフルト証券取引所に上場して資金を集め、
First Solarも2006年にNASDAQに上場し、シリコンバレーの
ベンチャー・キャピタルから多額の資金を集めます。
一方、Suntech Powerは、中国政府の各機関から多額の低金利融資を獲得。
こうして、3社は短期間で大きな資金力を手にすることに成功しました。

一方で、シャープは、新興3社と異なり、太陽電池専業ではありません。
大きな投資計画を行うためには、他の事業とも含めた中での経営判断が
必要となり、意思決定は遅れ、投下資金は3社に比べ見劣りするレベルでした。
資金力でも新興3社に敗れてしまったのです。

こうして、老舗メーカー・シャープは、
急成長したヨーロッパ市場において、新興3社にコスト競争で敗れ、首位から転落。
後塵を拝していきました。

■ 今後の行方

もちろん、シャープも形成を逆転させるため、新たな施策を始めています。
それが「薄膜型の増強」と「生産量の拡大」です。
2007年1月に富山県でのシリコン内製化を開始。
同年3月には奈良県の葛城工場でシリコン型の生産増強と薄膜型の生産に着手。
2010年3月には、大阪府堺市での新工場をオープンし、
2011年にはイタリアのEnel社やスイスのSTMicroelectronics社と共同で
イタリアに初の海外工場もオープンさせる予定です。

しかし、状況は依然としてシャープにとって厳しいままです。
2010年に入り、世界の導入量の1、2位となっていたドイツやスペイン、
さらにその他のEU諸国で、財政難を理由に「固定価格買取制度」の買取価格見直し
議論がスタート。価格が下がることで、導入量が一気に冷え込んできました。
シャープが、イタリアの新工場建設で見込んでいたヨーロッパへの販売に暗雲が
立ち込めています。

さらに、ヨーロッパ市場が急速に悪化する中で、世界中での生産過多が発生し、
太陽電池価格が下落。各社の利益を圧迫しはじめています。
そうした中で、新興3社も、将来性が大きい中国での生産拡大に乗り出しています。
中国では、2009年から政府の”Gold Sun”プログラムが始まり、
太陽光発電への政府の予算が多く投下される取組が開始されているためです。
一方で、シャープからはまだ中国への進出についての発表はありません。

そして、昨今の円高。日本国内での生産を重視してきたシャープにとっては、
大きな逆風です。

最先端の太陽電池技術を有するシャープ。
世界シェアを奪還するための課題は、
日本政府の太陽光発電への取組や、シリコンの安定供給契約だけでなく、
むしろ新興3社に負けない資金力の確保と意思決定スピードにありそうです。

再生可能エネルギーという分野は、
環境活動家やエコ推進者からみると、社会セクターとも位置付けられています。
しかし、実際の従事者の立場からは、激しい競争にさらされているビジネスの場です。
いかに、サステイナブルな事業体になっていけるか。
これは業界の分野を問わず、どの事業体にも必要な要素なのだと思います。

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